拠点エリア:月下の不夜城【スュクレとローちゃん】 2950字
「…………その、どこか儚げな黒い瞳。――もしかして、"スュクレ"?」
住民のセリフを耳にして、その瞬間にもユノは目を丸くした。
ユノはすかさずと住民の姿を万遍なく確認した。その、百七十かそこらの身長である作業服姿の彼女へとひたすらに向けた視線。眼前の彼女が向けてくるその顔をよく確認して、次にも脳裏にとある記憶をチラつかせた……。
その記憶が、一瞬と過ぎった。それは、夕暮れの道端に腰を掛けた二人の小さき少女達。それぞれ黒色のショートヘアーと、それよりも短い短髪の白色ショートである少女らは何だか楽しそうに談笑し、そして、笑顔で向かい合っていた。
過ぎる記憶を挟み、ユノは眼前の存在を再度と確認した。――見遣った目の前の面影。それを見出すなり、巡ってきた感激の念によってユノは堪らずと叫び上げたのだ。
「ッ……っあ、あぁ……!! ああぁ!!! ロー、ちゃん……? ――ローちゃぁん!!!」
「あぁ、ぁぁ……やっぱりっ……! あァねぇ嘘でしょこれ本当――スュクレ……スュクレぇ!!!」
その時にも二人は感極まる感情に身を任せ、同時にその場で熱く抱き合った。
久方ぶりの再会。それを思わせる抱擁を交わしていき、ユノと住民はしばらくと感動のままにキャーキャー感激の声を上げていった。
それを観覧していた主人公アレウスとミント。その様子を暫しと眺めていくその最中にも、住民はユノの肩や腕へと手を回していきながらそのセリフを口にした。
「あぁァ本当にスュクレなの……!? ねぇ本当に……あァ信じられない……っ! 本当にね、ぇ……アンタ、本当にマジでスュクレなん……? は、ァ……ねぇ。だってアンタ、ぇ、あん時の面影なんて本当に丸っきりないじゃんか……うわぁアタシ本当に我ながらこの見る目に自信持てちゃうわぁ本当に……ッ!! ッというか、アタシよゆーでアンタに身長抜かれちゃってるし!! っつーか、その恰好マジでそれ何ッ!? ポニテッぇ!? 服もこんな黒色で、まーぁこんな真っ赤なシャツなんかでカッコよくオシャレしちゃってさ!! だって、アンタ、本当にあのスュクレっ、まぁーアタシが見ない内に随分と大胆になっちゃったじゃんかよぉ……! マジで大人エンジョイしてんなぁ……。なんか、すごく、お姉さん、してるカンジ。あァねぇちょっとアンタ喋り方も随分とハキハキしてた?? だって、あんなもじもじしてたスュクレがこう、今は見た目もハツラツとなってさ…………はァーマジか。ホンマ、すっごい……ッッすッっっすっごい筋肉――えっ、すっご、ぃ、え、この筋肉ぇ、ヤバ、は? 筋肉ヤバァァッ!?!?」
そう言い、住民はユノの至る箇所を揉みしだき始めた。最初こそはちょっとーヤメてよー程度のユノであったが、次にも住民はユノの服へと手を突っ込んでまさぐり出し、それを受けてはさすがのユノもギャァっと悲鳴を上げて住民の暴走を止めようと必死になっていたものだ。
――次には、ユノと住民は同時にしてケラケラと笑い出した。
二人は、まるで童心に返ったかのような、とても純粋な笑いだった。それを眺めて微笑ましく思った主人公アレウスは微笑をしたのだが、その、ふっ、という微笑を耳にして、住民はまるで思い出したかのようにこちらへと振り向いてきた。
次にも、ユノへと尋ね掛けた。沸々と湧き上がる思いを込めながら。
「で、さァ、スュクレぇー?? コッチは、ナニ?? 彼は!?? ハ、まさかアンタ、これは彼氏ですとかそんなこと言わないよねスュクレぇ!!? はァーちょっとさぁ待ってよスュクレ本当にはァまぢでさぁ……本当に無理、そういうの辛いから……。だって、あのスュクレに彼氏できたなんて言ったら本当にアタシ人間不信になるんですけどー!!!? ――で、ねぇねぇ……ヒヒっ。ここだけの話、あの彼氏とは何時どこで出会ったの?」
「か、彼氏ッ――って、アレウスのこと? そんなッ違うよローちゃん!! アレウスが彼氏だなんてそんな違う違う違う違う!!!」
えっ……。
問い掛けに対して咄嗟に否定をし始めたユノの姿に、そのあまりにも必死な様にアレウスは思わずと機敏な反応を見せた。
……いくら何でも、そこまで嫌がる反応を示さなくても……。切実な思いでユノへと送ったその視線も、彼女にはまるで見られさえしない。これがもし、システム:好感度が高い状態であったのならば……もしかしたら、これとはまた異なる展開を見られたに違いない……?
軽く扱われた主人公が呆然と佇むその中で、住民は続けて、主人公の傍で律儀に佇むナビゲーターのミントへと注目を向けた。こちらにも興味がある。そんな意図を込めた問い掛けをユノへと投げ掛けていく。
「んー? じゃぁこの子はナニよ?? やぁーはじめまちて、コンニチハー。カワイイー!! この子はスュクレと彼氏さんの子供??」
「こ、子供――???? ちょ、っと。ローちゃんよく見てよ……どう見たって違うでしょ…………」
ユノのセリフと反応が、主人公の心を傷付けた。
複雑な思いを抱いたその中で、次はこちらの番だと言わんばかりに行動を起こし始めたユノ。機敏な動作でアレウスとミントの後ろへと回ってくるなり、二人の肩に手を掛けながらユノは紹介を始めたのだ。
「彼氏でも子供でもないけれど……この二人はね、私の仲間達なのよ!! 紹介するね、ローちゃん! こっちは、アレウス! アレウス・ブレイヴァリー! とっても不思議な人よ!! で、こっちはね、ミントちゃん! ミント・ティーちゃん! 名付けたのは私ね! ミントちゃんもね、守護女神――ん、これは秘密だった。えとね……ミントちゃんも、とても不可思議な子なの!!」
「へぇ!! とっても不思議な人と、とても不可思議な子ね!!! 分かった!!!」
いや絶対わかってないだろ。
掌に拳を打ち付ける動作を交えた住民が反応を示して、かと思えば彼女は突然と怒り出してそのセリフを吐き出してきた。
「――だから何!!? アタシが気になっているのはねェ! あのスュクレが、男、という生き物を連れてこの世界をほっつき歩いていることなんだよォッッ!!! スュクレに男がデキた!!? はァーーー!!? なにちょっと行方をくらましている間に、そんなさり気無くとアタシより先に彼氏なんてつくっちゃってんのーッッ!!!? アタシはねェ、スュクレの男なんていいんだよ!! むしろ、他の余りモノのイイ男がいるんだとしたらァちょっとここに連れてきてアタシに紹介しなさいよォォ!!!! で、ねぇねぇ……ヒヒっ。ここだけの話、あの彼氏とは何時どこで出会ったの?」
「道端で拾ったわ」
「拾ったの!!? 男が道端に落ちてんの!? それ何処の道端だよ最高かよォッッ!!!」
うぉぉー!!! と声を上げながら、住民はあまりもの羨ましさを滾らせて主人公アレウスの懐を殴りつけてきた。
いやいや……と、突然の暴力に参った主人公アレウス。尚、ユノの言う道端で拾った発言に関しては、あながち間違いではなかったものだが…………。
【~次回に続く~】




