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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
二章
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帰還と報告。そしてまた展開

「キャシャラトさん!! ニュアージュちゃんが帰ってきましたよ!!」


 里の住民が大急ぎで宿屋:やるせな・インへと駆け出して。勢いよく開けられた扉の先で、その時を待っていたと建物から飛び出してくるキャシャラト。

 そのウツボのような五メートルの大きな身体を浮遊させながら。風に乗るかのようにこちらへ飛来してきては、俺の背で気を失っているニュアージュの姿を見て安堵の表情を浮かべた。


「ニュアージュッ!! あぁニュアージュ、無事に戻ってきてくれて本当によかった……!!!」


 張り詰めた緊張が一気に解けたのか。その場でストンと落ちては、神へ祈るように感謝の言葉を連ねてひたすら呟き続ける。

 誰よりもニュアージュの身を案じていて。それでいて、俺はあの時の戦闘にて彼女の過去を覗いてしまっていたから。


 キャシャラトの姿を見て。俺はニュアージュと共にこうして無事に帰還できたことを、ふと湧いてきた救われた感覚と同時に心から嬉しく思えた。


「気を失っていますが、これは疲労によるものです。彼女を無事に連れ戻してきました。これで一件落着ですね」


「ありがとう。本当にありがとう……」


 力無く頭を下げて。掠れる声で感謝の言葉をひたすらと続けるキャシャラト。

 次には、極度の疲労で倒れてしまったニュアージュを休ませるためにも宿屋へ移動して。その移動の間にも、俺はキャシャラトに今までの経緯を全て話しておいた。


「それではあの遺跡の主をニュアージュと共に討ち倒してきたということなのだな……」


「はい、ニュアージュも、俺も、ミントも。こうして俺らが生きて帰還することができたのも、全ては彼女の中に宿る勇敢な心のおかげです。俺もミントも、ニュアージュという"救世主"にとても感謝をしています」


 落ち着きを取り戻したキャシャラト。超が付くほどではなかったが、それでもいつも通りの早口で喋ってはベッドに寝かせられたニュアージュを眺める。

 同じく、ニュアージュの寝顔を見てから。キャシャラトに彼女の武勇を伝えて。そんな俺の言葉に驚嘆の様相を見せたキャシャラトを確認してから、再び視線を彼女へと戻す。


 とても穏やかで。何かのわだかまりが全て取り除かれたかのような。とても整然とした、ニュアージュという人物そのものの強くてどこか儚い、美しい顔をしていた。


「いやしかし感謝をしたいのはむしろこちらの方なのだよ。それも飛びっきりでありったけな感謝をだ。これはもはや謝礼の言葉や高価な物品の献上では表し切れないほどの、理屈では説明などつかない心の奥底からの想いであるからね」


 場面はまた移って。宿屋のフロントで、受付カウンター越しで会話を交わす俺とキャシャラト。

 俺の隣ではカウンターに寄り掛かって、片方ずつ交互に上げて足を休めるミントがいて。そんな戦闘を終えた俺達の疲労を眺め遣っては、彼らと共に勇敢に戦ったニュアージュの姿を思い浮かべていたのか。

 キャシャラトが物思いに耽る様子を見せてから、話はそこで一旦途切れた。


 ……それにしても、キャシャラトからは尋常ではないほどの感謝をされた。

 それは人間の形をしていないモンスターではあったが。彼はニュアージュのことをすごく大事に思っている、云わば彼女の保護者のようなものであろう。


 そして、ニュアージュもまたキャシャラトのことを気に掛けていて。その彼女の想いもまた、戦闘中に見た曖昧な過去の映像を思い返したあたりに。その二人の間には、何かただならぬ関係性が存在していることを想像することができる。


 ……大炎上が起こる火中の中で。少女と行動を共にしていた、あの映像に映し出されていた魚形――


「あら、皆揃ってるのね。一体どうしたの?」


 ふと、後ろから言葉を投げ掛けられた。


 振り向くと、玄関扉を開けて宿屋に入ってくるユノの姿がそこにあって。何か空気を察したのか、抱いた疑念をこちらに尋ねてきてはおもむろに近付いてくる。


「アレウスがこの時間にここにいるなんて珍しいじゃない。いつもはミントちゃんと一緒にどこか探索に出ていたり、困っている周りの人達のお手伝いをしていたりするのに」


「ま、まぁ。いろいろとあってな……」


「そう。いろいろと、ね」


 俺の言葉に軽く返事をして、辺りを見渡すユノ。

 いつもの明るい様子の中に紛れた、物事の内容を探るべく向けられた真っ直ぐな眼差し。それをキョロキョロと動かして。俺やキャシャラト、ミントの姿を見ては、拾い上げていくように情報を集めていく。


「……そのいろいろって、どうやら相当な出来事だったみたいね。アレウスのやり切ったぁ~っていう気の抜けた顔と、ミントちゃんの疲れ切った顔を見れば何となく察しがつくわ」


だいたいの雰囲気を察したユノに、キョトンとする俺。そんなユノの言葉にも反応ができないほど、その疲れた表情を浮かべてはカウンターに寄り掛かって無心に休憩を続けるミント。


「お疲れ様、アレウス! ミントちゃん! 私も軽い探索をしてきたから、良かったら食堂で一緒に休みましょ?」


 その出来事はまるで知らないのに。まるでその当事者のような心行きで声を投げ掛けてきて。太陽のように明るく、月のように落ち着いた笑顔を浮かべながら。

 軽い足取りのまま腕を伸ばしてはミントを引き寄せて。抵抗する余力も無く寄せられた少女の両肩に手を置き。ささっ行きましょとミントの肩を押しながら、ユノはミントと共にその場からゆっくりとフェードアウトしていった――



「……じゃあ、俺も食堂で休んできますね」


 少女二人を見送ったあとに、俺もそろそろ休憩を取りたいという休息への衝動のままに切り出す。

 その言葉に快く頷いたキャシャラト。それではと手で会釈をしながら、俺もゆっくりな足取りで食堂へと向かって歩き出したその時……。


「……"アレウス・ブレイヴァリー"君」


 ふと、キャシャラトに呼び止められた。


「なんでしょうか?」


「……うむ」


 俺を呼び止めては俯いて。

 その様子は明らかに、何かに悩んでいた。その内容は知れないが、目の前の様子はとても物事の頼みといった軽い内容ではないことが明らかであって……。


「話があるのだ。あとで君に話をしたい。今はただただ休息でその身を休ませてもらいたいのだが、ね。しかしこのことはどうしても君に話したいのだ。いやこれはニュアージュに黙って決めてはいけない内容ではあるのだが。でも何故か、君には話しておいた方がいいような、そんな気がして仕方が無いのでね」


 頭を上げて早口で話し始めては、その言葉とは裏腹に依然としてその自身の判断に悩み続けながら言葉を連ねていくキャシャラト。


「暇ができた際に井戸から外界に出てきてもらいたい。そこで話をしよう。ニュアージュが世話になってしまったからね。あの小娘を改心させたほどの人物だ、信用には十分事足りる」


 そう言い残し、キャシャラトはこの場から移動した。

 その向かった目的地は多分、ニュアージュが眠る彼女の部屋だろう。


「……それにしても……」


 その雰囲気は。その言葉の意味からして。キャシャラトが俺にしたいというその話の内容は、おそらくただ事ではないことが察することができる。

 それこそ、このメインクエストの最後を飾るイベントでもあるだろう。きっとこの会話の内容で、このゲーム世界に新たなフラグが追加されるのだろうかとも考えて。そんな新たなイベントを前にしたことで、俺は完全に抜け切っていた主人公としての立ち位置を再び意識し始める。


 これもあくまで、このゲーム世界の行方を構築していく一つの場面にしか過ぎない。

 何故なら、このメインクエストの終わりは、その先に設定された新たなメインクエストの始まりへと向かっていくのだから。


「……主人公という存在には、次々とイベントがなだれ込んでくる。ゆっくりと休んでいる暇はそんなに無いもんだな……」


 次々と展開されるゲーム世界のイベントに、俺はまた新たに気合いを入れ直した――――

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