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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
五章
362/368

拠点エリア:月下の不夜城 2995字

 〈拠点エリア:月下の不夜城〉


 表示されたマップ名と共に広がったのは、自然溢れると言うには少々とお粗末である実に活気の無い村の光景だった。


 夕方を控えたその時刻。大地に生い茂る緑からは輝きが無く、流れる川の音はパサパサと浅く響き渡っている。若干と濁ってさえ見える空気に、カラスの鳴き声が虚しくと伝うもの寂しい景色。

 ……まるで、抜け殻だった。魂が抜けたかのような、表面だけの自然。耕された畑、建てられた木材の家の数々。生い茂る木々は薪に使われて所々とボロボロで、踏みしめた土の感触は何だか言い知れない不安定な弾力。


 ここは、川と大地の繰り返しで凹凸となる、抜け殻のような田舎の地。魔法という分野においては世界随一の研究を行う街。……と聞かされていたその情報とは裏腹に、この村はそんな愉快げな世界から隔離されし、貧困に悩まされ続ける下級達の集い場となっていた。



 ユノの先導のもと、主人公アレウスはナビゲーターのミントと共に拠点エリア:月下の不夜城を移動していた。周囲を占める畑の光景に、そこに浮き出るよう盛り上がった人の通る道を三人で歩いていく。


 周囲を見渡す。その一面は畑であり、激務を課されているとされる住民達が畑仕事や作物の収穫へと取り組んでいた。他には、家や倉庫といった木製の建物が点在。背景と同化するよう広がる地帯は緩やかな丘となっており、木々を生やして山のようになっている。探求心がくすぐられるその地帯には、隠されたダンジョンの存在を予感することができた。


 拠点エリア:月下の不夜城という名前ではあるが、月下と言うには月の光のような要素をまるで思わせない。又、不夜城と呼ぶには夜を照らす光源が全くと見受けられなくて、月下や不夜城といった要素が皆無である村の風景に、つい疑念ばかりが募った。ひいては、城と呼べそうな豪勢な建物も存在していなかったものだ。



 道で、住民と通りすがった。

 彼は自身よりも大きな箱を抱えて、急ぎで走り去っていく。彼の表情は、なにか危機に迫られているかのような、まるで鬼のような形相を見せていたものだ……。


 道端では、外から来たのだろう商人と取引をする住民の姿や、畑仕事を終えてからというもの、手に持つクワを置いて川へと駆け付ける住民の一人。その川では手掴みで魚を捕る五名の住民がおり、駆け付けた住民は助太刀のようにそこへと加わった。一仕事を終えて、休息を挟むことなく次の仕事へと取り掛かっていったのだ。


 住民の皆は、生気を思わせないシワだらけの顔付きだった。まるで、何かに生気を吸い取られたかのように。そこから振り絞るように流す汗水は光で反射もせず、住民はカラッカラな腕でそれぞれへと課された激務へと取り掛かっていく。

 ……とても、やるせない光景だった。そして……この地がユノの故郷であることに、その時にも何だか、心臓を鷲掴みにされたかのような感覚を覚えた――




 自然に囲まれし、過酷な労働。その穏やかな風景がもの寂しくと映る村の、その実態を目撃していくその最中のことであった。


 ふと、見遣った畑。そこでは、作業服でクワを振り下ろす一人の住民が労働へと取り組んでいたものだが、それが顔を上げて目と目が合った。

 あちらとしては、顔を上げたらたまたま見つけた、というもの。そんな偶然の下、意外そうな表情を見せたその住民はこちらを見据えるなり、クワを担ぎ、長靴で畑の上を軽快に駆けてこちらへと接近してきた。


 道へと出てきたその住民。それは女性であり、年齢は二十歳前後といったところ。年齢で言えば、主人公アレウスやユノと同年代くらいか。そんな住民は、こちらへと駆け寄ってきてはパッチリとした青色の瞳をくりくりっと向けて、そして、どこか適当な軽い調子でそのセリフを口にしてきたのだ。


「あぁーれ、見ない顔だねー? 初めましてー。見物人? それとも新入りさん? いや、見たカンジ冒険者ってカンジ? だったら、ここに寄ってみただけ? なら、悪いけど、ここ、観光地じゃないから。街だったら、この道を真っ直ぐと歩いていけばものの十分程度で着くからー」


 クワを右肩に掛けて、左手の親指をグイッと道の奥へと指していくその住民。

 彼女の身長は百七十かそこらだった。青色の瞳に加え、真っ黒なショートヘアーは毛先が跳ね上がった形をしている。口元のほくろや、長いまつ毛。実に健康的な肌の色や、多少と鋭い感じの声音が相まって、その住民は滲み出る快活さを纏った女性であることがうかがえた。


 一方で、喋り方は適当だった。少々と気だるげで、くりくりっとした瞳も次第に光が失せて、目の前の冒険者達のことが割とどうでも良さそうになってくる。案内としてそのセリフを続けていくのだが、それはまるで外部の人間を遠ざけるような、この地から突き放すような調子で行われたものだ。


「なんか見たカンジ、街に用があるって感じ。だったら、ここに用は無いでしょ? 迷子かなんか知らないけど、こんな所をほっつき歩いていないでさ、さっさと街へ行っちゃった方が身のためだよ。アンタ達は知らないだろうけどさ、この村はいわく付きの場所だから。長居するだけ損するよ。あっ、だったらさ、ついでだし畑仕事でも付き合ってく? あの場所からこっちの隅々まで、休憩無しのぶっ通しでやっていけば二時間くらいでイケるから。ほら、ね、イヤでしょ? そんな厄介事に巻き込まれたくなかったら、ハイ、冒険者諸君はさっさと街へ行った行ったー」


 左手で追い払うようにする住民。冒険者の三人を適当に案内し、それに促されてユノ御一行は街へと駆り出されていく。


 思い遣りを思わせない態度を見せていき、住民の女性は三人を見送った。

 クワを担ぎ、適当な眼差しを向けてその背を見送っていく。その視線は一切と揺るがず、まるで見張るかのように三人の背を眺めていくその住民。


 そのまま、じーっと眺め続けた。今も向けていく適当な眼差しで、されど何だか見放せないその背をやけに注目してしまえて。……住民は、その背を、じぃーっと、見据えていた。徒歩で揺らぐ白色の分厚いポニーテールと、黒と赤の色合いを飾る女の背を…………。


「ねぇ、待って!!!」


 突然と響いた後方からの声に、アレウス達は思わずと振り向いた。一斉に振り返り、道に佇んでいた彼女を見遣っていく。

 先の適当そうな住民が、こちらの顔を捉えるなり凝視してきた。そして次の時にも、住民はずかずかとこちらへと歩み寄ってきて一気に距離を詰めてくる……。


 目の前まで来たところで、住民は立ち止まった。その瞳は先までの適当な加減のものではなく、そこに光を取り戻してくりくりっとした輝きを見せていた。そこからは、何らかの希望さえもうかがわせたものだ。


 住民はその青色の瞳で、NPC:ユノ・エクレールの顔をまじまじと見つめた。それを受けて戸惑いを見せていくユノの反応にも構わず、住民は何か真剣になって彼女の瞳を眺め続けていく。

 ……そして直にも、その住民はユノの瞳へと向けた凝視のまま、うかがうかのようにそのセリフを口にしてきたのだ。


「…………その、どこか儚げな黒い瞳。――もしかして、"スュクレ"?」



【~次回に続く~】

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