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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
二章
40/368

イベント戦:オオカミ親分【憤怒の咆哮】

『グオォォォンッ!! アオゥッ!!』


 逆上による攻撃力アップを自身へ施すことで、その筋肉を含めた更なる脅威を引っ提げて。

 直前に退いて様子を伺っていた俺への跳躍と共に、その全身の筋肉というバネを極限に活用した豪腕の一撃を振りかざすオオカミ親分。


 次はどんな特技で襲い掛かってくるのか。

 この少ないターンで様々な特技を見せてきたイベント戦のボス:オオカミ親分。豪腕を活かした特技から、その全身の筋肉と鋭利な牙を活かしたものやカウンターまでと。接近攻撃のオンパレードな猛攻を目にして。


 俺は次なる特技を警戒して、回避の選択肢に手を掛けて相手の行動を伺うのだが――


「……オーラを纏わないッ――!?」


 揺さぶられる感情。同時に浮上する、回避というリスクのある行動ではなく、通常の攻撃をカウンターで凌ぐという二択目の可能性。

 この瞬間に用いてきた新たなる可能性の出現は、俺の判断力に咄嗟の迷いを生じさせ――


『グオォォォーンッ!!』


 振り下げられた豪腕の一撃。

 直前の選択による行動で、またもや紙一重となる余裕の無い行動。

 転げるように真横へ回避した俺。その脇を通り抜けた一撃は大地をかち割り、俺の足元に留まらずエリア一帯を揺るがすことで戦闘員全員の体勢を崩すという大袈裟なもの。

 

 大地に埋まった豪腕を引っこ抜いてオレンジ色のオーラを纏い出すオオカミ親分。真横で転げまわる俺をその眼光で見据え。次は捉えると宣告するその目つきで睨み――


「や、やばッ回避――ッ」


 折り曲げられた指とその豪腕で繰り出す『ウルフィンガー』。

 寝そべった状態からカエルのように四肢で飛び跳ねた俺。これでも回避には成功していたため、眼前に広がる大気が切り裂かれ、それが透明の霧となって無惨に散ってい――


『グオォッ!! グオォッ!! アオォォーンッ!!』


「うぉ――ッ!!」


 描写が追い付かない……!!

 次の瞬間には、『ウルフィンガー』の勢いが余った全身を捻り、オオカミ親分は続けての行動として『ウルフック』へと派生してきたのだ。

 空間を殴りつけるその一撃を前に。ただただ恐れて回避を連打していた俺の行動が一命を取り留めることとなる。


 全身を捻り繰り出したオオカミ親分の右フック。それを屈んで避けることによって、付近で空間が歪むその現象をこの身体と感覚で味わうこととなる。

 そして気付いた。正に、質量的に空間が歪んでいるのだ。あの筋肉をバネとした豪腕の『ウルフック』は、直撃した相手を歪んだ空間へねじ込んで塵をも残さない。

 あの一撃を食らったその瞬間にも、俺はこの身体が粉々に粉砕し殴られた大気と共にその場から消え失せるのだろう。


 これでわかった。ヤツの繰り出す特技『ウルフック』は、そのモンスターを象徴する大技だ。

 そして、その絶大な威力を持つ特技を次々と連発するその光景を目にして。


 ……未知への戦慄。高レベルとなれば、俺はいずれこんなおっかないヤツとも戦うようになるのか――


「……『フルカウンター』……ッ??」


 絶大な威力の次に行われた行動は、『ウルフック』によって晒した隙を埋めんとばかりに繰り出された仁王立ち。

 オレンジ色のオーラを纏いながら。苛立ちを隠せない鬼神の如き形相で。またしても読みが外れたと言わんばかりに。ヤツはこの隙を突いてくる俺の攻撃を待っている。


 ……なるほど。この瞬間に巡ってきた好機。

 いや、好機どころではない。これは"勝機"だッ!!


「エネミースキル:ワイルドストライクッ!!」


 次はこちらの番だ。

 屈んだ状態から思い切り身体を持ち上げて。両脚の踏ん張りからのソードの突き上げで『フルカウンター』の効果が過ぎたオオカミ親分の腹部を突き上げる。

 

 次に。その一撃で一歩退いたオオカミ親分との距離を埋めるため。接近を含んだ攻撃モーションの構えを取る。

 左足で踏み込み。右足を持ち上げ引き絞りながら右側へ回転して。

 正面を向き合う俺とオオカミ親分。今までの猛攻を凌ぎ切った格下の能力を、眼前の化け物にとくと見せ付けるため。

 あのドン・ワイルドバードの『千鳥足』を引き継いだ渾身の一撃を与えるため。俺はこのスキルによって、絶大な威力を纏った右足をオオカミ親分へ蹴り放つ――ッ!!


『グオォッ――!!』


 強靭な脚部を模した一連のスキルは、遥か格上のボスモンスターにさえも通じてしまう強力なものであった。

 ワイルドストライクによって体が後方へ吹き飛ぶオオカミ親分。

 だが、こんな攻撃なんかで獲物から目を離さんと。吹き飛ぶモーションを強引に中断することで、宙返りからの豪快な着地という荒業を成して俺と向き合うオオカミ親分。


 そして、大気を喰らう勢いの咆哮がオオカミ親分を包み出し。その咆哮が衝撃となって周辺一帯のあらゆるものを薙ぎ払っていく。

 透明の波動を纏い。大気を破裂させ。音圧という質量無き質量でこの峡谷の大地を砕き出す。

 鼓膜がはち切れんばかりの咆哮が轟く中、それと共にオオカミ親分を包み出した赤のオーラ。ヤツは再び、自身のステータスに攻撃力アップのバフを掛けてきたのだ。


 どうやら、こいつはよっぽど恨みを持ちやすいタイプなんだなと。

 根っからの短気もの。だが、そのキレっぽさが戦闘における自身の武器となるとは。なるほど。このゲーム世界では、その個人個人の性格までもが戦闘面におけるステータスに反映されるということなのか。


 逆上によって更なる威力を自身へ付与するオオカミ親分。攻撃力アップを意味する赤のオーラを纏うと同時に、怒りによって全身が除々に赤みを帯びていくその様子から。オオカミ親分は目の前の格下に相当の逆恨みを抱き始めたようだ。


 それは相対する敵にとって、ただただ脅威の一言に尽きるだろう。

 だが、この戦闘に勝機を見出した俺は、既にオオカミ親分に対する恐怖という感情を克服していたと言っても過言では無かった。


 それは、オオカミ親分に仕込まれたシステムの理解。ヤツの行動を定めるパターンの把握による、眼前の敵を撃破するために見出したゲームの攻略方法。

 ……ヤツは『ウルフック』を行うと、次の行動は必ず『フルカウンター』を行ってくる――



『グオォッ!! グオォッ!! アオォォーンッ!! オガァァァァアアァァァッッッ!!!』


 その喉がはち切れることお構いなしに。大口から唾液と胃液と血液を大量に散らしながら。その眼光を充血させて。頭部に浮き出す血管が巡り。逆上に侵されたオオカミ親分の咆哮が辺り一面のあらゆる物体を弾き飛ばす。


 自身の部下なんてなんのその。咆哮でぶっ飛んでいくオオカミ人間の群れ。それを予期し主の元へと駆け抜け、ユノに飛来した音圧を身代わりとなることで主の被弾を防ぐジャンドゥーヤ。

 妖精となっているミントも咆哮で宙に舞い。その咆哮と向き合った俺がその足をすくめている隙を好機とばかりに。


 血眼で怒り狂ったオオカミ親分の猛攻が今、俺に襲い掛かってきた――――

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