八十一話 毒になるなら
七人は、風宮の屋敷を離れ、火夜を探して走っていく。
「走り出したはいいですけど、火夜がどこにいるかわからなくないですか……!?」
藤花が走りながら、尋ねてくる。
確かに、結界が火夜のものだとわかったところで、彼がどこにいるかなんてわからない。
「残滓辿れないですか?」
望緒の問いかけに、誰も答えはしない。さすがにそこまでの手練れは、ここにはいないようだ。
『わかるぞ』
「え、闇戸……!?」
「わかるって、どういうことや」
『貴様らは気づいておらんかもしれんが、残滓はある。我はその行き着く先がわかるぞ』
「! じゃあ、案内お願いしてもいい?」
望緒が言うと、闇戸は返事をして、火夜の霊力の残滓を辿っていく。
辿って行った先は、風宮の村から距離の離れた場所だった。山に囲まれ、この世の者でない何かが出てきそうな場所。
「ほんとにここに火夜が……?」
誰もいない中、望緒たちが困惑していると、暗闇から赤く光る火の玉が彼ら目掛けて飛んできた。
「危ないっ!」
爽玖は叫ぶと、飛んでくる火の玉と同じ数の水を飛ばす。火は水とぶつかると、ジュッと音を立てて消えた。
辺りはシンと静まり返る。何が起こったのだと困惑している時、奥の方から枯葉や土を踏みつける音が聞こえてきた。
山の麓にゆらりと人影が見える。
「あちゃー、やっぱり全員で来ちゃったかあ」
幼い男児の声。木の影から完全に姿を現し、月明かりにより、その人物の姿が露になる。
歳は十ほどだろうか。白茶色のくせ毛、光を灯さない真っ黒な瞳。これは正しく––––
「火夜……!」
「せいかぁい」
火夜は目を細め、ゾッとするほど不気味に笑う。
「あれ、《《アイツ》》は来てないの?」
「……? アイツって?」
「ほら、あのバカだよ。この空間を創ったくせに、なーんにも理解してなかったおバカさん」
火夜は自身の頭の横で、クルクルと人差し指を回す。彼が言っている「バカ」というのは、十中八九、八下のことだろう。
その発言に、望緒は苛立った様子を見せるが、冷静に返答をする。
「来てないよ」
「ふぅん。僕に恐れおののいちゃったかなあ」
火夜はそう言って、くすくすと笑う。望緒は苛立ちを隠せないでいるが、返す言葉は無かった。
実際、八下は恐れているように見える。彼女らが行くと言っても、彼は自分も行くとは言わなかった。
ずっと、顔色が悪くて、変な汗をかいていた。顔をあげることだって、あまり無かったほどだ。
あれを恐れていると言わず、なんと言うべきか。
「待って。そう言うってことは、八下様は僕ら同様、あの結界の影響を受けないってこと?」
飛希が口を挟み、火夜に質問をした。
「そうだよ! あの結界は、『人間の大人』だけを通さないようにしてる。だから、アイツも別に出ることはできるよ。でもその様子だと、出れるかどうかは試さなかったんだね」
確かに、彼は望緒が行くのを止めようとはしたが、その後、自分が出れるのかどうかを試してはいない。
というより、出ようとすらしていなかった。
「情けないんだね。いつになっても」
『情けなくなどない』
「どこがさ。自分はこっちにすら来ないで、子どもに任せっきり? ありえないって」
彼は冷笑しながら言う。闇戸はより一層腹を立てるが、何を言い返すこともできない。彼もまた、八下同様、何も知らなかったから。
「それで、大人たちを結界に封じ込めておいて、あなたは何が目的なんですか?」
日向が火夜に問う。
「大人を殺すの」
力強くも弱くも、そして楽しげでもなんでもない口調で、ただ単にそう言った。何をおかしな事を言っているんだとでも言いたげな顔で。
おかしな事を言っているのは、自分の方なのに。
「何それ、意味わかんない!」
「うーん、大人っていうよりかは、四家を殺したいのかも。だって、アレがあるから、僕は生まれたの。アレが変な規則を作ったから、僕が苦しむことになったの。アレは毒だよ」
「毒……?」
「そう、毒。あんなモノがあるから、ここは穢れてくんだよ」
「意味がわかりません。四家が無ければ、“念”は蔓延っていくばかり……不幸しか生まれないのでは?」
藤花の問いかけに、火夜は頭をガシガシとかいて、苛立ちを表に出す。
「でもさあ、四家の人間たちがまた規則を破って、僕みたいな子どもが産まれるかもしれないじゃん! そしたらまた、僕がされたように疎むんでしょ?」
「規則を破る確証なんてないやろ」
「破らない確証もないじゃんか。規則があったら、破りたくなるのが人間ってもんじゃなあい?」
火夜の意見は、一理あるかもしれない。実際、望緒が向こうの世界で通っていた学校にも、校則を平然と破っている者はいたから。
しかし、火夜が死んでからは一度も、四家同士の間に生まれた子が記録されていないというのも、また事実。
「だからと言って、人に危害を加えようとするのは違うと思うんだけど。今の四家は、あなたのことを疎んだ人たちとは、違うんだよ」
「別に僕を疎んだから殺したいわけじゃない。ただ、いつまた僕みたいな子が産まれるかわからない以上、毒になる可能性があるなら、殺しておくのが一番だと思ったの」
「そう……」
望緒が小さく呟くと、その場にいる全員が武器を持ち、札を取り出し構える。
「なら、全力で抵抗するしかないよね」




