刻下の古代魔法師 ~『魔法の才能がない』と言われて公爵家から追放された俺は、~の感想 前編
今回、長くなってしまったので前後編に分けたいと思います。
【タイトル】
刻下の古代魔法師 ~『魔法の才能がない』と言われて公爵家から追放された俺は、大賢者に弟子入りして最強の【古代魔法】を習得した。古代魔法は全てにおいて、現代魔法の上位互換なことを知らないのか?~
【あらすじ】
「お前には魔法の才能がない」
父にそう言われて、アルカは公爵家を追放されてしまった。
彼は唯一味方だった従者に見送られ、家を後にした。
追放された彼が街を彷徨っていると、ふいに地面に倒れている浮浪者を発見した。
食料を求める浮浪者に食べ物をプレゼントすると、浮浪者は絶世の美人になった。
なんと助けた浮浪者は実は、世界最強の大賢者なのだという。
助けてくれたお礼に、1つだけ願いを叶えてくれる大賢者。
そんな大賢者に、アルカは弟子にしてくれと頼み込んだ。魔法の才能がない自分でも、大賢者の元で修行すれば人並み程度には魔法を使えるかもしれないと考えたのだ。
困惑しながらも、大賢者はアルカの弟子入りを受け入れた。
かくして、アルカは大賢者の弟子になった。
大賢者の弟子になって1ヶ月が経つも、アルカは魔法を使えなかった。
自身の無能さに絶望するアルカだが、ふいに大賢者の部屋の本棚に納められた古い本が目に入る。
その本を手にし、アルカは本を捲った。
「それは古代魔法について書かれた魔法書だな。現代では解読不可能な古代文字で書かれているから、ワシでも内容はさっぱりわかんねぇけどな」
「……僕、普通に読めます」
「ウソだろ!?」
何故か現代では解読不可能な古代文字を読み解けるアルカは、魔法書を解読して古代魔法を習得した。
魔法の才能がないと思われていたアルカだが、それは誤りであったのだ。
アルカは"現代魔法"の才能がないのであって、"古代魔法"の才能はあったのだ。
アルカは最強の古代魔法を手に、これまでの屈辱に満ちた人生を覆す。
これは才能がないと思われていた少年が、唯一無二の才能を開花させて最強に至る物語。
【感想】
まず最初に一つ。細かいことですが、あらすじと本編が異なる部分があります。
あらすじでは主人公が浮浪者を助けたみたいに書かれていますが、本編では主人公が飢えて倒れているところを老婆が乞食をしてきて、主人公がネズミの死骸を渡したというのが正しいです。
書いて思ったけど、細かくないね、これ。
あらすじで噓を書いてまでも主人公を聖人に描きたいのでしょうか。
その疑問は本編を読むとわかりますが、主人公があまりにもクズ過ぎて、美談を捏造しないといけないレベルだからだと思われます。
本編に話を戻すと、公爵家の次男に生まれて最高の環境を与えられたにもかかわらず、主人公の魔力はたったの5しかないため魔法が使えず、病弱のため武術もできず、勉学も成績は3位か4位程度だそうです。
対して兄は5歳にして上級魔法を使え、7歳で王国騎士団員に剣技のみで勝利したほどの実力を持っています。
でもそんな兄の魔力量は書かれません。そのため主人公の魔力は5なんて設定の意味がありません。
主人公はそんな兄から魔法の実験台としていたぶられ、剣技の練習台として木刀でしばかれたりされていたそうです。
「最高の環境を与えられた」と書かれていたのですが、これがそうなのでしょうか。
言っていることと言っていることが違うのですが……。
着の身着のままで追放され、街を放浪する主人公ですが、助けが期待できそうな施設は悉く父の手が回っており、浮浪生活を強いられました。
1か月が経過し、空腹を紛らわすために眠ったところ、老婆が話しかけてきました。
老婆は、明らかに何も持っていない主人公に対し、食料を恵んでくれと要求しました。
それに対して腹を立てた主人公は、そこらに落ちていたネズミの死体を渡しました。
しかし老婆の正体は伝説の賢者であり、乞食行為は主人公を試すためにしたらしいです。
なんでも、力を得るにふさわしいかどうかを試していたようで、老婆に対し友好的に接することが出来れば合格だったようです。
ネズミの死体を渡した主人公は……
なんと、合格だそうです。
その理由ですが、原文を抜粋すると
>「例え死んだネズミなどの嫌がらせであったとしても、ワシの話を無視したり罵ったりして去るよりは良いからの」
だそうです。
なろう作品を擁護するときによく耳にするのですが、「底辺と比べたらましだから」というのは、ほとんど落ちるところまで落ちたものに対する弁解になってない弁解です。
賢者の試験に合格した主人公は願いを聞かれ、誰にも馬鹿にされないほど強くなりたいと答えました。
強ければ馬鹿にされないという論理はその通りではあるのですが、別に弱かろうと馬鹿にされない人はバカにされないものです。
要するに、馬鹿にされないために力を求める奴は、自分が虐げられるより虐げる側になりたいだけであり、結局のところ馬鹿にしてきたやつと同じ穴の狢なんですよね。
本作品もそんな典型例にもれず、主人公は力を得て調子に乗ります。(正直もう見飽きた)
1か月間賢者の下で修業しましたが、もともと魔力がない主人公には魔法が使えないという結論になりました。
その後、主人公は本棚からとある本を発見しました。
その本は古代魔法について書かれていましたが、賢者はその本を読めなかったために本棚の奥に隠して置いていたそうです。
読めないから目に入らないところに隠すという、賢者というより癇癪を起したガキ見たいなキャラですが、賢者らしくない言動はこれで終わりません。
ちなみに賢者が読めない本が何故主人公に読めたかですが、才能があったからだそうです。
作者は才能と言えばなにが出来てもいいと思っているのでしょうか。
まあ、少なくとも力があれば何をしてもいいと思っているのが作品から見て取れます。
主人公が古代の魔導書を読んだところ次のことがわかりました。
古代魔法とは神々が使用する魔法を超越した技術であり、あまりにも強大すぎた故に古代魔法師は迫害され、古代魔法は封印されたとのこと。
この本は古代魔法師が後世に伝える(というか厄介ごとを残す)ために書かれたそうです。
古代魔法が封印された後、それを模倣する魔法が開発されたそうで、それが現在の魔法になったそうです。
現在の魔法は古代魔法の足元にも及ばず、古代魔法を使えるのは本が読めた主人公だけ……。
これが何を意味するか分かりますよね?
古代魔法師が迫害された歴史に対し、自分も碌な目に合わないのではないかと危惧する主人公。
賢者の「私利私欲のために使ったから滅んだんじゃねーの?」という考えを聞き、主人公は身を滅ぼさないよう自分を律しようと決意します。
そんな主人公ですが、5年修行して古代魔法を身に着け、賢者からこれからどうするか話し合ったところ、迷わず復讐に走りやがります。
古代魔法の内容ですが、大量の命を奪ったり元に戻すといったことが容易にできます。
術者に魔力がなくとも、空気中の魔力を使うために代償というものも存在しません。
このような絶大な力には、持つのに重大な責任が降りかかるものですが、これはなろう小説なのでいかように振るおうとも主人公が報いを受けることはありません。
が、この主人公を倒す方法は意外なところにありました。
一方追放側に視点が移りますが、そこでとんでもない設定が明らかになります。
主人公が追放された結果、何故が領民が激怒し、何千人もの領民が領地から出ていったそうです。
追放されたのは10歳の時点なのですが、その時点でそこまで民衆から支持されるカリスマ性があれば古代魔法なんぞ必要ないと思うのですが、なろう作家およびナローシュは暴力しか理解できないのでしょう。
そもそもの話、それほど領民から支持されていたのなら、追放されて浮浪者みたいにぼろ雑巾になりながらさまようことはなかったと思うのですが……。
どうせ作者が後付けで主人公の美談を飾り付けたんだろうということは容易に想像できますね。
ちなみに主人公が支持された理由ですが、父親である領主が重税を課したのに対し、主人公だけが領民に優しく、話を聞いて現状への対策を練ってくれたからだそうです。
問題を解決しなくても優しくしただけで好意を持つとか、ラノベのチョロインみたいだなこいつら。
あくる日、主人公の兄がいつものように嫁と一緒に主人公の元侍女をいじめようとしたところ、主人公が強襲してきました。
そこから主人公視点に戻るのですが、その時を描いた光景を原文から引用すると
>ガラスを突き破り、実家に侵入した。
>机の上に着地し、そこから見えるのは4人。
>1人は憤怒の表情を浮かべる、老人。
>1人は憤怒の表情を浮かべる、少年。
>1人は憤怒の表情を浮かべる、少女。
>1人は涙を浮かべる、少女。
くどい表現、カッコつけたいだけの無意味な反復、意図が読めない技法、色々感想が出てきているがまず言いたい、3人とも同じ表情やないかい!
ふつうこういう書き方って、4人が4人とも違う様子の時に輝く表現だと思うんだよ。
例えばさ、死んだと思った弟が窓を突き破って入ってきたんだよ?一人ぐらい驚愕の表情を浮かべてもいいと思うんだよ。
それが3人ともキレてるとか、作者が作った主人公にとにかくキレるだけのサンドバッグですと言ってるようなもんじゃん。
まあ、作者もサンドバッグ以上の意味を持たないと本心で思っているんでしょう。こうなるのも必然というものです。
侍女を乱暴しようとする兄に対し、腹に3発のこぶしを叩き込んだ主人公。
兄は吹き飛び、血反吐を吐くほど負傷しました。
そして3人に対し復讐することを宣言し、具体的な方法として兄に決闘を挑みました。
ただでさえ強大な力を持っているのに、相手を負傷させてから決闘を挑むという主人公のクソさ加減の片鱗が見え始めます。
主人公は侍女(以下ヒロイン)を賢者の下に連れ帰りますが、その際転移魔法を使用して驚かれます。
転移魔法は通常30年以上の修行の末に身につくものであり、賢者から魔法理論を教わった主人公はそのことを知っているはずなのですが、古代魔法で楽してきたせいで「これくらい普通だろ?」とイキリます。
もうすでに自分を律するという決意はなくなったことがわかりますね。もとから期待してなかったけど。
後編に続きます。