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78:ビーツ、ダンジョン攻略を始める



「只今戻りましたヴェーネス様」


「よく戻りましたミラレース。そして貴方たちもよくやってくれました」


「「「「ハッ」」」」



 ヴァレンティア王国の一室で、ヴェーネスは五人を迎えていた。

 サイモンら四人は膝を付き、顔を上げる事はない。

 劣化吸血鬼が始祖吸血鬼に拝顔する事など普通はないし、ましてや労ってもらう事などありえないのだ。

 吸血鬼としてのカーストが血として刻まれている四人は感激に震えていた。



「色々とあって疲れたでしょう。今日のところはお休みなさい」


「ありがとうございます。ヴェーネス様、取り急ぎこれをお渡しいたします」


「これが……」


「他のお土産等に関してはビーツ殿がお持ちするそうです。まずはこれだけ渡して欲しいと」



 ミラレースが渡したのは布に包まれた卓上鏡であった。

 二〇×三〇センチほどの立てかけられる鏡。

 これはヴェーネスが造った通信水晶を真似してビーツが造ったものであり、ヴェーネスのそれと違い相互通信が可能、消費魔力を抑えた改良版である。


 水晶でなく鏡となったのはビーツのイメージによる。

 水晶ではカメラの部分がよく分からなかったのでノートPCのように鏡上部に視点を造り、尚且つ「ファンタジーで通信といったら鏡でしょ!」と謎のこだわりを見せた結果である。


 ダンジョン内部に声を届けるダンジョンマスター能力は、近くに他の探索者が居れば使う事は出来ない。いや、出来るのだがヴェーネスの存在を知られるわけにはいかないので使えないだろう。

 しかしこれならば周囲の探索者の状況をオロチが判断した上で使う事でヴェーネスの声が辺りのフロアに響くこともない。

 おまけにビーツ側が起動させた状態で探索していれば、ヴェーネスの使う″神覚″を他の人も見られる・聞ける状況となる。疑似モニターのようなものである。



 さっそく使ってみようと執務室へと移動するヴェーネスは、ダンジョン入口でのビーツとの会話を思い出し、少し心配になった。





 冒険者の中でも有名な高難易度ダンジョン【奈落の祭壇】。

 転移するのではなく、それを制覇し管理層まで行きたいというビーツ。



『ビ、ビーツ殿。ここは【百鬼夜行】(そちら)と違い不死設定などないのですよ?あ、今から設定すれば、何とか……』


「あー、いえいえ、大丈夫です多分。それにヴェーネス陛下が無理そうだと判断すれば強制転移すればいいですし」


『そ、そうですか?』


「一応ヴェーネス陛下がずっと見ているわけにもいかないでしょうから、ミラレースさんに例の通信魔道具を渡しておきます。僕も無理するつもりはありません」


『はぁ……』


「お土産もありますし、なるべく早く着けるよう頑張りますのでっ」



 とても高難易度ダンジョンに挑む冒険者とは思えない、気楽なデリバリー精神に思えた。

 ちょっと潜ってちょっとお届けしますねーと。


 勢いに負けたヴェーネスであったが、招いた客人、それも初めて出来たダンジョンマスターの友人を自らのダンジョンで死なすわけにはいかない。

 かと言って魔物を排除したり、罠を解除するといった事もビーツから止められた。

 他の探索者も居るし、解除と再設置に魔力が掛かるからと。


 【三大妖】の強さは聞くほどに恐ろしいものなので簡単に死ぬ事もないとは思うが、突発的に死ぬ事などダンジョンでは日常茶飯事である。それは誰より四百年も探索者を見続けて来たヴェーネスが一番よく分かっている。

 心配をしながら見守るしかないか、そうヴェーネスは嘆息した。





「えっと、探索の方針は第一に早さね。寄り道せずに降りて行く感じで。それと魔物はなるべく狩らない、罠も見つけてもなるべく解除しない。どっちも魔力使うしね。宝箱も無視。探索者の人ともなるべく遭遇しない。そんな感じで行くよ」


「ん」「了解でありんす」「ハッ」



 地下一階へと続く階段を降りながら【三大妖】に指示を出す。

 隊列は先頭にオロチ。次いでビーツ、シュテン、タマモと並ぶ。

 シュテンとタマモは大きな背嚢を背負ったままなので、特にシュテンは戦いにくいだろう。そこはなるべくオロチとビーツが出る事を想定している。



 階段を降りた先はダンジョン壁に囲われた迷宮であった。

 【百鬼夜行】のように安全地帯があるわけでもなく、立て看板があるわけでもなく、トイレがあるわけでもない、これが普通のダンジョンである。


 探知をオロチに任せ、ビーツはキョロキョロと見回しながら進む。

 幅や高さは迷宮を造る際の基本となるものと同じだろう。ベースは『石の迷宮』だなとビーツは考える。数あるダンジョン階層の設定の一つだ。

 迷宮としての複雑な道のりや出て来る魔物を見ると、【百鬼夜行】で言うところの一〇~一五階相当だと感じた。

 地下一階でこれだから初心者や若年冒険者は無理だろうと改めて思う。そもそも辺境の森にそういった冒険者は入れないのだが。


 自分がダンジョン経営をし始めて、初めて入る他のダンジョン。

 見方や考え方がダンジョンマスターに染まって来たな、とビーツは苦笑いしながら見回していた。



「マスター、四つ角」

「うーん、罠が多いのはどっち?」

「んー、左に一つだけ」

「じゃあそっち行ってみよう」



 オロチの魔力探知は罠や魔物、人の位置や動きが分かる。しかし迷宮の道のりなどは分からない。

 近隣の街でもしかしたら地図が売っていたり、情報が買えたりするのかもしれないが、それもない。

 ヴェーネスに聞けば一発で分かるのだが、それもしなかった。

 あくまで普通に探索してどうなるか。何か気付けるのか。それが知りたいから探索しているのだ。興味本位や遊び感覚でダンジョンアタックしているわけではない。断じてない。……断じてない。


 そうしてマラソンのように軽く走りながら進む四人。

 普通、探索者はじっくりと進むもので、間違っても走ったりしない。罠があるし魔物が襲い掛かるのだから当然だ。

 しかし足取りも軽く小走りに進む。


 ビーツは今さらながらダンジョンマスターとなった事に感動していた。

 疲労という概念がない。いや、精神的に疲れる事は多々あるが、筋肉が痛くなって動けなくなるという事がない。

 だからこそ【三大妖】に付いていける。ダンジョンの中を走り続けるなど、こんなの人間だった頃には無理な事だ。

 不老とは年齢だけの問題ではなく、肉体を良い状態で保存するようなものなのでは?ビーツはそう考えていた。



「マスター、下り階段」

「おっ、もう二階かな。このペースで行くよ」

「ん」「了解でありんす」「ハッ」




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