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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
二章
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メインクエストのソロ攻略に向けて

「ミント。ユノが今、どこにいるのかを調べてくれないか?」


「はい。ユノ様及び、NPC:ユノ・エクレールの現在位置でございますね。それでは、スキャンいたします。少々のお時間をいただきますね」


 俺からの指示を受けるなり。ミントは周囲にホログラフィー状のプログラムを展開させて。数字から図面、何かの構図やユノと思わしき淡い光源の影が透明となって空間に浮かび上がる。


 メインクエストであるキャシャラトからの依頼を引き受けた俺は、宿屋、やるせな・インから出るなりミントに指示を送った。その内容は、前述の通りにユノの居場所の把握。

 これから赴くダンジョン:咽び泣く先人のモニュメントという場所は、その名前からしてとても危険だ。それも、構造が迷宮であるということを含めると、何の策も無いまま無闇に突入したところで犬死する未来しか見えない。


 だが、そんな危険なダンジョンがメインクエストの舞台となってしまった以上は挑まなければならない。それも、今回はニュアージュの身が心配なために、時間との勝負でもある内容にそう違いあいだろう。

 そのため、今できることと言ったら、即席ながらの戦力を増やすことだと考え。結果、パーティーメンバーであるユノを連れていこうという計画を立てた俺。


 我ながら、この計画は完璧だった。何せこれは、新たなる未知というユノの大好物を餌とした、大きな釣り針であるからだ。

 それに、ニュアージュの身に危険が迫っていることを伝えれば、未知どころじゃないとユノは身を乗り出して参加してくれることだろう。


 っと、俺はつい先程まで、そんな淡い期待を抱いていたのだが――


「スキャン――完了。はい、それで、NPC:ユノ・エクレールの現在位置でありましたね。こちらに関しましてなのですが……えっと、その……どうやらユノ様は現在、昨日の野原を東北の方角へと、ただひたすらにその足を走らせているようです。それも、あの農場よりも更に奥へ。現在の速度から見るに、できる限りの全速力で野原を駆け抜けております」


「……は?」


 何と言う運の悪さというか。はたまた、これもメインクエストの一環であったのか。

 ユノとの同行というこの俺の計画は、まさかこれほどまでに虚しく空回りをするハメになるとは正直思ってもいなかった。


 最初こそは、一体何故、そんな方角へと突っ走っているんだと疑念を抱いてしまったものなのだが。昨日の状況とユノの様子を改めて思い返してみると、その原因がみるみると浮き彫りになっていって……。


「……これ、ユノのやつ。昨日の子供達が逃げていったその経路を辿っているな……」


 ニュアージュに唐突の罵倒を浴びせられたことが、余程なまでに悔しかったのか。

 あくまで俺の予測にしか過ぎないのだが。要は、昨日の子供達を見つけ出して、また叱ってやろうと。ユノはその怒りの感情のままに現在の行動を起こしていて、そんな彼らの住処の特定へと全力を尽くしているのかもしれない。と、なんともまぁ、この状況でなんてタイミングの悪いことかと自分自身の悪運を憎む俺。

 

 しかし、もうそうなっていてはどうすることもできないため。結局、俺はミントを連れて二人で赴くことに決めて。しかし次なるダンジョンがとても恐ろしかったがために、中々の高級品である消耗アイテム:スッキリパッチリを計五つ購入。

 これで盲目は怖くないぞと意気込んで。それでもって次は音属性の耐性を持つ防音を得るためにプロテクターの購入を……と思ったが、そんな今更ながらのショッピングに時間を費やすわけにもいかないため、俺は多少なりの妥協と共にミントを連れて目的地へと向かっていったのであった――




「到着です。眼前にて、フィールドの特徴とは異なる特殊なオーラを醸し出しているあちらの遺跡が、今回のメインクエストの舞台でありますダンジョン:咽び泣き先人のモニュメントでございます」


 ミントの案内によって最短距離のルートを辿り。この金色と黒の世界に惑わされることもなく、真っ直ぐと目的地に赴くことができた俺は足を止めるなり一息をつく。


 目の前には、艶かしい紫のオーラを放ちながら、物質として触れられそうなほどにまでハッキリと濃厚な靄がかかる遺跡が存在していた。

 それは年季が入っているのか、全体的に黒ずんでおり。その形はお城と墓地の双方を思わせ。それのいたるところには黒色の苔が蔓延り。入り口と思われる縦長の空洞からは、気持ちやや青みを帯びた明るめの彩色を伺うことができる。


 その見た目こそは禍々しいというよりも、なんだか意味有り気な建物という印象を与え。この廃墟には独特なロマンというかぐわしい匂いが放たれている。

 だが、そんな危険な香りこそがこの遺跡の魂胆であり。その正体を知っているからこそ、こうして無知である人間やあらゆる生物を手中に収めんとする、好奇心を逆手に取ったあの遺跡の狡猾な手段に思わず感心さえもできてしまえる。


 まるで生きているような遺跡。そんな印象を抱かされた俺は、同時に、その咽び泣く先人という名前の由来を何となく理解できたような気がした。


「……さて、行こうか」


「このミント・ティー、例え深淵なる無限の迷宮に捕らわれようとも、ご主人様にお使えをする使命のみは死しても永劫忘却の彼方へと葬り去ることのないよう、強靭なる精神を意識して眼前の物事へと取り組んでまいります。そして、このミント、ナビゲーターとしての本領を発揮することにより、ご主人様が迷宮に捕らわれることのないよう尽力なるサポートを心掛けてまいります」


「頼りにしているよ、ミント。それじゃあ、一刻でも早くニュアージュの身元を見つけ出そう」


 眼前の生きているような遺跡に怯みながらも、ミントは意を決した表情を浮かべながら。俺の言葉に無言で頷くなり、その律儀な小走りで歩き出した俺の背を追い始める。


 

 この先に待ち受けている展開とは一体何か。果たして、ニュアージュは無事のままでいるのだろうか。


 様々な疑念や不安が募ってくるこの瞬間ではあるが。こうした未知への不安も、ゲームにおいては楽しみの一つであることは揺ぎない確かな事実。

 であれば、主人公である俺はこの要素を楽しまなければならない。いや、ならないというよりは、この先の展開やニュアージュに対する不安の募るこの気持ちの奥底には、同時に、期待による高揚感がこみ上げていることにきっと違いなかった。


 ここはゲーム世界であり。同時に、現実の世界でもある。

 そんな現実のゲーム世界を主人公として生きる俺は、こうして主人公という役を演じながら。今日も、その足を未知なる要素へと歩ませていくのであった――――

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