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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
二章
81/368

エリアボス:グロテスク・マイティバトゥス【生命が果てる瞬間との直面】

「いや……ぁッ!! 痛……いッ!!」


 状態異常である行動不可と盲目を発症したニュアージュに成す術は無く。どこからともなく訪れた全身の痛覚にただただ悲鳴を上げることしかできない彼女の姿を見据えて、俺は咄嗟に駆け出す。


 特技『フラッシュ』による盲目で隙を晒してしまったことから、ニュアージュへの攻撃を許してしまったこの現状。今は何としてでもの彼女の救出へとマイティバトゥスへの接近を試みてみるのだが――


『ギチチチチチッ!!!』


 ニュアージュを噛み締めたその頭を振るい。その団子のような巨大な繊毛で隠れた首を伸ばしてうねらせては、鞭のようにしならせて俺に叩き付けてきたのだ。

 眼前からの攻撃を回避するものの、地面に打ち付けられた頭部で拘束されているニュアージュにダメージが入ったのか。その瞬間にも喉がはち切れんばかりの短い悲鳴が上がる。

 

 このままではニュアージュが死んでしまう。

 法撃職という防御力の欠点を抱えた彼女の身を案じながらも、救出の術が見当たらなくて焦りばかりが募っていく内心。

 回避による前転を終えた俺の目の前からはヤツの右翼が迫り来て。咄嗟に取った剣士スキル:カウンターによる透明の気を纏いながら、その瞬発力のまま無我夢中にブロンズソードを振るう――


『ギチャチャチャギャァアッ!!!』


 すると、俺の手元に確かな手応えが渡ってきて。何という偶然か、俺のカウンターは翼膜に直撃という弱点を突いた強烈な一撃へと変貌。

 このダメージに怯んだマイティバトゥスも悪魔の如き悲鳴を上げると同時に、咥えていたニュアージュを口から落とす。

 助けることができた……!! 内心でホッと安堵をついたのも束の間。ヤツはニュアージュを口から落とすなり、すぐさま視点を彼女へと移して。咄嗟にその場で浮き上がるような跳躍を行っては、あの強力なボディプレスを繰り出してきたのだ。


 余裕の無かった俺にはどうすることもできなかった。

 マイティバトゥスのボディプレスは怯んで転がっていたニュアージュに直撃。付近にいた俺をノーダメージの衝撃波で後退させながら。直撃を受けたニュアージュは吹き飛ばされて大広間の壁へと打ち付けられる。


「ごふッ――がふァッ……!!」


 今にも内臓が口から飛び出しそうな嗚咽を漏らして。目をむき出しに痛苦の表情を浮かべてから。

 

 まるで魂が抜けたかのように。ニュアージュは力無く、その場で項垂れてしまったのだ――


「ニュアージュッ!!! おい……嘘だろ……ニュアージュ!! 頼む……! 死ぬなよ……死なないでくれ……!! 頼む、起きてくれニュアージュッ!!!」


 悲惨な光景を目にして絶望に染まった喚声を上げながら。彼女の姿を隔てているマイティバトゥスへ捨て身の突撃としてソードスキル:パワースラッシュを振り被る。

 ボディプレスによる隙を盛大に晒していたヤツに対して、弱点である胴体と翼膜を巻き込んだ広範囲の一撃。それは一度の攻撃で綺麗に複数の弱点部位へとヒットして。その場で飛び起きたマイティバトゥスは標的を背後の俺へと向けてくる。


「ミント!! なァミントッ!! ニュアージュを!! あっちにいるニュアージュを助けてやってくれッ!!」


「了解しましたッ!!」


 心配で強張った俺の表情と声音は、もはや主人公が行うべき姿ではない完全に間抜けなことにきっと違いなかった。

 それでも。そうであったとしても、俺はニュアージュのことが心配だったから。


 仲間である彼女が死んでしまうのが嫌だったから。


 俺の必死な叫びを聞いたミントはすぐさまニュアージュのもとへと飛来して。宙で少女の姿を成しながら着地して駆け寄っていく。

 そして、項垂れたニュアージュに近付いて様子を見たミントは、彼女の息を確認して……。


「……HPがゼロ。ニュアージュ様は瀕死状態に……このままでは時間経過による死亡状態へと移行してしまいます――」


 どうすることもできないのか。俺はニュアージュを守ることができなかったのか。

 その間にも眼前からはマイティバトゥスが襲い掛かってきては、その不気味な嘲笑を浮かべながら右翼の殴り付けで俺への攻撃を仕掛けてくる。


「うぁ……あァァア!! カウンタァァァァアッ!!」


 絶望に侵食されたこの心。それでも戦闘を覚えていたこの身体は自然とスキルを選択していて、それは無心によるソードでのいなしを可能とする。

 その動作は自棄とも言うべきものだった。全身を仰け反らせてからの殴りつけるようなソードの振り被りで右翼の翼膜に反撃を直撃させて。悲鳴を上げるマイティバトゥスは死角からの左翼による殴り付けを繰り出してくるものの、それも同じくカウンターで強引に突破する。


「ミントッ!! ニュアージュはどうすることもできないのかッ!?」


「お待ちくださいご主人様ッ!! ただいまニュアージュ様のバッグを調べておりますッ!!」


 怯んでよろけたマイティバトゥスから目を離して。心配と不安に侵食されたこの心に身を全て委ねていた俺はミントとニュアージュの方向へと見遣る。

 HPがゼロによる瀕死状態。最悪の結末を迎えてしまったニュアージュの亡骸の前で、必死に何かを探しているミントの姿。


「非常に極稀であるアイテムではありますが、モンスターを恐れるその性格とNPCであったら、きっと…………あった!」


 ニュアージュのバッグから何かを取り出したミント。

 それは植物の根っこのようなもので。見るからに調合か何かの材料に見えるその物体を迷わずニュアージュの口元に含んでは手動で無理矢理飲み込ませて。

 瞬間。ニュアージュの全身にはキラキラと輝く透明のオーラが立ち込めては、先程まで死んでしまっていたニュアージュがおもむろに目を覚ましたのだ。


「ご安心くださいご主人様!! アイテム:『生命樹の根っこ』の効果により、ニュアージュ様は瀕死状態から復帰いたしました!! 但し、こちらのアイテムは先程ので全てを使い切ってしまったため、二度目の蘇生は行えません!!」


「ッ……!! ……何がなんだかわかんねぇけど、本当によくやったミントッ!!」


 ニュアージュは完全に死んだわけではなかったということなのか……?

 まぁ取り敢えず落ち着けと自分に言い聞かせて。そして現状の流れを読むに、HPがゼロになることで自動的に移行するのが『瀕死状態』で。その瀕死状態のまま時間が経過することによって『死亡状態』を迎えて完全に死んでしまうと……。つまりそういうことなのだろうか。


 命懸けの戦闘中であるために詳しい情報を仕入れる時間も無く。物音を耳にして振り向くと同時に、体勢を整えたマイティバトゥスが俺を叩き潰さんとその右翼を振り上げていて――


「剣士スキル:カウンター!!」


『ギチチチチチッ!!!』


 なんと、翼による攻撃の中断からオレンジ色のオーラを纏ったマイティバトゥス。

 モーションキャンセルからの特技『フラッシュ』を直で受けた俺はまんまとヤツのフェイントに引っ掛かったわけであり――


『ギチチチチチッギリギリギィーッ!!!』


 身の毛がよだつ不快な音波も受けてしまい、この瞬間にも俺は一気に二つの状態異常を宿してしまうこととなってしまった。

 ただでさえ現在のHPが三分の二だというのに。完全に廃人となった俺の全身には痛覚が走り渡って、直後に身体の浮く感覚と何かに挟まれる感覚が訪れる。


 新たな状態異常:拘束。どうやら、俺は先程のニュアージュ同様にその口で咥えられてしまったらしい。

 身動きも取れず、もがくこともできず。ただ悲鳴を上げるしか他に無いためか俺はただただ唸る。


 伝わってくる感覚はHPの消耗のみ。状態異常:盲目による全ステータスの低下が後押しをする形で、俺はこのままじわりじわりといたぶられながら殺されるというわけか。

 どうすることもできないこの現状に、もはや諦めの境地にまで達してしまっていたその瞬間――


「ニュアージュ様!! アイテム:ホイッスルを使用してください!!」


「え、えっ!? ホ、ホイッスル……!? た、確かにコウモリ種には音属性が効くけれど――」


「あちらのエリアボス:グロテスク・マイティバトゥスにも音属性が有効でございます!!」


「え、えりあぼす?? と、とにかく使ってみるね……!!」


 会話の直後に大広間全体に鳴り響いた、ホイッスルの耳をつんざくような甲高く鋭い音。

 瞬間にマイティバトゥスは悲鳴を上げながら俺を口から放して。風圧を感じた次にはボディプレスの衝撃とニュアージュの悲鳴が聞こえてくる。

 拘束から解放された今、俺は今すぐにでも戦闘への加勢をしたいものなのだが。


 ……如何せん、状態異常:行動不可と盲目を発症しているこの現状では身動きすら取れない――


「ご主人様!! バッグを拝借いたします!!」


 すると、すぐ傍からはミントの声が聞こえてきて。次には身体を仰向けにされる感覚と共に後頭部には柔らかい感覚を感じ取り、その直後には俺の視界は大広間の天井を映し出した。


「アイテム:スッキリパッチリを使用いたしました!! 今現在使用したこちらのスッキリパッチリが最後の一つではありましたが、この場におきましては致し方ありません!! あと、HPがごく僅かであるため、残り一つのみでありますポーションも使用いたします!!」


 膝枕をされたまま、仰向けの状態でポーションを口に押し流されて。喉に詰まって鼻にも黄色い液体のポーションが流し込まれていってしまったが、仕様のためにHPは全回復。

 ありがとうという礼と同時に状態異常:行動不可が完治していることにも気付き。俺は口や鼻からポーションの黄色い液体を垂らしながら飛び起きてはニュアージュのもとへと駆け出す。


『ギチチチチチッギリギリギィーッ!!!』


 壁際で振り向いてきたマイティバトゥス。その口元には再びニュアージュが咥えられており、その見た目の通りに状態異常:拘束であることが伺える。

 そんな彼女を咥えながら。マイティバトゥスは浮かび上がるような跳躍からのボディプレスを俺に向かって繰り出してきて。その着地に合わせて、俺はカウンターを発動して透明の気をこの身に纏い出す。


「剣士スキル:カウンター!!」


 ボディプレスの衝撃と共に巡る瞬発力でいとも簡単に攻撃を回避して。

 ヤツのボディプレスをすり抜けるように移動した俺は、カウンターのモーションキャンセルからの次なる選択肢を選んでは全身を回転させる。


 その行動は、今までの俺とはまるで異なる型に嵌らない俊敏な動きであった。

 これはきっと、これまでの戦闘における経験を介して培われてきた知識が利かせたシステムの応用。つまり、カウンターのモーションキャンセルからの他の行動という戦闘のテクニックを、俺は自然と身に付けていたらしい――


「ソードスキル:パワースラッシュ!!」


 胴体の上まできたところで。ブロンズソードに橙色の光源を宿して力ずくに薙ぎ払う。

 それによる広範囲の一撃はヤツの両翼の翼膜と胴体に見事命中して。空中での攻撃のヒットによる自動的な退きの勢いのまま、突っ伏したまま叫び声を上げるマイティバトゥスの顔面の手前に着地する。


「エネミースキル:ワイルド・ストライク!!」


 既に拘束から解放されていたニュアージュは俺の後方でしりもちをついていて。

 がら空きになったマイティバトゥスの顔面に向かって、俺は突破力のある突きからの今あるスキルの中で一番強力な蹴りの一撃をお見舞い――



『ギチャチャチャギャァアッ!!!』


 悲鳴を上げては飛び起きてからの飛び退きで俺達から距離を離すマイティバトゥス。


 その戦況は、互いに一歩ずつ譲っては譲り返してといった悪い意味で安定感のある状況。

 互角な戦いと言えば響きは良いものの、そんなものを望んでなんかいない俺にとってはただの厄介な展開にしか過ぎなくて。それでいて、もう二度とニュアージュに危険な目を合わせるわけにはいかないために、時間が経つにつれてみるみると緊張感が増えていく気を張り続けたこの戦闘が今も尚続いていて。


 後方のニュアージュは自身のポーションを飲んでHPを回復し。それで思い出した俺は口元の垂らしていたポーションを袖で拭う。

 まだまだ戦闘は続きそうだ。いや、むしろ、ミントに加えてニュアージュという味方と共に行うメインクエストのイベント戦はここからが本番と言っても過言ではなかった――――

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