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姫プは遊びじゃありません!!  作者: ひな
第15章 エデンの魔神たち
77/130

06

「さてむーちゃんさん、私に何か言いたい事があるんじゃないですか?」

「……」


 目を覚ました私は忍さんに手を引かれ、終日家を後にしていた。

 日はまだ高く、西日が色めく気配は無い。随分長い間夢の国に囚われていたよう

な気がしていたけれど、現実ではほとんど時間が経っていないらしい。


 忍さんはいつも通り貼り付けたような笑みを浮かべて振り返り、私が抱えている

物体を指した。


「それ……明智さんは神器だなんて言ってるんでしたっけ。このたびあなたがめで

たくそれを手にする事が出来たのは、誰のおかげでしたかねえ」

「……し、忍さんのおかげです」

「それで?」

「あ、ありがとうございました……」


 不承不承に頭を下げると、忍さんはポーカーフェイスのままに「よろしい」など

と頷いて、再び前を向いてしまった。


 ……夢の国での勝負、勝ったのは忍さんだった。

 大道さんと終日さんの二体を相手に、危なげなく完全勝利してみせた。

 そしてその八面六臂の大活躍の末、夢の国を消し去ったわけだけど……


「夢の国を消すのはあくまで私の要求ですからねえ。私と一緒に戦ったむーちゃん

さんにも当然、二人に要求する権利があると思いますよ」


 忍さんがそう言うので、大道さんと終日さんはいかにも不満そうに唇を曲げなが

らも、私からの要求を聞かざるを得なかったわけだ。本来、私は彼らの味方である

べきなのに……申し訳ない限りだ。


 で、終日さんにこの『夢枕<うつつ>』をもらった。


「良かったですねえ、むーちゃんさん。あなた、神器を集めているんでしょう? 

私のおかげでコレクションが潤ったじゃないですか。これは多大な恩では?」

「そ、そうですけど、その事、まだ忍さんには話してないと思うんですけど……な

んで知ってるんですか?」

「さあ、どうしてでしょうねえ」

「……」


 忍さんというか、そもそも他の魔神にすら言っていない。仲の良い照や、電子機

器に潜り込んでいる(あい)ちゃんでさえ知る由も無い事なのだ。それをどうして忍さん

が知っているのか……多分、考えるだけ無駄なのだろう。この神出鬼没な個体の事

を分析しようとしても、無駄でしかない。


 とにかく、一歩前進だ。『溶ける魚を(アンリアル・)解ける刀(ランセット)』以来の神器取得に成功した。終

日さんの使い方を見る限り、『夢枕<うつつ>』は眠ったり時間経過したりで消え

る代物ではなさそうだし、大道さんも使用していた事から魔神にも効果がある。使

い方次第では、強力な武器になる事間違いなしだ。


 腕に抱いた枕を頼もしく思い、力が入る。ダイヤルを切った状態の枕はただただ

柔らかく、抱き心地が良い。その安寧にほっと一息つくと、忍さんが歩調を変えて

私の隣にやってきた。こちらに……何とも言えない微笑を浮かべている。


「ところでむーちゃんさん、もしも私が来なかったらあなた、どうしてました?」

「ど、どうもこうも、平和に夢の国を謳歌していたと思いますけど……」

「そっちじゃなく、現実の方ですよ」

「え? 現実って……眠っていただけですけど」

「男子二人と同衾で、ですよ。ちょっと無防備すぎるんじゃありませんか?」

「……」


 え、あれって同衾って言うの? いや、確かに終日さん家は全体がマットレスだ

から、広い意味では同じ布団って言えなくもないけど……


 でも改めてそう指摘されると、反論は出来ない。無理矢理眠らされたとはいえ、

魔神のテリトリーに無策で赴いたのは、危機感が足りなかった。


「学生の身空で性に奔放なのはいかがなものかと思いますよ」

「ひ、人聞きの悪い事を言わないでくださいっ!」

「おや、いつになく強気ですね」

「だ、だってその、忍さんだって……」

「私が何です?」

「わ、忘れたとは言わせませんよ……コイントスでの事」


 屈辱の記憶を思い返す。


 大道さんと終日さんとの一戦目……忍さんがコイントスをした時。私は彼女に命

じられて、陽動の役をさせられた。それもスカートをたくし上げるという、下品か

つ恥知らずな行為を強要されたのだ。突然あんな奇行に走った私を、あの二体はど

う思っただろうか。今後の付き合いに悪影響が出ないのを祈る他無い。


 それでも、勝つためなら仕方がない。最終的に神器の入手という大義に繋がった

のだから、そのために悪魔に魂を売るような真似も肯定出来なくはない。


「……でもあれ、必要でしたか? どのみち『マーフィーの愛と希望の幸福論』で

コインを拳から拳に移動出来るのなら、お二人が見ていようが見ていまいが、関係

無かったんじゃ……」

「……そういえばそうですねえ。失念していました」

「……嘘ですね」

「いいじゃないですか。むーちゃんさん、ここ最近サービスシーンが無かったでし

ょう。そろそろここいらで、赤面くらいしてくださいよ」

「……どうツッコミを入れるべきか、皆目見当もつきません」


 呆れる私の顔を見て、忍さんは愉快そうにお腹を抱えていた。

 ……まあいいや。よくはないけど、よしとしよう。過ぎた事だ。忘れよう。


「あの、と、ところで忍さん……我々は一体どこに向かっているんですか?」

「さあ、どこがいいですか?」

「え……」

「冗談ですよ。ローマのコロッセオに行きましょう。有名な観光地ですよ。壮大な

過去に触れましょう」

「は、はあ……」


 相変わらず突飛だ。私を連れてどこかへ向かうというのも、既に確定情報のよう

に話している。まだ了承してないのに……


 まあ、どのみち断れないんだけどね。

 どうやら今日は大忙しらしい。


 既に身体と心が疲労を訴えている。

 床に就き、ぐっすりと眠れるのはいつになるだろう。


 起きたばかりなのに、私はもう眠る事を夢見ていた。

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