帰路の空へ、ハナフライム再び出航 89
とある家族の女子高生 と AI
宇宙ステーションの日常を描いた物語
帰路の空へ、ハナフライム再び出航
「……では、帰りますか!」
ゆきながふっと笑って、立ち上がる。
「はい、お姉様」
「ユリアさん、エリオットさん。本当にご馳走さまでした」
「これ、持ってかないかい」
エリオットのお父さんが真空ラップに包んだ厚切りステーキ(生肉)を渡してくれる。
「わあ、ありがとうございます。帰ってからのお楽しみにしますね」
「また1ヶ月後に会おう!」
「……結婚式会場も、こちらですか?」
「そうよ〜。おしゃれして来てね!」
ふたりは名残惜しさを残しつつ、宇宙ステーションの司令部に通信を入れる。
「こちら、ゆきな 転送許可をお願い」
「自身で転送おこないますか?」
「自身で転送行うわ」
「承知いたしました。 許可いたします。」
「えれな、転送をお願い」
「はい。現在、自動運行中の2番艦経由で——1番艦へ転送します」
シュワン、と転送光が走る。
「やっぱり……我が家が一番ね」
「ええ。ハナフライム1番艦は、やっぱり“自分の船”って感じがします」
管制への連絡も完了し、即座に出航許可が下りた。
「連結解除、出航します」
3艦トライアングル完了。全融合炉55%出力で安定始動。
「では、ワープ最大速で行きましょう」
「ワープ、起動——」
シュワアアァン……銀河の波が遠ざかり、再び航行が始まる。
「意外と早く終わってよかったわね」
「はい。現在、自動操縦へ切り替えました」
⸻
「では、寝ながら帰宅しましょう」
ゆきなは艦長服をタオル地のラフウェアに切り替え、ふわっとストレッチ。
「途中で、火星にも寄らなきゃね。牽引艦の回収もあるし……」
「牽引速度、アップ可能かと。現在の到着予測は、約7時間強です。ワープスピード9.73、記録更新中です」
「はぁ……疲れた〜。先にシャワー浴びてくるね」
「どうぞ、お姉様」
えれながシャワーから戻ると、既にゆきなは毛布をかけて、ぐっすりと眠っていた。
5時間後——
銀河連邦辺境防衛軍の基地に、巨大な影で長いレーダーに映る。
『……うわ、噂の高速艦が通過するぞ』
すでに何度かの接触があり、今では静かな挨拶だけが交わされる。
『こちら、銀河連邦・辺境防衛軍。ハナフライム艦長、よい船旅を』
「ありがとう」
えれなが、そっと返信する。
まだ熟睡中のゆきなを、起こすことなく。
「ふあ〜……よく寝たぁ……」
「おはようございます。艦長、ゆっくり眠れましたか?」
「ぐっすりよ!」
「……大型艦、意外と進んでますね」
「ほう、ほんとだ」
「このままだと牽引には時間がかかりますが、計画通り火星に寄ります」
「了解。では、ワープアウト」
シュワン、と視界が切り替わり、目の前に巨大な艦影が現れる。
「近くで見ると……やっぱりでかいわね」
「超大型艦ですからね。中は小型・中型艦がぎっしり詰まってます」
「では、3隻連結。全体シールドを強化。融合炉、全艦60%へ」
「了解。——ワープスピードは4が限界のようです」
「仕方ないわね」
⸻
30分後、火星上空にてノアリエルと通信がつながる。
「こちらハナフライム。生命吸収体の拿捕艦、確認していますか?」
『はい、確認済みです。中身の情報、ぜひともデータでいただけると』
「了解。共有します」
その後、ハナフライムはゲート接続準備へ。
「これだけの質量、ゲート負荷も大きいわね」
外部の2番・3番艦が連携してエネルギー供給を開始。
『ゲート最大質量モード、解放完了』
「では、ハナフライム先頭で通過。後続は順次」
『了解致しました。——通過中……問題なし。通過完了』
中央コンピューターより即時通信が入る。
『第二工場への直接運搬をお願いします』
「了解。……着いたわね」
⸻
中枢ホールに足を踏み入れると、すぐにモニターが中継を映し出した。
「ゆきな様、えれな様──」
思わず声を上げた技術者の一人が、目を輝かせて言った。
「……すごく大きいですね。ほかの技術にも大変興味があります」
「そうね。普通の宇宙船とはちょっと違うの。あの船……生体でできていて、自分で修復するのよ」
「燃料は……食べ物、らしいわ。そんなにたくさん食べるわけじゃないけど、ワープ中にはちょっと食べるって聞いたわ」
「なるほど……スピードはそこまで出ないにしても、時間を気にしない種族であれば、効率が良いのかもしれませんね」
施設中央、ゲートが開くと、そこには荘厳なデザインの中央コンピューターが鎮座していた。
「えれな様、いつもありがとうございます。そして……ゆきな様、お目にかかるのは初めてですね」
その金属音に優しさを含んだ声が、スピーカー越しに響いた。
握手のジェスチャーに、ゆきなが応じると、まるで人間のように深く頭を下げて感謝の意を示した。
「最近、この工場には活気が戻ってきております」
「それはよかったわ。活気があるのは、希望があるってことだものね」
「現在、パワードスーツの新型、それに4番艦・5番艦の製造、さらに6番艦・特殊艦の開発。そして本日、貴艦より預かった生体艦の解析・資源化プロジェクトも始まります」
その声から、確かな誇りと責任の重みが伝わってくる。
⸻
「お姉様、1〜3号機の新オプション、完成しているようです。取り付けに2時間ほどかかるそうですが……どうします?」
「いいわよ。今回は予定より早く戻れてるもの」
「ではその間に、見学でもいかがですか?」
中央コンピューターの提案に、ゆきなは頷いた。
「では行ってきます。」
えれなはハナフライムオプション装備へ向かっていった。
⸻
「ではこちらに」
工場中央コンピューターが案内してくれる。
格納庫では、2台のハナフライム型艦が組み上げられていた。
「いいわねぇ……。いつごろ完成予定?」
「あと1週間ほどかと。次回納品に間に合うかと存じます」
その横、漆黒の人型パワードスーツが目を引く。全長21メートル。未完成ながらも威圧感と未来感を漂わせる。
「押していただけますか?」
言われるままに胸元のボタンに触れると、スーツは7メートル級の立方体へと折りたたまれた。
「もう一度どうぞ。手を広げて」
「え……?」
むにゅーと不思議な感覚。そして、声が響く。
『認識しました。地球人 ゆきな様。第一保護対象者。起動しますか?』
「起動するわ。リンクスタート!」
⸻
ゆきなの体に、スーツの内装がすっと馴染んでいく。
気づけばコクピット内部。両手・両足はスーツとリンクされ、まるで生きているように動く。
『システム展開中。360度スクリーン表示完了』
『超小型融合炉8基、起動中──同期完了』
『リンク率:14.7%。起動確認』
「……歩いてみてください」
一歩踏み出すと、そのままスーツも歩く。走ると、スーツも追従する。
「……すごいわね」
「では、お水を。おばあ様も飲まれたタイプです」
ぐび、とひと口。
「……よく分からないけど、大丈夫みたい」
「飛びたい、と思ってください」
ゆきなは、そっと念じた。ふわりと宙に浮かぶ。そしてさらに──
「速く!」
すると、スーツは流線型の飛行機形態へと変形した。
「これ、設計にないぞ!?」
驚きの声が工場内に響く。作業員たちも唸りをあげている。
「この1メートル立方体たちは……?」
「オプションパーツ候補です。艦内収納に合わせたモジュール設計となっております」
「いいわね……楽しみだわ」
「1か月以内に試作型に仕上げます。試験、お願いいたします」
「もちろん!」
楽しみなゆきなであった!
楽しみなものができたみたいです!
完成が楽しみです!
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