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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
一章
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冒険が今、始まる

「すごかったよアレウス! さっきまでボロボロだったとは思えないほどの、鮮やかな立ち回りだったわ!!」


 このゲーム世界における戦闘のチュートリアル。それを無事に乗り切った俺は、先程までの命を懸けた駆け引きによる緊張で未だに息を切らしていた。

 そんな俺のもとへ駆け寄ってくるユノ。純粋な黒の瞳を輝かせながら、彼女は俺の戦闘を賞賛する。


「あ、ありがとう。これも全部、ユノが一から教えてくれたおかげだよ」


「あら、アレウスって意外と遠慮深いのね。イケメンなその顔立ちからてっきり、へへっオレ様だからこれくらい楽勝よ、みたいなことを言うタイプの人かと思ってたわ。私の予想をことごとく良い意味で裏切っていく……フフ、貴方ってホントに面白い人ね」


 ユノは自身のペットと思われる漆黒と鮮紅の獣を撫でながら、俺を面白い物を見る目つきで眺め続けてくる。

 ありがとね、ジャンドゥーヤ。その次に、そのペットの名と思われる言葉を発すると同時に漆黒の風を纏いながら姿を消した獣。それを見送った後、ユノは再度俺へと振り向いた。


「ねぇアレウス、これからこの近くにある村に行くつもりなんだけれど、良かったら一緒に来ないかしら?」


 村。なるほど、こういう物語の序盤で立ち寄ることになる村のことだな。

 自己解釈を交え、であるならば寄っておこうと決める俺。その意向をユノに伝え、それじゃあ早速とその村へ向かうこととなったのだが。


 ……そう言えば、あの謎の人物から特典として授かったナビ子の姿が見当たらない。


「なぁユノ、この辺で銀色の髪の女の子を見なかったか? もみあげがこのくらいまである、おしとやかな印象の女の子なんだが――」


「お呼びでしょうか、ご主人様」


「うぉ!?」


 突如、俺の背後からぬるりと姿を現すナビ子。両手を後ろで組みながら、こちらを覗き込むように歩み寄ってきたナビ子の姿に、不意を突かれた俺は堪らず驚く。

 そして、驚いたのは俺だけではなかったことも一目瞭然だった。いや、むしろユノの場合は困惑していた。が、正しかったかもしれない。


「え、えっ!? アレウスの後ろから女の子が現れた……!? しかも――か、可愛いッ!!」


「えっ――」


 ナビ子は目を丸くした。その次に、白目で困惑する。

 まぁ無理もないだろう。そりゃ見知らぬ人物から突然抱き付かれりゃ、誰もがビックリするに決まってる。それも、クールビューティで大人びた外見の少女と言えばなおさら。


「え、え、ねぇアレウスなに? この子はなに、どうしたの? 今、間違いなくアレウスのことをご主人様って言ってたよね!? それじゃあこの子ってアレウスの従者? ――にしてはラフな恰好をしているわよね。それじゃあ旅の仲間? ――にしては何か違うような気がする……?」


「あのっ――あっの――ちょっとッ――」


 このユノという少女、もしかして勘の良い設定を持つキャラクターなのか……?

 そんなメタな思考をめぐらせながらも、俺は興味津々にじゃれつくユノと迷惑そうに彼女を押し退けるナビ子の戯れを眺め続ける。

 ……いや、さすがにナビ子が可哀相になってきた。そろそろ助けるか……。


「ユノ、その子はおしとやかな性格だから、あまり強引なコミュニケーションをされると嫌がるんだ」


 もう、時すでに遅しだけど。

 あら、ごめんなさいと言って落ち着きを取り戻したユノはナビ子から離れる。胸に手を当て、ふぅっと全部の気力を使い果たしたような疲れ切った表情を浮かべるナビ子。


「……それで、ワタシをお呼びでしょうかご主人様」


 なんかもう、疲れ果てて声のトーンがどん底までに下がっている。テンションもダダ下がりで可哀相な気持ちになってしまうその様子。

 ……そんなナビ子に、まさかただの点呼でしただなんて言えないなぁ、と。ただ呼んだだけだなんてとても言えそうにないこの状況。


 まぁ、ここは適当に思いついたことでも質問しておくとしようか。


「あー……えっと、お、俺って。俺って何なんだ?」


 いや、俺の質問が何なんだ。


「ご主人様について。ですね――はい、ご主人様のお名前はアレウス・ブレイヴァリー。性別:男性、職業:冒険者、装備武器:ソード、装備防具:頭から順に、無し、冒険者の服、冒険者の手袋、冒険者の腰当、冒険者のズボン、ただいまの習得済みスキル:エネルギーソード、身近に存在するフラグ:拠点エリア、のどかな村への到着」


「お、おう。ありがとう……」


 俺の大雑把な質問にも、きちんと回答してくれるこの優しさ。そんなナビ子の優しさに感動して、心の中で涙を流す。

 ……が、しかし、こんなメタ過ぎる情報をユノの前で晒しても大丈夫だったのかと不安に。だが、その心配は意外とする必要も無かった。


「す、すごい! まるで機械みたいにアレウスの情報を説明してくれるなんて……! それって、アレウスのことを隅々まで把握しているってことよね? ねぇ、この子、一体何者なの? というか、アレウスって何者なの?」


 代わりに、中々に厄介な質問をされる引き金となってしまったが。


 これ、メタな情報をこの世界のキャラクターに与えてもいいものなのか? もし与えたとしたら、それはそれでフラグが立って世界観が変わっていくのだろうか?

 ……なんか、フラグという選択肢がそこら中に張り巡らされているせいか、どれが正しいのか間違っているのかが把握出来なくて迷いが生じてしまう。


 ……取り敢えず、今回はメタな情報を誤魔化しておこう。


「えっとな、この子は……そう! この子は、俺の守護神だ!!」


「はい、ワタシはご主人様の守護神――守護女神です」


 俺の咄嗟の誤魔化しに、ウマを合わせてくれたナビ子。この子、やはり相当に優秀なナビゲーターなんじゃないか? 最後ちょっと言い直していたけれど。


「しゅ、守護神……? え、アレウスは冒険者なのに、どうして神様が傍に……?」


 が、俺の嘘は早速と見破られそうだった。

 ヒヤッと背筋に走る悪寒。もしかして、この選択肢で良からぬフラグを立ててしまったか? そんな不安がよぎっただが――


「……すごい、すごい。すごい! へぇ~冒険者でも神様って宿せるんだ……それも、守護神っ!! なんてカッコいい響きなの! あぁすごいなぁ、今日は今までにないくらいの面白い出来事が続く日だなぁ。それでもって、謎に包まれた貴方という存在が、すごく魅力的に見えてきた。なんだか、傍でずっと観察していたいかも。ねぇアレウス、しばらく私と行動してみない?」


 期待で輝かせる瞳で。全身から溢れ出すオーラで。

 不思議な体験を求め続ける、冒険心の塊であるユノ。彼女はどうやら、俺のことを完全に特別視している様子。挙句にはパーティーのお誘いまでを投げ掛けてきた。


 彼女のお誘いは、決して悪くはない選択肢だと思える俺。むしろ、彼女にこの世界の案内をしてもらいたいなとも思えた俺は、素直にこのお誘いを受けることにした。


「あぁ、ぜひユノと行動したい」


「ホント!? やったぁ!! ありがとーアレウス! そしてよろしくね!! それじゃあ早速、村へ行って一休みしましょ! あの村で作られたサイダー、とても美味しいのよ! もう今すぐにでもアレウスに飲んでもらいたいから、早く早くー!」


 太陽のように眩しい笑顔を浮かべるユノ。

 その大人びた姿からはまるで想像出来ない、とても天真爛漫な人懐っこい乙女という印象を与えてくる。それでもって、どこか世話好きな一面を兼ね揃えているものだから、彼女が俺を不思議がるように、俺も彼女のことがとても不思議に思えた。どうやら、姉御肌な乙女ということなのか……?


 そんな彼女のことを一言で表現するのであれば、ミルクをたっぷりと入れたアイスコーヒー。いや、何を考えているんだ俺は。


「……あの、ご主人様。報告があります」


「お、おう。どうしたんだナビ子?」


 慣れない仕草の加減を探っているのか。俺が着用する冒険者の服を遠慮深そうに引っ張りながら、ナビ子は報告とやらのために俺を呼び止めた。


「ただいまのご主人様のセリフによって、この世界観に新たなフラグが生まれました。それに伴い、NPC:ユノ・エクレールから、仲間:ユノ・エクレールへの変更。そして、この世界にシステム:守護神が追加されたことをご報告します」


「あ、あぁー……なるほど、迂闊に発言も出来ないパターンだなこれは。どうやら俺は、一言一言にも注意を払って発言しないといけないらしいってことか……。なんか、この先が思いやられるな……」

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