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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
二章
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フィールド:哀愁平原・ハードボイルド

「な、なにこれ……ッ?!」


 前方からは、息を飲みながら漏らしたユノの感嘆が響いてくる。

 暗闇の洞窟から差し込む黄金色に目が眩みながら。アイ・コッヘンに続いて、ミントと共に洞窟から出る俺。そのすぐ前方にはユノが立ちすくんでおり、背に当たり掛けておっとっととこの身体をずらしたその時に――


「……なんだ、ここは」


 俺も、ユノ同様に息を飲むこととなった。


 辺り一面には、影の黒が視界に映り込んでくる、広大な平原が。

 その暗闇と同化するかのような真っ黒の草が風に吹かれながら揺れていて。真っ黒の樹や岩が辺りに点々と存在しており。茜色の大空に、陰りのある雲が流れている。

 そして、遥か地平線の彼方からは、この大地の全てを照らし尽くす夕日の太陽が、その輝きを放っていた。


 その大半以上は、夕日の太陽による陰りが占める黒と黄昏の世界。

 暗闇にも暗闇にも包まれていないというこの平原。この世界には十分なほどの明かりが射しており、その陰りに負けずと茜色の大空が草木にわずかな緋色の彩色を施している。


「ハッハッハ、驚いたかい? まぁ、こんな明るくて暗い景色を見てしまったら、そりゃ出すはずの言葉も喉に引っ掛かってしまうこと間違いないだろうね」


 俺達の反応に愉快げな調子で喋るアイ・コッヘン。

 洞窟から出てきた俺達の足場は高台になっており、笑いながらアイ・コッヘンは高台から飛び降りて平原に着地。


 それを見て俺は真下を覗き込んでみる。

 アイ・コッヘンの足元は、陰りで真っ黒だ。こうしてずっと高台から見下ろしていると、直にもその暗黒に飲み込まれてしまいそうな錯覚に陥ってしまう。


「ま、待ってアイおじさまッ!」


 ハッと我に返ったユノは、目前から差し込んでくる夕日の日差しに目を細めながら。真下の暗黒に少しだけ戸惑い、それでもえいっと気合いの一言と共にアイ・コッヘンのもとへと飛び降りる。

 

 そんなユノに続くように、俺も隣にいたミントを抱き上げてから陰りの平原に飛び降りる。

 ……のだが、想定外にも俺は着地に失敗。ミントを抱えていながらも、俺は着地の衝撃で前のめりに倒れ込んでしまった。


「ふぁっ――」


 驚きの声を上げながら、俺の巻き添えとしてミントもどちゃっと倒れ込む。いやほんとごめんミント。まさかこんなことになるつもりじゃなかったんだ。


「……っご主人様。お怪我はありませんか?」


「あ、あぁ、俺は無いけど……心配までしてくれるなんて。その、ごめんな……」


 足元に陰りによる暗黒が広がっていたためか、どうやら上手く距離感覚が掴めないまま着地してしまったのがこれの原因か。

 夕日の光が作り出した黒色の平原。まさかの意外な落とし穴に嵌ってしまったことで、俺はミントに謝りながら反省することとする。


 ……にしても、陰りの暗黒によって距離感覚が狂わされるだけでなく、この黒色の平原の影響によって、俺の前方に転がったミントの姿も上手く捉えることができなかった。

 前方にいるユノとアイ・コッヘンの姿も、背にしている夕日の影響によってシルエットと化しているためによく見えない。

 その具合は、よくよく目を凝らしながら近付くことによって、ようやくユノの仕方無さそうな表情を確認することができる程というもの。しかもユノの姿も、アイ・コッヘンの姿も周囲の暗黒と同化していたために、二人の姿を上手く見分けることも難しい。


「それにしても、すごいわよね、ここ! 辺り一面を見渡しても夕日と影しか見えないだなんて、こんな場所に来るの私初めて!! これはまた、今までに経験したことの無い冒険ができそうで……この場所を巡ることが、今からでもすっごく楽しみだわ!! ……ねぇアイおじさま。ところでなのだけど、ここは一体なんなの……? こんな場所があっただなんて、私今まで噂話でも聞いたことが無かったわ」


「うむ、よく聞いてくれたねユノちゃん」


 自身の知らない未知を前にして、溢れ出る冒険心のままに興奮で声を上ずらせるユノ。 

 そんな彼女の問いに答えるため、フライパンのシルエットを映し出すアイ・コッヘンの頭部からはその胡散臭い声が発せられる。 


「では、説明をしよう。ここは『哀愁平原・ハードボイルド』という名前の平原でね、ここには他では見られない面白い特徴が存在するというとても変わった場所として、一部の人間のみが知る、云わば、隠れスポットのような地域だね。ところでなのだが……あの洞窟に入った時は、まだ時刻は朝方だっただろう? が、しかし、あの洞窟を抜けてからはあら不思議、こうして夕暮れを迎えてしまっているではありませんか。あの洞窟を、ワタクシ達はいつの間にかノロノロと歩いてしまっていたということなのだろうか? ……ハッハッハ、いいや、安心したまえ。実はね、これこそが、この場所の特徴であるのだよ」


 全員が揃ったのを確認して。アイ・コッヘンは説明を始めながら、平原の奥へと歩を進めていく。

 その間にも、長身の道標は影という形に姿を変えながら周囲へと溶け込んでいく。そんな光景を目の当たりにした俺達は、この影に包まれた世界に一人取り残されないようにと慌ててアイ・コッヘンの影を追い掛け始めた。


「この哀愁平原・ハードボイルドという地域一帯はね、外界のその時刻その季節に左右されることが一切無く、なんと、年中ずっと夕暮れという異色な光景が広がる面白い場所なのだよ。この、もの悲しくも、目と心に染み入る明かり射す幻想的な光景には、ふらりと訪れた商人や冒険者達をことごとく驚かせていくものだ。そうだね、この地域を、もっと価値のある表現で説明をすると……そう、ここは秘境と呼ぶに相応しい地域だね」


 時刻や季節は関係無く、年中ずっと夕暮れの地域……?

 この夕日が。この陰りが。この夕暮れは大空の暗闇に包まれることもなく、かと思えば青色に晴れ渡ることもないまま。

 ずっとこの黄金色を照らし続ける新フィールド:哀愁平原・ハードボイルド。


 目の前の光景こそは幻想的で綺麗なものではあるものの……やはりこの陰りが年中ずっと。しかも、夕暮れの光も絶える事無くこの地に射し込み続けるということなんだよな。

 ……なんて不思議な場所なんだ。と、今までに無い景色を前に、俺はユノと同様に未知への冒険心を沸き上がらせていく。


 ……のだが、まぁしかし、ずっと夕暮れというのも、なんか、ちょっと憂鬱になるかも……とも思えてしまうのは仕方の無いことか。


「ここって、ずっと夕暮れのままなの……!? へぇ……へぇ――すごい、すごい! とっっってもすごいわ!! 私、そんな場所聞いたことなかったからこんなの初めての経験ッ!! わぁ~! これが年中夕暮れの世界……!!」


 そんな、心にまで陰りが侵食していた俺とはまるで正反対に。

 ユノはその陰り越しでも十分に見分けがつくほどまでに、その瞳を輝かせながら。彼女はこの暗黒の平原の中へと駆け出していって、たった今も体験している未知を余すことなく全身で堪能し始める。


「ハッハッハ、やっぱりワタクシが思った通りだ。こんなヘンテコな特徴を持つ場所も、そう決して多くはないからね、多くの場所を旅してきたユノちゃんであっても、この光景と特徴を知ったその時には、それはもう大いにはしゃぎ回るだろうと反応を楽しみにしていたものだ」


 アイ・コッヘンも、ユノの反応を見れたことにご満悦な様子だ。


「……はぁ、ただ、以前と変わらずに、警戒というものを怠らないことだ。それも、明かり射す先程までの外界よりも厳重にね。それも、この地域は、今まで以上の徹底的な警戒を意識していった方がいいだろう。なにせ、この夕暮れの日差しを受けて育ったモンスター達には、夜型などといった凶悪性を持つモンスターとはまた異なる特色を兼ね備えた、一味違った凶暴性を持っているものが多いのだよ。ふむ、そうだな。彼らの特色を少し説明するといえば……そう、その多くには音といった空間を伝う攻撃を用いるものであったり、中には、目くらましといった相手の盲目状態を武器として扱う連中も存在している。その攻撃の数々は中々にトリッキーなものでね、その特色の全体像を把握し切れていないと、いくら君達でもその身に危機を招き入れてしまうことになるだろう」


 空間を伝う攻撃や、盲目状態と呼ばれる状態異常を駆使するモンスター達の生息地。

 そんなアイ・コッヘンからの忠告を耳にし、俺だけでなくユノも、そのはしゃぎ回っていたその足を止めて空間に静寂を作り出す。


「……まぁ、なぁに、だからといって心配することは決して無いさ。君達であれば大丈夫なこと間違いないだろう。それに、ほら、前をよく見てごらん。あそこに、柱のような棒状の影が二つ見えるだろう。そして、その奥には段差のように見える影が上へと伸びている。そう、この先にはワタクシの目的地である『黄昏の里』という里が存在していてだね。そこでは、この地域に住まうモンスターの対策となる装備や道具が売っているのだよ。もしもこの地での冒険に不安を感じさえあれば、そこで十分な買い物を済ませておくといいだろう。それに、あの黄昏の里には宿屋もあるから、まずはこの数日に渡る旅路の疲労を宿屋で癒すといい」


 

 新たなる拠点エリアが目に見えてきて。宿屋というシステムに設定された、オーナーと呼ばれる重要人物との出会いを控えた俺は、この瞬間にもメインシナリオの存在を思い出すこととなる。


 そうだ、あの拠点エリアに到着すれば、俺はまたこのゲーム世界の行方を委ねられることになる。

 それは、俺という主人公の見せ場が近付いていることを意味しており。俺はまた、あのドン・ワイルドバードとの激闘のような試練が待ち受けていることそう違いないことを、流れのままに悟ることとなった。

 ……これからはまた、気合いを入れて挑まなければならないイベントが繰り広げられることになるだろう。


 左右に埋め込まれた二本の柱を通り抜けて。目の前の段差をゆっくりと上っていく。

 そうして次第に見えてきたその光景と共に、俺は主人公としての生き様を貫くための覚悟を抱いて。


 俺と同様に、再び自身のサポートの力が必須となるミントにも緊張が走ることによって。

 再び前にしたメインシナリオに向けて。俺とミントは、この旅路を共に歩んできた仲間達と、この新たな拠点エリアに踏み込んだ――――

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