春休み計画と地鎮祭 40
とある家族の女子高生 と AI
宇宙ステーションの日常を描いた物語
帰宅後。制服のまま自室のベッドに寝転んでいたゆきなは、意を決してスマホを手に取った。
――プルルル……ピッ。
『佐々木です』
「佐々木さん、この前ぶりです!」
『おお、ゆきなさん! どうしました?』
「やめたくなったとかじゃないですからね! その逆です!」
『あはは、よかった。私も感謝してるんですよ』
ほっとしたような佐々木さんの声に、ゆきなも笑顔になる。
「それで……春休みに種子島で新型ロケットの打ち上げがあるじゃないですか?」
『ああ、ありますねぇ』
「理科部で、それを見学したいなって考えてるんです。人数はまだ未定で希望者だけですが……」
『おお、それはいいですね!』
「JAX◎職員の宿舎とか、ゲストハウスって泊まれたりしますか?」
『うーん、一応、来週確認してみますね。最大10名ぐらいですよね まあご迷惑とか思わずに、どんどん言ってください。あなたは“職員”ですから。いくらでも』
「うふふ、ありがとうございます。あっ、そういえば……始業式の話、見られてましたか?」
『ええ、バッチリ見ましたよ。すごかったですねぇ〜』
くすくす笑われる。
「やっぱり〜! は、はずかし〜」
『また連絡しますね。来週には詳細が出せると思います』
「ありがとうございます、よろしくお願いします!」
――ピッ。
電話を切ったゆきなは、ベッドの上でごろんと転がりながら、天井を見上げる。
「ほんとに……春休み、すごいことになりそう……」
口元に浮かぶ笑みは、次に始まる大きな冒険の予感を感じていた。
その日の夕方、家でのんびりとくつろいでいたところに、スマートフォンが鳴った。
「佐々木です。折り返し遅くなってすみません。」
「あっ、いえいえ!ありがとうございます!」
佐々木さんの声はいつも通り落ち着いていて、どこか安心できる響きだった。
「結果ですが、問題ございません。春休みの見学ですが、受け入れ可能とのことです。ただ…この時期、ゲストハウスが混んでまして……」
ドキッとしたが、すぐに続きがあった。
「大部屋が一つと、ゲスト2名用のお部屋が一つ。現状、それだけしかご用意できません。」
「十分です!ありがとうございます!」
思わず声が明るくなる。
「でしたら、三日間分で押さえてあります。巡回バスも、ビジターパスを事前に発行いたしますので、そちらで移動可能です。」
「本当に感謝です!」
「ゲストハウス内でしたら、社員食堂も使用できます。安価でバランスも良いので、きっとご満足いただけるかと。あと……」
電話越しに少し間があり、佐々木さんは静かに続けた。
「今回は特別に、センターの中には入れませんが、オペレーションセンターの外側、ガラス越しでの見学が可能です。安全のための措置ですので、ご了承ください。」
「もちろんです!それだけでも貴重な体験です!」
「発射場の方は、グリーンラインの範囲内でしたら自由に見学可能ですが、組立ラインなどは立ち入り禁止ですのでご理解を。」
「わかりました。本当に、ここまでご配慮いただいてありがとうございます!」
「いえいえ、あなたが熱意をもって要望を伝えてくれたおかげですよ。理科部の皆さんにとって、良い経験になるといいですね。」
「あの……佐々木さんも、見学にいらっしゃいますか?」
「ふふ、さて、どうでしょうね。では、また詳細が決まりましたら連絡します。」
「はい!よろしくお願いします!」
電話を切ったあと、ゆきなは静かに一息ついた。
「エレナ、聞いてた?」
「はい、すべて。すごいですね、お姉様……。理科部の春休みが、ますます楽しみになってきました。」
「うん、まずはお母さんに報告しなきゃ。あと、部のみんなにも!」
キッチンで料理をしていたお母さんに飛び込んでいくと、ゆきなの表情から全てを察したかのように微笑んでくれた。
「じゃあ、夕飯の後にケーキでお祝いね。」
「やったー!
翌週。
「先生、大丈夫だって〜! 詳細はメールで送っておいたから〜」
「わかったわ〜。飛行機は旅行会社に聞いておくわね。ありがとうね〜!」
そんな明るいやり取りのあと、ゆきなはいつものようにエレナと部活のテニスへ。しっかり汗をかいて気分もすっきり。
休みの日でも、ふたりの練習は欠かさない。
そして迎えた日曜日。朝から3人で倉庫へ向かうと、現場にはすでにテントが張られ、整然と準備が進んでいた。
いつもの神主さんが、にこやかに出迎える。
「ゆきなさん、おはようございます」
「おはようございます。一応、袴で来ました」
「うんうん、よくお似合いですよ。では、始めましょうか。頭をお下げください」
儀式が始まり、場が神聖な空気に包まれる中、神主の言葉に合わせてゆきなはそっと篠笛を吹き始める。
優しく、透き通るような音色が空に吸い込まれていく。
「すごい……お姉ちゃん、綺麗……」
エレナが思わず声を漏らす。
「ゆきなさん、小学三年生くらいから篠笛を習っていたそうで、かなり上手なんですよ」と神主さんも笑みを浮かべる。
全ての神事が終わると、神主は深々と礼をして帰っていった。
「では、おじさま、あとはよろしくお願いします」
「おうよ。たまに様子見にこいな!」
上の家も順調に建築が進んでおり、地下では宇宙船の組み立てが本格的に始まっている。
その日の夕方、自宅に戻るとエレナが声をかける。
「お姉様、地下も少し形になってきています。ご覧になりますか?」
「いいわね。帰ったら転送してくれる?」
転送されて中に入ると、目の前に広がるのは建設途中ながらも、しっかりとした構造が見て取れる地下司令所の姿だった。
「おお〜……形になるとすごいわね」
「はい、まだ途中ですが、確かに司令所の形にはなっています。お隣にはお手洗いも完備しました」
「ありがと、えれなちゃん。これなら完成が待ち遠しいわね」
「はい。あと2ヶ月ほどで完成できると思います。その後は調整期間に入る予定です」
そして、ゆきなとエレナが声を揃えるように言った。
「春休みの理科部の旅行、全員参加になりました!」
驚いたのは、その旅行費用。なんと飛行機代が特別割引になり、1人あたり約2万円で食費込みという破格の条件が整ったのだ。
「すごすぎるわね……」
そんな声を漏らすゆきなに、エレナは少し誇らしげに「調整、頑張りましたから」と微笑んでみせた。
それから1ヶ月後――
おじさんから「見に来い」と呼ばれて現地に行ってみると、建物はすでに完成間近の姿をしていた。
「もうここまで!?」
「内装と仕上げだけ残ってる状態さ。図面の手直しがほぼなくてね、本当に順調だったよ」
おじさんは自信満々に胸を張る。
ねっころがった ゆきな 楽しそうです! まもなく秘密基地も完成 どうなっていくことやら!
★評価★ブックマーク★コメント うれしいです!
リアクション モチベアップのためにお願いします!
ゆきなとえれなの ほんわか 日常を楽しんでいただければ幸いです




