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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
二章
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戦闘システム:乱入

「ぐぉっ――!?」


 顔を上げた瞬間、俺は後方に吹き飛んで仰向けに倒れていた。


 陰り犬を倒し、その戦利品を入手しようと上半身を曲げたその時の出来事。ミントからの注意喚起を受けて、一体何事かとその視界を見上げた矢先での展開である。

 顔面から何かによる衝突の衝撃を受け。内に存在するHPが磨り減る感覚を把握したことから、どうやら俺は何かからの襲撃を受けたようである。


 にしても、戦闘が終わったというのに、一体何故こんなことが起こるんだ――


「ご主人様!! こちらのイベントは、戦闘システム:乱入によるものですっ!!」


「ら、乱入? 戦闘システム?」


 言葉を投げ返しながら、俺はブロンズソードを片手に跳ねるように立ち上がる。

 周囲への警戒をめぐらせて。少しして視界の中に捉えたものは、翼を持つ生物の形をしたモンスターの姿。


 大きさは一メートルより少し満たないくらいか。毛むくじゃらの全身に。その全身を遥かに上回る大きさの翼を広げて。毛で隠れた頭部からは立派な尖がった耳が立っている。

 色は、陰り犬同様にこのフィールドに住まうモンスターの特徴となる彩色が。それは、夕日の黄昏となる金色と、影による影響か、真っ黒のラインが均等にジグザグと走る非常に刺激的な色合いをしていた。


 その姿は一言で言うと、紛れも無いコウモリの形をしたモンスターといったところか。


「こちらの戦闘システム:乱入は、敵勢力との交戦中に突如として起こる、ランダムイベントの一つでございます! こちらのシステムは、敵勢力との交戦中において、双方の内のどちらかの勢力に加担する、新たなる存在の出現を発生させるイベントであり。今回のよう、敵勢力に加担する新たなる存在の出現を促すこともあれば、こちらの勢力に加担する新たなる存在の出現を促す場合もございます故、戦闘という不安定な環境下における運命の分かれ目ともなる、確率が引き起こす非常に強力なシステムでございます!」


 要は、そのシステムの名前通りの出来事が起こる、仕様の一つらしい。

 こうして俺が敵と戦っているその最中にも、確率によって俺か敵のどちらかに、その味方となる存在がこの戦闘に乱入してくる。これは敵勢力に限った話ではないため、場所や確率次第では俺のもとにもユノやらニュアージュやらがきっと来てくれるのだろう。


 そして、俺はこの乱入システムを偶然にも引いてしまったようなのだ。それも、敵勢力の加担となるものを。


『ギキキッ……』


 脳天から空気が抜けていくかのような、か細くも芯のあるハッキリとした甲高い音を立てる目の前のモンスター。

 その巨大な翼を羽ばたかせて。毛で隠れた頭部でこちらの姿を見通しているのか。はたまた、その尖がった耳でこちらの物音を聴いているのか。なんとも素性が知れなく、その上に刺激的且つ衛生的にあまりよろしくないであろうそのビジュアルに、少々不気味な印象を受ける。


「そして、戦闘システム:乱入によって出現いたしました目の前のモンスターは『黄昏コウモリ』と呼ばれるモンスターです! 陰り犬同様にこちらのフィールドで育ったため、冒険者の阻害といった癖のある攻撃を得意とする、非常に厄介なモンスターでございます! その攻撃の数々に、こちらの黄昏コウモリとその種は多くの冒険者から大変鬱陶しがられておりまして。一部の過激派の人間からは、殺気立つ憎悪の感情さえも向けられてしまうほどにまで、その能力は厄介なものだと認定されております。その攻撃の具合と、そんな怒る冒険者の様子に、こちらの種を知る冒険者の一部からは、『でも、あのモンスターに同情はできないかな』と言わしめてしまうほどのものらしいですっ!!」


 目の前に存在している黄昏コウモリとその種は、多くの冒険者から嫌がられる攻撃の数々を持つ、厄介の一言が特に似合うのであろうちょっとストイックな実力の持ち主ということ。

 その見た目とこの情報が合わさり、あぁ、なんだかわかるような気もすると。既にそう思えてしまっている自分がいる。同時に、戦うのが憂鬱だ。


 ……にしても、ミント、また割りとこの場とあまり関係の無い情報ばかりへと力を入れているな……。まぁ、そのおかげであの黄昏コウモリとやらの素性は何となく把握できたけれども。


『ギキキッ……ギギッ』


 脳天から歯軋りのような音を出して。その耳障りな甲高い音をあげると同時に、なんと、黄昏コウモリはさっそくその身にオレンジ色のオーラを纏い始めた。


 初っ端から特技か。様子に警戒を強めて、いつでも選択できるよう回避に手を添えておく俺。

 いつ、その特技を発動してくる。回避の機会を伺い。俺は目の前の黄昏コウモリに注目をして。


 行動を伺い。いつ、どんな攻撃が来てもいいように備えておき。今すぐに特技を放ってきても、それに合わせてこの回避コマンドの選択ができるように様子を伺って……。


 ……あれ、特技が飛んでこないな――


『ギキキッ……ギィッ!!』


 この瞬間、この種のモンスターが嫌われている理由が判ったような気がする。


 回避の機会を伺うために動きを止めていた俺であったが、それもヤツの手の内だったにきっと違いない。

 従来のモンスターのようにすぐさま特技を放ってくるわけでもなく。こうして焦らすことによって相手の内に生じるちょっとした不信感という相手の隙を突く形で、この種のモンスターは備えていた特技を放ってきたのだ。


 完全に気を抜いたその瞬間には、俺の視界は既に閃光が辺りを埋め尽くしていた。

 状態異常:盲目を発症する、至極厄介な特技。その特技の発動を備えていた黄昏コウモリと、それ以前に戦闘を交わしていた陰り犬の頭上には技名『フラッシュ』の名前が。


 なんて厄介な技を扱うモンスター達なんだ。そんな憂鬱交じりの感想を抱きながら。しかし、先程の戦闘で学んだ経験は次に活かされることとなって。


 俺は、この不意を突く形で放たれた特技『フラッシュ』を回避していた。


「ソードスキル:エネルギーソード!!」


 あの厄介な特技は、並大抵の動作ではまず防ぐことすら困難であろう。

 だが、ここはゲームの世界。そして、俺は戦闘コマンドを駆使する主人公だ。そんな主人公という存在に掛かってしまえば、こんな回避不可に近しい特技であろうとも、回避という選択肢の選択と同時に発動する前転で容易く避けることができる。


 前転の勢いのまま、走り出しては手元のブロンズソードに青の光源を宿して。

 さっさとこの戦闘を終わらせるために、俺は黄昏コウモリに武器を振り被り――――



『ギキキッ……ギェンッ!!』


 安直な進撃を行っていた俺のもとに飛んできたもの。それは、眼前の黄昏コウモリの口元から放たれた。白色というか、灰色というか。透明に近くも、僅かな色合いを帯びた円形の波動。

 それは空間を伝うかのように一直線へと俺のもとに飛来するなり、俺は未知なる光景を前にして回避が間に合わず。その円形をくぐると同時に、全身から唐突な違和感が迸って――


「うぁっ――ごがッ……」


 突然、全身の内側が痺れるような衝撃が走り出し。一瞬の目眩と一時の意識の途切れ。瞬間の無気力感と未知なる属性攻撃を体験したことにより、俺はその場で崩れ落ちるように座り込んでしまった――――

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