地下ドック完成ーーー検査? 38
とある家族の女子高生 と AI
宇宙ステーションの日常を描いた物語
みすずちゃんと別れたあと、帰り道を歩いていると、エレナがふと口を開いた。
「お姉ちゃん、地下設備がほぼ完成いたしました。ご覧になりますか?」
「えっ、もう? 早くない?」
「はい。ドックだけですので、そこまで複雑な構造ではありません。円筒式のエレベーターも完成していますが、上屋が完成するまで使用はできません」
「じゃあ見に行かなきゃね。お父さんも一緒に行く?」
「行くぞー!」
「では、みんなで転送いたします」
エレナの声に続き、光がふわりと包み込む。
転送先の地下施設は、まさに完成したばかりのようで、無骨ながらもどこか洗練された雰囲気が漂っていた。
「すごいわね…完璧にできてる」
「お褒めいただき光栄です」
エレナは誇らしげに微笑んだが、ゆきなはすぐに気づいた。
「でも…甘いわね。リフトアップの下、ガラガラじゃない。ここにお茶できるテーブルと、モニター並べて、基地の司令所みたいなの作れない?」
「なるほど…ステーション直通回路で設置可能です。お任せください」
「楽しみだわ」
「――あああ、大事なものがないわ!」
突然叫ぶゆきなに、エレナもお父さんも驚く。
「えっ、なんですかお姉様?」
「お手洗いよ。トイレがないじゃない!」
「……確かに、大事ですね」
「船につける予定じゃダメよ。地下だって必要なの。ワンフロアごとにお願い」
「承知いたしました」
笑いをこらえながら頷くエレナ。それでもゆきなは真剣だ。
「大事なんだからね!」
話題はそのまま設計の話へ。
「そういえば、小型宇宙船を設置できるようにしたわよね?」
「はい。小型だけでカモフラージュも可能です」
「中型は毎回出すの大変だし、近場なら小型で遊びに行けるわよね」
「月なども行けるとは思いますが……お姉様を危険には晒せません。地球圏内までですね」
「……毎回考えることにしましょ」
「ダメなものはダメです」
やれやれといった様子のエレナに、ゆきなは舌を出す。
「これから中型・小型宇宙船の転送組み立てに入ります。司令所、お手洗い、お茶のスペースも先に組み込みます」
「分解した旧船舶から再資源化されたパーツが使えるのよね?」
「はい。現在、ステーションでは骨格と融合炉4機が完成済みですので、順次転送・組み立てを進めます」
「楽しみだわ」
「はい、楽しみです」
「それじゃあ、お家までよろしくね」
「お母様はキッチンにいらっしゃいますので、玄関に転送いたします」
――シュン。
「ただいまーーー!」
「おかえり〜。テニスどうだった?」
「じゃじゃじゃ〜ん!」
トロフィーを掲げると、母は驚いたように目を見開いた。
「わお! すごいじゃない、優勝?!」
「そうそう!」
「じゃあ、飾らなきゃね!」
母がさっとトロフィーと賞状を持ち去り、2人は呆然。
「えっ、持ってかれた……」
「……はやっ」
「お風呂どうぞ〜」
「は〜い」
2人でお風呂から出てくると、リビングの窓際に額に入れられた賞状と、ぴかぴかのトロフィーが綺麗に飾られていた。
「わぁ……」
「えれな、2人の名前が入った、初めての表彰だね」
「嬉しいですね……!」
すると、母がにっこりと笑って言った。
「でもするかもな〜って思って、ケーキ焼いといたから。あとでみんなで食べましょうね!」
「わーい!」
2人は思わず手を取り合って飛び跳ねるように喜んだ。
大きな一日を終えた夜、家の中には温かい笑い声と、ほんのり甘いケーキの香りが広がっていた。
次の日は、久しぶりの休憩日だった。
朝からゆきなはお父さんと一緒に、山の家の様子を見に出かけていた。現地ではすでにおじさんたちが測量と清掃を始めており、土地には白い墨が丁寧に引かれていっている。
「資材の運搬も始まってる。準備は順調だ。来週には確認が終わるから、そしたら本格的に着工になるぞ」
おじさんがそう言いながら、現場を見渡す。
「起工式と地鎮祭もお願いしてあるからな。神主さんからも連絡があったぞ」
「えっ、嫌な予感しかしないんだけど…」
「せっかくのお囃子だし、篠笛をお願いしたいってさ」
「……やっぱりそうきたか。おじちゃん、笑ってるし」
「せっかくだから頼むよ。知らない人じゃないんだし」
「……でも施主なのに笛ってどうなのよ!」
そんなことを笑いながら話しているうちに、お茶の時間になった。仮設事務所のプレハブの中で、ほっと一息つく。
「では、おじちゃん帰るね」
「うん、お疲れさま!」
帰り道、ゆきながぽつりと言った。
「なんか、みんな元気に仕事してたね」
「うん。楽しそうだった」
その言葉に、お父さんも静かに頷いた。
* * *
そして翌週。新学期、始業式の日。
校門に向かう道、ゆきなとエレナは2人で並んで歩いていた。
「そろそろみすずちゃん来る頃じゃない?」
「――あっ、いた! みすずちゃん!」
「おはようございます!」
再会の挨拶を交わしたあと、みすずちゃんとえれなはは中等部へ。少しだけ寂しさを感じながら、ゆきなは自分の教室へと向かう。
教室に着いて間もなく、校内放送が流れた。
「ゆきなさん。職員室まで来てください。顧問、浅香先生がお待ちです」
「えっ、ゆきなさん呼ばれてる!」
「たいしたことないわよ。じゃ、行ってきます」
* * *
職員室に入ると、浅香先生が笑顔で迎えてくれた。
「先生ー、校内アナウンスで呼び出さなくてもいいのに」
「こちらへどうぞ」と、個室へと案内される。
中には物理の先生もいた。
「……後で聞くって言ってたじゃない。ああ、JAX⭕️の件?」
「隠しててもよかったんだけど、色々と融通が効きそうだったから話しちゃいました」
「まあ、そうよね。そういえば、ゆきなさんのおじいちゃんって発明家だったって話、聞いたことあるわ」
「うん、そこで色々と共同研究してたみたい。内容は話せないけどね。あ、文化祭のときに見に来てくれた方もそれ関連だったみたい」
「それで全員招待になったのね。納得」
浅香先生が資料を見せながら、話を続ける。
「本来なら、3年生の卒業祝いで春休みにどこか行くじゃない? 今年は3年いないけど、せっかくだから、みんなでちょっと特別な体験をしないかと思って」
「特別な体験?」
「種子島宇宙センターに行って、新型ロケットの打ち上げ見学なんてどうかしら。部員の旅費の半分は、理科部の寄付金で出せると思うの。もちろん自由参加にするけど」
「えっ……それ、すごくないですか?」
「でしょ? 中学生2人も含めて、私も入れて10人くらい。笹塚先生も行きたがってたけど、男性だから……ちょっとね」
横でガックリしている笹塚先生を見て、2人で笑ってしまう。
「でも、1人ぐらい男性の先生いても安心じゃないですか?」
ゆきなが助け舟を出すと、笹塚先生の表情がぱっと明るくなった。
「ただ、先生たち1人ずつに部屋を取るのも大変だから……浅香先生は一緒の部屋で“女子会”ってことでどうです?」
「いいわね、それ!」
2人は顔を見合わせて、くすくすと笑い合った。
春が、少しずつ近づいてきている。
地下秘密基地ドック 完成? です 改良はありそうです。
こうご期待!
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ゆきなとえれなの ほんわか 日常を楽しんでいただければ幸いです




