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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
二章
66/368

戦闘 【黄昏と影の領域にて】

『ガルルゥッ!!』


 影で染まった暗黒の雑草から飛び出してきたのは、犬の外見をした凶悪な面のモンスター。

 その形状は犬そのものではあるが。全身は黄昏の黄金で焼かれた金色の煌きが、散りばめられるように輝いており。そこには漆黒の陰を思わせる黒ずみが点々と存在している。

 視界に入った標的に端から飛び掛かるのであろう凶悪な面に。黄昏の影響か、その瞳は暗い金色を光らせていて。大空の緋色のような唾液を口元から垂らしている。


「ご主人様! そちらは『陰り犬』と呼ばれるモンスターの一種です! こちらのフィールド:哀愁平原・ハードボイルドの夕日と影の中で育ったその種は、常に気が立っている非常に凶暴なモンスターでございます! そんな視界不良な環境で育ったために、この黄昏と影の領域においても目を眩ますことなく、影に視界を妨げられることも無い特殊な視力を持つ独自の進化を遂げたモンスターであるため、この地域における、こちらの種との戦闘には注意が必要です!」


 球形の妖精となったミントは俺の頭上を飛び交い。その姿を影で真っ黒にしながらもいつものナビゲートによって、情報の面で俺を支援する。


「こちらのモンスターから入手できますアイテム:陰り犬の緋色牙は、外界においては中々に高価な品として取り扱われているために、研究者が対象である際には高値で売却することが可能でございます! 尚、この種は肉食でもあるため、肉といった食べ物で誘き寄せることも可能です! また、釣竿にお肉を付けて、こちらのフィールドに釣り糸を垂らすと、陰り犬を釣り上げることが可能であったりもします! 更に、ほんの極稀に『トワイライト・ベアンコリー』と呼ばれる極悪なレアモンスターが釣れることがございますっ!!」


 え、犬を釣り上げるの?

 現在の状況に不釣合いな情報を追加として付け加えてしまう辺りに、ミントが自身で言う、不足した及ばない力量とやらを垣間見えることができてしまう。しかも、そちらの解説に力を入れてしまっているために尚更。


 ……にしても、余計ながらも好奇心くすぐられるそんな情報を聞いてしまった以上、そちらを試したくなってしまいたくなるじゃないか――


『ガルルゥッ!!』


 ミントの状況説明が終了した今、この戦闘に火蓋が落とされる。


 まず先手を仕掛けてきたのは、エネミーである陰り犬。その金色と黒の全身でこちらに飛び付き。唾液を辺りへ散りばめながら、俺へ攻撃を選択してくる。

 その行動は、実に見切りやすかった。しかし、ここのフィールドに出現するモンスターの力量を計りたかったため、俺もここは敢えての選択肢として攻撃を選択して――


「ッ!!」


『――ガゥッ!!』


 陰り犬の攻撃に合わせて、手に持つブロンズソードを力いっぱい振り被った俺。それを振るい攻撃を仕掛けたことによってシステム:相殺が発生し、互いに僅かなダメージが蓄積される。


 俺が受けたダメージは誤差程度であったため、どうやらこのフィールドとのレベル差は特段問題視する必要はなさそうだった。むしろ、どうやら俺のレベルの方が高かったらしい。

 一方で陰り犬。こちらは相殺によって後方へ吹っ飛び、再び体勢を立て直して襲い掛かってくるものの、その受けたダメージは外見で見分けがつくほどまでに蓄積されていたらしい。傷を負い、既にそれなりのダメージを食らっているのだなと伺えるものであった。


 ならば、これは警戒することもなく難なく倒せそうだと。そう踏んだ俺はスキルの欄を開いて――


「剣士スキル:カウンター!!」


 陰り犬による、飛び掛かりからの攻撃を余裕で反撃。

 透明の気を纏ったこの身体でこちらからも突撃し。陰り犬と触れ合う寸前で全身に巡った瞬発力による刹那の斬撃。

 目で捉えることのできないほどの素早い行動と共に、宙を舞った陰り犬は悲鳴を上げながら地に落下。体勢を整えるも、見るからに既にボロボロの身体でこちらを睨みつけてくる。


 これでトドメだ。そう思い、俺はブロンズソードに青の光源を宿してスキル:エネルギーソードを発動。回避をされたら、スキル:パワースラッシュによる広範囲の薙ぎ払いで隙を埋めようという戦術の試みもついでとして。余した余裕のまま俺は一直線に陰り犬へ速攻を仕掛けたものの――


『ガルルゥッ!!』


 やはり、相手も生物と同様であり。さすがにそうも上手くはいかなかった。


「ぐぁっ!! まぶ――」


 構えた動作のあと、突如陰り犬の目からは閃光が迸り。視覚で捉えることができない形容し難い光を浴びた俺の視力は、瞬時にして暗黒へと誘われる。

 足を止めて。安定せずフラつく足元。目の前が見えず、前方の確認を行えない不安が一気に全身を駆け回り。これはまずいと俺が焦っているその間にも、ターンは次に回っていたらしく――


「ぐぉッ!! ゴフッ」


 前方から唐突に発生した、一つの衝撃。

 何かに押し倒された感覚のみしか感じ取れず。俺は成す術も無くそのままひっくり返る。

 それでも依然として何も見えず。不意に募ってきた恐怖のままにすぐさま立ち上がるものの、その瞬間にも俺は後方からの衝撃によって再度前のめりに倒される。


「ご主人様! そちらが状態異常:盲目でございます! 視力を完全に奪われてしまうこちらの状態異常は、その名の通りに視覚が機能しなくなることに加え。その不完全となった視覚によって鈍くなった感覚器官が、全ステータスの低下という追加効果となるデバフをも付与させてしまう、非常に凶悪となる仕様が存在するシステムでございます!!」


 要は、俺は今、状態異常:盲目に侵されてしまっている。

 これは視界を奪われるだけでなく、こうして前が見えないことによる不安定な状態によって、全ステータスの低下をも招き入れてしまうという、中々に厄介な特性を持つ状態異常だ。


 先程までは、対峙する陰り犬のダメージもそう怖くは無いと踏んでなめて掛かっていたが。この状態異常に陥ってしまった今、そう悠長なことを言っていられない状況へと戦況が一転。

 確かに、著しく防御力が低下している。この盲目に掛かってからというもの、俺は陰り犬から激烈な猛攻を受け続けてしまっており。この猛攻に加えて防御力の低下が相乗効果を発揮して、俺のHPは現在もゴリゴリと削られている真っ最中だ。


 既に、HPは半分か。それでも半分と言えども、されどここまで袋叩きにされてしまう非常に厄介な状態異常をこの身で経験することによって、俺はまたしても冒険というものをなめてしまっていたことに気付く。

 全く。俺はどうしてこう、先の失敗からまるで学ばないのか。一層として陰り犬からの飛び掛かりで全身を激しく揺らしながら、俺は自分を猛反省。


 そして、ようやく時間が訪れたのか――


「……あ、見える」


 突然、俺の視界から暗黒が消え失せる。

 状態異常:盲目の効果が切れたことによって視力が回復。同時に、前方からこちらに飛び掛かってくる陰り犬の姿を確認できたため、俺はすぐさまスキルを発動して――


「剣士スキル:カウンター!!」


 もう、これ以上はなめて掛からないぞと。失敗から学んだ姿勢で全力を振り絞り。

 目の前から安易な攻撃を仕掛けてきた陰り犬にお仕置きを加えた。


『ガルルゥッ。ガゥッ――』


 断末魔と共に宙を舞い。地に落下すると共に、この陰で暗黒に染まった背の高い雑草の中へとその姿を消す。

 そして、その陰り犬が落下したのであろうその地点には、この戦闘におけるドロップ品である、アイテム:陰り犬の緋色牙と思わしき牙が落ちていた。


 戦闘終了、か。盲目によって手こずったこの戦闘を経験として省みながら。俺は戦利品である陰り犬の緋色牙へと手を伸ばす。


 よし、これを研究者だかに売れば、高値で買い取ってくれるんだったよな――――



「ご、ご主人様っ!! 前方にお気を付けくださいっ!!」


「――えっ?」


 完全に気を抜いていた俺のもとへ、上空から喚声をあげるミント。

 一体何事だ? そんな俺の疑念と共にこの視線を上げたその瞬間――俺の視界に入ってきたのは、翼を持つ未知なるモンスターの姿が俺に襲い掛かってくるその一歩手前の状況であったのだ――――

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