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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
二章
54/368

ウナギでナマズでオタマジャクシでウツボで犬のような人。

「何の用で?」


 気だるそうに、喉に突っ掛かるような低い声で。活力を思わせず、その声の主に興味も無しと言わんばかりのだるそうなその声で。

 魚類であるあのウナギという、突飛なその姿をカウンターから見せてきた目の前の生物。


 喋るウナギ。たった数時間前までには喋るフライパン人間とも話していた俺であったが、さすがに全身までもが人間から掛け離れているとなると、俺はもうただただ驚愕することしかできなかった。

 その上に、目の前のそれをよくよくと観察していると、俺はそれについての更なる発見をすることとなる。


 まず、目の前のウナギは浮遊している。カウンターの陰から次々とその姿を現していくその光景も異質なのだが、その胴体と思わしき部位の長さがまた、目測で五メートルくらいという恐るべき大きさを誇っているのだ。

 更に、まじまじと観察をしてみると……。頭部はどこか犬っぽさを思わせて。口元からはナマズのような長いヒゲが生えていて。頭部と胴体の部分がオタマジャクシのように形が変わっており。胴体はウツボのように見受けられる。


 そして、平然と喋っている。人間から完全に掛け離れたその容貌だというのに、その言葉使いにはまるで違和感を思わせずにしっかりと話している。

 ……それにしても。この、目の前の生物は一体なんなんだ――


「こ、ここに宿泊を。と……」


「あい。何泊?」


 すごくだるそう。

 もう、接客も面倒くさいと。職務を投げ出したいという投げやりなオーラが全開だ。


 しかも、戸惑いが隠せない俺を不審がっているのか。その目は細く、無愛想な表情であまりにも適当なその声音。

 目の前の生物に俺はあたふたと困惑していると。そんな俺への助太刀……というよりは、一刻でも早くの祝杯を楽しみにしていたユノが、ひょっこりと俺の肩越しからその顔を覗かせてきた。


「オーナーさん。ここの宿屋は冒険プラン利くかしら?」


「冒険プラン、ね。あい……あい――」


 冒険プラン?

 俺に更なる追撃と言わんばかりに、背後からの聞き慣れない言葉を耳にして。もうワケがわからなくなることで、未知に対する困惑の上に、聞き慣れぬ言葉によって混乱までしてしまった俺。


 っと、そんな不甲斐無い姿ばかりを見せてしまっている俺であったが。ここに来てのまさかの展開を控えていただなんてまるで思いもせず。

 終いには、この混乱という感情も忘却してしまうほどの唖然を今、迎える――


「――はァい冒険プランのお客様達だね!! はいはいようこそこの『宿屋、やるせな・イン』へ!! いやぁこんな場所に普通の冒険者の諸君が訪れてくるだなんてねェ一体いつ以来だろうか本当に久し振りだよこれはそれに君達は初めて見る顔だね一体何処から来たの?? というか冒険者なのによくこんな場所を知っていたねこれは中々の情報通で風変わりな冒険者達とお見受けができそうだ。ワタシは君達のような変わったものが好きな冒険者を心から歓迎するよどうやら君達と過ごす日々が楽しくなりそうだよところで自己紹介がまだだったねワタシはこの黄昏の里の宿屋、やるせな・インを経営する"オーナー"の『キャシャラト・キャシャロット』という者でね。どうぞお見知りおきをところで君達の名前を伺ってもいいかな??」


 …………え?



 困惑。 混乱。  ポカーン。


「私はユノ・エクレール! それでこっちはアレウス・ブレイヴァリーで、彼の隣にいる女の子がミント・ティーちゃん!」


「はいはいユノ・エクレールとアレウス・ブレイヴァリーとミント・ティーねちょっと待ってねメモするからっっ」


 先程までの無愛想な様子から一変しての流暢過ぎる陽気な言葉使い。

 聞き取ることが困難なほどまでの早口であり、それが目の前の生物から次々と繰り出されていく。


 その無愛想だった顔も、パッと明るく笑顔を浮かべて。絵に描いたようにニッコリとつり上げた口角に。細かった目も見開いて、白の一色に染まった瞳を見せて。

 なんとも胡散臭かったその見た目から転じて。その喋り方に相応しく、陽気で気さくな明るい調子が似合う生物という印象へと認識が変貌してしまった。


 更に、五メートルという長身で、それでいてウツボのような胴体を尻尾のようにうねらせて。

 カウンターに置かれていた小さなペンをその大きな胴体で絡み付くなり、それを器用に持ち上げては紙に文字を綴っていく。


「はいそれじゃあ冒険プランで君達の予約が完了したからねところで部屋の数はいくつ必要なのかな?? あぁ二つ?? 二つでいいの?? あぁそうかなるほどね確かにレディ二人とメン一人で宿泊すれば少ない宿泊料金で事足りるもんね君達まだまだ若いのにちゃっかりしてんねェ了解したよそれじゃあこれでこの宿屋の宿泊の手続きが完了したからこれからは自由に出入りしてくれて構わないからね」


 早い早い早い。喋るのが早すぎて、若いのにちゃっかりしているの部分以外がまるで聞き取れない。


 超音速な早口で次々と喋り続けながら、その大きな胴体で掴んだペンをこれまた器用に操っていくオーナー、キャシャラト・キャシャロット。


 ……待てよ。ここで繰り広げられるであろう次なるメインシナリオ。オーナーというキャラクターがそのカギを握るのだが……。

 その重要人物ってもしかして。いや、もしかしなくとも、この目の前の生物ということになるんじゃないのか――


「ありがと~キャシャラトさん! ふむっそれじゃあ早速お部屋に向かって、ベッドの寝心地を確認しておこうかしら?」


「あァそうだそうだお嬢ちゃんちょっとだけ待っていてくれるかな?? あまりにも久しぶりな冒険プランのお客さんだから優待してあげようと思っていたのだけど如何せんあの里のようにお客さんの数も少ないもんだから部屋の調整を全く行っていなかったんだ。せっかくの久しぶりな冒険プランのお客さんだから印象は最高にしておきたいからねだから少しだけ待っていてくれないかなすぐに二部屋分の掃除と模様替えを済ませてくるからっっ!!」


 早口で色々と喋りながら大慌てで浮遊し、こちらに何か言い聞かせるような調子で何かを説明するなり――


 オーナーのキャシャラトは、エンジンがかかったようにその場から飛び出して。

 そのまま繰り出した猛スピードによって、宿屋の廊下へすっ飛んでいってしまった。



「…………」


 俺、唖然。

 嵐の前の静けさとか冗談で思っていたものの、目の前のそれはある意味で、紛れも無い嵐だった。


 状況が飲み込めずにただただ立ち尽くす俺の肩越しには、特に何も触れることもなくニコニコと笑顔を浮かべているユノが。そして、俺の斜め後ろでは平然と律儀に佇立しているミントの姿が。


 ……マジかよ。あれ見ても誰も動じないのか。


「ずっと夕暮れだったから、ここのオーナーさんはちょっと暗めな性格なのかなぁって勝手に思い込んでしまっていたけれど。やっぱり実際に会ってみないとわからないものね。こうして話してみたら、とってもよく喋る、明るくて笑顔が素敵な、すごく面白い人だったわね~」


「そ、そうだね……。――えっ人!?」


 ほんわかとした表情で。何事も無かったかのような、至って通常通りの様子で言うユノ。

 ……なるほど。どうやら、俺はまだ当分の間はこの世界に馴染めそうにないようだ――――

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