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FIVE  作者: AkIrA
24/42

24:晋VS霧矢

BL表現有

「さぁ、始めようか」


霧矢が構えた。

途端、その足元が漆黒に染まる。

侵食してくる黒を避けようと、水無瀬は後ろへと飛ぶが一歩遅かった。


闇が二人を飲み込み、空間を黒に染め上げた。




「これは…?」

「俺の属性。」




お互いの姿が辛うじて見える程度の闇。

水無瀬も自分の手に力を集めた。



「直ぐに教えてはやらねーよ。考えてみな!」

「っ!」



何かが肩を貫いた。

痛みが遅れてやってきて血がどろりと流れた。



「早くしねーと、マジで死ぬぞ?」

「くっ…」



何処か馬鹿にしたような言い方が水無瀬の癇に障る。

その怒りのままに、蓄電された手を地面に付くと眩い閃光が闇を四方へ走った。

それは霧矢を捕らえるはずだった…



「!」



何も無かったのだ。

相変わらず闇は闇のままで、雷光を以ってしてもそれは晴れない。

少し位影が映るとかしても良いはずなのに。



(何故…影すら捕らえられない…?光を発すれば見えるはずなのに…)



水無瀬は手を下ろした。

途端、また何かが腕を貫いていく。



(いや、そもそも光すら発する事が出来てねぇ…て事は…)



この場で技を出しても無意味ということだ。

水無瀬は掌を自分の胸の前で組み合わせた。

そして瞳を閉じて神経を集中させる。





「…ぐっ!」




バチッ、と音がして急に視界が明るくなった。

水無瀬の数メートル前にこめかみから血を流して蹲っている霧矢の姿。



「な…に?」

「アンタが何の属性かなんてそもそも俺には関係ねぇんだ。」



水無瀬は組み合わせた手を解いた。



「人の体は電気信号で動く。その電気を過剰に流すことで俺はアンタを攻撃できる。」

「たかが雷、なんて少しお前を見縊ってたよ…やるじゃん…」




こめかみから流れた血を拭うと、霧矢はゆらりと立ち上がる。




「でも一度きりだ。これから先お前は俺を攻撃する事すら叶わない。」




霧矢の足元で何かが蠢く。

それは地面より盛り上がり、形を成していく。



「…それがアンタの属性か…」

「そう。俺の属性は…影だ。」



霧矢の影は持ち主から離れ、一つの個体として立ち上がった。

顔も何も無いただ黒い塊。

ただ輪郭だけでそれが霧矢だという事が分かる程度だ。



「さっきは俺の影で空間を飲み込んだ。ま、この技はどうしても空間を作り出す事に意識を集中しないといけないから隙だらけになっちまうからお前の技をくらっちまった訳だが…」



拭った血を舌で舐め取り、霧矢はにやりと口角を上げた。



「今度はそうはいかねぇぞ…?俺が2人居ると考えてくれて構わねぇ。」



霧矢とその影が構える。

しかもそれぞれ別の構えだ。



「行くぜ…」



たっ、と霧矢が地面を蹴り水無瀬へと真っ直ぐと突っ込んできた。

身体を反転させてそれを避けるが、今度は横から影の方が蹴りこんでくる。

避けきれずまともに脇腹にそれを喰らい吹っ飛ぶ。




「っ、あ…」




肋骨が軋む痛みを何とか堪え、水無瀬は起き上がる。

しかし直ぐ目の前に迫った霧矢が今度は右から水無瀬の頬を蹴り飛ばした。

起き上がった身体は再び横倒れになる。



「結局そんなもんだな。お前じゃ俺には勝てねぇ…」

「っは…」



唇が切れ血が伝う。

蹴られた頬は赤みをもって腫れ上がる。



「だろうな…」



水無瀬の地面に付いた右手が僅かに光る。

それが徐々に具現化していき、手の甲を覆った。



「アンタばっか属性使ってちゃフェアじゃねー…」



光が消えると漆黒のグローブが水無瀬の手に装着されていた。

パチ、と静電気が弾けた様な音が時々聞こえてくる。

どうやらそれが水無瀬の属性から作り出された武器らしい。


言い終わるとほぼ同時にゆらり、と身体を前に倒し足を大きく踏み込む。

その瞬間、霧矢の視界から水無瀬の姿が消えた。



「が…っ!」



消えた次の瞬間に水無瀬は霧矢の顎の下に潜り込んでいた。

そして掌底を霧矢の顎に叩き込んだのだ。

流れるような動きで今度は腹へと後蹴りを喰らわせた。


霧矢の身体は後倒しになり地面へと倒れた。

しかし今度は影が水無瀬へと襲い掛かる。




「くっ…」




攻撃をかわし、距離を取る。

しかし黒い影は直ぐに距離を詰めてきて、回し蹴りを繰り出した。

それを腕で受け、グローブの嵌った右手でストレートを叩き込む。



「な…!」



確実に急所を捉えた筈の攻撃は影を擦り抜け空を切った。

水無瀬の体のバランスが崩れる。

そのまま倒れこみそうになる身体を右手一本で支えて体制を立て直した。




(影だからか…?でもアイツの攻撃は当たって…)





「つくづく、お前には驚されるよ…」



霧矢の本体が立ち上がった。

黒い影はゆらゆらと、揺らめきながら再び構えている。



「…電気パルスを自分の体に送って、筋肉の動きを活性化させてるってとこか?それで通常の数倍のスピードや筋力を得る…体引いて避けてなきゃまともに喰らってたかもな…」

「ご名答…アンタこそ妙な技使いやがって。こっちの攻撃が当たらねぇってのはどういう事だ…?」

「ま、そいつは影だからな。」



(そう、影だ…でも攻撃は出来る…そうだ、最初も…)



水無瀬は考えた。

初めて霧矢の属性が出されたとき。

霧矢から影が分断されたとき。

影が攻撃を仕掛けてきたとき。

霧矢自身が攻撃を仕掛けてきたとき。



(…もしかしたら…)



水無瀬は再び構えた。

そして影の方へ向かって駆け出す。


そして身を屈めて下段蹴りを影の足に向かって叩き込む。

水無瀬の予想通りそれは確かに感触を持って影を吹き飛ばした。

影の足はあらぬ方向へ曲がり、起き上がる事が出来ないようだ。



「何で気付いた…?」

「最初に影の空間を作ったとき、確かにアンタは影で攻撃してきた。ってことは、アンタは影を具現化できるって事だ。」

「…」

「そしてアンタの影は蹴りでしか攻撃してこなかった。つまり具現化されたのは足だけって事だ。身体は攻撃を喰らう面積を小さくするために具現化されてなかった。その真意は…」



身体を攻撃した時に擦り抜けてしまえば、相手は怯む。

この影は物理的攻撃をいくら仕掛けても無駄ではないか…?

そんな考えが更に隙を生み出す。



「相手の心理を乱すにも最適な技…って訳だ。」



水無瀬の予想はどうやら真実だったらしい。

言い当てられた霧矢は楽しげに喉を鳴らして笑った。



「やっぱ、お前は俺と同じ世界に居るべきだよ…」



霧矢が自らの影に近寄りそれに手を添える。

影は地面に溶け込み本来の姿へと戻った。



「その判断力も、頭の良さも…お前は特別な人間だ。」

「ちげーよ…俺は特別でも何でもねぇし、アンタと同じ世界も真っ平ゴメンだ。」

「だからこそ…惜しい。出来れば俺は生きたままのお前が欲しいのに…」



地面に戻った影に再び霧矢が触れるとその影は霧矢へと吸収されて消えた。

俯いた霧矢の顔がゆっくりと上げられる。

その瞳は不気味に暗く澱んでいた。




「抵抗されたら殺しちまう…」




その顔が上がりきる前に、霧矢は動いていた。

先程とは比べ物にならない程の速さで水無瀬のテリトリーに踏み込む。

そして硬く握られた拳で水無瀬の鳩尾を真っ直ぐに突いた。


体が浮き、胃の中のものを無理矢理吐き出されるような感覚に眩暈がする。

完全に吹き飛ばされる間もなく今度は後に回った霧矢が肘で頚椎を殴りつけてきた。

その結果、水無瀬はそのまま顔面からアスファルトへと叩きつけられた。



「ドーピング出来んのはお前だけじゃねぇんだぜ?俺も自分の影を吸収することで同じ事が出来んだよ。」



それはほんの数秒の出来事。

先程水無瀬がやって見せたことを同様に、いやそれ以上の破壊力でやってのけたのだ。




「死んだか…?」




倒れこんだ水無瀬の髪を掴むと顔を無理矢理上げさせる。

血塗れの顔にある鋭い相貌は相変わらず霧矢を睨みつけていた。

しかし頚椎へ喰らった一撃の所為か身体は思うように動かないようで、水無瀬は苦しげな呼吸を繰り返している。



「なぁ、晋…もう一回聞くぜ?」

「…」

「俺のモンになれ。そうしたら助けてやる…」



その問いに水無瀬は血塗れの唇を引き上げ笑みを作った。

そして血の混じった唾を、ぺっ、と霧矢の顔に吐きかけたのだ。


交渉決裂だ。

その言葉と共に霧矢は水無瀬の頭を再び地面へと押し付けた。

鈍い音がしてアスファルトへ血の染みが点々と飛ぶ。



「殴り殺してやる…」



動かない身体。

水無瀬はせめて自分の右腕だけでも動かそうとそこに意識を集中する。



「ズタズタにして原型分からないくらいになったら、箱に詰めて狩谷へ送ってやるよ」



水無瀬の脳裏に狩谷の哀しげな顔が浮かんだ。

此処で息絶えてしまえば、死んで尚狩谷にそんな顔をさせてしまうのだろうか…



(駄目だ…そんなのは…)



ぴくり、と水無瀬の右手が動いた。



(裕之…ッ、)



右手のグローブに再び光が宿る。

それとほぼ同時に水無瀬の身体は起き上がり、霧矢の攻撃をぎりぎりの所で避けた。

ふらつく身体を無理矢理動かす。



「電気信号ってのは結構便利だな。お前のそのぼろぼろの身体が動かせるんだからよ」



肩で息をしながら、それでも水無瀬は構えの姿勢を取った。

傍目で見ても、もうとっくに水無瀬の身体自体は限界を超えているのだろう事がありありと分かる。



「おとなしくしてりゃ、楽に死ねたのに…」

「死、な…ねー、よ」



乱れた息を数度整えると、水無瀬は霧矢へと攻撃を繰り出した。

上段蹴りから後回し蹴り、肘撃ちを流れるような動きで仕掛けていく。

霧矢はその攻撃を受け、同じ様に水無瀬へと蹴りを叩き込む。

2人とも同じ流派であるためお互いの手の内は大体分かっている。


唯一つ経験の差。

それが決定的に勝負の明暗を分ける。




「っは!」

「動き鈍ってきてんぜ!」




霧矢の蹴りが水無瀬の背中にクリーンヒットする。

水無瀬の口から血とも胃液とも分からないものが吐き出される。



「晋…」

「きり…や…」



水無瀬の首根っこを掴み引き寄せる。

ちろり、と出した舌で水無瀬の頬を流れる血を舐め取った。

ざらりとした不快な感触に水無瀬は顔を顰めた。



「…なぁ…晋…」



ふ、と霧矢の口元に笑みが浮かぶ。

それも今まで見たことも無いような、哀しげな笑みで。




「死ぬくらいなら、俺のモンになっちまえよ…」




霧矢の唇が水無瀬のそれに触れた。

それは一度とて隙を見せなかった霧矢が見せた唯一の隙。



その瞬間。

水無瀬はグローブの嵌っている手に電流を集め、ありったけの力を込めてそれを霧矢の腹に叩き込んだ。







「アンタ…やっぱ、今も…」






霧矢の唯一の弱味。

それは水無瀬自身だ。


この世界に来て、霧矢と対峙した時薄々ながら水無瀬は確信していた。

霧矢の自分を見る目が昔と変わっていないこと。

冷酷そうに振舞っていても触れてくる手や唇は何処か優しいとさえ感じていた。


もし、一緒に住んでいたあの頃から変わらず霧矢が自分を愛しているならば。

ずるいかもしれないがそこにしか勝算は無い、と水無瀬は思っていた。

だからこそこうやって霧矢を呼び出し一対一の勝負へ持ち込んだのだ。





「は…我ながら、だせぇ…」




ずるり、と霧矢の身体が崩れ落ちる。

電流を練りこんだ攻撃は霧矢の服ごと皮膚を焼き、身体の自由を奪った。

霧矢は自らを嘲ったような笑みを浮かべた。

水無瀬はそんな霧矢の前に膝を付くと、その頬にそっと血塗れの手を添えた。

慈しむ様なその動作に霧矢の眉が顰められる。




「愛して…何が悪い‥!お前は…っ、一度だって俺を、見なかった!」

「きり…や…」

「道場に…居る、時からずっと…お前、を…俺だけのモノに、したか‥っ、」

「も…良い…」




ず、と水無瀬の手が頬を滑り血の跡が霧矢の頬に残る。

そのまま霧矢の額にその掌を固定した。




「アンタの、負けだ…」




バチリ、弾ける音が響く。

流し込まれた電流がそのまま霧矢の動きを止めた。


どさり、と霧矢の身体が地面に横倒しになる。

その動きに釣られるかのように水無瀬の手も地面へ落ちる。




「…馬鹿、だな…アンタ…」




言い終わるか終わらないかの所で水無瀬の身体も前に揺らいだ。

そして、その身体はどさりと霧矢の横に倒れる。


静かになった空間。

ぴくりとも動かない二人の身体だけがその場に横たわっていた。


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