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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
二章
52/368

拠点エリア:黄昏の里 【黄金と影の領域】

「それにしても、この地域はずっと夕暮れのままだなんて……ホントにすごいわよね~……」


 黄昏の里の台地に佇みながら、ユノは感嘆の言葉を呟く。

 地平線の彼方からその黄金色を放ち続ける、永遠に沈まぬ日の入り太陽。この地域一帯をも照らし尽くし陰りの世界を余すことなく生成する自然現象を、ユノはただただ呆然としたまま眺め続けていた。


 彼女の前にはミントが。後ろから抱きつかれて、そのまま身体に両手を回したユノに絡まれるように。

 その場から動けなくなった状態で諦めの境地に達した表情を浮かべながら、ユノと共にその先の太陽を眺めている。


 ……それにしても、今までにも未知を求める冒険を続けて旅をしてきたユノでさえ、この場所を知らなかったとは。

 アイ・コッヘンが言うには、この地域は秘境とも呼べるであろう知る人ぞ知る領域。それはつまり、ゲームでいう隠し要素にあたる場所ということになるだろうか。


 まさか序盤で隠しフィールドに行き着くとは思ってもいなかったため、俺はこの予期せぬ展開にこの世界で起こる意外性の連続にただ驚くことしかできなかった。


 ここはゲームの世界と言えども、その中身は、まるで何が起こるかわからない。

 もはやこの先の展開は読めず。俺を導くために用意されるストーリーも、フラグというシステムによってその姿を変えていく。

 ……なるほど。もう、この世界では何が起こっても、何も不思議ではないということだ――


「今まで私は、年中ずっと夏であったり、その逆で年中ずっと冬であったりした地域に行ったことがあったけれど……こう、時間がずっと一定のままに維持された地域というものは初めての経験だわ。それも、あの丘にあった洞窟をくぐったその先がこれですもの。あの丘は私、よく通るのに……ここに通じるあの洞窟の存在には全く気付けなかったわ。……それにしても、あの洞窟を辿るようにあの丘を下っていっていたら……きっと今頃は至って普通の平原に出てきているハズ。……不思議だわ」


 思考をめぐらせながらの、自身に説明するかのような静かな調子で語り出すユノ。


 もしも、あの洞窟が続く方角を、あの丘を通って辿っていったとしても、どうやらこの黄昏の地には出てこないとのことらしい。

 となると、人目を避けるかのように存在していたあの洞窟を介することによって、この秘境の地に辿り着くということなのだろう。


 ……つまるところ、あの洞窟はこの地と外界を繋ぐワープトンネルといったところか。


「……これはまさしく、未知ねッ!!」


「まさしく、ユノのモットーに基づいた体験だな。道を辿りて未知を知る……だったよな?」


「そう! 私の座右の銘!! 自分で考えたものだけど!」


 と、ユノはあの太陽にも負けないほどの輝きを放つ期待の眼差しを向けてくる。

 眩しい。物理的にとはまた違う眩しさだ。


「……ところで、アレウスはもう気付いているかしら?」


 ふと、眼差しの輝きが失せると共にユノは背後へ振り向く。抱きついているミントごと。

 

「気付くって?」


「この里を出歩いている人々の大半は、あの音属性の耐性を持つ鎧を身に着けていないわ。この地に住んでいる人々はここのモンスターの性質をよく把握しているだろうから、きっとあの鎧を身に着けている人々がここの住民といったところかしらね。とすると~……あの大半の人々は、外界からの来訪者と考えてもいいかもしれないわ。それでもって、商業用の品物や持参品を入れるための大きな袋を持って、この地の人達と物品を交換しているわ。それもあちこちで。こう見てみると、どうやら外からやってきた人々の多くは商人といったところかしら? ……ここからは私の推測になるのだけれども……アイおじさまはこの地のことを秘境と言っていたけれど、もしかしたら、きっとここは知る人のみが知っている、秘密の交易所なのかなって私はそう思っているの」


 さすがは、数々の冒険を経験してきた観察眼と言うべきか。

 今までには、冒険心と好奇心に突き動かされる自由人なユノの姿ばかりを見てきていたため、ここまで冷静且つ淡々としたユノの姿を見るのは初めてかもしれない。


 眼差しは鋭く。声も低く。

 瞳を右往左往と動かすことで視覚から情報を取り入れて。鼻でその地の匂いを感知し。口をぴったりと閉ざしているその様子からは意識の集中を思わせる。


 そんな彼女の姿は、まさにクールビューティ。先程までの未知を求めるマイペース乙女から一転して、なんともシリアスなその調子の一変に俺は唖然としてしまう。


「アイおじさまも、この地での取引を目的としていたわよね。この地で採れたカボチャを頂くために、って。それを考慮してみると、あの一流シェフのアイおじさまが大絶賛するほどの、とても絶品な食材ということになるわよね。……だけど、そんな一流シェフも絶賛する、質の良い食材がこの地にあるというのに。それにしては、ここに訪れている商人さんの数が少ないように見受けられるわ。もしそんなに美味しい食材なのであったら、きっともっと有名になってより多く外界に出回っているいるハズ。もし、そうだとしたら……ここが秘境であったとしても、その界隈では知れ渡っていることで取引に訪れている商人さんがもっと居てもおかしくはないのだけれども――」


 冷静且つ淡々とした調子で。

 その瞳を引っ切り無しに動かしながら、余すことなく前方の光景から情報を取り入れていくユノ。


「……アイおじさまが言っていたわ。その取引相手は警戒心が強いから、その本人が交渉に出向かなければならないって。……取引相手の警戒心。……本人が直接の交渉に。輸送といった便利な時代である中で、そうしなければならない何かしらの理由が、この地に存在しているということなのかしら――」


 俯いて思考を整理していくユノ。

 大人びたその外見で。目の前の疑問に経験を活かした推理を重ねていって……。


 ……ふと、顔を上げた――


「――未知ねッ!!」


「お、おう」


 結論:未知。


「スキャン――完了。さすがはユノ様でございますね。こちらの拠点エリア:黄昏の里は、この地に住まう住民の方々と、外界に存在する一定の人間のみがその地の存在を知る秘密の交易所でございます。この地に射す黄昏の光を浴びて育った作物には、未だに解明されていない謎の効果によって、より深みのある味が引き出される……とのことです。その情報を知る一部の人間達がその作物を求め、はるばるとこちらの黄昏の里に訪れてくるようですね。また、こちらの地にはある歴史が存在しているようなのですが……申し訳ありません、こちらはワタシの技量不足によって、現在の状況ではその真相に至ることができません……」


「あら、さすがは守護女神のミントちゃん! その不思議な力で、この秘境のこともある程度はお見通しといったところかしら?」


 情報のスキャンによって、この拠点エリア:黄昏の里に関する情報を得たのだが……それはユノの観察眼と似たような内容であった。

 ユノの観察眼は、ナビゲーターであるミントのスキャンに匹敵するということなのか。


 ……抱きしめているミントの脳天に顎をぐりぐりと押し付けているユノの姿を見ながら、俺は彼女が巡って来たであろう数々の経験にまたまた唖然としてしまう。

 というか、この場面が訪れてからはというものの。さっきから俺はずっと唖然としているだけだな……。


「いいなぁミントちゃんのその力~。いいなぁ、羨ましいなぁ……」


「ユ、ユノ様っ――ぐ、ぐりぐりはっ……ぐりぐりはっ。ぅっ――」


「……あぁでも、これですぐに未知が理解できちゃうと、せっかくの未知を探るお楽しみが無くなっちゃうのはちょっと困るかも……? ダメ、ダメよユノ……目の前の未知なる力に惑わされちゃダメ! ……でも、やっぱり羨ましいかも……」


「ユ、ユっ――っうぅ……」


 顎で脳天ぐりぐりからの、手で優しく頭撫で撫でによって主張が薄れていくミント。

 やめてくれという主張をしたいものの、これは満更でもないという複雑な表情を浮かべながら。この場面が始まってからというもの、ユノの好きなようにされているミントのその姿はなんだか――


 ……まぁ、このまま眺めているのもいいか。



「……この地の、ある歴史。か」


 先程のミントが言った、この黄昏の里の歴史というもの。

 特に何気の無い言葉ではあったものの、主人公という存在であるが故の勘なのだろうか。

 ……何故か、どうもこの言葉が引っ掛かってしまって仕方が無かった。


 如何せん、ここにも宿屋がある以上はオーナーがいて。そのオーナーがいる以上はメインクエストがある。

 その歴史というものも、もしこのメインクエストと関わってくるのであれば……その経歴や事情を掘り下げていくことはまず間違いないだろう。

 

 ……この歴史。さぞ物騒なものではなく、なんとも穏やかで平和的なものであってほしいのだが。さて、その真相とは一体どうなることやら……。

 メインシナリオという新たな展開に期待を抱きつつも、現実の世界であるが故の、未知に対する恐怖で不安も募るこの現状。

 果たして、俺は一体どんな物語と出くわすことになるのだろうか――――

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