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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
一章
7/368

酒場・各拠点における特徴の説明

「こちらは酒場と呼ばれるお店です」


 引き続いてナビ子に案内された場所。それは、赤レンガと黒の枠で。いくつもの白の窓と僅かに入り混じる木造の柱で。こののどかな村では大変目立つ塗装が施された巨大なる建物の目の前。

 赤レンガで彩られる煙突からは円を描いた煙が。木製のテラスからは古き良きとされる落ち着く雰囲気が。赤と黒という強烈な見た目とは相反して、西洋の美しい部分のみを取って貼り付けたような、味のある不思議な建物だなぁという印象を与えてくる。


 そしてこの建物が酒場だと聞き、最初こそはこの刺激的な建物が酒場なのかよと目を疑ってしまう。

 しかし、改めてよくよく観察してみると、なるほど。古風を意識して薄く彩られたそれらの彩色。そこから伝わってくる西洋の情熱たる活気。まさしく旅路を渡り歩いてきた旅人の酒盛りにピッタリな場所じゃないかと、そう思えるようになってくる不思議な建物であった。


「旅の者やそこのエリアの住人が集い、拠点の内部や外部の人物関係無く共に酒の席を堪能することができるという開放的な公共施設です。この酒場には新人冒険者から熟練冒険者まで、様々な旅人が集まり互いに情報を交わしていくという情報交換を交わす風習があります。なので、こちらの酒場という施設は情報収集にうってつけとされる貴重な施設でもあります。また、酒場の店内には職業を司る神に仕えた聖職者が配属されているため、職業の変更を行う際にもこちらの酒場が利用されます。よって、旅人である以上は必ずと言っても良いほどに頻繁と出入りする公共施設となるでしょう」


 そんなナビ子の説明に合わせてくるかのように、木製の扉が開く鈍い木製の音。旅人と思われる団体がその扉を開くと同時に流れ出してきたのは、こののどかな村にはとても似つかわしくない強烈なアルコールの臭い。


「むぐっ……すごい臭いですね。酒場という施設に訪れただけで酔ってしまいそうです」


 鼻をつまみながら渋る顔をするナビ子。唸るように小さく漏らした声から、おしとやかな少女としての控えめな拒否反応を感じ取ることが出来る。


「も、もちろん、ここは酒場という公共施設ですので、その場で居合わせた様々な方々から、共に来店した仲間の皆さんと共にお酒を堪能することが可能です。ただし、余計な出費にはくれぐれもお気を付けくださいねっ!」


 渋い顔を浮かべながら釘を刺すように強調するナビ子。一刻も早くでもこの場から去りたそうな仕草が、可憐な少女をより一層と演出している。


「それじゃあ、今度ユノと三人で来てみようか。なんか、ユノのやつはよくここを利用していそうなイメージがあるし、より詳しい説明は次に訪れた際にでもしてもらうとしようかな。……ところで、この世界では昼間からお酒を飲んでも平気なのか?」


「ここはゲームの世界ですので、とりわけ注意するべき箇所はありません。よって、あまり深く考えることなく、昼間でも夜間でもご自由に口になさってもらって構いません。ただし、あまりにも飲み過ぎてしまうとしばらくの間HPとMPにマイナス補正が掛かってしまいます。なので酒場でいただくお酒は、飽くまでその日の旅路を無事に乗り切った自分自身へのご褒美という、程度を弁えた量でいただくことを推奨しておきます」


 あぁ、やっぱりさすがに飲み過ぎると支障を来すんだな。所謂、二日酔いのような状態異常になるというわけか。お酒の席はくれぐれも気を付けよう。


「――あっ、いえ。そ、それでは、次の目的地へとご案内します」


 そう言うや否や、ナビ子は駆け足気味で目の前の酒場から離れていく。

 そして、あまりにも焦っていたのだろうか。その慌てた足取りのナビ子は、まるで絵に描いたかのようなズッコケをかましながら躓いて転んでしまう。

 そんな様子に、今度は俺が慌てて……といった具合に、次なる目的地へと辿り着く。


「こちらは集会所と呼ばれる公共施設です」


 頬についた砂を手で払いながら説明を始めるナビ子。

 目の前に立っていたのは、灰色の岩石を用いて造られたのであろう石製を中心とした比較的大きな建物。

 灰色の岩石を設計に合わせた形へと削り、それらを繋ぎ合わせて一つの無難な建物へと仕上げている。灰色を中心とした色合いに木製の柱という麦色が、なんとも公共施設らしい無難な雰囲気を醸し出していた。


 ……まぁ、これも相当に素敵な建物だったのだが、如何せん先程の酒場に見慣れてしまった後だと、どこか見劣りをしてしまっているように感じてしまうのが、ちょっと勿体無いところ。


「各村や町という安全地帯として設置された拠点エリアには、各それぞれにその拠点エリアの一番の特徴となる公共施設や建物、景色や環境が用意されております。こちらの集会所と呼ばれる建物も、今回の拠点エリアであるこののどかな村の特徴として呼ぶに相応しき特別な施設の一つですね」


 先程の酒場と比べると見劣りする。最初はそう思えて仕方が無かったのだが、こうしてのどかな村エリアの特徴として紹介されるとあら不思議。こののどかな村の雰囲気に合った、とても無難で素敵な建物に見えてくるという印象の変化。

 ……むしろ、さっきの酒場が異質だったと言うべきだろうか? そんなことさえ思えてしまう。


「こちらの集会所も、各地に点在する拠点エリアの特徴の一つ。そして、その各地の村や町の特徴にはそれぞれ、それならではのフラグやシステムが用意されております。――とは言いましても、まず拠点エリア:のどかな村というエリア自体が、初期に訪れる比較的平凡で平和な安全地帯の村。よって、こちらの施設には現在、シナリオで重要となるフラグやシステムが一つたりとも存在致しませんね」


「それじゃあ、ここはそんな積極的に訪れなくてもいい場所ってことか」


「言ってしまえば、そういうことになりますね。えっと、そうですね……強いて情報をお伝えするとなると、ただいまこちらの施設内にはいくつかのサブクエストが存在しております。なので、クエスト報酬であるアイテムや経験値、この世界で言うお金にあたるマネー稼ぎといった目的であれば、序盤はこの集会所を上手く利用できるかもしれません」


「そうか、なるほど。それじゃあ後で訪れてみようかな。サブクエストの消化もそうだけれど、こののどかな村の特徴としてせっかく用意されている要素の一つだ。どうせだから、建物の見物でもしておいてから次の冒険へ出るとしよう」


 こうして、拠点で行えるシステムの説明が一通り終わった。

 拠点の説明というある意味のチュートリアルを終え、俺とナビ子はユノと別れた場所に戻ってくる。

 自身の役割を無事に遂行したであろうナビ子は胸に手をあててふぅっと一息。未だに不慣れなナビゲートに緊張をしていたのか。緊張で強張った表情を俺に向けながら、お付き合いいただき、ありがとうございましたと述べて一礼をする。


「ありがとな。ナビ子のおかげで、この世界のことがだいぶわかってきた気がするよ」


「ご、ご主人様っ。そんな、いえ、ワタシはただ、自身に課せられた使命を遂行したまでのことなので……その、わざわざお礼をしていただけるような立派なことなど、このワタシ決して行ってなどおりません。それにしても、なんて勿体無きお言葉をいただいてしまったのでしょう……この高揚感、ワタシ……一体……?」


 それはたぶん、照れ。この感情をナビ子は知らないのだろうか。

 頬を赤く染めながら、恥ずかしげに体を揺さぶるナビ子。自問自答を繰り返すその姿を眺めてほっこりとしていると、ふとナビ子は何かを思い出したかのようにその口を開き出した。


「あ、あの。先程お伝えすることが出来なかった、重要な情報なのですが……実は、酒場を立ち去る際に、ご主人様のセリフによって新たなフラグが立ち上がりました」


「えっ」


 俺、なんかそれらしいこと言ってたか?

 こんな簡単にフラグが立ってしまうと、何だか悪い展開もいとも容易く呼んでしまうんじゃないかと不安に駆られる俺。だが、どうやらその心配は無かったようであった。


「先程のご主人様のセリフによって、状態異常:二日酔いが追加されました」


「あ、あぁ……そう。そうか、システムで二日酔いが追加されたか。あぁそうかこれはある意味参ったな、せっかくゲームの世界では気にせず飲んでいいと言われていたのに。あぁこれはどうやら、お酒にも気を付けなきゃいけないみたいだな……」

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