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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
一章
5/368

拠点エリア:のどかな村

 戦闘のチュートリアルを終えた俺は、ユノに案内される形で村に到着した。

 活き活きとした緑と青の幻想的なフィールドの中に、まるで設置されたかのように存在する卓上地。崖には段差が設けられており、少々急となっているそれを上り終えると目の前には村が広がっていたというもの。

 彫刻のように美しい山脈を背景に、俺はようやく最初に訪れる村へと足を踏み入れたのだ。


 人の足跡で自然と形作られた地面の道。その道を強調するかのよう、周辺に生える草花。木や鉄で建設された住居が不規則に並んでいる光景。それらに混じった、職人の手作りであろう屋台の数々。

 巨大な風車は風を受けて回る。木製の柱の装飾からはわずかながらの照明が灯る。変に人の手が加えられていないその村の光景はまさに、初期で訪れるに相応しいシンプル且つ活力溢れる村を完璧に演出していた。


「うわぁ、すげェ」


 語彙力に乏しい感想。でも、ホントにうわぁ、すげェな光景なのだから仕方無い。

 村を歩く人の数は、思っていた以上に多かった。てっきり少人数で形成された村かと思っていたものの、その数は端から数えても数え切れないほどに人々が行き交っているというもの。

 服装にも目がいく。RPGでよくあるローブや俺のような冒険者装備一式の人達がいれば、ユノやナビ子のようにラフな恰好とされる一般的と呼ばれるであろう服装の人達も見受けられる……といった具合。どうやら、服装は次元に縛られていないようだ。


「無事に村へ到着したわね。それじゃあ、私はちょっと別行動になろうかな」


「ん、どこかに用事があるのか?」


「うん。私、ここ数日は宿屋に宿泊しているのだけれども、その宿屋のオーナーさんにアレウスの分のお部屋も確保してほしいって頼んでこようかなって。それじゃあ、ちゃちゃっと行ってきちゃうね! すぐ戻ってくるからー!」


 それくらいなら俺がやるのに。

 そうユノへ伝えようとしたのだが、さすが冒険好きで行動的なユノ。俺がこののろまな口を開く前に颯爽と走って行ってしまった。


 あぁ、手間を掛けさせてしまったなぁ。そんなことを考えながらも、それじゃあと俺は後ろ隣で律儀に佇立したまま待機するナビ子へと尋ねる。


「俺って、次はどうすればいいのかな?」


 村を眺めていたナビ子。ハッと自身の使命を思い出したかのように息を飲んで、俺の方へと振り向く。

 まだまだふつつかものですが。そう自分で言っていたけれど、これくらいであればむしろ見ていて癒されるから別に何の問題も無いといったところか。


「あ、はい。ご主人様の次なる行動の確認ですね。少々お待ちください――検索完了。はい、お待たせしました。それでは、ご主人様の次なる目的という質問の返答についてですが……どうやら、現在は特にこれと言った目的は存在していないようですね」


「目的が存在していない?」


「はい。もう少し詳しく言ってしまえば、ただいまのご主人様は限りなく自由の身。ですので、ご主人様は現在地であるこの村や以前のフィールドを自由に歩き回ることが可能となっております」


 つまり、ナビ子の言葉そのものの意味か。俺は自由だ。俺は何でもすることが出来る。

 でも、じゃあ俺はこの自由行動の間は何をした方がいいのだろうか……あまりにも自由過ぎる今の現状に、つい迷いが生じてしまうものだ……。


「いざ自由となると、なんだか行動に移しにくくなっちまうよなぁ……」


「きっと、そのためのメインシナリオの開放やサブクエストという要素なのでしょうね。あまりにも自由過ぎるよりかは、ある目的が存在している中で見つける寄り道が、一番行動的になれる気がします」


 ゲームの世界でメインシナリオの開放やら寄り道の話やらをするという、世界観ぶち壊しな内容の会話を平然と交わしていく俺とナビ子。

 その間も村の人々は行き交い、刻々と時間が過ぎていく。そう、この世界はゲームの世界であって、現実の世界でもある。つまり、俺は今、この世界で生きているのだ。


 ……せっかく用意されているこの限りのある時間を、せめて何かに有効活用しなければ勿体無いな。そう思い、俺は取り敢えずとナビ子からの情報収集を優先することにした。


「じゃあ、取り敢えず質問するよ。ナビ子、この村って何なんだ?」


「はい、現在地の情報ですね――ロード完了。ご主人様は現在、拠点エリア:のどかな村に滞在中です。こののどかな村という拠点エリアに関してですが……どうやらこの名が正式名称のようですね」


 のどかな村という名の、のどかな村。

 なるほど、確かにのどかな村だ。ここの村長さんは上手く名付けたと思う。だって、ここはのどかな村なのだもの。


「旅立って間もない旅人や商人といった、冒険を前提とする職業や立場の人間に大変よく利用される、とてものどかな村です。この地の周辺に広がる、広大な自然で形成されたフィールド:ガトー・オ・フロマージュの豊かな地に生息するモンスターは、どれもレベルが低く設定されているため、予めこちらで戦闘の調整を施しておくことをオススメいたします。また、序盤にこの地へ訪れるという設定がなされているため、お店で手に入る品物のほとんどが序盤でも簡単に購入することが可能なアイテムばかりです。なので、次なる旅路へと赴くその前にお店を利用することで、より快適な旅路を歩んでいけるかと思われます」


 ……自分で名付けた俺の名前もある意味そうなのだが、この世界で名付けられた名前って、なんかこう、ちょっと一癖のある不思議な名前だよな……。

 そんなことを思いながら、一通り話し終えてふぅっと息をつくナビ子へ再び問い掛ける。


「ユノって、今何をしているんだ?」


「仲間:ユノ・エクレールの状況、ですね――プログラム、発見。はい、ユノ様は現在この拠点エリア:のどかな村に存在する宿屋、リポウズ・インのオーナーである人物と会話を交わしています。それで――あ、えっとご主人様、ただいまフラグを感知いたしました」


「フラグ?」


 そう言えば、そんなことも言われてたっけな。

 あの謎の人物が言っていた、この世界中に張り巡らされたフラグというシステム。俺が冒険を進める中でこのフラグというシステムを立てていくことによって、この世界のあらゆる状況が変化していく……みたいなことを言っていたっけ。

 ……つまり、これって冒険をするにおいて、すごく重要なターニングポイントとなるのでは……?


「現在の時点で直面しているフラグは二種類です。順を追って説明致しますと、一つは現在の拠点エリア:のどかな村に存在する宿屋、リポウズ・インのオーナーと会話を交わすユノ様のもとへと赴くこと。もう一つはそれ以外の行動を行うこと、ですね。このどちらかの条件を満たすことによって、それに沿ったフラグが立ち上がる模様です」


 まさかの選択肢。主人公であるこの俺が直々に選べということなのか。

 迫られた二つの可能性に、俺はただならぬ緊張感を抱き始める。待て、まずは落ち着け。これもきっとナビ子に訊ねることで、どちらを選んだ方がいいとかを事前に知ることが出来たりとか――


「なお、ワタシが感知できるシステムには限度があります。ので、フラグに関しては、今現在の迫り来るフラグを選択した後の未来を正しく予測することは残念ながら不可能です。何せ、この世界は生成されたばかりの"開発段階"と呼ばれるもの。よって、ご主人様の選択によってこの先のシステムが"開発"されていくことになります」


 まさかの牽制。そしてカンニング不可能……!!

 あぁそうか……つまり、俺は主人公らしく自分自身の直感で選べということなのか……!

 では……ここは堂々と選んでやろうじゃないか――この選択肢をなァ!!


「じゃあ、一緒に村を散策しよっか」


 ビビって無難なフラグを選んでしまった。ユノのもとへ赴くって、絶対に何かありそうじゃないか。

 いや、でもまだ序盤だし、やっぱり冒険してもよかったのかな……。


「村の散策――では、この瞬間にのどかな村エリア:メインシナリオ・パターン二のフラグが立ちます。それと共に、のどかな村エリア:メインシナリオ・パターン一の選択が今後一切不可能となりますが、本当によろしいですね?」


 まさかまさかの、確認を挟んでくるという徹底ぶり。

 もう二度と戻れませんよ? それでもよろしいですね? なんて確認をされてしまったら、今回の選択肢は果たして本当に正しかったのかどうかが不安になってしまうじゃないか。


「あ、あぁ……いいよ、大丈夫」


「では――はい、フラグが正式に立ち上がりました。これによって、のどかな村エリア:メインシナリオが進行していきます」


 あぁ、もう戻れない。

 これ、もしユノのもとへ行っていたらどうなっていたんだろうか……? 何か重要なイベントを逃していそうで、すごく不安になってくる……。


「はい、ではフラグが立ち上がったところで、この拠点エリア:のどかな村の散策といきましょうか。 あの、早速ですがあの羊さんのもとへ行ってみませんか? ワタシ、もっと近くで見てみたかったのです……っ!」


「あ、あぁ。そうだね……それじゃあいこっか。あぁ……さっきの選択肢、果たして本当にこれで良かったのかな……この先、何だか不安だ……」

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