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王都ダンジョン【百鬼夜行】へようこそ!  作者: 藤原キリオ
第五章 焦燥のヴァレンティア
57/170

56:ある日、円卓の間にて



 獣王国の南東部にある辺境。そこには森に囲まれた断崖がある。

 そこに辿り着くまで魔物が蔓延る辺境の森を抜け、さらに谷底まで降りるのも一苦労だ。

 そうして向かった先には隠された遺跡のように石柱が並び、さながら古の神殿を思わせる入口が顔を覗かせる。

 中に入れば、奥には地下へと続く階段があるだけで、他には何もない。神殿の内部が再現されているわけでもなく、太古の壁画があるわけでもない。


 谷底からさらに下に伸びる遺跡。

 誰が呼んだか【奈落の祭壇】。

 そこは冒険者ならば誰もが知っている有名なダンジョンだ。



 今から約四百年前、迫害の手から逃れるようにその地へと辿り着いた一団があった。当時は神殿内に階段などなく、重い扉を持ち前の膂力で開けた先にあったのは台座に乗った宝玉のみ。

 それを手にしたのが残された唯一の【始祖吸血鬼】ヴェーネス・ヴァレンティアであった。

 彼女は触れた瞬間に流れ込んだ宝玉の情報を元に、追手から逃れるべく、隠れ住む先を作り上げた。それが【奈落の祭壇】の始まりである。



 宝玉に蓄えられていた魔力、そしてヴェーネス自身の魔力を足して、最初は五層ほどの簡素な迷宮を作り上げた。六層目には共に逃げ込んだ吸血鬼、数名の住処も小さいながらも作る。

 戦々恐々とした中で、逸早くダンジョンマスターとしての能力を理解し運用できたのは、偏にヴェーネスの適応力の高さ故だろう。


 ややあって人間達の追手が神殿へと辿り着く。明らかに谷底にあって異質な建築物は人間達の猜疑心を煽るのには十分で、ぞろぞろとヴェーネスの作った階段を降りていく。

 冒険者という職業のない時代、ダンジョンなど――ましてやダンジョンマスターが管理するダンジョンなど話しにも聞かない時代の事。彼らは面白いようにトラップに引っ掛かった。

 同時に莫大な魔力が宝玉に宿る。

 ヴェーネスは直ちに階層の追加、トラップの追加、魔物の追加配備を行い、やがて追手が途切れるまでそれは続いた。


 それから数年。神殿内に進入してきた追手は全滅させたものの、人間たちの間で「谷底に行った者は帰ってこない」という噂が流れ始める。

 その頃にはヴェーネスにも余裕が生まれ、「ダンジョンを運営するには呼び水となるべき客(人間)が必要」「全滅させずに適度に帰すべきだった」「宝箱を配置し餌にしよう」など本格的なダンジョン運営が始まった。

 かくして正式にダンジョンとなった【奈落の祭壇】はやがて冒険者と呼ばれる人間達の中で広まる結果となる。





「【百鬼夜行】……例の王国にあるというダンジョンですか」


「何度か話されていましたな。法螺話ばかりだったと思いますが」



 吸血鬼の王国【ヴァレンティア】は地底に広がる国――と言っても人間の国からすれば街レベルの小国だ。それもそのはずで、人口は三百人に満たない。

 太陽が昇る事なく年中が夜のその国では民家が立ち並び、必要最低限の施設のみが建っている。農耕も多少はするが日光がないので育てる作物も限られる。従って地表での農村に比べても小さくこじんまりとした街――国と言える。

 集落から少し離れた場所に建てられた王城は、それも小規模なもので、貴族の屋敷と城の中間といったような大きさの小城ではあるものの、王国と銘打っているからには王城には違いなく、落ち着きながらも壮麗で豪奢な印象を受ける。吸血鬼だからと言って禍々しい装いは見受けられない。


 王城の一室である″円卓の間″ではその日も運営に関する協議が行われていた。

 最奥に座すのは女王であり唯一の【始祖吸血鬼】であるヴェーネス。

 そして男女二名ずつ、計四名の【吸血鬼】。彼らはヴェーネスと共に逃げて来た吸血鬼をダンジョンの機能により【不老】設定した者たちだ。他にも数名の吸血鬼がいるが、国民のほとんどは、新たに眷属とした【劣化吸血鬼(レッサーヴァンパイア)】という種だ。

 今ではダンジョンマスターとなり不老となったヴェーネスと、この四名が国とダンジョン運営に携わっている。……と言っても女王制なので決定権は常にヴェーネスにあるのだが、ヴェーネスは始祖である事を傲慢に振る舞ったりせず、共に生き延びた仲間として意見をもらう事も多い。



「国が抱える問題として一番大きいのは、やはり規模を増やせない事です。我々の目的は″種族の繁栄″そして″世界への復権″。どちらも国として拡大させる事が出来なければ達せられません」



 ヴェーネスは四人に向けて、鋭い口調でさらに続ける。



「国土の拡大だけならば階層の面積を増やす――魔力を使えば出来る事。しかし国民――眷属を増やすには、それを維持する魔力が必要。我がダンジョンでの採集魔力量では現在の三百人が限界でしょう」



 ダンジョンに階層を増やしたり面積を増やすというのは魔力が掛かる。が、一度広げてしまえばそれで済む話し。もっとも罠や魔物を配備し、天候を操作しようものなら永続的に魔力は消費されるが。

 しかし住む人間……吸血鬼を増やすとなると食料、衣料、生活必需品、その他生活維持費のように必要となる魔力が必要で、住んでいる国民から魔力は吸収出来てもそれで黒字とはならない。吸血鬼自体、膂力や特殊能力はあっても魔力はエルフより少し多い程度。劣化吸血鬼など魔力量は人間とほぼ変わらない。

 従って、眷属の数を増やせば増やすほど、国として危うくなっていくのだ。

 だからこそ客――冒険者の人間たちを多くダンジョンに潜り込ませ、その内幾らかを殺し、魔力を確保していく必要がある。

 ヴェーネスはそれを見越した上で、現在の三百人が限界と見ている。



「確かに。そしてかのダンジョンの噂がもし本当であれば魔力を確保している謎も……」


「百層という話しが本当であれば信じられませんわね。それだけで莫大な魔力を消費しているでしょうに」


「王都にあるから人間も多く集まる、というだけではないでしょうね」


「ああ、何せ探索者に【不死設定】と【転移設定】をさせているのだろう?それが本当ならばとんでもない魔力を消費しているはずだ。一匹死んで復活・転移させるだけで赤字になるぞ」



 吸血鬼たちは口々にそう語る。

 実際に約四百年間ダンジョンを運営している身からすれば【百鬼夜行】のしている事は極めて馬鹿な所業であり、間違いなく運営を破綻させる行いであった。だからこそ法螺話と決めつけていたのだ。

 しかし、ヴェーネスも含め、その法螺話が気になっていたのも事実。

 そしてヴェーネスは頷き、言葉を繋げる。



「信じる信じないは別として、調査をしようと思います。数名を王都に送りましょう」




吸血鬼は空も飛べず、蝙蝠にもなれず、魔力もさほど高くない。しかし獣人以上に膂力があると思って下さい。一部、霧になれるやつはいます。

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