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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
二章
89/368

リザルト:成長の証

「ハァ……ハァ……」


 吸っては吐いての息は途切れ途切れで。確たる手応えを感じ取っても、尚その緊張は緩めずに。

 目の前で倒れたエリアボス:グロテスク・マイティバトゥス。その怪奇的な顔面に突き刺さるブロンズソードを眺めながら、俺はゆっくりと立ち上がって恐る恐ると近付いていく。


 完全にその動作を停止させたマイティバトゥス。しかし、その狡猾な性格を知っているために。警戒を解くことなく俺はヤツに接近して、様子を伺いながらその頭部のブロンズソードを引き抜く。

 ゆっくりと引き抜いて。素早く離れる。武器の回収を終えて、その眼前の存在に再び剣を構えるが。そんな警戒する俺のもとに、軽い足取りでミントが近付いてきた。


「ご主人様、ご安心なさいませ。先の攻撃を最後に、エリアボス:グロテスク:マイティバトゥスのHPがゼロに達しました。よって、ご主人様は戦闘に完全勝利いたしました」


「……勝ったのか? 完全に勝ったのか? ほんとか……?」


 緊迫の中で告げられた結果を耳にして。うわずらせた声で尋ねたその直後に、この身体はその場で崩れ落ちていた。

 忘れていた疲労が一気に湧き上がってきて。全身の筋肉が衰えたようにガクッと座り込んだ俺は、次に感じた安堵と共に目の前の成果をただただと眺め遣り続ける。


 ……っと、そんな場合ではなかったな。


「……ニュアージュ。ニュアージュ!」


 振り返っては飛び跳ねるように立ち上がって。疲労なんて構うものかと、俺は後ろで座り込んでいたニュアージュのもとへと急いで駆け出す。

 ふと見た感じでは、最後の最後で受けた落下ダメージ自体は回復してあったらしい。だが、ミントが言うようにそのHPは回復してあったにも関わらず、その無気力な姿勢や浮かない表情という姿からして相当にまで弱り切ってしまっているように見えた。


 どうやら、余程なまでにこの戦闘がその身に堪えたのだろう。


「アレウスさん……」


 座り込んだまま、力無く答えるニュアージュ。

 手前まで来て、手を差し伸べる。だが、そんな俺の手を眺めては抜けていく声で呟いて。活力を漲らせることもできず、その場で無気力に微笑むことで俺に応えた。


 今の彼女には、立ち上がる余力さえも残っていないらしかった。


「ニュアージュ様の回復は、既にこのミントが施しました。ですがどうやら、HPの回復を行っても尚その身体は不自由のようでありまして……」


「多分、内面的なダメージによるものだろうな」


「内面的なダメージ……?」


 感情に関しては、まるで抜け落ちたかのように疎いミント。ニュアージュの前で屈む俺の姿を見据えながら、先程の言葉に首を傾げて疑念を浮かべる。

 そんなミントを脇に、ニュアージュと目線の高さを合わせて。それから俺は事態の収束と安心を促すために、迎えたメインクエストのハッピーエンドに心からの笑みを見せてはその心を落ち着かせようと試みてみる。


「もう大丈夫だ、心配することは何も無い。これも全てニュアージュ、あんたのおかげだ」


「わたしのおかげ……ですか?」


「そう、ニュアージュのおかげだ。全てな。立ち上がれそうか?」


 再び手を差し伸べると、その手をじっと眺めては力無くその手を握り締めたニュアージュ。

 せーので立ち上がろうとしたのだが。その掛け合いを始めたこの瞬間にも、ニュアージュは無気力にこちらへ倒れ掛かってきたのだ。


「おっと……」


 優しく支える。どうやら気を失ってしまったらしい。

 無理もないだろう。彼女はこの戦闘で、直面してしまった信じたくない現実を乗り越えたから。彼女はこの戦闘で、自分という現実を自身で乗り越えたのだから。


 それは目の前の大ボスに加えて、極度の緊張や恐怖という感情とも戦っていたことによる莫大な疲労によるものだったのかもしれない。

 それでもって、今までに秘めていた本当の自分という新たな現実を引き出し。それを用いて、全力で目の前の現実と向かい合ったことによる成長の証でもあるのだ。


 本当に、よくやったな。

 戦場で奮った勇気に、俺は心からの敬意を込めた。



「……ご主人様。ドロップしたアイテムは、時間経過によって自然消滅いたしますのでお気を付けください」


「ん、あぁ。そういやそうだったな……。ミント、少しだけニュアージュを頼む」


 ふと、ミントから掛けられた言葉で思い出して。

 気を失ってしまったニュアージュをミントに任せることで。俺はRPGにおける戦闘の醍醐味の一つでもあるリザルトを味わうことにした。


 背後で倒れていたグロテスク:マイティバトゥスの姿は既に消失しており。その亡骸のあった場所には大量の経験値やお小遣い、じゃらじゃらと転がった素材やらがぎっしりとドロップしていた。


 それらを一つ一つ吟味しながら拾い上げていく。

 ヤツの怪奇的な顔面に仕込まれていて、俺やニュアージュに散々と食らい付いてきたその尖った白色の牙を回収し。今回はその存在感が無かったものの、改めて見てみると鋭くとても堅い黒色の爪を回収して。

 ヤツのあちこちに蔓延っていた繊毛の塊も、一つの毛玉となって数個転がっている。触り心地は……ごわごわとしていながらも、その弾力のある感触になるほど、これは攻撃が通らないのも頷けるというその見た目にそぐわぬゴムのような質感を体験。その脇には、終盤で必死にしがみ付いていた胴体の皮膚が。特技:フラッシュで苦しめられた翼膜の一部が。そして……。


「……うわっ、グロテスクだな……」


 ヤツの怪奇的なその顔の。その顔面に貼り付けられたように存在していた眼球が二つ落ちていた。その血走った玉は、今にも動き出しそうだ。

 すぐさま回収をして視界から取り除く。これで素材となるであろう大方の素材アイテムは回収した。とすると、次は……。


「これは運が良い方なのだろうか。どちらにしろ、性能のチェックだな」


 ドロップした装備品の確認。

 その存在は計二つ。一つは、マイティバトゥスの胴体の皮膚を足のラインに、白色の繊毛を惜しみなく使用した可愛らしいブーツでワンセットの脚装備。もう一つは、あの不気味で怪奇的な笑みを湾曲で表現したのであろう、歯を思わせる線が一定の間隔を空けて走る白と黒の大きな鎌。


 その脚装備はあのマイティバトゥスとは対照的に、スラッとした脚のラインとモコモコなブーツがとてもキュートである女性専用の脚装備。これを見てしまうと、なるほど。あのモンスターにも一定のコアなファンがきっといるんだろうなと、つい思えてしまう。

 一方でその鎌はあのマイティバトゥスの怪奇を忠実に表現していて、これはモチーフとなったモンスターを知っているからこそ味わえるであろう完成度の高いデザイン。そしてなにより、この不気味ながらも鎌というカッコいいフォルムをしているだけに、中々に好みだ――



 心残りとしては、この鎌は今の職業では装備することができないということ。残念だ。

 そんな報酬と満足感に独り頷いては足早に彼女らのもとへと戻る。


「場所を移動してもよろしいでしょうか?」


「あぁ、行こうか。ニュアージュを無事に送り届けよう」


 ミントからニュアージュを預かって。意識の無い彼女を背におぶってから、俺とミントはメインクエストの次なる目的地である拠点エリア:黄昏の里へと向かったのであった――――

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