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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
二章
51/368

拠点エリア:黄昏の里 【未知が繋ぐ、絆の糧】

「ウフフ、こうしてアレウスとミントちゃんの三人で歩いていると、私達なんだか家族みたいね」


「……え?」


 なんだなんだ、唐突に――


 

 夕暮れの太陽が、地平線から放ち続ける黄昏の色と。その黄昏によって塗り潰されたかのように広がる、暗黒の影。

 茜色の大空が広がっている中で、その茜色を覆い尽くすようにもくもくと浮かんでいる陰りの雲。そして、どこか寂しいそよ風が土の匂いを運び、こだましては溶けるかのように消えていくカラスの鳴き声が、この世界の特徴である永遠の日の入りを悲しげに演出する。


 ここは拠点エリア:黄昏の里。

 もの悲しげなその光景が年中ずっと展開されるという独特の特徴を持つこの地域。そして、この地域にポツリと存在する、唯一の癒しポイントというこの場所にて。

 俺は、パーティーメンバーであるユノとミントと一緒に観光交じりの探索を行っていたのだが……。


「だって、こうして私とアレウスが、こうミントちゃんを間に挟みながら一緒に歩いているこの光景を他の人達が見掛けたら、きっと仲の良い夫婦とその娘さんみたいに見えてくるじゃない?」


 いや、そう聞かれてもな……。

 唐突なセリフに、ただただ困惑する俺。そんな俺とユノの間を律儀に歩いていたミントは首を傾げていて、現在の物事を上手く呑み込めていない様子。

 ……まぁ、でも、ユノが妻でミントが娘か……。


「……家族かぁ。まぁ、俺としては悪くはない気分――」


「あっ。ねぇアレウス! ミントちゃん! そろそろこの里のお店を覗いていってみましょうよ! もしかしたら、この先の冒険で役に立つかもしれない物や、何か面白い物があるかもしれないから!」


 まるで俺の話を聞いていない。

 溢れ出してきた好奇心には、もはや絶対に抗えない。冒険の熱を思い出したユノはふと思い出したかのように駆け出してから、目の前の道具屋と思わしき屋台に近付いては店員さんにいろいろと話し掛けていた。


 全く。そんな彼女のマイペースさに呆れ顔を浮かべてしまう俺。

 もちろん、この呆れには悪い意味など含まれていない。むしろ、彼女らしいなという印象で留まった、ユノというキャラクターの安心感を抱いてのことであった。

 それはミントも同じだったらしく。二人で顔を見合わせながら、ゆっくりとした足取りでユノに追い付く。


「どれ。どんなものがあるかな……」


 道具屋の品揃えは、回復アイテム、虫取り網、釣竿、ツルハシといった素材集めを主とした道具はもちろんとして、空気中に漂う魔力を収集できる魔法ビンや、水分に溶け込んだ魔力の結晶を掬い上げることができる掬い網が。また、飛行物体を打ち落とす際に用いられるとされるパチンコも置いてあったりと、どうやらのどかな村にあったアイテムは一式揃っているようだ。


 そんな見慣れた品物の数々で、ちょっと気を抜いたその時に俺は初見のアイテムを見つけることとなる。

 ……これは、目薬と耳栓……?


「ご主人様。こちらの目薬は、状態異常:盲目を癒すアイテムでございます。また、そちらの耳栓は爆音や音波といった、相手が攻撃として用いてくる音の攻撃を一時的に防ぐ効果を持つアイテムでございます」


 俺の隣で、律儀な佇立をしたミントが説明を添えていく。

 こういう彼女からのナビゲートは、なんだかんだで久し振りかもしれない。


「アイ・コッヘン様からの情報提供によって、既に把握しておられているかもしれませんが……改めまして、ナビゲーターでありますこのワタシが再度の説明をいたします。……こちらの拠点エリアの外に広がっておりますフィールド:哀愁平原・ハードボイルドには、状態異常:盲目や空間を伝う音を用いた攻撃を主とするモンスターが多く生息しておられます。これらのモンスターとの戦闘におきましては、そちらの目薬『パッチリスッキリ』と、こちらの、そのままの名であります『耳栓』という二種のアイテムが大いに活躍し、これから先を歩むご主人様の冒険の手助けとなるかと思われます。特に、盲目という状態異常に関しましてですが。こちらの状態異常:盲目というシステムには、一時的に視力を奪われてしまうことによる全ステータスの低下という極度のステータスの弱体化を招き入れてしまう効果がございます。そのため、この地域に滞在する期間におかれましては、最低でも一つはこのスッキリパッチリの所持が推奨とされております」


「ふむ……」


 盲目という状態異常にかかると、目が見えなくなる上に全ステータスの低下か……。

 こればかりは、さすがに対策は必須か。ミントの説明を耳にして、俺は薬草やポーションといった回復アイテムと共に、目薬であるスッキリパッチリも購入する。

 ……しかし、このスッキリパッチリ。中々に厄介な状態異常を治す効果をもっているだけあって、とても高額なアイテムだった。支払った後で、一気に所持金が減っていって驚いたぞ……。


「用は済んだかしら? それじゃあ、次は鍛冶屋を覗いてみましょ!」


 俺の様子を見ていたユノ。脇から期待の眼差しをキラキラと輝かせる顔を覗かせて、その次には向かい側にあった鍛冶屋の屋台へと再び駆け出していく。

 そんな活発な少女の背中を眺めながら、俺とミントも鍛冶屋に到着――


「……んっ、これは」


 と、そこで俺はある物を目にした。

 それは、この里の住民と思わしき人々が着用していた、その服装にとても似合わぬ鎧のような円形のプロテクター。

 胸部や脚部といった個々の箇所に、その箇所に合ったそれぞれのプロテクターが用意されている。


 疑問に思って俺がそれを眺め遣っていると、俺の斜め後ろで律儀に佇立していたミントが隣に移動してきた。


「こちらの装備には、ステータス:防音の効果が付与されております」


「防音?」


「はい。こちらのステータス:防音に関してですが。こちらの防音という効果には、相手から受ける音属性の攻撃の効力を弱めるといった……そうですね、音属性に対しての"耐性"を得ることができます。という説明でありましたら、容易に理解できますでしょうか」


「あぁ、なるほど。音属性に対する耐性ね。納得」


 耐性に関する説明は、ミントもまだ頭の中で整理できていなかったのだろうか。

 ナビゲーターとしても、人間としてもまだまだ成長中の彼女。その、ぎこちの無い調子と仕草が、未だに抜けない初々しさを醸し出している。

 まぁ、それがミントらしいというか。その様子に癒しを感じるために、然程気にはならないものだ。


 と、それはまぁいいとして。

 この、音属性に耐性を持つ装備。どうやらこの地域に生息するモンスターを相手にする際に重宝するのだろうな。という感想。


 そして、俺はあることに気が付いた。それは、この装備を装着していたNPCのことに関すること。

 一部のNPCがこのプロテクターを装着していたというものだが……それはどうやら、ここを住居としているからこその装備品だったのだろう。


 この地域に生息するモンスターが扱うものが、まさしく音属性の攻撃。なるほど、この地域で生き延びるためにも、ここに住まうNPC達もちゃんと彼らへの対策を施してあるということなのか――


「……ユノ? それはなんだ?」


「え? あぁっ、これ?」


 ふと、振り向いた先で目に付いた物。それは、ユノが抱えていたピンク色の袋。

 見慣れないそれに疑問を感じて、俺はユノへと尋ねることにしてみた。


「これはペットフードよ。アレウスは剣士だから、確かにこれは見慣れない物かも」


「ペットフード?」


「そう。もっと詳しく説明をするとね、これは武器:エサなの」


「えっ?」


 武器が、ペットのエサ……?


「これは『ビーストテイマー』や、私の職業である『召喚士』が扱う立派な武器なの。これが武器? って最初は思うかもしれないけれども、それでも一応、武器カテゴリに属する武器としての扱い。だけれども、その用途は、大事な大事なペットちゃんのお腹を満たすために食べさせる、至って普通のご飯なの」


 俺への説明をしながら、鍛冶屋でエサの購入による会計を済ませるユノ。


「このエサという武器は、自身が飼い慣らしているペットを手懐けるために必要となるものなの。……と言っても、私と相棒のジャンドゥーヤにはもう強い絆があるから、もうエサという武器が無くても逃げたり逆らったりなんかは絶対にしないわ。だから、これはご飯というよりはおやつの感覚でいつもあげているの」


「へぇ」



 購入したピンク色の袋を、まるで我が子のように抱きしめながら持ち歩くユノ。その様子をミントと二人で眺めながら、俺達は特にこれといった目的も無くフラフラと黄昏の里を歩いていく。


 一見すると、この目的の無い行動に意味を感じないかもしれない。

 ……だが、そんな何気の無い状況の中にも、ちゃんとしっかりとした意味が、そこに存在していた。


 ……未知を求める旅路を共にする仲間と過ごす、この一時。そこには、絆という心の繋がりが、今も尚育まれていたことにそう違いないだろう――――

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