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KEEP OUT  作者: 嘉久見 嶺志
2××3.5.23.
67/74

: 1p.

翌日、阿武急は時間通りに発車する。


レールを走る音は、車内に心地よく耳に響き、東日が車窓から乗客を照らす。


そのせいか、気まずい視線を浴びている2人がいた。


直樹と未来は、窓を背に席に座り、いつも通り気楽に過ごしているのだが、今日は違っていた。


なぜなら、向かい側の席で足と腕を組み眉を寄せている鈴音の存在があったからだ。


鈴音は、2人の後光が眩しいせいか、いつにも増して険しい目つきをこちらに向けていた。


『なっくん、星さんなんか機嫌悪くない?』


未来は、スマホをいじっているふりをして、隣の直樹にLAINを送る。


『いつもでしょ』


『いや、そうだけど。

ずっとオレ等を見てるというかなんか睨んでない?』


『気のせいでしょ』


瞼の重い直樹は、LAINから推しのvtuberの配信画面に戻り、未来もそのままソシャゲを始め、現実から目を背けることにしたのだった。




――チャイムが鳴り、休み時間となった途端、鈴音は2年1組の教室に足を運び、席に座る直樹の前に立ち止まった。


直樹は、顔色一つ変えず、仁王立ちする彼女に視線を送る。


周囲は何事だとざわつく中、2人はしばらくそうしていると、鈴音が痺れを切らした。


「話があるんだけど」


鈴音が穏やかに告げ、直樹は、それに答えるかのように黙って起立する。


彼女についていく様子を、志保は廊下から恐る恐る覗き見、不安を胸に2人の後を追うのだった。




「――というわけで」


3人は、1階の自販機のもとへ行き、鈴音が改めて直樹に要件を伝える。


「疳之虫の扱い方を教えてッ」


鈴音の頼みを聞いて、背後にいた志保は、ひとまず安堵した。


朝からずっと難しい表情を浮かべていた彼女に、事情を尋ねる空気ではないと察し、今まで近寄りづらかったからだ。


直樹はマスクで隠れた顔からわずかな難色を示す。


「う~ん、それは無理だね」


「はッ!? 何でッ!?」


想定外の返事に、鈴音は困惑する。


「オレの場合、少々特殊なケースというか、いつの間にか扱えるようになってたって感じだから」


「特殊って、直樹は異能種じゃないの!?」


「おッ、すごい! 星さん異能種を知ってるの?」


疳之虫の種族について、鈴音の口から初めて出てきたことに、直樹はつい感心してしまう。


「昨日、たまたま魁祥さんに会って教えてもらったんだよ。

魁祥さん呆れてたよ。

なんで教わってないんだって」


「ああ、そういえば教えてなかったね。

ごめんごめん」


呑気に謝罪し、自販機に小銭を入れる中、鈴音は話を続ける。


「それに、アタシも特殊かもしれないし」


ガコンッ。


「…どういうこと?」


直樹は、飲み物のボタンから指を離し、聞き捨てならない台詞に耳を傾けた。


昨日、魁祥からある可能性を告げられたことを2人に話した。


自身が哭戎種であること――。


このままだと疳之虫がまた暴走し、自我が崩壊してしまうこと――。


直樹は相変わらず眉一つ動かさなかったが、志保の表情は徐々に曇っていった。


「――なるほど、3匹の疳之虫を制御しきれないと体を乗っ取られるかもしれない。

そういうことか」


彼は自販機の取り出し口からミルクティーを手にする。


「アタシは、まだ人間をやめるつもりはないし、哭戎種自体モノにした人が少ないらしいから、制御の仕方なんて分からないかもだけど、思いつくことは片っ端からやってみたいとは思ってる。

だから――」


魁祥からのアドバイスを元に、慣れないことを試みるが、少しずつ声のトーンが弱くなっていく。


「だから、お願い。

その…、力を、貸して…」


自信なく視線を落とすと、彼は、静かに返事をする。


「もちろん」


その一言に顔を上げると、直樹は買ったばかりのミルクティーを差し出していた。


「女の子を泣かせるわけにはいかない」


「? いや、別に泣いては――ッ!」


その時、鈴音の手にぬくもりを感じた。


振り向くと志保が彼女の手を取り、瞳に溜まった涙は決壊寸前だった。


「志保…」


志保は、彼女の身を案じ、涙をこらえていたが、鈴音が微笑みながらハンカチを取り出す。


「大丈夫だよ、志保。

もう、泣き虫なんだから」


鈴音は呆れながらも目の周りをそっとハンカチでなでる。


そして、行き場のないミルクティーをようやく手に取り、直樹に礼を言う。ありがとう。


「ありがと」


「いいえ~」


むず痒い気分だが、人を頼るという試練を乗り越えた鈴音だった。


しかし、問題はここからだ。


直樹は部長だし、疳之虫についての知識や制御方法を熟知しているはずだと踏んでいたのだが、まさかの本人NGが出るとは考えてもいなかった。


「ところで、星さんの疳之虫は、今どんな感じ?」


直樹は、財布から小銭を取り出し、自販機に再投入する。


「どんな感じって…、正直よくわからない」


「よくわからないっていうと?」


「以前、暴走した時以降、心の奥から出てくる気配がないから、何とも…」


先程と同じくミルクティーのボタンを押し、出てきた飲み物に手を伸ばす。


「哭戎種って異能種や潜在種と違って意思を持つ疳之虫みたいだからかなり扱いづらいかもね」


そう言って、一考しながら静かにキャップを開ける。


「ま、考えが無いわけではないけど――」


すると、直樹が鈴音にある提案を持ち出したのだった。




――放課後となり、部室に集まった一同は、鈴音の悩みについてテーブルを囲んで会議が行われていた。


「――で、オレかで」


ナベショーは、何らかのアニメイラストの扇子を扇ぎながら、これまでの経緯を把握した。


「そう、星さんの話だと、以前は身の危険を感じた時に顕現し、身を守った。

もしそれが本当だとすれば、同じ状況下になれば自然と出てくるのではと考えてね」


直樹が考えた策に、ナベショーの表情は引きつっている。


「オレ等の中で攻撃的な疳之虫って言ったらナベショーしかいないんだよね」


「攻撃的って…、最初の頃に比べたらマシになった方だべよ」


ナベショーの含みのある言い方に、一抹の不安がよぎった。


「何? もしかして、昔、危険だったの?」


「いや、衝動期の頃に比べたらね」


「あの時、カイさんとケータがいなかったらヤバかったよね」


「何があったんだよ…!?」


未来が当時のことを振り返ると、ナベショーは、苦笑するしかなかった。


「そういえばッ! ケータどうしたんだでッ!!

仲間の一大事だッつーのに、なんでいねェんだで!?」


ナベショーがケータの不在を指摘して、鈴音は初めて気が付いた。


アイツ、何やって――。


「あ~、そのことなんだけど――」


すると、直樹がとっさに口を開いた。


「ケータ君がバイトとかで忙しいみたいだから。

しばらく顔を出せないらしいから」


「はァッ!? なんだでそれッ!?」


直樹の突然の発表にナベショーが不満を漏らす。


「チャリの修理費を貯めないといけないらしいよ」


「あ~、そういえばアイツ、この間チェーン切れたから交換したんだっけか」


以前、登校中にケータが自転車の前で落ち込んでいたことがあり、その時の記憶がふと蘇った。


「それ以外にもブレーキの効きも悪くなってるって言ってたし…」


「うぐッ…」


高校生にとって貴重な移動手段を失ってしまうのは、かなりの痛手であり、自転車通学であるナベショーも語気が弱くなっていく。


「仕ッ方ねェなァ、いっそのこと新品買った方が良いんでねェの?」


「どっちみち、金がいることに変わりはないね」


未来の一言が決定打となり、ナベショーはぐうの音も出なくなってしまった。


バイトとか、ね…。


鈴音は、昨日ケータがサッカー部の練習に参加していた件について振り返る。


この高校は、いくつもの部活を掛け持ちすること自体禁止されてはいないが、バイトもしているみたいなのに、特設帰宅部以外の部活動に参加するほど時間も体力も余裕など無いに等しいハズ。


それなのに、サッカー部に参加する理由とは何だ?


ただの気晴らしのつもりではないと思うけど…。


ちらっと直樹に目をやるが、いつも通りの無表情ぶりに何を考えてるのか判断できない。


おそらく他に理由があるのだろう。


ケータが適当な理由を作って部活をサボるとは考えにくいし、アタシはともかく、付き合いの長いこいつらに対して無礼な行動はしないはずだし。


よって、現実味のある言い訳を作って、場を収めることにしたってところか。


実際、本当に修理費を稼ぐためなのかもしれないけど、サッカー部の件といい、それだけの話ではない気がしてならなかった。


「とにかく、当分の間、ケータ君抜きで活動していくから」


直樹は、そう言ってケータの今後の活動休止を強引に締め、話を戻すことにした。






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