イベント:共闘
「……ッ! まだ追ってくる……!」
自然の恵みに囲まれた、深い緑に包まれた森林地帯の中で。
アッシュ色のロングヘアーと深碧のドレスの身なりをした少女が、そのアッシュ色のブーツという身なりで自然の中を決死の勢いで駆け抜ける。
手には、絵に描いた青空のような水縹の一色で染まった、薄く明るい水色の神秘的なロッドを握り締めて。背後からは、執念深く少女の姿を捉えてくる四つの追跡者の姿があった。
「ハァ、ハァ――ここで、また迎え撃たなきゃ……ッ!」
足を止め、木の葉を散らしながらその場で振り向いた少女。
舞う木の葉は少女の風圧によって高く飛び散り。それは、勢いよく振られた少女の右腕の風圧によってきりもみ状に回転しながら宙へ舞い飛ぶ。
「どうか、この一撃で諦めてください……ッ!」
右から左へ振り抜かれた右腕と、その右手。その動作中に、自身の正面にまで移動した右手から掴んでいたロッドを躊躇い無く手放す。
すると次には、振り抜かれた勢いのままに少女の正面で横に回転を始めた水縹のロッド。それは依然として静止することも落下することも無く。宙における停滞を維持したまま、直に水縹の魔法陣を宙に生成した。
少女の行動中には、追跡者となる四つの追跡者が。
全身は毒々しい緑色で。豚のような頭部に、人間の骨格をした身体を持ち。手足は異様に細く。耳は上へ尖がるように伸びた外見をしている。
『ギャーッギャーッ!!』
生物のようであり、人間のような悲鳴を思わせる鳴き声を発しながら。目の前で臨戦態勢に入った人間の少女へと、個々が持つ弓や剣を構え。自慢の爪を研いではいきり立ちながら一斉に襲い掛かる。
三体が密集し。一体が弓を構え。四対一という圧倒的不利な状況下の中でも、少女は怯えた様相を浮かべながらもすくむ足で立ち向かい――
「魔法使いスキル:フリーズ・シュートッ!!」
振り払っていた右腕を、戻すように再度振り被って。
慣れた動作で振り抜かれた右腕。その軌道の途中には、未だに回転の働く水縹のロッドがその場で魔法陣を生成しており。そんな回転を帯びたロッドを、少女は全身に意識を注ぎながら思い切り掴み払う。
瞬間――生成された魔法陣の中央から発出されたのは、尖った形状をした氷の塊。
水が瞬時に凍り付いたかのような、甲高い冷凍の音が鳴り響くと同時に発出された氷の塊は目前から迫り来る追跡者の一体を吹き飛ばした。
『ギェアッ!!』
一体が攻撃されたことにより、その対象の戦闘スタイルを把握した追跡者達は一斉に様子見として距離を空ける。
残るは三体。そう確信した少女は、その場に浮かび上がる魔法陣越しで再度の逃走を試みようとするが――
『……ギャーッギャーッ!!』
「……なんてことなの……!」
氷の塊による攻撃の直撃を受けた追跡者は、先程に攻撃を受けたとは思えぬ身軽な動作でその場から起き上がる。
それを見遣り、確認。すると同時に、追跡者達は再び、一斉による集中攻撃を少女へと仕掛けてきた。
「そ、そんな……属性の相性が悪かったということなの……!? と、取り敢えず逃げなきゃ――」
踵を返してすぐさまの逃走を図ろうとする少女であったが。
追跡者によって射られた矢は、少女が水縹のロッドで生成した魔法陣を物理的に貫き破壊し。その綺麗な軌道を描きながら、その場からの撤退を試みようとした少女の背を完璧に射抜いた。
「うッ!! キャァッ――」
背に受けた矢のダメージによって、駆け出しによる勢いの余ったその身体を仰け反らせながらうつ伏せに倒れ込む少女。
手に持っていたロッドを手放し。その勢いのままに倒れ。地の木の葉を巻き上げながら、少女は危機を察知してその状態から振り向いて――
「いや……! 逃げられない――」
迫り来る追跡者は飛び込んでおり。
手に持った武器を。手に備えた爪を。
武装にその身を包んだ、自然に蔓延る怪物を背にして。
今、惜しみなく隙を晒す少女に、慈悲も無く武器が振り下ろされる――
「ソードスキル:パワースラッシュッ!!」
その刹那。橙の一色を帯びた長身な剣の残像が、少女の頭上を掠るように薙ぎ払われる。
次に少女が見た光景は。橙の薙ぎ払いによって吹き飛ぶ三体の追跡者の姿と。
無法者の集団と隔てるように、少女の前にその姿を現した、一人の剣士であった――
「ニュアージュ!! 大丈夫か!?」
「は、は、はい……! あ、えっと……確か、アレウスさん……でしたよね……?」
間一髪だった。
背に矢を受けたニュアージュを背後に置き。彼女へと向けていた視線を正面へと向けて再度前方の状況を確認する。
目の前には、四体のオークらしき緑色のモンスターがいる。
奴らの頭上には、『オークエルフ』という文字がそれぞれ並んでおり。数値では表されていないものの、レベルに関しては俺と比較すると然程それほどまでの強敵というわけではなさそうだ。
大丈夫。この戦いは勝てる。
確信と共に、俺はまた再びと背後のニュアージュへと視線を向けた。
「ニュアージュ、あとは俺が引き受けるから、ニュアージュは先に黄昏の里に撤退して治療に専念した方がいい!」
「い、いえ、わたしはまだ大丈夫です……! あの、お助けいただき本当にありがとうございます……! わたしも、何方かが付き添っていただけている状況であれば、十分に戦うことができますので……!」
このゲーム世界の仕様によって、ニュアージュの背に刺さっていた矢がその場で自然と消失。
それによって身を持ち上げたニュアージュは、未だに収まらぬ恐怖でその声を震わせながらも。おっとりとしながらもハキハキとした独特な調子で返答するなり水縹の杖らしき物を拾って持ち上げる。
そんな様子を見ていた俺の表情には、不安が全面的に押し出されていたのかもしれない。
自身へ掛けられた心配を拭うよう。両手でその水縹の杖をしっかりと持ち、気を引き締めた決心なる表情を浮かべることで俺の不安に答えてきた。
「……わかった。でも、無茶だけはするなよ? 無理した挙句に傷付いてしまったニュアージュの痛々しい姿なんて、キャシャラトさんやユノは見たくないだろうしさ」
「は、はい……気を付けます……!!」
「まぁ、二人で頑張って、お互いに無事のまま生きて帰ろう。俺はそのつもりで、ニュアージュを守りながら戦うからさ。……よし、それじゃあ戦闘に臨もうか」
手に持ったブロンズソードを構えて。両手で持っていた水縹の杖を構えて。
こちらの勢力の準備が整った今、俺とニュアージュのパーティーは目前で敵対勢力として立ち塞がるオークエルフの群れとの戦闘へと移行した――――




