緊急事態発生 ハナフライムの危機 82
とある家族の女子高生 と AI
宇宙ステーションの日常を描いた物語
一方、ゆきなは久しぶりの個室でくつろいでいた。
「みんな楽しそう…この星の人たちも嬉しそうだな」
ここに来たいと思うなら、道徳ある振る舞いができる人であってほしい。お金ではなく、努力する人に平等に——そんなことを考えながら、外の海を眺めつつ眠りにつく。
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翌朝5時、ふと目が覚める。窓の外、朝日に照らされる海は幻想的だった。
その時、ピロリンと通知音。
『ゆきな様、テニス朝練をする方々に新ウェアをプレゼントしてもよろしいでしょうか?』
驚いて理由を尋ねると、海の管理者からの返答。
『昨日の昼から今朝までの行動を拝見し、素晴らしいものでした。副大臣の絵を嗜む姿にも感動いたしました。空中都市には元大統領もおられ、皆様の道徳心は高く評価されました』
管理者はさらに提案する。
『今後、この試験を合格し、滞在中も素晴らしい行動を続けた方は自由に入国できるようにしたい。また外貨トレードでゆきな様たちのこちらの貨幣と地球貨幣を変換も可能としませんか?』
「いい提案ね。プレゼント全て許可するわ。全員分の靴下とウェアを部屋玄関に転送して」
『承知しました』
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早朝、テニス部に連絡が届く。
「ホテルからウェアのプレゼントです!副大臣にも!」
「了解!」
と元気な返事。新ウェアで全員がコートに集合し、
「かわいい!」
「もう若くはなくて、ちょっと短いけど気に入ったわ♪」
と声が上がる。しっかり朝練をこなし、その後は理科部も合流。こうして星で2日目、3日目の2泊3日の観光は幕を閉じた。
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最終日、中央都市の集合時間に全員が集まる。
星からの最後の贈り物として、緊急用ナノ注射が一人1本ずつ手渡される。
『医療承認は受けていませんので、使用は自己判断で』
感謝の言葉とともに受け取り、ハナフライム号へ。
「素晴らしかったですね」
校長や先生たち、JAX○やNAS○関係者も大好評。
タブレットを座席前のホルダーに戻し、艦は地球へ向かう。
副大臣は海底都市と空中都市、二枚の絵を見せてくれた。
「すごいですね!」
「趣味よ。今回は写真が撮れなかったから、思い出に描いたの」
連絡先を交換し、「楽しかったわ。久しぶりに思い切りできた」と笑顔を見せる。
ゲートを通過し、ワープ解除とともに景色は地球へ。ステルス迷彩を展開しNAS○に到着。
学生たちは横須賀自衛○で下船し、残りはJAX○へ。
無事、基地に到着。
「では皆さん、帰りましょう」
各々が家路につく。
「お母さん、お父さん、ただいまぁ!」
「おかえりー!」
温かな声が迎えてくれた。
ゴールデンウィーク後半、5日間まだまだお休み。
最近は濃密な日々が続いていたため、基地の司令室でのんびりとスキャンデータを眺めていた。
「綺麗だわ…」
銀河連邦の最新データが次々と反映され、広大な銀河地図が完成に近づいている。
そんな中、ニュースが流れる。
——パーキンソン病が治癒。腎不全が奇跡的に回復。心臓移植待ちだった子供が完治——
「これって…ナノ注射かしら」
「可能性大ですね」
効果は素晴らしいが、あまりに万能すぎると、金銭目的で乱用される恐れもある。難しい問題だ。
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その時、司令室に赤い警報灯が点滅。
緊急事態発生。
メインモニター上、銀河地図の外縁が赤く染まり、アラーム音が響く。
『天の川銀河から0.5銀河離れた位置に、ワープ0.5相当の速度で接近する物体を確認。規模は不明。』
「これ…あいつらじゃない?」
「可能性高いです」
あいつらが、戦闘のない方面へ食料確保のため進行している可能性があるという。
「面倒だけど…天の川に入れたくはないわね」
「同感です。緊急出動しますか?」
「いくわよ」
「了解。戦闘モードで起動しますか?」
「許可するわ」
融合炉4基を連結し、出力80%で稼働。ワープ9.4で現地へ。
シールド最大展開。
『0.4銀河地点で接触可能、到着まで約25分』
「はあ…やだわ、あいつら話が通じないんだもの」
「今回も一応、交渉しますか?」
「一応ね。私たちは殺人者じゃないわ。退却しなければ攻撃すると伝える」
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『到着まで5分』
——ワープアウト。
ほぼ同時に、相手もワープアウトしてくる。
「数は…2隻? …後方から5隻…合計7!」
「全7隻大型艦です!」
次の瞬間、敵の先行2隻分の主砲が火を吹いた。
——直撃。
「っ…痛いわね…シールド残り64%!」
「敵艦隊、展開中! 危険です!」
「残り大型艦5…!」
えれなの声が緊迫する。
『大型艦、ワープアウト…! 間に合いません!』
「敵、主砲発射!」
「エレナ、危険!」
『退避…間に合いません!』
死亡を覚悟した、その瞬間——
2番艦・3番艦、ステルス解除!
艦影が空間に浮かび上がり、トライアングル…いや逆三角形陣形でシールドを強化する。
直撃。
轟音とともに衝撃波が船体を揺らす。
「エレナ、説明はいいわ。全自由発射!」
『了解、主砲チャージ…発射!』
主砲が光を放ち、大型艦2隻が轟沈。
『敵艦隊、展開中…現在1,600隻!』
「関係ないわ、拡散モード!」
——三連同時発射。
小型艦にも自動照準、次々と砲火が降り注ぐ。
ちゅどーーん! 連射が敵陣を削り取る。
『展開中艦隊、全滅確認』
残る大型艦5隻も火災が多発中、機能低下。
『2戦艦、爆発寸前です!』
「一応、繋ぎますか?」
「無駄な気もするけど…まあ、一応ね」
回線が開く。
「こんにちは。天の川銀河防衛軍です。
そちら、警告も威嚇もなく、いきなり直撃砲撃を行いましたね。
こちらも手加減なしで反撃しました。このまま全滅でも構いませんが、いかがですか?」
一瞬の沈黙の後、焦った声が中継で返ってくる。
『す、すまん…前回の報告で、この宙域に人類の痕跡があり、一隻だけとの情報で接近していた。ここまで3隻で十分と思い…倍で作戦を行った。まさかこんなに防衛軍が強いとは…』
「強いとかの問題じゃないわ。まともに動きそうなのは、残り1隻だけよ。どうしたい? 打たれて死にたい?」
『い、いや…助けてくれ! 今後は戦力を正式に報告し、この星系には二度と手を出さないと誓う』
「本当かしら。まあ信じられないけど、今回は信じてあげるわ。そちらの艦船、お仲間の生命反応を全員生き残り艦へ転送してあげるわ」
相手の反応を待つことなく
「エレナ、転送開始」
『了解。睡眠装置内の個体も含め、全員転送します』
転送光が艦内を満たし、バンバンと人員が吸い上げられていく。奇声や叫び声が混じり、4隻分の人員が1隻に押し込まれる。館内を見渡した敵艦長が深々と感謝を述べ、そのまま退却していった。
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『艦長、残る2隻は崩壊寸前です』
「わかったわ。——ミサイル、特異点1で発射」
光が真空を裂き、20秒後、2隻は特異点に吸い込まれて消滅した。
「残りの2隻の状況は?」
『小型艦・中型艦が半数残っています』
「持って帰れるかしら…あ、ノアリエル、欲しいというかしら?」
えれなは笑って
「さすがはお姉様ですね」
少し呆れるのだった。
間一髪! 死ぬかもしれない恐怖をあじわったゆきな
ただ得られたことも多かったようです!
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