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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
二章
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切磋琢磨と付き添い

「んぅっ――ふぅっ。朝日を浴びながらの背伸びというものは、朝による清々しい空気の中で行うがために、また格別な気持ちの良さを感じますね」


 東の方角から射す朝日を全身で受けながら。ミントは上げていた両腕を下げてはぷらぷらとリラックスさせて、一息をついてからの深呼吸で自然の空気を取り込んでいく。


 酒場での雑談から一夜を挟んで。共に目覚めるなり、宿屋の裏にある井戸へと入ることで外界に出てきた俺とミント。

 こうして、まず外界の朝日を浴びることが日課となっていた俺達。今日も変わらず、二人で光合成を行うことで、夕日の憂鬱ではまず味わえない気持ちの良い朝を迎える。


 ミントの次に背伸びを終えた俺は、彼女と同じように一息をつくなり深呼吸を行い。体内に溜まった二酸化炭素をこの広大な自然の中へと吐き出していく。

 これで今日も一日中フレッシュな気分で、このゲーム世界での冒険や探索を行うことができるだろう。そんな自信に満ち溢れ、黄昏で募った憂鬱な気持ちが晴れ晴れとしたところで。俺は昨夜にふと思ったことを晴らすべく、隣で機嫌良く鼻歌を歌っていたミントへと声を掛けた。


「なぁミント。今更ではあるんだが、昨日見掛けたあの遺跡の情報って、今すぐにでも調べられたりするか?」


「フィールド:哀愁平原・ハードボイルドの遥か西南に位置する、あの遺跡のことでございますね。現地に到着した際に情報をインプットしておきましたので、今すぐにでもご確認をなさるのでありましたらスキャンをいたします」


「あぁ、それじゃあ頼む」


「了解しました。それでは、当該する位置情報と設置された対象のインプットを開始いたします。少々お時間をいただきますね」


 そう言って目を瞑るなり、ミントの周囲にはホログラム状の透明な図面や写真やらが一斉に浮かび上がる。


 いつからか、ミントは何か情報をスキャンする際に。こうして自身の内に存在するプログラムを、透明なホログラムとして自身の周囲に浮き上がらせるようになったのだ。

 ミント曰く、これは情報の整理に大変便利な機能。とのことで、その内容は、内に存在する数多の情報を外部へ並べることによって、脳内という小さな要領では処理しきれない情報なんかをより処理しやすくなる……とかいう。なんか難しそうなことを行う技術をミントは習得したらしい。


 そう、こうして冒険を続けていることによって成長しているのは俺だけではない。そんな、陰ながら努力をしているミントを眺めながら、心の中で感嘆を呟く俺。


 ミントも、主人公であるこんな俺を支えるためにと、ナビゲーターとして。それでもって、外部からの影響を受けることで、人間としても成長をしている。

 そして、これからもこうして、俺はミントと共に成長を遂げていくのだろう。そんな互いの力強い姿を互いに確認し合って。そして、互いの心の支えへと繋がって。結果として、これは二人の成長へと繋がっていく。


 共に切磋琢磨をし合える戦友がいるというのは、なんとも心強いものだ。


「スキャン――完了」


 ミントの機械じみた音声と共に、電源が落ちたかのようにその場から消える数多のホログラム状のプログラム。

 この作業に慣れていないのか。いつもと変化の無いスキャンにも多大な労力を費やしたような、疲れ切った表情を浮かべながら。それでも主人に伝えなければと無気力な動作でこちらに振り向くミント。


「はい。それで、フィールド:哀愁平原・ハードボイルドの西南に位置していた、あちらの遺跡に関する情報でございましたね。スキャンが完了いたしましたので、情報を口頭で説明いたします」


 ふぅっと深い一息をついてから。いつもの真面目な表情を浮かべては、律儀な調子で説明を始めたミント。


「あちらの遺跡は、『ダンジョン:咽び泣き先人のモニュメント』という名のダンジョンでございますね。こちらのダンジョンの内容といたしましては。その内装は迷宮を思わせる、ひどく入り組んだ回路が特徴とされており。そちらに生息いたしますモンスターの種も、その迷宮による閉鎖空間によって、より凶暴と化した高い危険性を誇るものばかりとされております。その構造は、地下深くへと続く迷宮であるために。厄介事とみなされるものはモンスターの存在のみならず、こちらのダンジョン自体が侵入者を手厚く歓迎いたします、とても難易度の高いものとなっておりますね」


 ダンジョン:咽び泣き先人のモニュメント。

 咽びは、息を詰まらせるほどにまで泣くことを意味する言葉だ。その名前からして、何かただならぬ雰囲気を感じ取り。同時に、迷宮という内装を耳にして、さすがは隠しステージに設置されたダンジョンだなと納得せざるを得ない。

 

 昨夜、ニュアージュの話を聞いてからというもの、このダンジョンに関する情報の把握を優先しなければと考えていた。

 というのも、その現地の人間の口から。それも、よく関わっているNPCからその存在の説明がなされたために。もしかしたら、その遺跡がこの黄昏の里で繰り広げられるメインクエストの舞台となるのかもしれないなと、その可能性を考慮していたからだ。


 だが、このダンジョンの内容を聞く限りでは、その可能性は薄いかもしれない。いくらなんでも、こんな序盤からメインクエストに危険性大の迷宮をぶち込んでくるだなんて。いくら先の読めないこのゲーム世界であっても、さすがにそんな鬼畜な所業を行ってきたりはしないだろうとも思える。


 ……だが、そんなことよりも。それ以上に、俺が心配としていたのが……。


「……この遺跡のこと。ユノにも聞かせてしまったよな……」


 ユノだった。

 未知を求めるがあまりに、そんな迷宮にでも入られたりなんかしたら……いくら冒険に慣れているユノであっても、下手したらお陀仏してしまう可能性が十分に高いだろうなと。

 あぁ、なんてことをしてしまったんだろうなと。そんな昨夜に起こした後悔で胸がいっぱいになっていたその時であった――――



「……んっ、ご主人様」


 頭を抱え、一人悩む俺の服の裾を控えめに引っ張るミント。

 それに俺が反応して。同時に彼女が振り向いた方向へと視線を投げ掛ける。


 その先には、拠点エリア:黄昏の里へと続く井戸があり。そんな井戸の中から急に腕が伸びてきては、活発な勢いでその本人が身を乗り出してその姿を現した。


「あら。アレウス、ミントちゃん! おはよ~!」


 噂をすれば……ではないものの、想像をしていたその矢先でユノと出会うこととなり。そんなユノの後ろからはニュアージュがその姿を井戸から現す。


「あら~。おはようございます~アレウスさん。おはよ~ミントちゃん」


 相変わらずの、おっとりとしていながらもハキハキとした独特な調子で。お嬢様のような仕草でありながらも、行動にはキレがあるお辞儀をするニュアージュ。

 そんな二人に俺とミントも挨拶を返したところで、こうして出会ったことだしと俺は何か尋ねてみることにしてみた。


「ユノ。ニュアージュも一緒みたいだが、またいつものように、二人でこれから何処かに行くのか?」


「えぇ。アーちゃんの付き添いで、この先にあるちょっとした農場に向かうの!」


 有り余った活発な動作のまま、台地である現在地から西南へと指を差すユノ。

 その先には緑の野原が広がっていて。更に奥を見遣ると、開けた道と、建物が建つ広々とした土地を確認することができた。


「へぇ、それはいいな」


 なるほど。ニュアージュの付き添いで、あの場所へ向かうということか。

 という、肯定の意味合いを含めた了解のつもりで返事をしたつもりではあったものの。そんな俺の呼応を聞くなりニュアージュが――


「でしたら、よろしければご一緒にどうですかー?」


 なんていう、どうやら羨ましい意味合いとして受け取られたためか、お誘いを受けることとなった俺。

 あれ、そんなつもりはなかったんだけどな。とは思ったものの、たまには外界の探索もいいかもしれないとも思えたその次には、無意識にも頷いてしまっていた。


「あぁ、それじゃあせっかくだし、ついて行こうかな」


 勘違いから始まり、少女三人と男一人というなんとも意味深なパーティーが出来上がる。

 だが、気持ちとしては悪くはない。むしろ、嬉しいくらいだ。そんな浮かれた気持ちのまま歩き出したその道のりも、ちょっとした特別感を感じる、とても気分の良いものであった。


 ……そう、少なくともまだ、この時は楽しかった。

 だが、そんな、気分の良いちょっとしたこの一時が。あるキッカケを介することによって、重い空気へと一転することになるとは予想できず……。

 それがまさか、この先のメインクエストを構築していくとは。この頃にはまだ、そんな可能性など思いもしていなかった――――

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