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独立第八護衛群、出撃ス  作者: アナール学派
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プロローグ:チャンセラーズビル号事件

2070年12月17日、北海 アメリゴ海軍船団護衛戦隊旗艦

ミサイル巡洋艦『チャンセラーズビル』


薄暗いCICの中央で一人の男がレーダー観測員に呟く

「外は荒れているな」


「はい、冬の北海は予報通り大時化ですな」

その男の言うように真冬の北海は曇天であるものの12000トンもする『チャンセラーズビル』を僅かに揺らしている。

男は更に言葉を重ねる。


「ケケケッ、艦長。ノーフォーク(海軍工廠)の連中の言うことは完全にセールストークでしたなぁ」


「ああ、全くだよ。『どんな時化でも安定性は保証する(コップの水も溢れない)』なんて嘘つきだ」


「『津浪でない限りコップの水はこぼれない』でしたな、HAHAHA」


ジョークを言い合っているのはレーダー観測員のジョーとこの最新鋭巡洋艦の艦長兼、護衛戦隊指揮官のロバート・バーク少将である。

この二人が軽口を叩くおかげか、『チャンセラーズビル』CIC内は特有の薄暗さと北海の鬱々とした天候に飲まれる事なく健全な空気を感じる。


「しっかし、国防総省(ペンタゴン)の奴らが最新鋭艦を惜しげもなく投入するとは思わんかったよ・・・」


バーク艦長がぼやくと

「護衛対象が護衛対象ですからねぇ」

そういってジョーはレーダースクリーン上にある光点に目を向けた


貨客船『アイントホーフェン』

7万トンクラスの大型客船であり今回は貸切りでVIPの移動に使われていた。

アメリゴ合衆国大統領、ジョセフ・C・ジョンストンである。

前年より険悪になったロリヤ共和国のプーサン大統領との首脳会談の帰途で、

昨今の国際情勢を鑑みて航空機では危険と判断した故の行動である。


「まあ、早々攻撃してくるバカは居ないだろう。」


「そうですねぇ……まあ、お陰で楽な任務になりそうだ。」

護衛中の軍艦にあるまじき会話をしていると………


「レーダーに反応20!」

「モード3トランスポンダの反応は無し!民間機ではありません!」

「おそらく艦上機であるMigo-69だと思われます!」


「空母打撃群だとっ!」


事態は急速に悪化へと向かいだした。

そしてロリヤ共和国の艦上機は15分ほど接触を続けた上で


「敵機接近!」


「対空戦闘!『アイントホーフェン』を守れ!」

艦長の号令と共に『チャンセラーズビル』の127mm砲を筆頭とした対空火器が射撃を開始して、同じく護衛のコルベット『ルイス・A・アーミステッド』『ジョージ・E・ピケット』『ジェイムズ・E・B・スチュワート』も射撃を開始する。


「殺れ殺れ‼殺っちまえぇぇ!」

各艦とも正確無比な射撃で、ミサイル発射前のMigoを18機撃墜するが


畜生(ガッデーム)!!」

残りの2機が放った対艦ミサイルが『ルイス・A・アーミステッド』を直撃した。


「『ルイス・A・アーミステッド』の損害は!?」

「艦橋及びCICとの通信が途絶した為不明!しかし、航行にも影響が出ているようです!」


南北戦争のゲティスバーグの戦いにおいて勇猛果敢な突撃で北軍を混乱の渦に叩き込んだ名将の名を冠したコルベットは、大きく速力を落としながら艦中央部から黒煙を吐き出している。


「『ルイス・A・アーミステッド』は北方に退避。」


「艦長!!」

副長が艦長の正気を疑う目をしている。

これで損傷した『ルイス・A・アーミステッド』を見捨てると言っているようなものだからだ。


「いや、副長。どうやら敵は本艦及び『アイントホーフェン』を目標にしている。」


先程の攻撃でMigoの殆どは護衛艦の中で最も有力な『チャンセラーズビル』を沈めた上で確実に『アイントホーフェン』を沈めようとしているのが飛行経路から見てとれた。


『ルイス・A・アーミステッド』はたまたま『アイントホーフェン』への射線上へと躍り出てしまったのが被弾の原因だ。


「サー………」

副長完全に納得していないのか、不承不承ながら復唱する。


だが結果的にバーク艦長の読みは正しかった。

その後2回に渡る攻撃を受けたものの、『ジェイムズ・E・B・スチュワート』の損傷退避のみの損害で済ませる事となる。


しかし、破局は3度目の攻撃で最後のコルベットである『ジョージ・E・ピケット』が退避した直後に訪れる。


業を煮やしたロリヤ海軍が戦術核兵器を投入したのである。

攻撃機の間隙を縫って飛来した電子・光学迷彩仕様の潜水艦搭載ミサイルは『チャンセラーズビル』上空600メートルで炸裂した。


衝撃波と熱線により、『チャンセラーズビル』は猛烈な火災と浸水に見舞われて僅か3分で沈没。


これにより護衛艦を失った『アイントホーフェン』は数キロ離れていた為に損害は軽微だったものの、艦上機の攻撃を受けて沈没。


かくして、『北海の悲劇』『チャンセラーズビル事件』と名付けられた事件は終幕を迎えた。


この事件においてアメリゴ大統領ジョンストンは沈没する『アイントホーフェン』より、ギリギリ救助されたが、『チャンセラーズビル』の乗員は全滅。


人的被害もさることながら、この事件を機にイージスシステム搭載巡洋艦の絶対性に疑問が投げ掛けられる事になる。

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