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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
二章
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迷宮遺跡に降り立つ、暗闇と黄昏の悪い夢

「な、なんだよあれ……!?」


 目にした光景に、同時として驚愕と恐怖が心中の感情を埋め尽くす。それは目にしたくなかったという、切なる願いが無意識に表れたものであったのかもしれない。

 今の状況から察するに、避けられない一つの展開を前にして。どうしてもあんなやつとやり合わなければならないのかという、これから起こるのであろう一つの物事に対して。


 驚愕と恐怖の中にその身を隠した死への予感。

 僅かな黄昏をその背に浴びながら、"それ"はこちらの姿をその瞳で釘付けにするように。意識が吸い込まれそうになるような光の無い不気味なその目で俺達を見据えながら。

 それはゆっくりと羽ばたいて降りてくるなり、獲物を見つけた喜びで笑うかのような、大きな瞳の下にある口を不適に吊り上げてきた。



 それの全長は四メートル近くある、黄昏と暗闇に染まった気色の悪い黄色の巨大な羽を持つ巨体で。頭部から首元にかけては、団子のような膨らみと、その根元には三重ものシワが刻まれた身の毛もよだつ白色の生恐ろしい繊毛の塊が。羽の腕の部分にも、頭部ほどではないが白色の繊毛がびっしりとめぐっており。その手には鉤状の鋭い爪が反っている。

 一方で、その生恐ろしい繊毛の塊とは不釣合いである小さな胴体と、羽による飛行を可能とした膨大な翼膜には繊毛が一切無く。その気色の悪い気色には僅かな体毛と、目が回るほどにまで交錯する体の線がびっしりとめぐらされている。


 見た限りの様相に言葉を添えるとこのような文章となり。どこかモンスター:黄昏コウモリ系統の不気味な見た目を思わせるコウモリの姿に既知感を抱いて。

 しかし、あまりにも衝撃的であったのはその頭部の部分であり。最初に目撃したその部分によって俺は、目の前の光景が何かの悪い夢であるのかという錯覚に陥ることとなった――


『ギチチ……ギチチ……』


 大きく膨らんだ、団子のような繊毛の塊。それに包まれた頭部から顔面を覗かせてはこちらの姿を薄気味悪く見据えてくる。

 その顔面にあたる部分は円形状となっていて、その円形の五割は占めるであろう不気味なまでに見開かれた目と。残りの四割は不適に吊り上げられた、怪奇を思わせるおぞましい笑みを浮かべる口が貼り付けられたかのように存在していて。

 

 ホラーゲームに出展し、鬼役としてこちらを追い掛けてくるような。そんなおぞましい造形の容貌を惜しみなく俺達に向けてきては、ようやく獲物を見つけたと言わんばかりに張り上げた、鼓膜を掻き回してくるかのような甲高い奇声。

 この奇声が大音量で発されることによって咆哮という音圧へと変化し、この不気味で気色の悪い巨大生物の咆哮に堪らず耳を塞いで怯む俺達。


『ギチチチチチッギリギリギリキィーッ!!!』


 咆哮をあげては、怯むこちらの様子にご満悦な不敵の笑み。

 余程なまでに余裕があるのか。その自信さえも思わせる気色の悪さには、もはや奇怪を通り越して愛らしささえも感じてきてしまえる。きっと、そう勘違いしてしまうほどにまで、眼前の光景を目にした俺の気が狂い始めているのだろう。


 そしておそらく、そんな気狂いの症状を発症させるステータスが存在しているのか。俺の内なる何かが磨り減ったこの感覚を察知して、あぁ、目の前の巨大生物を目撃したことで俺の何かが減少したなと、同時としてその場での新たな発見をすることとなった。


「ご主人様っ!! お気を付けくださいっ!! 前方にその姿を現したあちらのモンスターは、こちらのダンジョン:咽び泣き先人のモニュメントの最深部に出現いたしますエリアボス:『グロテスク・マイティバトゥス』でございますっ!!」


 咆哮が終わると同時に、塞いでいた耳から手を離して俺に解説を始めるミント。

 その声音からは驚愕や恐怖はまるで感じさせず。目の前に見据えた一つの目的を前にして、ハキハキとした調子で詰まることのない円滑な解説で。

 されど緊張によって所々は声を震わせながら。しかしミントは現状を受け入れているのか、誰よりも冷静に自身の役割をしっかりとこなしていく。


「あちらのエリアボス:グロテスク・マイティバトゥスは、こちらのダンジョンに迷い込んだ黄昏コウモリが遺跡コウモリへと変化を遂げ。そこで長年に渡る歳月をこの遺跡の内部で生き延びたことによる更なる凶暴化と、目を見張るほどの体格を身に付けて。次第にこちらのダンジョンの内部を統べる王として君臨するほどの実力を得ることで、迷宮遺跡から外部への脱出及び内部の統治を許されたコウモリ種の変異体でございますっ!!」


 それは主人公が傍にいることからの安心感か。それか、これはミント自身の人としての成長によるものなのか。

 その真実は依然として判らないままではあったが。そんな勇敢なミントの声を聞いてからはなんだか負けられないなと、俺も眼前の存在を相手にこの心に闘志を燃やしていく。


「その歳月によって磨かれた性格は、自身が生存することのみを視野に入れた凄惨たる惨たらしい残虐性が成されており。幾年もの生存競争に勝ち残るがために半ば変異による進化を遂げたその巨体に

は、大半ものコウモリ種とは似ても似付かない強靭な筋力と強力な耐久力が秘められておりますっ!! そのために、コウモリ種が得意といたします変則的な行動を本能として維持していながらも、体術による強引な力任せの攻撃を可能とした上にその残虐なる性格から非常に高い危険度を誇るモンスターとして、ごく一部の冒険者達にその存在が認知されている極めて珍しい危険なモンスターでございますっ!!」


 その残虐性は奇怪となって表情に表れて。その危険性は怪奇となって体格に表れて。

 正に、怪物というに相応しく。生ける怪奇と言っても何の過言でも無いであろうそのビジュアルに未だ怯みながらも。それでも俺はミントのため、ニュアージュのため、そしてこのゲーム世界の命運を託された主人公という役割のために。


 怯えるニュアージュを壁に寄り掛からせてから、俺は意を決してブロンズソードを握り締めた――



「アレウスさん……ッ! わたしも……ッ!」


「……ニュアージュ?」


 背後から不意の声で振り向いたその先には、両腕で全身を持ち上げるように立ち上がろうとするニュアージュの姿が。

 しかし心身共に傷付いたその状態であったためか、腕の力が抜けてはガクンと肘を折り曲げてしりもちをつくニュアージュ。


「無茶だけはダメだニュアージュ! ここは俺が出る――」


「いいえ……ッ! 元はと言えば、わたしが招いた災いです……! ここは責任を取るためにもわたしがお相手します……ッ!!」


 しかし、自身の言葉に追いつけないその身体が、ニュアージュの性格や真意を露骨に表していた。

 全身を震わせ。声も歯がカチカチと打ち鳴らされる音で絶え絶えで。その震えによって立ち上がれない身体で必死にもがいては、これではダメだと自身の無力さを悔やみながらポーションを取り出して回復を図る。


 そして、ようやく立ち上がったニュアージュ。だが、その目の前による恐怖で歪んだ陰のある表情には、これからの出来事に対する鬱をどこか思わせる。

 ……一目瞭然だった。どこからどう見ても、今のニュアージュはとても戦えるコンディションではない――


「……いけるのか? ニュアージュ」


「いけますッ! やります……これも全て、わたしがダメだから起こってしまった出来事なのですから。わたしがなんとかしなければなりません……」


 一体、何にそんな自身を責めているのかはまるでわからない上に、今にも倒れそうなほどにコンディションがボロボロな少女ではあるが。本人が戦う意思を見せている以上、こうして戦力が増えることはとても心強いものだ。


「……わかった。それじゃあ俺はニュアージュの、その起こしてしまったという出来事を鎮める手伝いとしてこの戦いに臨むとするよ。だから、皆でこの戦闘に勝利して、そして全員で生存したあとで少しだけでも教えてほしい。何故、ニュアージュがそれほどまでに自分自身を責めるのか。を」


「……全員で生存、ですか……。アレウスさんはわたしを見捨てないのですね」


「当たり前だ」


 今の流れに乗った結果、多少強引ではあったもののニュアージュの性格の根本的な部分を知るための約束を交わすことができた。

 彼女のことをより一層と把握することができれば、何かニュアージュの支えになれるかもしれない。そんな先走った結果の言葉ではあったものの、遠回しで共に生き残ろうというメッセージを受け取ったニュアージュは特段悪い気はしていなかったようで。その顔に力の無い笑みを浮かべながら、不安を交えた足取りで俺の隣に並んで眼前のエリアボスに立ちはだかる。


「このミント・ティーも、ご主人様とニュアージュ様の支えになれますよう、全力のサポートを心掛けてゆく所存です」


 球形の妖精姿となったミントも俺とニュアージュの間に加わったことで、全員が戦闘体勢へと移行する。

 この瞬間にも、イベントから戦闘へと画面が移り変わったのか。目の前のエリアボス:グロテスク・マイティバトゥスはその不気味な全貌を気色悪く揺らしながら、立ちはだかった俺達に勝負を仕掛けてくる。


 これを境として。このダンジョンのエリアボスであり、今回のメインクエストの大ボスであるボスモンスターとの戦闘が開始されることとなった――――

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