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王都ダンジョン【百鬼夜行】へようこそ!  作者: 藤原キリオ
第三章 最高位冒険者たち
25/170

24:とある【陣風】の訪問



 王都にはいくつか『道場』というものがあり、剣技や武技、魔術などを教えている。

 貴族や裕福な商人ならば王都にある魔法学院で子供を学ばせることが出来る。

 一般都民にも開放される教育機関はあるが、戦闘のみを鍛えるというと道場に目が向けられる。


 もっとも幼いうちから「学ぶよりも働け」というのが一般的な考えであり、わざわざ金を払い、道場に通ってまで武力を身につけるというのは一般的とは言えないが、それでも魔物が溢れる世界において冒険者はもちろん、都外に出ることのある商人や薬師なども自衛の為の武力は求められるものなのだ。


 王都の北東商業区から少し道を入った先に【陣風一刀流道場】という建物がある。

 道場と言うよりは庭付きの貴族邸宅を思わせる洋館だが、門には大きな看板でそう書かれていた。

 道場の名前はたいてい、教える人の名前をとって「〇〇〇剣技道場」となるのが多いが、ここの場合は教える人の好みが特殊な為、【陣風一刀流】という流派を立ち上げ、その名前をとっていた。



「よーし、一端やめ!アンナ、集中乱れてたわよ!セラは振り切った後に隙が大きいわ!重心がずれないように!」


「「はいっ!」」



 本宅と離れになっている道場で、一人の女性が声を上げていた。

 金髪に近い茶色の長い髪、着ている服は上質ながら一般的に着られるものであり、レギンスのようなものを穿いている。

 腰には長めの刀を佩いているが、剣と違いクセがある為に冒険者で持つものは極めて少ない。


 両肩の留め具からは丈の短いハーフマント。赤い生地に刀を模した白線が入り、それがトレードマークとでも言うように、刀を振るう弟子の全てが身に着けていた。



 彼女の名前はクローディア・チャイリプス。

 十八歳という若さと、誰もが振り返る美貌を持ちながら、道場主として弟子に教える武力を持つ。

 彼女の師事を乞いたい者は多いが、彼女に認められた者しか道場に通う事は許されず、現在は十人ほどが弟子として週に二回、道場へと来ているのだ。


 ちなみにその十人どころか、過去の卒業生も全てが美しく若い女性であり、ここ数年で「陣風一刀流に通っていた」というのは一種のステータスと認識されている。

 曰く、道場に通えば良い縁談が来る。

 曰く、道場のおかげで玉の輿できた。

 曰く、働き口が向こうのほうから舞い込んでくる。など


 もちろん貴族が箔をつける為に道場に通わせるよう迫った事もあるが、残念ながらクローディア自身が名のある貴族の為、押し通すことは出来なかった。

 結果として「美女の園」とでも言うべき刀術道場が出来上がっているわけである。





 クローディアはぶらりと街中を歩き、友達の家に来るかのようにダンジョン【百鬼夜行】へとやって来た。

 貴族なのに徒歩で、しかも一人で来るという事に門番である衛兵も驚く。

 が、それ以上にその美貌と真っ赤なハーフマント、腰に佩いた太刀が特徴的すぎて周囲からの視線が集まっていた為、騒動にならないよう警戒していた。



「おい、あれクローディアじゃねえか!?」


「【陣風】か!」


「実際見るとすごい美人だな!」



 そんな声もどこ吹く風といった具合で屋敷へと歩を進める。

 いや、むしろちょっとにやけている。

 「私の時代が来てるわ」など小声で呟いた気がしたが気のせいだろう。



 屋敷へと入ったあとも、受付で職員に軽く手をあげ、そのままホールを突っ切り、階段を上る。

 踊り場で警備していたフェンリルに「カジガカ~!久しぶりねえ!よーしよしよし」と撫でまくりモフりまくり、フェンリルが嬉しそうに尻尾をブンブン振っているのを、階段下の冒険者たちは「マジかよ……」「さすが……」といった目で見ていた。

 そうしてクローディアは案内もなしに二階へと上がっていった。




「久しぶりね、ビーツ」


「久しぶり、クロさん」



 二人が再会したのは地下一〇一階、管理層の応接室だった。

 屋敷二階の部屋から管理層専用の転移魔法陣で来たわけだが、管理層に来られる人間はビーツを除き、四人しか設定されていない。もっともダンジョンマスターを【人間】と評していいのかは不明だが。

 師匠であるシュタインズやビーツの実父母でさえ来られないのだが、ビーツのパーティーメンバー三人と、王国の第一王子エドワーズの計四人が管理層に入る許可を得ているのだ。


 そう、つまりクローディア・チャイリプスは英雄パーティー【魔獣の聖刀】の一人である。


 パーティーの紅一点にして【陣風】の二つ名を持つ刀剣士。

 その実態はビーツと同じく日本からの転生者である。


 久しぶりと言いながらも同じ王都に住んでいるのだから、それなりには会っている。

 もっともビーツがダンジョンマスターである為に滅多に敷地から出ることはなく、クローディアが赴く形ではあるが。

 何にせよ従魔たちとの触れ合いを終え、紅茶を飲みながら話題を振った。



「で、どうしたの?またお絵かき?」


「そうそう。今度、モンスター図鑑の精霊編をやりたいなって。ちょっと先の話ですけど……」



 『図鑑』と銘打っているビーツの出版本は、こまかい魔物の説明のほか、緻密な絵も描かれている。

 見たことのない魔物の絵まで描かれているので、それも人気の一つなのだが、その絵を描いているのがクローディアである。

 つまり『著:ビーツ・ボーエン 監修:シュタインズ・ベルクトリア 絵:クローディア・チャイリプス』という感じである。


 これはクローディアが前世で広告業を職にしており、自身も絵心があった為、デッサンとデザインなら任せて!と胸を張った事に端を発する。

 王都中で流行しているビーツの召喚札を模したトレーディングカードもクローディアの絵とデザインが使われており、カードの収入はモデル・出版のビーツ側よりも多い。

 ホールに張られた巨大絵織物も原画はクローディアであり、織ったのはジョロである。



「いいわよ、急ぎじゃないんでしょ?」


「ごめんね、クロさんだって忙しいのに」


「ん?別に忙しくないわよ。道場だって週に二回だし、カードと図鑑で不労所得してるだけだもの」


「騎士団の訓練は?」


「それこそ週一のレベルよ。第一教えたところで刀と剣じゃ全然違うでしょうに、なんで教えなきゃいけないのよ」



 パーティーメンバーで一番感情の起伏が激しいクローディアは、笑い・怒りと喋るたびに反応を起こすが、基本的に適当で楽しいもの好きだと知っているビーツはいつもの事だと合わせるだけだ。

 どのような表情をしても美しく見えるその顔にも、ビーツは何も反応しない。



「爵位を貰ってるのに、国に対して何も働いてませんってのがダメなんでしょうねぇ。ハハハ……」


「ビーツは?」


「ここ、国も絡んでますし」


「あー」



 そんな会話は貴族同士ではなく幼馴染のパーティー仲間のままであり、すっかり冒険しなくなった今となっても変わらない。

 そういった関係性がビーツもクローディアも心地良いのだ。



「あ、そうそう。今度、私んとこの弟子をダンジョンに潜らせたいんだけど、どうかな」


「いいですけど……お弟子さんって全員刀剣士じゃないんですか?」


「そうよ」


「斥候は?」


「ギルドで雇う」



 ならば問題ないかな、とビーツは思った。

 このダンジョンの事をよく知っているクローディアが、やたらな事をさせるとも思えない。

 弟子が心配ならばクローディアを管制室にでも置いて、モニタリングしながらある程度操作できる、と。



「今度見せてあげるけど、うちの弟子たちみんな可愛いのよ!カワイイ系・美人系・おっとり系・クール系揃ってるから!」


「ハハハ……相変わらずだね……」


「いや~リアルハーレムとか最高だわ~」




 クローディア・チャイリプスは英雄パーティー【魔獣の聖刀】の紅一点である。

 美貌と武力を併せ持ち、英雄爵という爵位も持ち、財力も持つ。

 しかし同じ日に産まれたパーティーメンバー、転生者三人は知っている。



 クローディアの前世が四十歳のおっさんだと。



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