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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
二章
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目覚めの良い朝

「――……んぉっ」


 ふと、目が覚めた。

 カーテンで遮断された夕日が窓際を黄金色に照らし。ちゃぶ台のような円形のテーブルには、状態異常:二日酔いを治すアイテム、酔い覚ましが置いてあって。

 部屋全体は、朝の時刻とは思えないほどにまで真っ暗であり。一つのベッドには俺とミントの二人が一緒に横たわっている。


 掛け布団をどかして起き上がる。脇には、水色のパジャマを着てすやすやと寝息を立てているミントの姿が。

 彼女の寝顔を覗いては、緊張から解放された安息に身を委ねているその様子に安心をして。そんなミントを起こさないように、俺は細心の注意を払いながらベッドから降りた。


 次には、装備変更。黒をベースに、オレンジのラインが走るジャージから無難な冒険者の服装へと装備を変更して。あぁ、ドン・ワイルドバードの胴はまだ着れないのかと落胆しながら部屋を後にする。


 廊下の窓から差し込む、夕日の日差し。黄昏で染まる宿屋の中を寝惚け眼で歩きながら、外の空気を吸うために宿屋の玄関を開けて外に出た。


「……ぬぉっ」


 目に入った眩しさはとても爽やかなものではなく、なんとももの寂しい思いにさせてくれる黄金と黒の目に悪い眩しさ。


 夕暮れ。しかし、時刻は早朝。

 この地域は年中ずっと夕暮れという、長居をしていると気が狂いそうになってくる環境下。

 正直なところ、辛くしんどい場所だ。こうして眠りから目覚めたというのに、朝の明かりさえも浴びれないというのは割りと精神的にくるものがあるなぁと心の中で嘆いてしまうこの始末。


 ……外界が恋しい。

 そんな、切実なる思いを抱いた俺であったが。まさにグッドタイミングというべきか。こんな気だるい気分を晴らしてくれるあるイベントが、俺の早朝の起床を爽快に飾ってくれたのだ。


「あら、アレウス! おはよー!」


「んぁ。おは……よう。あれ、どこだ?」


 不意に掛けられた挨拶。それを反射的に返すのだが、その相手がどこにも見当たらない。

 確認のためにあちこちと振り向いていると、宿屋、やるせな・インの裏からユノがその顔を出してきた。

 太陽のような、活気溢れるいつもの笑顔。こちらまで元気が分けてもらえるそれを見たと同時に、俺は彼女の服装にもつい目がいってしまう。


「……珍しい服装をしているんだな」


「あら、珍しいかしら? まぁ、確かにアレウスがこの私を見るのは初めてかも? どう、似合ってる? いつも、どこかに宿泊している間は、毎朝この服装でこうして過ごしているの~」


「へぇ、そうなんだ。よく似合っているよ。……それにしても――」


 つい、ガン見してしまう。

 というのも、へそを出した露出の高い白のタンクトップに。黒をベースとして、赤のラインが走るジャージのズボン。そして、そのジャージと合わせての黒と赤の運動靴という、爽快で涼しげな外見という見慣れないユノの姿がそこにあったのだ。


 そして、そんな露出度以上に最も驚いたのが、ユノの鍛え抜かれた身体であった。

 さすがは危険な冒険を自身から進んで経験してきただけはある。女性としては非常に鍛え抜かれており、その健康的な色白の肌には割れた腹筋が浮かんでいて。二の腕には色っぽく膨らんだ筋肉が盛り上がっていて。……その、胸部もまぁ、なるほど。豊満まではいかなくとも、着痩せをするタイプかという印象を抱くというもの。


 少女にしては長身で。健康的な色白の肌と、尻辺りにまで伸びる白色のポニーテールが。

 そして、程よい筋肉が女性としての魅力を引き立てており。スラリとした大人びた体系にクールビューティなその外見というユノの新たな一面を見て、俺は思わず見惚れてしまっていた。


 ……にしても、まぁ、これはまたアダルトなことで――


「……どうしたのアレウス? そんなにじっと私を見て……」


「あ、あぁ、いや。目覚めの良い朝だなって思って」


「? えぇ、そうね。朝から夕暮れというのも今までに無かったから、とっても面白い未知を経験できる朝でなんだか楽しくなってきちゃうわよね!」


「だね。ハハハッ」


 俺も今、新たな未知を確認できた朝で、つい楽しくなってきちゃったよ。


 ……まぁ、このノリはこの辺で止しておこう。


「あー、それで。ユノは今、何をしていたんだ?」


「私? 私はね、今は日課のジョギングと筋トレをやっていたの! 身を落ち着ける場所にいるときは、こうして毎朝のようにジョギングと筋トレをすることが日課なの! 職業の関係で身体能力は低下しちゃっているけれど。でも、それでも身体を鍛えたくって、つい今までも日課の運動をしていたところだったの!」


 なるほど。道理で抜群なスタイルを有しているわけだ。

 日課としている運動によって、女性としての魅力を……って、あぁ、今日はもうダメだな。俺は今、よろしくない思考回路をしてしまっている。


「日課の運動か。いいな。でも、朝からこんな夕暮れじゃあ、せっかくの日課も捗らないんじゃないか?」


 と、さりげなくこの夕暮れを非難してしまっていたような気がする俺の質問。

 それでも、ユノはその太陽のような笑顔を絶やすことなく。それでもって、意外にも首を頷かせてから喋り出した。


「えぇ、さすがに夕暮れだと身体が重く感じるわね。でも、これもいい経験になったわ。まぁさすがに、朝の日課は太陽の光を浴びながら行ったのだけれどもねっ」


「……太陽の光? どこにそんなものが……?」


「あれ。あの時のアーちゃんの言葉、忘れちゃったの?」


 なんのことだ。

 まるでサッパリわからなかったために、もう一度聞かせてほしいとユノに頼み込んでみることにした。


「まぁ、アレウスもほろ酔い状態だったものね。覚えていないのも無理もないわ。実はね、この宿屋の裏にある井戸に飛び込むと、昼夜が巡っているあの外界に移動することができるのよ」


「お、おぉ! そうだったのか!」


 なんて有力な情報なんだ。

 俺は心からの歓喜で、この情報を聞いた瞬間にもその井戸へと駆け出しそうになる。

 ……が、ここで一つの疑問が浮かんできてしまったために、その足を抑制して再びユノへと視線を向けた。


「……えっと、それで、アーちゃんというのは誰なんだ?」


「アーちゃんは、昨夜キャシーさんと別れたあとに出会った、可憐で可愛い女の子のこと! 名前はニュアージュちゃんっていうのだけれども、私がアーちゃんって呼んでみたところ気に入ってもらっちゃって! それで、私はアーちゃん。アーちゃんは、私のことをユーちゃんって呼び合っているの!」


 それを聞いてから、さすがにあのニュアージュのことは覚えていたことを確認する。

 だが、それ以上の記憶はまるで無い。というか、そんな描写がどこにも無かった以上、俺にはその間の物事を把握する手段が存在しないものだから、こうして知らないのも仕方の無いことではある。


 ……にしても、あれ以降の女子会で、あのニュアージュとそこまでの仲になったのか。女子の交流というものは実にすごいものだ。


 っと、これまでの経緯の説明をユノから聞いていた俺であったが。

 この場面にきて、ある意味で次の場面への移行を予期させる、次なる展開が間を裂くように挟まれた。



「――ッ!!」


 ぐぅ~っと、腹の虫が響き渡る音。

 瞬間、ビクッと反射的に敏感な反応を示したユノ。その次には、バレないようにという意図が丸見えな動作で彼女はゆっくりとお腹に両手を添えて。

 そんな動作の一部始終に視線を配っていた俺を見つめているなり、次第にその頬を赤らめ始めた。


「……聞こえた?」


「あ、うん……」


「……もう。恥ずかしいじゃない」


 大人な見た目から、乙女のような表情と声で。

 恥じらいの笑みを浮かべながら、こちらを見遣ってくるユノ。


「……むぅ、それじゃあ私は一足先に朝ごはんをいただいてくるわね! ミントちゃんはまだ寝ているのかしら? いつもの服に着替えた後にでも、ちょっとミントちゃんの様子を覗いてくるわね。そういうことだから、ちょっと勝手にお部屋へお邪魔するわよ! それじゃあ、またねッ!」


 羞恥を受け流すかのように、空元気で無邪気な慌しい様子のまま走り去っていくユノ。

 駆け足で宿屋、やるせな・インへ入っていって。その扉が閉まる様子を最後まで見届けることで、俺はユノの見送りを軽く済ませた。


 朝から、ある意味で良い目覚めができたと。そう、未だにそんなことを考えながら、それではと俺は宿屋の裏へと歩みを進めていく。

 同時に、ここが命懸けの戦いが繰り広げられる弱肉強食の世界である事実をふと忘れさせる。なんとも平和的で穏やかな一時を過ごせた瞬間だったなと思えたのであった――――

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