宇宙基地探検と朝ごはん 86
とある家族の女子高生 と AI
宇宙ステーションの日常を描いた物語
「あら……いいお部屋ね」
ゆきなは貴賓室のカーテンをそっと開けながら、艦内とはまた違った静けさと柔らかい光に包まれた空間に微笑んだ。
「どう? 船の方は」
「特に異常ありません」
えれながすっと姿勢を正して答える。
「ふふ、しっかりしてるわね。……それだけ来賓として歓迎されてるってことかしらね」
ピコン、と軽やかな呼び出し音が鳴った。
「はい、ゆきなです」
『ユリアです。……よろしければ、宇宙基地をご案内いたしましょうか? 私が同席であれば、ある程度の制限エリア——宇宙港などもご覧いただけますよ』
「ぜひ! まずはおすすめのモーニングのお店からでも、いいかしら?」
『もちろん。朝食、ご一緒しましょう。非番ですのでラフな服装で伺いますね』
「ええ、ぜひ。普段着で♪」
ピロリン、と部屋のドアから通知音。
「はい、どうぞ」
ドアが開くと、そこにいたのは——
濃い紺色の、少し短めのワンピースを身にまとったユリア艦長。
その髪はさらさらで、いつもより柔らかい雰囲気が印象的だった。
「朝のおすすめはサンドイッチですね」
ユリアが案内するのは、428デッキへ向かうエレベーターホール。
「……すごい速度ね」
縦へ、斜めへ、滑るように移動する透明リフトの中、ゆきなとえれなはわくわくした様子で辺りを眺めていた。
「到着しました。——428デッキです」
デッキに降り立つと、そこは勤務前の人々でにぎわう、活気ある朝の広場。
並んだ店舗の中でもひときわ香ばしい香りを放っていたのが、サンドイッチの専門店だった。
「スープとサンドイッチのセットが人気です。帰りにコーヒーも持ち帰れますよ」
席につき、それぞれ注文を済ませる。
「……このスープ、美味しいですね。染み渡る感じ」
「サンドイッチもさっぱりしてて良いわね。ハムも野菜もフレッシュ」
「これは合成野菜ではなく、水耕栽培で育てたものなんです」
ユリアが窓の外を指さす。
そこには、ドーム型の水耕栽培施設が美しく並び、朝の光を受けてきらめいていた。
⸻
「……このあと、特別に司令センターも見学許可が出ていますが、いかがですか?」
「ぜひ!」
3人はコーヒー片手に、再びエレベーターへ。
「司令センター」と言うと、すぐに承認反応があり、システムが作動する。
シュウゥン……
リフトが開くと、そこは——360度の視界が広がる、巨大な統合型ブリッジ。
「……すごい。これは本当に美しいわね」
「私も初めて見た時は感動しました」
周囲を見回していると、数名の人たちがこちらに近づいてくる。
「ハナフライム艦長……!」
顔には驚きと感謝が混じる。
中には、今回救出された乗組員の家族や友人の姿もあった。
「ありがとうございます……」
「おかげで家族が帰ってきました」
感謝の言葉が次々と伝えられる。
そこへ、副司令が現れた。
「ゆきな艦長、えれな副艦長。私のフィアンセを紹介させてください。彼、エリオットです」
若い男性が礼儀正しく握手を求めてきた。
「輸送船を助けていただき……ありがとうございました。ユリアが、いなくなるところでした」
手を握るその手から、言葉以上の重みが伝わってくる。
横を見ると——ユリア艦長が少し目線を逸らしている。
「……もしかして、あのデータの中に……?」
「ふふっ、よかったです」
ゆきなが握り返すと、少し照れたようにエリオットが告げた。
「来月、結婚式を挙げる予定なんです」
「よろしければ、ご列席願えませんか?」
「予定を見て、メールでご返答いたしますわ」
その場はにこやかに収まり、ひと段落ついた空気の中、また一つ別の誘いが届いた。
「もしよろしければ——地上でディナーなど、いかがですか? 私は本日17時で勤務が終わりますので、その後に」
「わかりました。地理感覚はまったくございませんが、よろしくお願いします」
和やかな空気の中、3人はその場を後にし、次の予定まで少しゆっくりと過ごすことに。
⸻
ふたりはユリア艦長に案内され、《ホログラム・シアター》へ。360度の映像空間に包まれて、宇宙の壮大な歴史や幻想的な星の誕生が立体映像で描き出される。
「……これ、本当に目の前にあるみたい」
えれなが微笑む。だがその時、通信音がシアター内のパーソナル端末に静かに響く。
「ゆきな様、えれな様。本星での会議が終わりまして、急ではございますが、本日14時ごろ、ご参加いただけますでしょうか?」
「いいわよ、早く終わったほうがありがたいもの」
『中央ホログラム会議室にて。ユリア艦長もご同席を——』
「います。司令、了解しました」
「……って、今私たちがいる場所の4フロア下なんですけどね」
ユリアが笑いながら肩をすくめる。
「では、お昼と言いつつ——甘いものでもどう? 私のお気に入りがあるの」
「賛成!」
すっかり打ち解けた3人は、午後の光の中、甘いスイーツと笑顔で軽食を楽しんだ。
新しいお友達もできた二人
おなかもすいたのでお出かけを始めます!
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