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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
二章
41/368

イベント戦:オオカミ親分【恐怖】

『グオォッ!! グオォッ!! アオォォーンッ!!』


 昂る感情に全てを委ねたオオカミ親分。

 血眼を浮き出し。唾液や胃液、血液までをも噴き出す大口で牙をむき。筋肉で形成された豪腕と鋭利な爪を振るい。その脚で駆け出して。

 憤怒による音圧を纏った怒号を悲鳴の如く上げながら。攻撃力アップのバフによる赤のオーラに身を包んでの急接近を図ってくる。


「――ッ来る!!」


 眼前から迫り来るオオカミ親分の気迫。ヤツに隙を晒したその瞬間にも、俺は貪られるその前に飛び散る肉も残らず消し飛ばされることだろう。

 目の前の脅威に緊張感が駆け巡り。次に起こすべく行動である回避の行動をただひたすらに連打する俺。


 ……あとは、この回避を成功させて『ウルフック』を誘い出し、そこからの確定反撃で削っていく。

 俺の戦法と運がこの戦いを制するか。はたまた、ヤツの憤怒がこの戦いを捻じ伏せる形で喰らい尽くすのか。


 この戦闘の命運を懸けた最終局面が今、展開される――



『グオォッ!! グオォッ!! アオォォーンッ!! オガァァァァアアァァァッッッ!!!』


 喉の血管から流血を噴射させながら。オオカミ親分の逆上に塗れた猛攻の予兆。

 その場で跳躍からの通常攻撃。豪腕を叩き付けるように振るい、サイドステップで真横に回避する俺の脇を通り抜けていく。

 

 通常攻撃でさえも粉砕される大地。無惨にも亀裂と破片を発生させながら。続け様の選択としてオレンジ色のオーラを纏った右腕による『ウルフィンガー』のアッパー攻撃。

 こちらも回避の連打によって後方への飛び退きで避けることに成功。俺の眼前の空間が無惨にも切り裂かれ、その残像が空間に滞留。

 漂う大気が爪の痕跡を残し。奥で貪り喰らわんと向けられた眼光がこちらへとまた急接近。


 未だ振り上げられたままの右腕を意にせず。余った左腕で通常攻撃の殴り付けを選択するオオカミ親分。

 俺の右側から襲い掛かる豪腕の一撃。その場での回転によって俺は体勢を無理矢理受け流し、後方へと飛び退いた対象者がいた先程までの地点を砕く豪腕の軌跡。

 地盤の欠片が衣類に飛び散り、その砂埃の中からオレンジ色のオーラを纏った右腕の『ウルフック』が周辺の大気もろとも吹き飛ばす――


「づァッ――ふァッ!!」


 回避には成功した。

 だが、回避のモーションである飛び退きで宙に逃避したその瞬間に、前方から巻き上がる砂埃の強風。

 オオカミ親分の必殺技『ウルフック』の風圧をモロに受けた俺は、その大技の後に確定となる隙を投げ捨てる形となってしまった。


 前方で『フルカウンター』の仁王立ち。その間にも、俺は宙で回転したまま受身も取れずに地上へ落下。

 風圧で殴りつけられた全身の前面。ダメージこそは無いものの、その破壊力満天な一撃の余韻を十分に味わったこの結果には、俺への恐怖心を植えつけるという立派なオマケを付与してくれた。


 そして、自身の思い通りに進展しない戦況を前に、オオカミ親分は――


『グオォッ!! グオォッ!! アオォォーンッ!!』


 憤怒をそのままに。咆哮を発しながら再びこちらへ襲い掛かってくる。

 幸いなことにも、その咆哮には攻撃力アップのバフ効果は無かったようだ。

 だが、怒涛の一言に尽きる眼前からの猛攻を前に。通常攻撃とスキル攻撃を見極める目を持たぬ俺にまたしても強いられる、回避への祈り。


 ……ここにきて失敗を引くんじゃねぇぞ――


『グオォォォーンッ!!!』


 真正面から再び駆け出してくるオオカミ親分。

 左腕を振り上げて俺への急接近を果たし。俺が回避を選択すると共に。ふと、その場での急停止を行うオオカミ親分。

 何だ? 何が起きた? 飛び退いて様子を伺う俺。

 ……この間こそが、ヤツの戦略の一つだということにも気付かず――


「――ッ!!!」


 敢えて眼前での空振り。左腕の攻撃は俺の目の前を通り過ぎ――

 その軌跡を打ち消すかのように左方から飛び出してくる右腕。油断を誘う通常攻撃のそれを把握し、それでも俺はその瞬間に回避行動で身を引かせる。


 視界を横断する死の軌跡。右方へ抜けていったと思いきや。またしても左腕による右方からの横断が俺へと突撃してくる。

 先程の咄嗟な回避で後方へ体勢を崩していた俺。視界の右から襲い掛かる豪腕と直面しながら。地につけていた右足で僅かな飛び退き。


 怒涛の通常攻撃にただひたすらと回避を連打。その行方は確率によって全てが定められる、神頼みの他力本願ながらも現地点での最良な選択肢。


 俺の鼻を掠る豪腕の拳。振り抜かれた右腕の軌跡で視界が覆い尽くされ。瞬間に俺は無意識且つ咄嗟な後方への飛び込みで回避行動を行ってしまっていた。

 それもシステムによるものか。後方への飛び込みモーション中に眺めた光景は、オレンジ色のオーラを纏いし振り上げられた右腕による『ウルフィンガー』。

 その切り裂かれた大気からは眼光がこちらを覗きこみ。次にその眼光は着地した俺の目の前に現れる――


『グオォォォンッ!! アオゥッ!!!』


 左腕に纏われたオレンジ色のオーラ。もはや無心で回避を連打する俺に襲い掛かったのは、猛攻に紛れた連続なる『ウルフィンガー』。

 屈んだ状態という真正面から。左腕の豪腕が平行に振り掛かってくる。

 右へ――! 這うように転がりこみ、俺のいた地点に無惨な爪跡を残して。

 再びオオカミ親分の右腕に宿るオレンジ色のオーラ。自身の左方へ逃避した獲物に向けてその豪腕を振り下ろし――


「――ッくそ、くそッ」


 自然と涙が零れ出す。

 目の前からの猛攻は一息もの休憩も与えず。この緊張に実力差で縛り付けられて。

 自棄で飛び退いた俺の前方がぱっくりと裂け。大気が『ウルフィンガー』によって爪跡を刻み込むなり――

 ――再びの『ウルフィンガー』!!


『グオォッ!! グオォッ!! アオォォーンッ!!』


 飛び退きを繰り返す俺との距離を詰めるかのように一歩前進し。振るったそのままの勢いをそのままに。再度オレンジ色のオーラを宿した右の豪腕は。本体を中心として円を描き俺へと振り下ろされる。


 俺の足元が崩壊。同時に、咄嗟の左方への回避で逃れた俺。

 涙で覆われた視界が、目の前の現実を霞ませたことによる冷静な判断を可能としたか。回避を選択するのも困難な恐怖の中で。俺はただ呟きを繰り返しながら。この場からの脱却をばかり思考に浮かべ続ける。



 ――もうやだ。もうこんなヤツと戦いたくない。早く。早く。



 ……早くこの戦い、終わってくれよ――ッ!!!


『グオォッ!! グオォッ!! アオォォーンッ!! オガァァァァアアァァァッッッ!!!』


 だが、そこに慈悲は無かった。


 大気を喰らわんと轟く咆哮。次なる選択肢が決定され、俺は回避コマンドに手を掛けながら目前の光景を見遣るなり絶望の色を浮かべてしまう。

 

 ……あぁくそ。マジかよクソやろう。涙で霞んだこの視界でもハッキリと読むことができる。


 ヤツの頭上に表示された『ウルフック』の文字表記。

 ……もう、こんな世界を生きるなんて嫌だ――――

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