ディナーへのご招待 88
とある家族の女子高生 と AI
宇宙ステーションの日常を描いた物語
遅れました!
「全て……ゆきな艦長に持っていかれましたな」
副司令がにこやかに言うと、一同から小さな笑いがこぼれる。
「で、ワープ最高速度はいくつまで出るんですか?」
「……現状、9.7と言っておくわ」
「おおおっ……! これはここだけの秘密ですよね?」
「もちろん!」
皆が笑顔でうなずいた。
すると、同盟国のもう一人の代表が、席を立ちながら挨拶する。
「我々は特殊技術国家。これまでも発言権を有してきましたが——ゆきな艦長たちの技術には驚かされました。今後、交易が可能であればぜひ」
「ええ、平等にできるのであれば喜んで」
その言葉に、相手は深くお辞儀をし、ほっとしたような表情を浮かべた。
「……ではこれにて、閉廷といたします。1ヶ月後、またお会いしましょう」
総司令と副司令の姿がホログラム越しにフェードアウトする。
⸻
ただ一人、画面に残ったのは——エルダンカ国の大使だった。
「……この度のこと、国王陛下は相当に落ち込んでおられました。第二皇女マリア様が戻ったという知らせに——本当に、感謝しております」
「……ぜひ、いつか我が国に立ち寄っていただければ」
よく見ると、大使の耳が少し尖っている。
(……エルフみたいだな)と、ゆきなは心の中でつぶやく。
「娘さんが無事だったと知って、喜ばない親はいませんよ」
「……ありがとうございます」
静かに、深く、感謝の一礼が贈られた。
こうして、会議は静かに幕を閉じた。
「では——失礼いたします」
最後の中継が静かに切断され、会議室のホログラムが消える。
ゆきなは深く一礼し、ユリア艦長や司令たちにも向き直って挨拶をした。
「ユリアさんも、司令も……本当にお疲れさまでした」
「こちらこそ、お礼を。……ね?」
そう言って、皆が自然と笑顔になった。
しばしの静寂のあと、ゆきなが小さく微笑みながら呟く。
「とりあえず、用事はひと段落したわね。せっかくだから……地上ディナー、いただいてもいいかしら?」
その言葉に、ユリアがパッと表情を明るくする。
「それは、フィアンセが全力で誘ってますんで!」
「……じゃあ、17時半ね。ちょっとおしゃれして行くわ♪」
ユリアと別れ、ふたりは宿泊区画へ戻っていく。
⸻
「えれな。……空島で使った、純白のワンピースって、持ってきてたかしら?」
「ええ、ちゃんとありますよ」
えれなが小さくうなずく。
「じゃあ、それにしましょう。……それにしても、いろいろ貰っちゃったわねぇ」
「……それだけのことを、艦長が成し遂げたってことですよ」
えれなが静かに、でも誇らしげに微笑む。
その言葉に、ゆきなも嬉しそうに返した。
「——ありがとう」
通信バッジに軽く指先をあてる。
「ゆきなより、管制へ」
『はい、こちら管制です』
「私たちの船から、荷物を転送したいのですが」
『承知いたしました。警備、解除します。どうぞ』
「感謝いたします。えれな、転送を」
「はい。——転送、完了しました」
「管制終わったわ。ありがとう」
「いえ、どういたしまして」
⸻
ふたりは着替えて、待ち合わせ場所へ向かう。
清楚な白のワンピース姿のゆきなとえれなに、通りすがる人々が思わず振り返る。
「……どうしたのかしらね?」
「いえ、お姉様があまりに綺麗だからだと思いますよ」
「まさか〜。」
周辺の星のきらめきが反射してきれいに映し出している。
「お姉様、女子校にいると、こういうのあまり気にしないのよね……」
(でも……地元のお囃子やらイベントやらで、いろんなところで名前出てるの、本人はあんまりわかってない)
えれなはそんなことを思いながら歩いていた。
⸻
シャトルで向かう、海辺の食卓
待ち合わせ場所には、ユリアとエリオットが私服姿で待っていた。
「おふたりとも……お若くて綺麗ねぇ〜」
「ユリアさんも、とっても素敵です♪」
「で、どこに行くんです?」
ゆきなが尋ねると、エリオットが元気に答える。
「いや〜若いんだから**肉!**でしょ、肉!」
「男的な発想ね!」
ユリアが笑いながらおでこを軽くペチン。
「いってぇ!」
二人のやりとりに、みんなが自然と笑顔になる。
「いいカップルだわ。来月の結婚式、楽しみにしてる」
「まさか……地球の人に出席したことないのに、こちらで結婚式に出席するなんてなあ……。どんな服着ていこうか、悩んじゃうなあ」
ちょうどその時、シャトルが到着。
「ほら、乗って乗って!」
ふたりが通信装置をかざして乗り込むと、ゆきなたちも身分証をかざす。
ピッ。
「司令——失礼いたしました」
「えっ?」
扉の表示に「司令」と書かれており、顔写真までしっかり映っていた。
「……やりすぎよ、ほんともう」
小声で呟きながらも、つい口元が綻んでいた。
⸻
海辺の家と、もう一つの“家族”
波の音が心地よく響くビーチサイドに、素敵な一軒家が建っていた。
「うわあ……綺麗な場所ね」
「でしょ? でもな……これ、エリオットの実家なんだよな」
「だって! 一番安全で、一番美味しいんだもん!」
エリオットがちょっと拗ねたように返す。
「まあ、ユリアも親族になるしね。いいでしょ?」
とウィンク。
「おかあさ〜ん! お世話になりま〜す!」
「お客さんいるの〜? ポンドステーキのコースでいい〜?」
「ありがと〜」
慣れたやり取りで夕食の手配がされ、テラス席が準備される。
⸻
準備の合間、テラスに残されたのは女3人。
えれながふと聞く。
「ユリアさん……あの中に、エリオットさんへの遺書もあったんですか?」
「しーーっ!」
ユリアが指を口に当てる。
「……あったわよ。永久消去してちょうだい。絶対見たらダメ!」
「了解。削除しました」
「ありがと……」
えれなをそっと抱きしめるユリアからは、大人の優しさと温もりが感じられた。
「……でもね、本当に死を覚悟してたのよ。だけど、目の前に現れたあなたたちを見た瞬間——“あ、助かるかもしれない”って……希望が見えたの」
「ありがとう」
「……いえ、私たちこそ。素敵な友人ができて嬉しいです」
ゆきなが静かに応じた。
「……でも、あの船に乗ってたのがあなたたち2人だったなんて、ほんと驚いたわよ!」
「ほら焼けたぞ〜!」
エリオットが大きなお皿を両手に、波打ち際から戻ってくる。
「ここ来ると、人使い荒いんだよなあ……でも味は保証するぜ!」
そう言って置かれたステーキの皿。
「でも、白いドレス……汚れちゃうかも」
「お気遣いなく。ナノポリマーで汚れませんから」
「なにそれ、羨ましい〜っ!」
ユリアが思わず食いつく。
笑い声と香ばしい香りが、ビーチにやさしく広がっていく。
⸻
最後に、小さなほめ言葉
食事を終えたあと、ふとゆきなが聞いた。
「えれな。……お母さんへの定期連絡、してある?」
「ええ。でも通信が届かないようなので、司令センター経由の自動送信にしておきました」
「……えらい!」
ぽんぽんっと頭をなでると、えれなが嬉しそうに照れる。
「えへへ〜♪」
そんな笑顔が、今日一日をあたたかく締めくくってくれたのだった。
綺麗な二人ですね 夜空に吸いこまれそうです。
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