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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
二章
86/368

わたしにできること

「ミントは、俺とニュアージュのサポート!! ニュアージュはその魔法で形勢逆転を担う、このパーティーの切り札!! そして俺は主人公らしく、ただひたすら前進あるのみの切り込み隊長!! 個々の役割に沿った、怒涛の反撃に相応しいそれぞれのアクションが、俺達を勝利へと導いてくれる!! それじゃあ、行くぞっ!!」


 目の前で立ち塞がるエリアボス:グロテスク・マイティバトゥスに立ち向かう俺とミントとニュアージュ。

 主人公とその仲間達が集ったパーティーには士気が漲っていて。更に、急なパワーアップを遂げたニュアージュによって俺の中には勝利への確信が溢れ出す。


 そうだ。この流れも恐らくきっと、この世界に蔓延るフラグというシステムによるものなのだろう――


『ギチチチチチチッギリギリギィーッ!!!』


 再び戦闘が開始されると同時に、前方からはマイティバトゥスの状態異常:行動不可が付与された咆哮が響き渡ってくる。

 開始と共に駆け出していた俺は、咆哮の音圧が迫り来るのに合わせて回避コマンドを選択。既に設定されているかのような綺麗な前転で咆哮を避けては駆け続けて。

 ニュアージュは冷静にバッグからアイテム:『耳栓』なるものを取り出しては使用して音属性をやり過ごす。どうやらそのアイテムにはその文字通りの、音属性の無効という効果を持つ消費型のシステムらしい。


 虚しく響き渡った咆哮に続き、マイティバトゥスは特技:フラッシュを選択。その巨大な翼を広げては、翼膜から閃光を解き放つ。

 そちらも回避による綺麗な前転でただひたすらと突撃を続けて。後方のニュアージュはNPC特有の動作による、目を瞑っての行動でそのままやり過ごす。


 二度にわたる攻撃を回避されて。自身のもとへの接近を許してしまった俺に向かって、マイティバトゥスは首を伸ばしてその怪奇的な顔面での拘束攻撃を繰り出し。

 それを咄嗟の剣士スキル:カウンターでいなしては顔面に反撃を与え。その攻撃で怯んだマイティバトゥスの胴体前に着地し、ソードスキル:パワースラッシュで翼膜を巻き込んだ広範囲に及ぶ弱点部位への攻撃でHPを削る。


 更に、パワースラッシュで怯んだマイティバトゥスに漂ってきたのは、冷気による水縹の靄。その予感を感じさせ、次にはヤツの怪奇的なその顔面が苦悶の表情で歪むこととなる――


「――わたしにできること――魔法使いスキル:ジェラート(ジュ・プー・)ランス(フェール)ッ!!」


 振り被ったロッドを前方で滞空させながら回転させることにより生成された水縹の魔法陣。それは先程よりも一つ多い五つの円形がニュアージュの周囲に散らばって。魔法の用意が整ったのか、ニュアージュは再び腕を振るいロッドを掴み、それと同時に五つの魔法陣から氷山のような氷柱が発出される。


 甲高い冷凍の音を響かせながら。この空間全てを凍らせんと響き渡る音を纏った氷柱は、遥か前方で怯んでいたマイティバトゥスの両翼に二本ずつと胴体に一本と突き刺さる。


 その魔法による効果は正に絶大であった。弱点部位へのヒットによる大ダメージを稼ぎながら。それが氷属性であったからか、はたまたヤツの身体を貫いてからも尚失速しない氷柱が壁に突き刺さったからか。マイティバトゥスを勢いで釘付けにしただけではなく、なんとニュアージュはその魔法の追加効果によって、ヤツに状態異常:行動不可を付与させたのだ。


 その光景には因果応報という言葉を感じさせず。無慈悲なる現実の数々には、やはり戦いにおいては切れぬ縁となる弱肉強食という言葉を思わせる。

 ニュアージュが作ってくれたこの隙を無駄にはしない、と。俺はその場での跳躍から、手に持つブロンズソードに青の光源を宿して。


「ソードスキル:エネルギーソード!!」


 エネルギーソードによる振り下ろしの一撃をマイティバトゥスの顔面に炸裂させ、俺は俺できっちりと大ダメージを蓄積させていく。


 悪魔の如き悲鳴を上げるマイティバトゥス。しかし、その悲鳴も実に虚しく中断させられるとは、当の本人もそう思いもしていなかったことだろう。

 

 時間経過による氷柱の破裂。その破裂に追加攻撃が設定されていたためか、状態異常:行動不可からの解放と同時に浴びせられた痛手に怯むマイティバトゥス。

 更なる隙を晒したヤツの胴体に、俺はエネミースキル:ワイルド・ストライクを選択し。その弱点部位にありったけの全力を注ぎながら、突きからの蹴りによる渾身の連撃を食らわせて後方の壁に叩き付けた。


「いいぞ!! その調子だニュアージュ!!」


「は、はいッ……!! わたし、もっと頑張ってみます……ッ!!」


 その声音には、今までには無かった充実感を感じさせた。きっと、何かの思いから吹っ切れたことによる、解放感からの喜びなのであろう。

 ニュアージュの気合いに感化されて。俺は空っぽになったMPのゲージを回復させるために聖水を取り出しては口に含んで行動を終えたのだが。

 その隙を絶好と見たマイティバトゥス。壁に打ち付けられながらも、しかしその首による超が付くほどのリーチは健在であり。俺のもとへと勢いよく伸ばしてはその拘束攻撃を仕掛けてくる。


 ……しかし、そんなヤツによる攻撃は、またしても虚しく空回りするとは――


「――恐れない心と共に――ロッドスキル:(トゥージュール・)(アヴェック・クール)(・パ・プール)ッ!!」


 祈るような動作と共に。ニュアージュによる祈りからのロッドの振り被りによって、俺の前方には一つの水縹の魔法陣が生成されて。

 眼前から迫り来るマイティバトゥスと隔てるように現れた魔法陣が回転すると、同時に周辺へと漂い出した凍えるほどの冷気。それに意識を向けていると、突如としてその冷気が縦へ縦へと伸び始めて。


 ロッドを手に持つニュアージュの、両手で押し出すようなモーションが行われた瞬間に甲高い冷凍の音が響き渡り。なんと、同時として俺の手前に水縹の壁が生成されたのだ。


『ギチチチチチチッギャアアァァアアッ!!!』


 その冷凍のタイミングも正に絶妙で。マイティバトゥスが俺に喰らいつこうとしたその瞬間であったためか、氷の壁の生成に巻き込まれたその首が氷漬けとされてしまう。

 そして、手の届く距離である俺の目の前には、虚しくもギリギリのところで俺に届かなかったヤツの顔面が存在していて――


「エネミースキル:ワイルド・ストライク!!」


 絶好のチャンス。俺は突きからの蹴りによる強力な連撃をヤツの弱点部位にきっちりと決める。

 衝撃によって破壊された氷の壁の破片を背景に。悲鳴を上げながら首を引っ込めたマイティバトゥスは、その全身を無気力に項垂らせては疲れ切った表情でこちらの様子を見遣ってくる。


 その視線の先には、俺の後方に存在する一人の少女の存在へと向いており。なるほど、厄介な法撃を使用してくる彼女からの始末を思考したかと読んで俺は振り返った。


「狙われているぞ!! 気を付けろニュアージュ!!」


「は、はい……ッ!!」


 怖がりながらも、力強く返事をするニュアージュ。

 同時として、マイティバトゥスは咆哮を張り上げる。その動作に気付いた俺は回避コマンドを選択して綺麗に攻撃を避けて。ニュアージュは再び冷気を発生させては氷の壁を生成し、それは障壁という役割を成して咆哮を防ぐ。


 しかし、次には彼女の姿が影に覆い尽くされていた。

 ボディプレスによる高度からの攻撃を仕掛けてきたマイティバトゥスへの対処は間に合わず。スキルで生成した氷の壁ごと彼女を押し潰したマイティバトゥスの脇から、彼女の姿が衝撃で後方へ吹き飛んでいく。


「キャアァァアアァッ!!!」


「ニュアージュ!!」


 すぐさまマイティバトゥスへ駆け寄って、ソードスキル:パワースラッシュでヤツの弱点部位を攻撃。

 それによって怯んだその隙を見て、俺は上空へと視線を向けながら大声を張り上げた。


「ミント!! ニュアージュを頼む!!」


「了解しましたっ!!」


 球形の妖精姿で上空に待機していたミントが、吹き飛んでいったニュアージュのもとへと急いで飛来し。少女の姿を成してから怯んでいたニュアージュのバッグからポーションを取り出して彼女に飲ませる。


 そんなミントの助力を鬱陶しく感じたのか。背後から俺に攻撃されても、尚少女二人のもとへと意識を向けていたマイティバトゥスはしぶとくボディプレスを選択して再びそちらへと飛び掛かっていく。


「……これが、今のわたしにできること――!! 魔法使いスキル:ジェラート(ジュ・プー・)ランス(フェール)ッ!!」


 尤も、彼女らの心配は微塵も無かった。

 ミントからの治癒を受けたニュアージュはすぐさま立ち上がって。ミントを手で制しながら背後へ回させ、ロッドを振り被っては魔法陣を生成。

 その魔法陣の数は更にもう一つ増えており。六つの魔法陣がニュアージュの周辺に漂っては、そこから巨大な氷柱が発出される。


 さすがに攻撃モーション中であったために。マイティバトゥスは回避をすることもなく魔法に直撃。自身の独壇場であった宙で身体を貫かれ、悲鳴を上げながら抜け出すために必死にもがき始める。


 その様子に、状態異常:行動不可の発症までには至っていなかったらしい。

 しかし、せっかくのこの好機を何としてでも活かしたいものなのだが、さすがに宙にいられると手も出せないな……と、つい俺がそんなじれったさを抱いていると――


「アレウスさん!! 構えてくださいッ!! ロッドスキル:(トゥージュール・)(アヴェック・クール)(・パ・プール)ッ!!」


 ニュアージュのスキルが俺の足元を覆い。

 ――瞬間。それは俺を押し出す形で壁を生成して。その壁に真下から突き上げられた衝撃によって、俺は天高くで氷柱に貫かれていたマイティバトゥスのもとへの跳躍を可能としてしまったのだ。


「ほんとにすごいな!! やるじゃないかニュアージュ!!」


「えへへ……」


 以前とは違い、否定することなく褒め言葉を素直に受け取ったニュアージュは、得意げな表情で俺に返事をする。


 そして、視線を目前でもがき続けるマイティバトゥスへと向けて。

 このままスキルをぶちかましてやると、そう意気込んで俺はワイルド・ストライクを選択しようとしたその時であった。


「…………っ!!」


 気付いたその時には、俺はその行動を実行していた。

 それは、画面に出てきたボタンを咄嗟に押したことから始まった特殊演出――――



『ギチチチチチッギャアアァァアッ!!!』


 マイティバトゥスが氷柱を破壊したその瞬間に、俺はヤツの胴体にこのブロンズソードを突き刺していたのだ。

 胴体に突き刺したそのブロンズソードはしっかりとマイティバトゥスにくっ付いており。そのブロンズソードを頼りによじ登ったことで、俺はヤツの胴体にしがみ付いて乗り出すという今までに無い演出と直面。


「ご主人様!! そちらは戦闘システム:『ライド』でございます!! 背や羽といった、モンスターの死角となる部位に武器を突き刺し固定することによって、モンスターの制御を奪うことが可能となるシステムです!! そちらの戦闘システム:ライドによる特殊演出へ移った際には、一定の間によるモンスターの抵抗を乗り切ることに集中なさってください!! もし、その抵抗を乗り切ることができたその暁には、そのモンスターに特殊な転倒状態を付与させることができます!! 戦闘システム:ライドに失敗した際には、その代償として大きな隙を晒してしまうこととなってしまいますが。それでも、その成功による特殊な転倒状態におかれましてはそのモンスターに大変大きな隙を生み出すことが可能であるため、正に形勢逆転を狙うには打って付けとなるハイリスク・ハイリターンな戦闘システムでございます!!」


 要は、QTE。所謂、クイックタイマーイベントによる特殊なイベントに突入したということなのであろうか。


 戦闘システム:ライド。その名の通りに今マイティバトゥスの胴体及び背に乗っている俺には、ある一つの目的が追加されていた。

 それは、このソードを特定の部位に突き刺したまま一定時間におけるヤツの抵抗を凌ぐことができれば、こいつに多大な隙を作ることができるというもの。


 ライドで勝利した際の結果には、正に今の状況に相応しい形勢逆転の可能性を高める希望を生み出すことができる相当な褒美が用意されているらしいのだが。

 ……しかし、その効果はさすがハイリスク・ハイリターンということだけはあり――


「現在の状況でありますと、グロテスク・マイティバトゥスとのライドを制するいくつかの条件が存在しております!! それらは主に、制御による障害物や壁への叩き付け。及び地上への落下を促す揺さぶりとされているため、それらの条件を意識した制御を心掛けるようにしてください!!」


「せ、制御……!! 落下を促す揺さぶり……!? そ、それってどうやるんだ――うぉァっ!!」


 せっかく掴んだこのチャンス。しかし、そんな初見であるシステムを前にして、何をどうすればいいのか全くわからず。終いに、慣れない操作で慌ててしまった俺の隙に付け込む形で猛烈に暴れ出したマイティバトゥスの抵抗によって。


 ……正に瞬殺。そのシステムに敗北した俺は、あっさりとヤツの背から振り落とされてしまった――――

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