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KEEP OUT  作者: 嘉久見 嶺志
2××3.5.22.
61/74

: 1p.

昼休み。


それは、息苦しい学業から解放され、空腹を満たし、安らぎのひと時を過ごす生徒にとって貴重な時間帯。


昇降口にはテーブルを設置し、出来立てのパンやおにぎりを並べる購買のおばさん達が生徒たちを出迎える。


中には、2台の自動販売機から気分で飲み物を選び、教室に戻って弁当のお供にするなどで賑わっている。


そんな息抜きをするはずが、なぜかケータは職員室に呼び出されていた。


「お断りいたします」


ケータは愛想笑いで目の前の先生にNOを突きつける。


「いやいや」


「いやイヤ嫌ッ」


「いやいやいやいや」


20代後半の男性職員も営業スマイルで退く気はない。


「なァ、頼むよォ。

今のままだとサッカー部終わっちまうんだよォ」


もう終わってるようなもんだろ。


内心そう悟ったが、さすがに口から出すことはしなかった。


ケータは、1年生の頃、サッカー部に所属していた時期があったのだが、同級生たちの不祥事によって部活動から同好会へと格下げされてしまい、公式試合に出られなくなってしまったのだ。


他校とのケンカや原付バイクの無免許運転、度重なる問題行動によって、その者たちは責任を取るという名目で、一斉に退部届を提出し、逃げるように去っていった。


大半の部員が辞め、高校生活のうちに部活動に昇格する見込みがなくなったため、ここにいる意味がないと察したケータは、サッカーから身を引いたのだった。


それからというもの、サッカー同好会顧問である保科(ほしな) 達巳(たつみ)が尽力し続けた結果、今年の新入生を確保することができ、見事メンバーを揃えたとのこと。


これで昇格を目指すぞと意気込んでいた矢先、ある問題が浮上したのだ。


1年生の実力が2年生よりも勝っていたのだ。


聞けば数年前からサッカーで名を馳せていた中学の卒業生たちが何名か入部し、2年生のプレーを目の当たりにした途端、見下すようになったのだという。


このままではまずいと判断した保科が、急遽、ケータを呼び出し、ピンチヒッターとして復帰してほしいと交渉してきたのである。


「そもそも、オレ、バイトで忙しいですし」


「これもバイトみたいなもんだろ」


「景吾がいるんだから大丈夫でしょ」


「景吾はだめだ。

完全にナメられてるし」


木村 景吾は、同好会で部長を務めており、ゲジ眉が印象的な2年生で、正直、ケータの目からしても特別レベルの高いスキルを持っているわけではなかった。


そりゃナメられるわな…。


「それにな――」


保科は、机の引き出しからあるものを取り出した。


「お前がサッカー辞めるなんて、俺、認めて無ェから」


それは、去年ケータが提出したはずの退部届だった。


「ハイッ!?」


受理されたものとばかり思い込んでいた封筒が突如現れ、目を大きく見開いてしまう。


「何ですかそれッ!?

それは無いでしょうッ!?」


保科の姑息な手に異議を唱えるが、その時、誰かが職員室に入ってきた。


「それと――ッ、おッ!

ちょうど良いところにッ!」


彼の視線の先につられて、ケータも振り返ると、そこには、ある人物が立っていた。


それからというもの、10近くも年が離れている相手から手を合わせて頭を下げられてしまい、ケータは、切迫したこの状況に戸惑いを隠せなかった。


こうして、彼の貴重な 昼休みは、刻々と消え失せたのである。




――午後の授業は、先週行われた中間テストの問題用紙が返された。


1日かけて問題用紙を見ながらの答え合わせを行い、ようやく最後の教科である現代文の時間となった。


皆、常日頃の努力の成果を前に様々な表情を浮かべており、その光景を眺めるのも一興である。


廊下側の生徒が次々と呼ばれ、志保も不安げな顔つきで教壇に向かうが、戻ってきた時には、満面の笑みでアタシにピースしてきた。


やがて、アタシの番が回り、解答用紙を取りに行くと、星 鈴音の指名欄に“100点 Great!!”と、赤インクで書かれていた。


まッ、当然だよね。


こんな問題、間違えようがなく、アタシの胸に響きはしなかった。


テストを受け取り、振り返ると志保が期待の眼差しを向けていたので、軽く笑みをこぼす。


察したのか、志保はお見事と言わんばかりに小さく拍手してくれた。


席につき、自身のテストを半分に折って机にしまい込む。


さて、志保もアタシもテストも無事終了したわけだし、ご褒美に何か食べにでも――。


ふと、隣の席が視界に入り、顔を上げてみると、ぐったりと机に伏して重い空気を醸し出しているナベショーの姿がそこにあった。




「――ちッきしょうッ!!

何でテストなんてモンがこの世にあんだでッ!!」


放課後、部室でナベショーが発狂し出していた。


「高校とはッ! 友情を育みッ! 甘酸っぱい恋愛するッ!

そんな青春を謳歌するためにあんだべよッ!!

こんな苦い経験を積む場所じゃ無ェべよッ!!」


「うッさいわッ」


あの様子だと赤点だったのだろう。


だとしても、さすがに耳障りになってくる。


デカい声で嫌気がさす中、直樹だけイヤホンをつけてイラストに集中していた。


おそらく、ノイズキャンセルでもしているのだろう。


相変わらず平然と過ごしていた。


「お疲れェ」


すると、入り口の戸が開き、ケータが入ってきた。


「ケータッ!! キシャッてんじゃねえぞッ!!」


「急に何ッ!?」


ケータの姿を見ては八つ当たりをするナベショー。


「テストの点数が悪かったんだって」


「ああ…」


未来が代弁し、ケータは、すぐ状況を理解した。


「みんなは、テストどうだったの?」


ケータは、何気ない質問を交わす。


「どうせアレだべ?

未来君は、当然のごとく良かったんだべ?」


「フッ、まあ? オレにかかれば朝飯前、いやッ!

敵などいなかった、いやッ!!

運命によって決められてたってだけのことッ、サッ!!」


未来は眼鏡を光らせ、ナベショーの皮肉をビクともせず、痛いセリフを平気で吐いてみせた。


「アタシ等も無事クリアしたし」


そう言うと、隣に座っている志保もピースしてアピールする。


「そんで、ケータはッ!?」


ナベショーは、勢いよくケータへと話を振る。


「えッ、普通」


「キシャッてんじゃねェぞッ!!」


「なんでだよッ!?」


ナベショーの心の叫びを瞬時に突っ込んだ。


「クソッ、なんでだでッ。

オメェは、こっち側の人間だべよッ!?」


「失礼なッ! あんなん中坊ン時の復習じゃねえかッ!!

勉強しなくても大体の内容は覚えてるもんだろがッ!?」


がはッ!?


ナベショーは、ケータの発言に致命傷を負い、体の力が抜け、よろめいてしまった。


意外……違うんだ……。


内心、アタシもナベショーと同類だと想定していたので、少々ケータを侮っていた。


日頃の行いが災いしてか、頭が悪いという偏見が自然と生まれてしまっていたのだ。


なので、アタシの勝手な学年順位予想で、ケータの順位は、下の中から中の上にランクアップしたのであった。


そして、何気に志保も軽くショックを受けてるし…。


落ち込んでるのか、顔を埋めて俯いている。


勉強しなくても出来ると耳にして、自分の努力と比較したのだろう。


アタシもほとんど勉強していない派なので、これに関しては、慰めることが困難なため、彼女の頭を優しく撫でることしかできなかった。


「クソッ、現代社会のサービス問題しか頭になかった…」


ナベショーは、テスト問題を振り返り、ボソッと呟く。


そう、本当に出すとは思わなかったわ。


アニメ作品をテストに出すとか、普通は、ありえないんだけど。


この高校、どんな手を使ってでもこういう生徒を進級、卒業させたいんだろうな。


先生たちの日々の努力というか、苦労がうっすら感じ取れた気がした。


「あ~、3教科も追試とか、ありえねえべよ」


本当、ありえねェよ…。


ぼやいているナベショーの後ろをケータが通り過ぎ、直樹の元へと近寄ると、気配に気付いて イヤホンを外した。


「どうしたの?」


「なおちゃん、申し訳ないんだけど、今日は部活休むね」


…えッ?


ケータの発言に、アタシは、かすかに目を見開いた。


「バイト?」


「まァ、そんなとこ」


「OK」


直樹は、特に言及することなく淡々と話を進め、ケータもみんなの方へと体を向ける。


「そういうわけなんで、悪いんだけど」


「はいよ」


「お疲れェ」


一同に軽く挨拶を済ませ、ケータが部室を退出していったのを見計らい、アタシは直樹に尋ねた。


「良いの?」


「うん? ああ、いいよ。

ケータ君、忙しいみたいだから」


アイツがいないとこの部活は成り立たないのに、こんなに緩くていいのだろうか。


そりゃ、バイトなんて本人の自由だし、アタシがどうこう言える立場ではないけど。


「今日のところは解散しようか」


直樹は、区切りの良いところで画材を片付け、帰り支度をし始める。


「ちなみになっくん――」


バッグを肩に背負い、席を立つ直樹をナベショーが呼び止めて一応尋ねる。


「テストは?」


…フッ。


「くそうッ!!」


目元は変わらずとも、マスク越しで鼻で笑う彼に対し、全てを悟ったナベショーであった。




――アタシと志保は、昇降口で靴を履き替え、外へと足を進める。


今日、雑談しかしてない。


部活といえば、真剣に毎日取り組むのが当たり前のはずなのに、あいつがいないだけで、まともに活動もできないんだなんて…。


元々、運動部出身だからか、今まで培ってきた固定観念がなかなか抜けきれず、少々不服であった。


不完全燃焼で駐輪場の脇を通っていると、志保が肩を軽く叩いてきた。


「えッ、どうしたの?」


志保が指を差した方角には体育館があり、そのそばにはケータの姿があった。


あいつバイトに行ったんじゃないの?


ケータは、普段、体育の授業を受ける時と同じ半袖長ズボンのジャージとなっており、ポケットに手を突っ込みながら歩いていた。


ただ、いつもと様子が違く、どこか神妙な面持ちでそのまま 道路へと出て行った。


あっちは、確か…。


ケータが向かった先には、校舎から少し離れた場所にグラウンドがあり、基本、この時間帯は、野球部や陸上部が使用しているはず。


『気になる?』


私の心を読んだのか、志保は、スマホで尋ねてきた。


「いや、アタシは別に…」


表示された画面に軽く否定するが、志保は、素直じゃないと言わんばかりにアタシの腕を掴んで、強引にけん引していくのであった。




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