ニュアージュと共に 【森林地帯での戦闘】
「ニュアージュ! 援護は任せた!!」
「わ、わかりました……!! 頑張ってみます……!!」
不安そうな面持ちでありながらも、魔法使いという自身の職業における立ち回りを把握した間合いを保ち。俺の後方で杖を構えるなり、早速と魔法の詠唱となるスキル攻撃のモーションへと移行する。
ニュアージュの行動を把握して。それではと俺はブロンズソードを構えてから、目の前で群がるオークエルフの群れへと猛進した。
ここで、現在の状況を一通り整理しておく。
主人公陣営であるこちらは、剣士である俺と魔法使いであるニュアージュの二人による、バランスの取れたパーティーが一つ。敵陣営であるあちらは、ソードを手に持つオークエルフA。爪を武器とした素手のオークエルフB。弓を構えたオークエルフCの計三体が、迎撃に出たこちらを迎え撃たんと殺気を立てながら臨戦態勢へと入っている。
その数を見るに、先程吹き飛ばした内の一体は俺の攻撃によって倒れたようだった。
『ギャーッギャーッ!!』
先手として攻撃を仕掛けてきたのは、ソードを手に俺へと襲い掛かるオークエルフA。
特技の予兆であるオレンジ色のオーラを出さずに。工夫を成すこともなく真正面から飛び掛かってきたオークエルフAへと、俺は余裕を持て余しながらスキルを選択する。
「剣士スキル:カウンター!!」
相手の単調な攻撃故、MP消費無しの万能技が、悠々と決まる。
本人の攻撃力に依存する反撃型のスキルであるため、目の前から飛び掛かってはそのソードを無造作に振り下げたオークエルフAは、まさか自身の攻撃力が仇になるとは思ってもいなかったことだろう。
『ギェアッ!!』
カウンターというスキルの存在を知らなかったのであろうオークエルフA。その小物染みた有りがちな断末魔を上げては、俺の通りすがりのカウンター攻撃によってその身が宙に舞う。
飛び掛かりからの跳ね上げによって、オークエルフAはよく滞空していたものだ。羽を持たぬ人型のモンスターは長く空を飛んでは、地に落下して打ち付けられて再び飛び跳ねる。
そんな緑のモンスターは無気力なその様子で。数百ものポリゴンによるプログラム染みたオーラを発生させながら。HPがゼロになり力尽きたオークエルフAは、大気中に溶けていくかのようにその姿を消した。
「まずは一体――ッ」
後方の消えゆくオークエルフAを確認する暇も無く。
顔を上げた先からは、射られた矢が俺に目掛けて飛来。オークエルフCによる行動によって行われた攻撃は、俺という標的を狂いも無くしっかりと捉えられており。
大したダメージにはならないであろうが。今、俺に直撃する――
「魔法使いスキル:フリーズ・シュートッ!!」
同時にして、ニュアージュの声と共に俺の視界に入った物体。それは、彼女の魔法と思われる、甲高い冷凍の音を響かせながら発出された氷の塊。
水縹の魔法陣から放たれた魔法はものの見事に矢を撃墜。俺の被弾を防ぐサポートをこなし、一息をつく安堵の声を漏らすニュアージュ。
しかも、ここにきてニュアージュ自身も驚きの声を上げることとなった。
「ソードスキル:エネルギーソード!!」
矢を撃墜した氷の塊の行く先を見据えた俺は、手に持つブロンズソードに青の光源を宿して一直線へと駆け出す。その先には。魔法を放った当の本人でさえ予期せぬ標的がそこにあった。
弓を所持したオークエルフCも予期していなかったのか。不意によって眼前から迫り来る魔法に悲鳴を上げると共に、そのまま飛来してきた氷の塊に直撃。
それが体に食い込むことによって晒した隙を見逃すまいと俺のエネルギーソードがヤツの体を斬り裂く。
これで二体目――と思いきや、その体を起こすなり後方への跳躍でこちらとの距離を離すオークエルフC。
……そうだ。この戦闘前に不意でかましたパワースラッシュ。あれは接近を主としたオークエルフの団体にしか当てていなかったため、被弾を受けていない弓のオークエルフのHPは満タンだったんだ――
「アレウスさん!! 後ろ!!」
ニュアージュの声と共に選択した回避のコマンド。
戦闘画面におけるシステムによって、勝手に動く自身の身体。おもむろに前転を行うなり、俺はこの真後ろを特技『タックル』で通り抜けるオレンジ色のオーラを纏ったオークエルフBの猛進する姿を確認する。
視覚に入れずの咄嗟な回避に驚いたニュアージュ。しかし、さすがに今の俺には彼女の詳しい描写をする余裕は無かった。
回避先に、飛来する矢へと視線を投げて。それにオレンジ色のオーラが無いことを確認するなり俺は反射的に剣士スキル:カウンターを選択。
「おりゃっ!!」
典型的な音声を発しながら。
スキル攻撃によるソードの力任せの振り下ろしで迎え撃った矢は、スキルの効果によって器用にも真っ二つに割れることなく反転を行うなり、攻撃元であるオークエルフCの元へと返って行く。
『ギェアッ!?』
再び驚くオークエルフC。こいつは本当に散々だ。
自らに返って来た矢をその身体で受けながら。隙を逃すまいとすぐさまに駆け込んだ俺の、飛び掛かりからのエネルギーソードによって敢え無く撃沈。後方へ吹き飛びながらポリゴン状となって大気へと四散していく。
「す、すごい……なんて手際なの……! アレウスさんは新米冒険者さんとお伺いしていたのに……! ――ッ!!」
感嘆を漏らしたニュアージュ。しかし、目の前の光景を見遣るなり再びを気を引き締めて眼前の水縹の魔法陣へと手を添える。
回転を帯びながら縦に滞空する魔法陣へと意識を送り。自身の内に宿りし魔力に集中して。既に整えてある土台には、必要十分以上な余力が残されていることを把握するなりニュアージュは自身に宿るMPを振り絞った。
「魔法使いスキル:フリーズ・シュート!!」
甲高い冷凍の音を響き渡らせながら。水縹の魔法陣の四散による透き通った破裂音と共に発出されたのは、先程と同じく氷の塊。
それはシステムによって計算された綺麗な軌道を描くなり、俺の背後から迫り来ていたオークエルフBの背中にひどくめり込む。
『ギェアッ――』
瞬間に、振り向き。
ソードを構え。仰け反るオークエルフBに照準を合わせた矛先を向けて――
「エネミースキル:ワイルドストライクッ!!」
踏み込むと同時にブロンズソードの衝撃を宿した突破力の高い突きが放たれる。
それによって再び仰け反りながら盛大な隙を晒したオークエルフB。そんなヤツとの距離を詰めるように左足を一歩踏み込んで。右方向へ振り向いてから引き絞るように右足を引っ込めて。
猛進と強靭を武器に決死の戦いを繰り広げたドン・ワイルドバードの魂が宿る渾身の蹴りを、眼前のオークエルフBに思い切りぶちかました。
『――ッ!!』
その強力な一撃を前に、悲鳴をあげることもままならない。
それどころか、オークエルフBは自身に何が起こったのかの理解が追い付いていないようにさえも、そう見えた。
まぁ、ここまで来てしまえばもう、だからなんだという話なのだが。
声を上げることもなく。その大気と同化するかのように。オークエルフBはポリゴン状のオーラに包まれるなりその姿を忽然と失せる。
この瞬間にも眼前の敵の姿が見えなくなり。軽く一息をつく俺と、深くため息をついて心を落ち着かせるニュアージュからなる主人公陣営の勝利が確定したのであった。
これにより、戦闘終了――――




