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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
二章
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ダンジョン:咽び泣き先人のモニュメント

「スキャン――完了。ご主人様、どうかご注意ください。こちらのダンジョン:咽び泣き先人のモニュメント、内部に侵入したことによる情報の収集を行いましたが……僅かでありながらも、こちらのダンジョンは現在のご主人様のレベルを凌ぐ難易度が設定されております。よって、これまでとは比にならないほどの苦戦を強いられることはまず間違いありませんね。……どうか、細心の注意を」


 ダンジョン:咽び泣き先人のモニュメントに侵入した俺とミント。その縦長の入り口を抜けたその先では、俺は思わず眼前の光景に気を取られていた。

 そんな俺の脇であっても、冷静であったミントは自身の役割をしっかりと遂行していて。入手した情報を、緊張を帯びた神妙な表情でおそるおそる俺に報告をする。


 つい以前までは、お金稼ぎ目的で行ってきたサブクエストによって、俺は持て余すほどにまで余分な経験値を得ていたものであったが。

 そんなレベルをもってしていても、どうやらこのダンジョンに設定されたレベルを超えることができず。現在の俺を凌ぐ強敵が現れるというその状況を耳にしたことで、俺は無意識にも生唾を飲んでは言葉も出せずに、ただ無言で頷くことしかできなかった。


「……どんな強敵が待ち伏せていようとも。俺は何としてでもニュアージュを見つけ出して、この危険な場所から無事に救い出すだけだ」


「このミントも、ご主人様と同様の信念をもってして、落ち度の無いサポートを心掛けるべく全力を尽くしてまいります」


 互いに意思を確認し合い。同時に、一斉にと走り出す俺とミント。

 共通する信念を抱き、目の前に見据えたメインクエストへと向かって。俺達はフラグという名の、未知へと続く運命へとこの足を運んでいく――



 

 ダンジョン:咽び泣き先人のモニュメントの内部は、神秘的の一言で全ての説明が片付いた。

 内部はあからさまに人工の手が施されており、その光景は集会所を意識しただだっ広い構造をしていて。石を中心とした灰色で成り立ち、その灰色には不可思議を思わせる濃い青のラインが縦横無尽に走り渡っている。

 天井には、その外見にも漂っていた艶かしい紫の靄が充満しており。理解し難い模様が彫られた石膏の柱が所々に設置されていては、その天井へと天高く伸びている。


 この遺跡が造られた目的はまるで判らなかったが。いたるところに散らばった石膏の残骸を見るに少なくとも、この内部はまず安全ではないという身の危険性を予感することのみが可能であり。同時に、相当の年季が入っていることから。この遺跡は造られてから長い年月が経過しているのだろうといった雰囲気を伺えて。

 どんな目的であれ、こんな遺跡を造った人間達はとても狂気の沙汰ではなかったのだろうなという感想を抱かざるを得ない、それはまぁなんとも不可思議で不気味な神秘を放つ内部であった。


 それは正に、生ける廃墟と言ったところか――


「ご主人様!! お気を付けください!! 目前から迫り来るモンスターは『彷徨い犬』と呼ばれる、より一層な凶暴性をその身に秘めた『陰り犬』の上位互換にあたるモンスターでございます!!」


 迷い込んでしまったことによって、この遺跡の色に染まってしまったのか。

 その青と紫で成り立つ、気色の悪い見た目をした『陰り犬』……ならぬ『彷徨い犬』は。俺を発見するや否や、貴重な食料を見つけたと言わんばかりに大量の涎を口から垂れ流しながらこちらへと飛び掛かってくる。


 ミントと共に、このダンジョンをひたすらに奥へと歩み進めていたものであったが。さすがは迷宮と呼ばれるだけはあるその内部に、俺は戦闘とは異なる場面にてその苦戦を強いられることとなっていた。

 それもそのはず、フロアと思わしきだだっ広いエリアを抜けたその先には巨大な壁が立ち塞がっており。その左右には突き当たりからの直角と曲がる通路がそれぞれ奥へと続いていて。


 その通路を何となく選んでしまった結果が招いた無限への誘いによって、既に俺は親身共に疲労を感じてしまっていた。


「ご主人様!! お気を付けください!! 頭上から迫り来るモンスターは『遺跡コウモリ』と呼ばれる、より一層な凶暴性をその身に秘めた『黄昏コウモリ』の上位互換にあたるモンスターでございます!!」


 そう、俺は敢え無く迷宮の餌食となってしまっていた。

 どこを歩いても似たような一本道にばかり辿り着いてしまい。その先からは次々とモンスターが襲い掛かってくる。

 そのモンスター達もまた、俺と同様にこの迷宮の被害者であるらしく。その空腹や閉鎖空間によって満ち足りた狂気を全身から放ちながら。唯一の食料であろう俺に真正面から飛び掛かってくるのだ。


 今も迫り来る『遺跡コウモリ』もその被害者の一人に過ぎず。その遺跡の青で染まった全身に、身体の部分にジグザグと走る紫が自身を蝕んでくる狂気をものの見事に体現してしまっている。


 ここは生ける廃墟。ここは、好奇心を餌とした狡猾な化け物の体内。

 ダンジョン:咽び泣き先人のモニュメント。この遺跡の内部に迷い込んでしまった以上、この内部で唯一行える行動と言えば、もはや咽び泣くこと以外に他はあるまい――



「がッ……ハァ、ハァ――ミ、ミント……これは、一体。次は、俺はどこを歩いていけばいいんだ……?」


 減少したHPをポーションで回復しながら。盲目となった視界をスッキリパッチリで回復しながら。

 段々とその個数が消化されていく回復アイテムを見送りながら。俺は妖精の姿を成しているミントにナビゲートを頼む。


 しかし、そんな俺に申し訳ありませんの一言を伝えてから、涙ながらに謝り続けるミント。

 自身の周囲にホログラフィー状のプログラムを出現させてから、必死となってスキャンを行っていく彼女の姿が、現状の深刻さを悠に物語っていた。


 球形の妖精からポロポロと零れてくる粒の涙。主人である俺以上に焦りを抱くミントを不安な面持ちで見遣っていると、ふと背後からの気配に気付いてはそちらに視線を向ける。

 その先から走り寄ってきたものは、もう何度目の遭遇ともなる『陰り犬』の姿。それを確認してはブロンズソードを取り出して、俺も必死となって応戦という行動をただひたすらと繰り返し続けていった――――

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