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FIVE  作者: AkIrA
12/42

12:白星と黒星−3

「どうしますか…?2人が戻ってからにしますか…?」

「…」

「ミズキ…?」



黙り込み下を向く瑞樹。

蒼がそんな瑞樹に近づき下から顔を覗きこんだ。

それでも瑞樹は微動だにしない。



「ミズキ!」

「ぁ…ごめ…」



パチンと指先で蒼は瑞樹の額を弾く。

小さく走った痛みに瑞樹は顔を顰め、額を手で押さえた。



「どうする?待つ?」

「…うん‥」

「そっか」



頷いた瑞樹に蒼はにこりと笑うとその前に腰を下ろした。

蒼の透き通る青い瞳はまるで全てを見透かすかのようだ。

迷いも考えていることも全て。

じっと、ただ見つめられているだけなのに居心地の悪さを感じ、瑞樹は視線を蒼から外した。

そんな瑞樹の行動に蒼はさらに笑みを深める。



「ミズキの思ってること当ててみようか?」

「…思ってること…?」

「俺、人の心読めるんだよね。なんならここで…」

「やめて下さい!」



瑞樹は慌てて蒼の口を塞ぐ。

口を塞いだところで蒼の見透かす瞳からは逃れようが無い。

その時ゆらりと蒼の背後に影が現れた。

全く同じ姿形。

翡翠だ。



「大丈夫だよ。」

「翡翠…」

「あの2人なら。もう戻ってくるから」



同じ姿形ながら瞳の色だけは違う。

違う色ながら見透かすような雰囲気だけは全く同じなのだ。

翡翠の薄い緑色の瞳が瑞樹を見下ろす。



「蒼は心を見る、俺は未来を見る。」


 

翡翠は瑞樹から視線を外すと襖の方を見た。

まるでそれを合図にしたかのように襖が開いた。







「悪かったな、席外して…」

「…」



申し訳なさそうに入ってきた狩谷。

その後には水無瀬も立っている。

水無瀬は何も言葉を発することなくそのまま中に入り、先程まで居た場所にどっかりと腰を下ろした。

苦笑しながらも水無瀬の横に狩谷も座る。

水無瀬の不躾な態度は相変わらずだが、二人を取り巻く雰囲気は大分違って見えた。




「もう、大丈夫のようですね…」



凪が柔らかく笑い、瑞樹もほっと胸を撫で下ろした。

いまだ不機嫌そうに眉を顰めてはいるが、水無瀬からはさっきの様な剥き出しの敵意は感じられない。

他の人間もそれは感じたようで、表情は安堵の色が浮かんでいる。




それを確認した凪は静かな声音で再び言葉を紡ぎ始めた。





「では、最後に守護者の話をしましょう。」

「守護者…」

「もう透と狩谷さんはご存知ですね?守護者に属性があることを…」



2人はこくりと頷く。

普段ならそんな非現実な話受け入れることは出来ない。

しかしそれは実際身を以って体験したのだから受け入れるしかない事実なのだ。



「守護者には全員それぞれ属性があり、それを利用することで大幅に戦闘力を上げることができるんです。」

「じゃあ俺達のは…?」

「岡野さん達の属性は私には分かりません…でも必ず属性に目覚める時は来るはずです。」



彼らの様に、と凪はちらりと透達に視線を向けた。



「まだ使いこなせてはいないようですが…まずは自分の属性を知る事が足がかりとなります。」



つまりはまず属性を知らなければならないという事だ。

とは言っても、右も左もわからない人間に属性を知れというのも無理な話だろう。

それは凪も思うところだったようで、一つの提案を3人に提示した。



「私と双子がそれぞれ直君、水無瀬さん、岡野さんに付いてサポートしようと思うのですが…」

「個別指導って事?」

「そうなりますね。自力で属性を知るのは結構骨が折れると思いますので。微力ながらお手伝いします。」

「私は…!私は、どうしたら…?」



此処までの話を聞いていた瑞樹は焦りを感じた。

守護者は属性を持ち、それを利用することで強くなることが出来る。

それは理解できた。


しかし、自分はどうなのだろう。

白星として戦えるような力を得ることは出来ないのか?

そういった思いが頭の中に渦巻く。



食いつくように凪に詰め寄るが、返ってきた答は瑞樹の期待する答とは全く異なるものだった。




「蓮さんは、透と狩谷さんのサポートをお願いします。属性を知っている2人には次の段階に進んでもらいますので。さぁ、では先に3人は移動しましょうか。」




促されるまま3人は出て行く。

何も出来ない自分に瑞樹は歯噛みする。

しかし今出来ることは確かにそれだけしかないのかもしれない。

守護者ではない自分に、武術も何も出来ない自分に出来ることは何も無い。


悔しさに唇を噛み締める。

死なせない、と大口叩いておきながら…



その時、出て行こうとしていた水無瀬が足を止めた。



「おい、」

「…水無瀬君…」

「諦めねぇんじゃ無かったのか?」



その一言にはっとする。



「俺に自分の為に生きろなんて戯言ほざいておきながら、てめぇは人の為に生きて死ぬことを望んでんのか?相当なマゾだな、」

「マっ…!!」

「言った事には責任取りやがれ。」




皮肉ぶった口調は相変わらずだが、その言葉の端にはさっきの様な鋭いものは無かった。

振り返ったその口元に笑みを貼り付け、水無瀬は何かを狩谷の方へ投げつけた。




「お前も、な。裕之。」

「わかってる。」




狩谷は受け止めたものを見て目を見開く。

それは古びたチョーカーだった。

水無瀬がそれを自分へ渡した意味を理解した狩谷は笑った。




「最後まで、付き合うぜ。」

「当たり前だ。それと…瑞樹。」




初めて水無瀬が瑞樹の名を呼ぶ。




「悪かったな。」




それだけ言うと水無瀬は出て行った。

唖然とする瑞樹の頭を狩谷は軽く撫でた。




「ああいう奴だからさ、」

「分かってる…」



不器用に投げつけられる水無瀬の言葉。

きっと自分の発した言葉を信じようとしてくれているのだ。

瑞樹はすでに出て行った背中に、心の中で感謝の言葉を述べた。


















































「おかえりなさい、怜王。無事で何よりです。」

「ただいま…」



散々電話口で話して、怜王の無事なんてとっくに確認出来ているはずにも関わらずそんな事を言ってのける男を怜王は軽く睨み付けた。

肩に担いでいた功を床に放り投げると、血に塗れた自分のシャツを忌々しげに怜王は見つめた。



「くそ、汚れた…」

「新しいの出しますよ。そんなに怒らないで下さい。」

「良いっつの。八神の手借りなくても自分の事ぐらい自分でするし。」



乾きかけの血が少しべたつくシャツを脱ぎ捨て怜王はシャワー室の方へ向かう。

その背中に男は声を掛けた。



「どうでした?」

「話にならねー。激弱。」

「怜王がそういうなら、そうでしょうね。」

「ま、属性見つける位まで待ってやっても余裕じゃね?明鈴に追尾用の蠍付けて貰ったからアジトはバレバレだし。」

「流石、怜王は抜かりが無いですね。」


怜王の言葉に男…八神了はクスクスと笑った。

怜王は今度こそ、そんな八神を振り返ることなく部屋を出て行った。



「どうですか?明鈴。怜王のいうことは…?」

「事実やと思うよ。守護者として属性を理解できてんのは5人中2人やし。」

「成程。その辺りは功が目覚めてから聞きましょうか…」



八神はどうでも良さげに功を見遣ってから部屋を出て行った。

どうやら功の世話は全面的に明鈴へ任すらしい。


溜息を吐き出し倒れている功を明鈴は見下ろす。

取り敢えず手当てくらいはしてやらなければならない。

そう思い、その体を隣の部屋にあるベッドの方へ引きずった。



「ったく、何でうちがこんなこと…」



ぶつぶつと文句を言いながらも功をベッドへ運び、簡単な傷の手当てを施した。

暫くするとシャワーを浴び終わったらしい怜王も戻ってきて明鈴の隣に腰を下ろした。



「凛子は?」

「さぁ?うちは見てへんけど…」

「凛子にこんな功見せたら怒り狂うんじゃね?」

「そーかもね。」



気のない返事をしてから明鈴は備え付けのキッチンへ向かう。

コーヒーメーカーに水と挽いたコーヒー豆をセットして電源をいれた。

しばらく間を置いてからコポコポという音と共に芳ばしい匂いが部屋に充満した。



「凛子も厄介かもしれんけど、もう一人厄介なんがおるやろ?」

「霧矢?」

「こんな功の姿見たら…」



考えただけで背筋が寒くなる。

別段、人を殺めるとか傷つける事自体は明鈴とて嫌いな訳ではない。

ただ本当に頭のイカれた人間というのは、殺すという行為以上に残忍な考えを持っている。

その此処には居ない守護者の異常な姿は余りに筆舌につくし難い。



「ま、霧矢はこの部屋に近付けない事だな」

「わかってるわ。」



溜め息を吐き出し、明鈴は功の髪を撫でた。

そんな明鈴を鼻で笑うと怜王は煙草を口にくわえた。


煙草とコーヒーの匂いに充たされた部屋の外、その会話を聞いていた者が居た事を2人はしらない。



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