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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
二章
72/368

召喚獣による社会問題

「それでは、わたしは取引に行ってまいりますね~」


 穏やかな微笑みを浮かべて。その高貴なお嬢様の雰囲気を漂わせながら、ニュアージュは農場を営んでいるのであろう、農場の入り口の清掃を行っていた主人のもとへと向かっていった。

 

 現在、俺達はニュアージュの目的地である農場に到着したところであり。その緑が広がる野原の中に立てられた建造物には、酪農の関係で飼育されている動物やモンスターの家である飼育小屋と。この農場で生産された品々を取り扱う直売所が設置された、道の駅である立派な建物がそこにあった。


 その飼育小屋に続いているのは、動物やモンスターを放牧するための柵が円を描いて埋め込まれており。生物達はその中でのびのびと生命維持の活動を行っている。

 その生物達の種類もまた豊富で。牛や馬がいれば、愛らしい顔をした頭が三つある犬や、異常なまでに角が発達している危険度が高そうな羊がいたりと。その光景の数々にはとても驚かされるものばかり。


 そんな農場に到着した俺達は、柵越しでその生物達の姿を眺めていて。目の前の光景を背景として、ユノは隣で興味津々に生物達を眺めていたミントのもとへ振り向いては、そのまま尋ねるように言葉を投げ掛けた。


「いつもジャンドゥーヤと遊んでくれてありがとね、ミントちゃん。この子と駆け回るのは楽しい?」


 右手をぷらぷらと振りながら尋ねるユノ。

 そんな、相棒が宿っている彼女の右手を見据えながら、ミントは控えめながらもこくりと頷く。


「はい。生物と戯れるというものは、とても素晴らしいことですね。その生物から元気を分けてもらえることによって、気分が晴れやかとなります」


「フフッ、ジャンドゥーヤも、ミントちゃんがかまってくれることがとても嬉しいみたいなの。この子、なんだかミントちゃんのことが気に入ったみたいで、もっと一緒に遊びたいからってやけに召喚をねだってくるのよ? こんなに召喚を主張することなんて今までに無かったものから、それほどまでに、ジャンドゥーヤはミントちゃんのことが大好きになっちゃったみたいなの。ミントちゃんはとても疲れちゃうかもしれないけれど。でも、これからもこうしてジャンドゥーヤとかまってくれると、ジャンドゥーヤとしても、私としても、とても嬉しいわ」


 ユノが言うには、召喚という技術にはもちろんとして、その召喚獣を呼び出しているその間にも時間経過でMPを消費していってしまうらしい。そのため、召喚というものは、そう易々としてあげられるものではないらしい。

 そのために、先程のように野原を駆け回らせられるのも、MPに余裕がある、限られた時間の内でしか行えないのだとか。


 本来であれば、もっと自由に遊ばせてあげたいというユノの意思はあるのだが。やはり、あらゆる道中にモンスターが蔓延るこの世界だと、召喚士におけるMPの葛藤という事態は何としても避けなければならないとのこと。

 魔法使い系統という職業柄、いざというときに使用できる、生命線とも呼べるであろうMPを残しておかなければならないというため、ユノは安易にジャンドゥーヤを召喚させることができないのだ。

 そのことにユノはとても悔やんでいる様子を見せていて。そして、その想いは、ジャンドゥーヤも同じだとのこと。


「あと、ミントちゃん。ジャンドゥーヤのことを生物として見てくれていて、本当にありがとね」


 ふと、当たり前のようなことに深い感謝の意を伝えたユノ。

 同時に、ミントの思想に敬意を表し。ありがとうと改めて感謝を伝えながら、少女の頭を優しく撫で始める。


「っ!! ……むぅっ。な、なでなでは……っ」


 煩わしいという意思表示も、あくまで表面的なもの。

 照れくささを隠し切れないミントに。そんな少女を可愛がるユノ。この、なんだかほっこりとする光景を前にして、本来はあまり横槍を入れたくはなかったものの。それでも気になってしまったものは仕方が無いために、俺は無意識に近い感覚でいつの間にかユノに問いを投げ掛けていた。


「なぁ、ユノ。ジャンドゥーヤって、生物じゃないのか? 召喚獣と言うもんだから、俺はてっきり正真正銘の生き物かと思っていたんだが……」


 問いの内容は、先程のユノの言葉にふと疑念を抱いた、ジャンドゥーヤを生物として見てくれていてありがとう。という言葉に関すること。

 この俺の問いを耳にしてからというもの。ユノは太陽のような微笑みをこちらに見せて。それでもって、気遣いによる同調かと思われたのか。彼女は少し言葉を詰まらせながらも、考えをめぐらせながらその真相を話してくれた。


「アレウスも、本当にありがとね。もう、全く。アレウスやミントちゃんのような思想を持つ人が、もっともっと増えてくれると嬉しいものだわ。……でね、そのアレウスの質問に関してなのだけれども。この手の質問は、召喚士である私達の間ではかなりデリケートな内容であってね。実は、これといった、ハッキリとした返答ができないのよ」


「それは……どういうことなんだ?」


 言葉を詰まらせるユノ。

 思い悩み。考えをめぐらせて。なんとか適切な言葉を見つけたのか、下を向いていた視線を上げて再び話し始める。


「召喚獣は、その体内に生命エネルギーを宿す、立派な生物。……というのが、何としてでも絶対に譲れない私の主張。でも、召喚獣や召喚する生き物に対しての見方っていうのは、実は結構風当たりが強いものでね……。私のように、召喚獣のことを生物と呼ぶ人達がいれば。召喚獣のことを戦闘のためだけに用いる"物"と呼ぶ人達も存在しているの」


「召喚獣が……"物"……?」


「そう。その、召喚獣を"物"として扱う心の無い人達に対して、私達はとても怒っているわ。でも、反対に、召喚獣を"生物"として扱う私達のことを、あちらの人達は危機管理がなっていないとその怒りを露わにしている。見た目も生物であって、ちゃんと生態というものが存在している以上、召喚獣という存在は生物そのものにしか見えないと、私はそう思うのだけれども……」


 ユノには珍しく、その声音からは静かな怒りの調子を伺わせられる。

 今にも爆発してしまいそうな感情を、今も必死に抑えているようだ。


「でも、だけれど、そもそもの話としてね。召喚獣という存在の誕生となる発端としては、人類が戦闘に利用するための"武器"として、その存在が生み出されたという説があるのだけれども。それは歴史が証明してしまっているのが事実なの。それに、生物として見ている私達は、そんな心の無い人達にはなんて思いやりの無い、無情な人間達なんだと怒っているのだけれど。その反対に、その人達は私達のことを、『何故、そんな危険な"武器"に自由を与えて解放し、そこまで可愛がっているのか』と、そう理解に至らない上に。『ヤツらがただの"武器"であることは歴史が証明していて。もし、それでもヤツらのことを生物だと主張するのであれば。その強力な能力を宿す生物である以上、ヤツらは間違い無く反乱を起こし、平和な世に飽きを来した挙句にいずれは我々を滅ぼすだろう』と、その人達曰く、危機を予期していない私達の思想に賛同することができないみたいなの」


 その見た目や生態というものが存在している以上、召喚獣という存在は生物である。と、ユノの主張に反発する勢力の主張。

 最初こそは、その彼らの主張がまるで理解することができなかったのだが。そんなユノからの説明を聞いている内に、あぁ、まぁなるほどなと。何となく、彼らの主張にも納得がいってしまえる部分があった。


 言い方は過激かもしれないが、それでも公平にまとめてみると。

 要は、その存在を生物として可愛がる。イコール、強大な力を持つ危険な存在に対して危機感を抱くことなく、その姿をそのまま受け入れることで、ペットとして可愛がっているペット愛好家の勢力と。その存在を武器として扱う。イコール、強大な能力を宿す物として捉えているが、その力はとても強大である上に意思を持っているがため、その力に恐れをなすことによって、これ以上の存在へと繰り上げないように抑圧することで頭がいっぱいな勢力。という、二つの勢力に分かれているということか。


 もちろん、我が子のようにペットを可愛がりたい気持ちはわかるし。逆に、強大な力に恐れをなして、その存在による反逆の可能性を与えたくないという恐れの気持ちもわかる。それも、モンスターという存在も蔓延る世界なだけに。人類からしたら、これ以上の脅威を増やしたくなんかはないだろうし。


 ……なんというか。これはなんとも難しい問題だ。


「もちろん、武器と言ってしまえば、それはあながち間違いではないわ。でも、それもちょっと違うような気がするの。召喚獣という生物には、生命はもちろんのこと、意思というものだって存在しているわ。それこそ、ジャンドゥーヤがミントちゃんのことを大好きになったのも、その意思によるものだし。けれど、そこに意識を向ける余裕が無いのか。はたまた、本当に物としか扱っていないのか……その人達の思想は私にはとても理解し難いけれど。でも、一つだけわかることは、この召喚獣という存在は、社会的にとてもデリケートな存在である。ということかしら。こうして、私のように、召喚獣は生物だと主張する勢力のことを"召喚獣生物派"、又は"生物派"と名付けられて。反対に、召喚獣は武器だと主張する勢力のことを"召喚獣武器派"、又は"武器派"と名付けられていたりしてね。ホント、いろいろと大変なの……」



 とても気の張る内容の会話であったためか。その内容に気力を削がれたユノは、その精神的に疲れ切った表情を浮かべながら、体重を乗せるようにミントの肩へと寄り掛かる。

 普段であれば、そんなユノのからかいを交えた行動に嫌な顔をするミントではあるのだが。その内容が内容であったためか。ミントは同情の表情を浮かべながらユノのもとへと振り向いて、両腕をユノの身体に回してから、疲れ切った彼女を優しく抱き止めた。


「……ありがとう」


 俺とミントに向けた、力の無い言葉。

 こんなに元気の無いユノは初めて見たかもしれない。それほどまでに、その召喚獣という存在に関する問題が、このゲーム世界における社会の中でも、特に深刻なものであることが物語られていた。


 たかがゲーム世界であれども。されどゲーム世界とも呼べるこの世界。

 こうした社会的な争いが起こっているところが、また妙にリアルで。俺は時々、この世界が本当にゲームのプログラムによって生成された世界なのかを疑ってしまいたくなる。

 今もこうして直面している場面も、そんな瞬間の一つであった――――

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