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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
五章
364/368

拠点エリア:月下の不夜城【ケジメをつけに臨むべく――】 3054字

「ぬぁァンもうヤダヤダヤダぁぁー!!! アタシも彼氏欲じい欲じぃィーーっ!!!」


 ぬぉぉー!!! と声を上げ、住民はあまりもの羨ましさを滾らせながらユノの身体を揺すぶっていた。


 その住民は、まるで駄々をこねる子どものように騒いでいた。悔しがる住民のそれにユノはとても困った様子を見せたが、一方でもはや半泣きでもある住民をなだめ、そんな彼女を軽く抱いてあやし始めていく。

 あぁよしよしよし、と住民の頭や背中をトントンと叩いた。それを受けた住民は、昂ったその感情のままにユノへとすがり付き、唸りながらもその身を委ねて泣き付いていたものだ。


 ユノは、満面の笑みを見せた。それは、これまでの旅では一度として見せたことの無かった、心からの微笑み。胸に寄せた存在に安心感を抱き、その時にもユノは、過去を顧みる儚き瞳で茫然としていた。


 ……しかし、ユノの微笑みは次の時にも消え失せた。

 直にも迎えるこの予感に、その表情を曇らせる。同時にして、ユノを揺すぶる住民もその勢いを緩め、先までのコミカルさを思わせない真面目な面持ちで顔を上げた。



 二人は目を合わせる。互いにやるせなさを思わせた。

 直に、ユノは住民をゆっくりと離し始めた。さも突き放すかのようなそれに、住民はセリフを口にする……。


「……まさか、こんな日が来るだなんて思ってもみなかったよ。アンタと会うのなんて、何時くらいかな。もう、十数年ぶりとも言えるかもねー」


 適当そうにそう言うなり、住民は間を置いてセリフを続けてきた。


「…………そっか、帰ってきたんだ。……そうかぁ、もう、そんな年月が経ったんだね。――なんか、こう……ッやり切れないなぁ! ッだって、もうそんな時間をアタシはこんなところで過ごしてきたんだ、ってさ。そう思うとさ、なんか……ほんっと、人生を棒に振っているような気がするよ! そして、こんな日々がこれからも続くんだと考えると……それだけでなんか、人生終わったなーなんて、思えるなー。結局、自由が許されないってことは、つまり操り人形も同然、ってことだし! ってさ。……いぃや、アタシのことなんざいいんだ。それよりも……ッ!!」


 瞬間、住民はユノの胸部を殴り付けた。


 突然の不意打ちに堪らずと退いたユノ。口から衝撃波を出し、よろけながら俯く。

 住民は、睨みを利かせた鋭い表情を見せていく。そして、顔を上げられずにいたユノへと、彼女は怒り出したのだ。


「……なんでだよ。どうしてだよ。ッ…………なんで、どうしてこんなところに帰ってきちまったんだよスュクレ……っ!!! この大バカ!!! そうしてせっかくと掴んだ自由を! どうして今になってわざわざと放棄したんだッ!!? アンタはあん時、自由を手にしたんだよ……!! ッアンタはあの呪縛から解放されて、自分の好きな道を往ける選択肢が与えられたんだ!! その自らの手でそれを手繰り寄せたんだ!! だからさァ、スュクレ。アンタはさ、もう……こんな場所なんかを忘れてさ……残りの長い人生を外の世界でその自由のままに謳歌していればそれで良かったんだよ……。――なのにッ、それなのに……!! 本当、アンタ……この、バカ……!!」


 涙ぐんだ訴え掛けを耳にしたユノは、その時にも目を見開いて手を震わせた。


 ――暫しと空いたその空間。睨む住民へと視線を向け、ユノはゆっくりと歩き出していく。

 それと相対し、住民は仁王立ちした。返って来るその拳に構え、住民は歯を食いしばる。……だが、次の時にも訪れた感覚は、心を温めるとても優しい温もりであった。


 住民の手を握り締め、ユノは住民と向き合った。その儚げな黒い瞳を眼前の彼女へと向け、それに見つめられて一種の困惑を抱く住民。手をより強く握り締め、より伝う温もりと共にユノはそのセリフを口にする。


「――違うの。ローちゃん、私は決して、ここに帰ってきたワケではないの」


「じゃぁさ、どうしてアンタが今こうして居るんだよ……! もう、この地に踏み入れた時点でッ……アンタ、終わりだよ……っ!!」


「終わり、じゃない。私は、終わらせるために来たの」


 住民は唖然した。

 ユノは握り締める手により力を加えた。ギチッとする感覚に目を開く住民へと、ユノはセリフを続けていく。


「この故郷に急用ができたの。それは、この私にしか成し得ることができない、運命によって既に定められし逃れられない宿命。これは……私にとっての、一つの終着点なのよ……!! これ、からは逃げてはならない。これ、は私が果たさなければならない。言うなれば……ケジメ。私は、ケジメ、をつけにこの地に訪れた……!!」


「ハ、ケジメ?? それ、庇って言ってんの?? だって、アンタは何も悪くないじゃんッッ!! むしろ、ケジメをつけなきゃならないのは"アイツ"の方で――」


 住民は、心臓が飛び跳ねる感覚を覚えてそのセリフを止めた。

 ユノからの視線が、とても痛く感じた。住民はその時にも申し訳無さそうに彼女を見遣っていく。……一言も喋れない。プレッシャーが募る空間に住民が口を噤むと、ユノは言い知れない切実な表情を見せては手を離して住民の横を通り抜けた。


 街へと向かい出したその足。通り抜ける際の風が住民の感覚を撫で掛け、それに鳥肌を立てて立ちすくむ。

 離れ往く"旧友"へと振り向けないその緊張。抱いたそれにどうしたらいいのかも分からずにいたその中で、最後にユノからセリフが投げ掛けられた。


「これは、私自身の運命にケジメをつける、ということなの。いずれ、この時は訪れた。それが、今、になった。ただそれだけのこと。いずれ必ずと迎えなければならないその運命の到達へと、私は自ら赴いて臨んだということなのよ。……これは、私にとっての分岐点。これから迎える出来事によって、私のこの先その全てが定まる。――自由を手にした? 私は元より、自由だったわ。その思考には常に自由な想像を思い描いていて、そんな束の間の一時が、私にとっての至福の時間だった。だから、私は決して不自由なんかではなかったわ。そう、私は誰よりも恵まれていて。私は誰よりも……自由だった」


 ユノに続いて、主人公アレウスとミントも歩き出した。

 離れ往く彼女を追う仲間達。一気に離れ出した付近の存在達の、その遠のいていく流れに住民は黙ってなどはいられなかった――



 唐突と振り返るなり、住民は大声でそのセリフを発した。


「ッ…………明日ァ!!! っ明日、ここに来いッ!!! っ……そんでッ遊ぶぞっっ!!! 街でも村でも、思いっ切りと遊んでやってッ…………ぶっ飛ばしてやろうぜ、何もかもをォッッ!!!!」


 セリフに足を止め、ユノは振り返って天真爛漫な微笑みを見せた。



 ケジメをつけるべく、運命へと臨んでいった"旧友"の背を見送った。

 その背が街へと溶け込んでいくその時まで、住民はくりくりっとした真っ直ぐな瞳を向け続けていた。そうして完全に消えた三人の姿に、担ぐクワを掛け直して深い息をつき、そして再びと向けたその視線の先を見据え、住民は立ち尽くした。


 その瞳には、未だに彼女の背が残っていた。見違えるほどの成長を果たした"スュクレ"の勇姿をその目にしっかりと焼き付けて、その住民はただ、真っ直ぐと眼前の光景を捉え続けていったのだ――――



【~次回に続く~】

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