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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
二章
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厄介な状態異常とリザルト

「身体が……動かない……ッ」


 対峙する黄昏コウモリの攻撃らしき波動をくぐってからというもの、俺はその場で崩れ落ちるように座り込んでしまっていた。


 全身の内側に衝撃が走り。何かを受けてしまったと認識したその瞬間から、この身体は無気力となって力を入れることが不可能に。

 一体何なんだこれは。俺は直面したことの無い現状に焦りを募らせ、尚も戦闘を続行するために動かぬ身体に意識を送ってもがき続ける。


「ご主人様! そちらは状態異常:行動不可でございますっ!! 黄昏コウモリの攻撃に付与されております音属性の影響によって、ご主人様のステータスに行動不可が発症しました!」


 状態異常:行動不可……?

 頭上から響いてくるミントの説明に意識のみを向けて。彼女の説明を聞き逃さぬよう、この動かぬ身体で必死に耳を傾ける。

 現状はもはや神経のみで音を拾っている状況であり。この動かぬ身体と視線の先には、こちらを嘲笑うかのように甲高い音を漏らして尚飛び続けている黄昏コウモリの姿がそこに存在していた。


「戦闘システム:属性攻撃の類に含まれております、こちらの音属性。こちらはその名の通りに音を介したり、直接音を対象にぶつけることによって行動不可を主にした、その属性の特徴となる効果が発揮されます! 今回もその例外にもれず、ご主人様は少しの間のみ行動が不可能となる極めて厄介な仕様の餌食となってしまいました! そちらの状態異常:行動不可を発症した以上は、身体を動かすことが叶わないために攻撃や防御の選択並びにコマンドの選択さえも行うことができません!! こちらの状態異常を発症してしまった際の対処法もその名の通りに存在せず、ただ自然治癒による回復を待たなければなりません!!」


 要は、この状態異常を発症してしまったら、その名の通りに俺は動くことができなくなる。というものだ。

 なんて厄介な状態異常に掛かってしまったのだろう。そんな後悔……の一線を越えた諦めの境地を悟りながら、俺はこの動けない身体でただ無気力に黄昏コウモリを見遣り続ける。


 状態異常:行動不可という存在を認識すると同時に、俺はミントの口から出てきた戦闘システム:属性攻撃という単語にも思考をめぐらす。

 なるほど。いや、むしろRPGゲームの定番とも言えるであろう、属性付きの攻撃のことを指し示すその言葉。これはもはや、説明などは不要に値するくらいにまで馴染みのある言葉だ。


 ……にしても、俺がこうして属性攻撃による追加効果で行動不可を発症した以上、この戦闘においてはあの黄昏コウモリの独壇場だ。

 さぁ、HPが半分となった俺に、一体どんな攻撃を仕掛けてくるというのか、と。動けない俺をきっと袋叩きにするに違いないのだろうな、と。


 しかし、こうして動けない内にでも、これから起こすであろうあんたの行動を研究して、この窮地を打破してやるよと。そんな逆境による強気な意気込みで、俺は目の前のモンスターを注視していたというのに――


『ギキキッ……ギェンッ!!』


「マジかよ……ぐぉっ――」


 さすがは冒険者からの嫌われ者。なんと、こうして状態異常:行動不可を発症して動けずじまいな俺に向かって、そのオレンジ色のオーラを纏うなり特技『フラッシュ』を放ってきたのだ。

 行動不可との重ね掛けによって発症した、状態異常:盲目。大きな翼を広げ、その翼膜から閃光を発すると同時に視界を妨げられた俺は、身動きできず目も見えずな完全とした廃人へと変化させる。


 追い込まれた俺は、もはや成す術も無く。行動不可で一時的な失明且つ全ステータス低下で。踏んだり蹴ったりな自分自身を哀れむと共に首筋を伝った感覚は、細く短い牙が食い込む気持ちの悪い感触――


「ご主人様! そちらは黄昏コウモリとその種が得意といたします特技『吸血』でございます!! そちらの特技を受けますと、その特技の効果としてHPを吸収されてしまいます!!」


 動けない俺をなぶり殺すかのように、黄昏コウモリのド畜生はこのHPの吸引を図ってきたのだ。

 HPが吸われるというこの感覚。これは心臓辺りに位置するHPの概念が、黄昏コウモリの牙が食い込む首筋にまで強引に引き寄せられているようなものであって。この感覚を例えで何となく知りたいと言うのであれば。心臓から行き届く血液が体内で逆流を起こし、そのまま首筋辺りに集うかのような感覚を起こしながら流れ出しているようなもの。と言えば、多少なりとも感覚として伝わるだろうか。


 一言で言えば、気持ちが悪い。

 こんな拷問じみた所業を視力を失った俺に行う黄昏コウモリは正に、外道と呼ぶに相応しいモンスターであった。


 だからこそ、この行いを絶対に許すことができず。

 今か今かとその時を待ち続けては耐え続け。

 

 ……そして、ようやくその時がやってきた――


「――エネミースキル:ワイルド・ストライクッ!!!」


 状態異常:行動不可の完治を感覚で察知したその瞬間にも、俺は盲目にも関わらずすぐさまスキルをぶっ放す。

 悠長にも未だに特技『吸血』を行っていた黄昏コウモリに向けて。その行動によって前方に存在していたことはほぼ勘ながらも把握済みで。

 絶対に許すまじと。散々なぶりになぶってきたこの所業の仕返しとして。俺は所有しているスキルの中で一番の攻撃力プラスMP消費無しの、ハイブリットで低燃費且つ高火力という矛盾じみた言葉で成り立つ強力なスキルをお見舞いする。


『ギキキ……ギャァッ!!』


 怒りのままにブロンズソードを突き出し。黄昏コウモリを捉えるや否や、左足での踏み込みからの強力な右の足蹴りで前方のモンスターを吹き飛ばす。

 盲目によってその姿は確認していないものの。足裏に伝わってきた感覚で直撃したことはわかった。その上に、一撃で倒し切ったことも把握する。


 次に、戦闘システム:乱入の確認をするために周辺へ耳を澄ませて。まぁ、物音は聞こえないかなと判断したところで。

 状態異常:盲目も自然と完治したこの瞬間にも、哀愁平原・ハードボイルドにおける初戦を勝利で飾ることができたのであった――



「戦闘、お疲れ様です。ご主人様」


 戦闘を終えたことによって、上空から降りてくるなり球形から少女の姿を形成して着地するミント。

 そして、どこからか薬草を取り出してはこちらに差し出してくれたため、それを受け取り口に運びながら先程の戦闘を思い返していく俺。


「……なんてことだ。さすがは隠しステージといったところか。状態異常による攻撃があまりにも厄介過ぎる。これはまず事前として対策を施しておかないと、マジで死にかねないな……」


 思考の整理のために言葉を呟く。

 それを聞いたミントも同感だったらしく。律儀で控えめな動作でコクコクと頷いては、拠点エリア:黄昏の里がある方角を手で促してきた。


「状態異常:盲目はアイテム:スッキリパッチリで。状態異常:行動不可は音属性に耐性を持つプロテクターを装備することでそれぞれ対策が可能となっております。但し、アイテムのスッキリパッチリはその効力から中々に高価な品物となっており。プロテクターも、あくまで耐性を得られるというのみで状態異常を確実に防げるわけでもなく。更にそちらの防御力と使用頻度を考慮すると……他の防具よりも活躍の機会が少ないことがそれぞれの欠点でもありますね」


「う~ん……」


 中々の悩み所だ。

 それらには、このステージを攻略するための十分なポテンシャルが秘められてはいるものの、それぞれに長所と短所が存在しているためにどうしても購入までの結論に有り付けない。

 まず、それなりに金が掛かる。下手すればこのステージで金欠を起こし、これから先の冒険の備えとして行う武器の強化や防具の購入が不可能となってしまう。


 ……難しい局面だぞ、ここは。


「……まぁ、こんな物騒な場所で考え込んでいても仕方が無いな。まずは、黄昏の里に戻るとしようか」


「了解です」


 俺の判断に安堵の調子を織り交ぜた声音で返答するミント。

 自身からは主人に口出しをしないものの、やはり自我を持っている分、主人の選択には賛否があるようだ。


 ナビゲーターであるミントからの賛同を受けて。俺はこのステージの攻略のために一旦拠点へ戻ることにする。

 この先には、一体何が待ち受けているのか。この先では、一体どんな展開を迎えるのか。

 そして、この先の戦闘は、果たしてどんな内容となるのか……気掛かりとなる部分がとてつもなく多いこの現状……。


 ……まぁ、こうして戦略を考えるのも、戦闘系のゲームにおける醍醐味の一つかな。と割り切った俺は、結論として、良い気分転換にはなったと言い切ることにした。

 さて、拠点に戻り次第、まずはお金稼ぎを兼ねたサブクエストの消化とでもいこうか――――

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