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王都ダンジョン【百鬼夜行】へようこそ!  作者: 藤原キリオ
第五章 焦燥のヴァレンティア
55/170

54:とある場所のとある種族の女王

新章の入りなので短いです。

00話にて第四章終了時・53話までの登場人物紹介を更新しました。



 かつて【吸血鬼】という種族が居た。

 ″人類の敵″と称されてきた魔族よりも、更に敵視される存在として。


 魔力は魔族に劣るものの、膂力は人間のそれを大きく上回り、種族特有の能力――吸血、魅了、変化など――が強力であり、何より人間を眷属化する事が出来る種が存在するという事実。敵軍の減少と自軍の増加を同時に行えるそれは、敵たる他種族にとっては脅威そのものだった。


 一方で日光や光属性・火属性魔法に弱く、銀に触れると火傷をするなど弱点もあり、他種族はそれをもって、吸血鬼討伐を実行した。

 そして″吸血鬼が全滅した″と文献に載ってからすでに数百年が経つ。

 もちろん、それ以降、目撃情報などもない。



――さて、果たして本当に吸血鬼は全滅したのか。



 答えは否である。





 薄暗い石造りの部屋。

 一五メートル四方の窓も装飾品もないそこには、中心部に台座に乗った宝玉が置かれていた。砲丸のようなサイズの、まるで占い師が使っていそうな水晶玉。その宝玉の中はまるで靄が掛かったように魔力が籠り蠢いているのが分かる。


 その宝玉に手を当て、目を瞑る女性。

 白金の髪を後ろで一つにまとめ上げ、真紅のイブニングドレスを纏った美女。

 彼女の脳裏に宝玉が読み取った映像が流れ込んでくる。



『久しぶりに来たけど、やっぱ緊張感が違うな』


『【百鬼夜行】と一緒にするなよ。油断大敵だ』


『ああ、でもしばらく王国に居たからな。死んだら終わりのダンジョンって逆に新鮮に感じるぜ』


『毒されすぎだ、馬鹿』



 ここ――ダンジョンに訪れる人間の冒険者は、最近こんな会話をする事が多い。

 そして、そんな会話をしたパーティーは、死を恐れずに突っ込んで死ぬか、死を恐れすぎて鈍足になるかの二択だった。

 どちらもダンジョンにとっては有意義だ。死ねば大量の魔力が確保されるし、長々と探索するようならば滞在時間とともに魔力は微量ながらも吸収できる。

 彼女は今日も興味深げに彼らの声を聴き、その行動を脳裏に映す。



『そうは言っても転移魔法陣がないのは不便だぜ。一層ごとに帰れないのは辛い』


『それが普通だろ。あそこが異常すぎる』


『確かに。代わりに毎層フロアボスが居るわけじゃないんだ。ここなら一〇層まで行かないとボス居ないぞ』


『それは助かるけどなー』



 冒険者たちの言う事は毎回似たようなものだ。

 だが繰り返し話しを聴く彼女からすれば、だからこそ気になるというもの。


 曰く、王国に王都中心部に【百鬼夜行】というダンジョンがある。

 曰く、そこは″死なない″ダンジョンである。

 曰く、百層もあり、各層にフロアボスが居る。

 曰く、各層に転移魔法陣があり、入口に帰れる。

 曰く、ビーツ・ボーエンという人間と百体の従魔が管理している。


 最初に聞いた時は当然のように法螺話だと思った。

 死なない?百層?転移魔法陣?ダンジョンを管理している自分からすれば、それが如何に馬鹿げたものかがよく分かる。仮に本当の話しだとすればダンジョンを運営する為に必要な魔力というリソースが絶対的に足りない。故にありえないと断言できた。


 しかし、何度も同じ話しをする冒険者が現れると、その信憑性は増した。

 法螺話だけでここまで話題になるものかと。

 もしかすると、本当にそんなダンジョンが存在し、自分の知らない方法で運営されているのではないか。もしその方法を知れたなら、このダンジョンにも適用できる部分があるのではないか。最近はそんな風に思う事もある。



 彼女は脳裏の映像を遮るように瞼をゆっくり開ける。

 その瞳はドレスと同じような真紅に輝いていた。



 ダンジョンマスターの座に就いてから、もはや【吸血鬼】という種族に縛られなくなった彼女は、ダンジョンを運営する為に必要な能力と、それを補完する処理能力を併せ持つ。限定空間内であれば神の如き能力と言えるだろう。

 そんな彼女が【百鬼夜行】の話しをする冒険者を見た際には「ふぅ」と息を吐く事が増えた。疲れる身体を持つわけでもないのに。

 様々な感情が起こるのだが、それを自分の中で整理するのに時間を要する。だから疲れる。彼女の最近の悩みでもあり関心事でもあった。



 ダンジョン【奈落の祭壇】、地下三一階 吸血鬼の王国【ヴァレンティア】。

 王城内でもダンジョンマスターたる女王しか入る事を許されない【秘奥の間】。


 彼女――ヴェーネス・ヴァレンティアはコツコツと足音を鳴らしながら、優雅な姿勢でその部屋を後にした。





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