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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
四章
360/368

運命を仲間達と共に―― 9516字

「不安と恐怖が占めるこの世界にて、君らは一体なにを見出すとでも言うのかい? 僕は、アレウス・ブレイヴァリーという水縹の輝きと、ミント・ティーという守護女神となる我々には到底理解の及ばない未知なる存在を。そして、ユノ・エクレールという未知を追い求めし純情なる冒険家の行く末がとても気になってしまって仕方がない。……だからこそ、この僕に見せてほしい。君達がこの先にも繰り広げる、君達にしか成し得ることのできない可能性の開花を。そして、絶望に打ちひしがれるだけのこの余命に微塵もの期待を抱き続けていくためにも、僕は君達を決して失いたくなどないんだ。これは、僕からの精いっぱいのエールだ。君達の冒険の旅路を。そして、君達が迎えるこれからの行く末を、この僕にしかと見せ付けてほしい」


 トーポは差し出すように伸ばしたその手をゆっくりとひっくり返し、指の一本一本にも渡らせた神経で掌をアレウスへと見せ付けてはやんわりと微笑んで水縹の輝きを激励した。


 続いては、喋り出す頃合いをずっと見計らいながらずっとうずうずと待ち続けていたラ・テュリプからのエールと、そして、迎えた拠点エリア:風国の出発によって、次回にも主人公アレウスは新たなる冒険へと旅立つ――――




 トーポの激励が終わると、同時にして出番を待ってましたと言わんばかりにラ・テュリプが顔を覗かせてきた。そろそろいいかな? そんな無邪気な表情でこちらをうかがってくる彼女へとアレウスは手を差し出し、それを見たラ・テュリプもいつもの暑苦しいほどにまで温かなオーラを醸し出しながら手を差し出してきたことで彼女とようやく握手を交わすことができた。

 彼女にしっかりと握り締められたこの手には、ラ・テュリプが抱きしアイ・コッヘンへの特別な想いがひしひしと伝わるほどの淡い温もりが伝ってきた。温もりを受けたこちらが何だか気恥ずかしくなってくる彼女の想いをしっかりと受け取り、ラ・テュリプは続けてアレウスの隣で佇むミントへと握手を求めてその小さな手を握り締めていく。


 そして、これから別れを迎える二つの存在と改めて向き合ったラ・テュリプは、こちらの顔をまじまじと眺めていく内にも途端にもの悲しき面持ちとなった。

 そこからは、僅かながらの不安を思わせた。先のトーポも抱くその思いと同じくして、彼女としても眼前の水縹(みはなだ)を失うことに少なからずの将来的な不安を覚えていたのだ。その実力こそはまだまだ未熟ではあるが、そんな水縹の輝きが織り成す奇跡をその目で目撃し、又、"主人公"という存在から分け与えられた勇気によって絶対的な窮地を乗り越えた身としてラ・テュリプはそれを可能とした"主人公"に揺るぎ無い信頼を寄せていた。


 だからこそ、この別れには色々と思うところがあったらしい。その時にも見せた悲壮な表情はとても彼女らしくない弱々しいものであり、だが、直ぐにも首を横に振っては無理矢理とこの思いを吹っ切り、そこから頑張って笑顔をつくっては主人公へと見せていく。そして、過ぎる不安を思わせないように少々と空元気に振る舞いながら、ラ・テュリプもトーポに続いて主人公達へとエールを送ったのだ。


「おはよう、アレウス・ブレイヴァリー君とミントちゃんっ! お別れではあるけれども、なんだかそんなような気が全くしてこないほどにまで貴方達はすごく身近な存在のように感じてしまえるんだ~。初めて出会ったあの日からこの日までまるであっという間。今も二人分の朝食の献立を考えてしまえるくらい、貴方達という二人は本当に……本当にこれからもずっと共に歩んでいくのだろうと確信さえしてしまうほどにまであたしにとってとても大きな存在だった。だから、そんな二人とお別れだなんて今も全く思えなくて、だからかな……あたし今、すごく寂しい気持ちだったりするんだ」


 見上げたアレウスの顔をじっと見つめては穏やかにそのセリフを口にして、続けてラ・テュリプは自身の胸に手をあてがいながら目の前の主人公へとアドバイスを送っていく。


「……イイ顔付きになったね、アレウス・ブレイヴァリー君。見違えたよ。あの戦争は確かに過酷だった。そして、それはアレウス君にとってかけがえのない経験になったことも間違いないよ。そう、かけがえのない経験。失ったものは決して少なくなどなくて、その一つ一つが光り輝く尊き宝物だった。訪れた悲しみに誰もが胸を痛めて、生き残った者達は迎えられるかも分からない自身らの明日にその行方を案じて悲愴を抱いてしまう。……これは、覚えておいてね。それは……胸を痛めた分だけ、その胸はもっと強くなる、ということを。筋肉痛は、その筋肉を傷めつけたことによって生じる現象。繊維が切れて、ズタボロとなってしまった肉が超回復で再生する。そして、回復した肉は以前よりも分厚くなって自身を支える身体の一部となるの。痛んだ場所は、より頑丈になって修復される。それは筋肉に限らず、胸の内だって同じだよ。最初こそは訪れた悲しい気持ちで胸の内が傷ついて自分が押し潰されてしまいそうになるけど、幾多の悲しみを真摯に受け止めていくことでこの胸の内は痛みながらもより悲しみを理解し、そして、募った悲しみは傷ついた胸の内と共に一つの決心へと修復されて自身を動かす原動力となる。募った悲しみを理解するとね、自然と心が強くなっていくんだ。……この先でも悲しいことを迎えることが多々あるだろうけれども、あたしとしてはそんな経験をアレウス君には何度も何度も介していってもらって、今よりもっともっと強い心を持ってほしいなって、そんな願いをささやかながらも思っていたりするの。――貴方の勇気に、皆が支えられた。だから、そんな貴方の唯一無二の個性を今よりももっともっと強くしていって、この先にも出会う大切な人達にもぜひとも発揮してあげてね!!」


 胸に当てていた手をアレウスの胸へとどかっと押し当て、主人公の鼓動を掌で感じ取っては不意に零した穏やかな笑みで自身からの激励を締め括った。




 吹く強風は、自然と弱まっていた。山の中腹であるこの現在地にて、隣で佇むミントにも激励のセリフを伝えたラ・テュリプ。それと、自身の料理を本当に本当に美味しそうに食べてくれたとする料理人としての礼も含めたエールで少女との会話を終えた彼女は、直後にもふと絶崖から景色を眺めていたトーポへと視線を向けて不思議そうに声を掛けていった。

 疑念に満ちた彼女からの問い掛けに対し、復興が進む街を見下ろしていたトーポは些かと首を傾げながらそれを口にしたのだ。


「どうやら、別れを惜しむ余裕などこれ以上は残されていないようだ。僕としてはこの時をあともう少しだけでも味わっていたかったものだが、流れ往く時の流れはなんて残酷なものなのだろう、止まっていてほしいと願い続けるこの懇願はあまりにも呆気無い夢想となって次にも現実を突き付けられてしまうばかりだ」


 眼鏡の位置を直す彼の仕草の合間にも皆が絶崖へと歩み寄り、彼が眺めていた光景を視界いっぱいに埋めるなりアレウスは目にしたとある物体と蠢く生命に注目をした。続けて、トーポはそれを口にする……。


「あの道を往く馬車が一つ、二頭の馬に引かれて年季の入ったミニカーのようにカタカタと動いているものだろう。あれは、"彼女"を送るべく僕が手配したとある目的地往きの輸送馬車。その箱の中には、今も収まらない胸騒ぎに不安を覚えるユノ・エクレールが乗っていることだろう。つまり、彼女は君らを置いて、既にこの風国を出発してしまったということになるね――」





 瞬間、巡ってきた焦燥にその時ばかりは穏やかではいられなくなったものだった。山の中腹である現在地から、今も真っ直ぐと伸びる地上の道を奥へ奥へと走り続ける馬車との距離は一目瞭然と言えるほどにまで遠い。これからブレイブ・ソウルによる走行の強化で加速した全力疾走を行ったとしても、どんどんと離れ往くあの馬車へと追い付くには現在蓄積するゲージではとても足りそうにない。

 ……この足でユノを追い掛けるには、その距離があまりにも遠すぎた。これから追い掛けても馬車に置いて行かれることは確実であり、最大限もの能力を以ってしてもそれでもこの手が届かない目の前の運命にどうすることもできやしない果てしない途方を実感した。


 ――同時にして、動き出した一つの存在に主人公アレウスはそれに全てを託すことにした。本人曰くこの水縹の輝きによって皆が支えられたとは言うものの、それまでにもこちらが支えられてばかりであり、その上に今も実感した自身の力不足と共にして一気に存在感を醸し出した"彼女"が動き出すと、そうして主人公のために最後まで助力へと動いてくれるNPCという仲間達の存在にこの勇敢なる魂(ブレイブ・ソウル)には自然と勇気が漲り始める。


 NPC:ラ・テュリプ・ルージェスト・トンベ・アムルーは弓を取り出すなり、それに矢を番えては絶崖のギリギリで佇んで構え出す。構えると同時にして彼女から放たれた紅の光は矢の先端へと一点集中し、燃え滾る炎が不可思議な力で集う効果音を発しながら熱情的な表情と声音で主人公アレウスへとセリフを言い放った。


「必要でしょう? 紅の片道切符。――いいよ、おいで。これは、紅の一筋が織り成す最愛の"彼"へと宛てた込み上げる熱き想いの化身。この一閃は、今もあたしの胸の中で熱く熱く燃え滾る、彼へと注ぎし熱情的な片思いの象徴。いつかこの想いが届くその日への淡い期待を込めて、今はアレウス・ブレイヴァリーという奇跡の祝福を乗せてこの一矢を射るわ」


 皆が、主人公アレウスを見送る位置についた。トーポとバーダユシチャヤがアレウスへと視線を向けて、主人公アレウスはラ・テュリプが向けた矢の先を真っ直ぐと見据えて、この足を一歩踏み出していく。

 ミントは球形の妖精姿へと変身し、ふわりと浮いたそれでアレウスの懐へと入り込んだ。――迎えた運命の時、この足は絶崖から僅かに飛び出る位置で留めて、見送りに出た皆のもとへとアレウスは振り返っていく。


 トーポは頷き、出発を促した。バーダユシチャヤも薄浅葱(うすあさぎ)の釜越しから向けた視線でこちらを見つめている。……皆からの視線を受けて決心が固まったアレウス。次なる目的へと意識を向けた主人公はそのまま振り返って絶崖と面して、風国の弱まった風を受け、この勇敢なる魂(ブレイブ・ソウル)とナビゲーターを抱いたその状態のまま、次の時にも、躊躇いを一切と見せない眼前の道のりを見据えた信念のままに絶崖へと思い切り飛び込んでいった。


 それと同時にして、次の冒険へと旅立った水縹の輝きへと送られた最後のセリフの数々。それぞれ、NPC:トーポ・ディ・ビブリオテーカ、NPC:バーダユシチャヤ=ズヴェズダー・ウパーリチ・スリェッタ、そして……NPC:ラ・テュリプ・ルージェスト・トンベ・アムルーによるそれらのセリフが主人公へと伝えられたことによって、その瞬間にも拠点エリア:風国におけるメインシナリオが完遂した――――


「アレウス・ブレイヴァリー。君の内にて力強くと光り輝くその明かりで、この世界に蔓延った無類の闇をどうか追い払ってくれ。僕はその時その瞬間を今から今か今かと待ち望み、その歴史的瞬間を見逃すまいと意地でもこの世にしがみ付いてみせる。だから……どうか、君が織り成すあの奇跡を再びこの僕らに見せてほしい」


「ぁ、っと……。っ次にお会いする時、は……ウ、ウチも頑張って戦えるようになって、お、おきます。ぇ、っと……その、ぁ……ありがとう、ございまし、た……!!」


「この別れの中に表れた、とても誇らしく思えるすごく温かなこの気持ち。こうして貴方達を見送れることが、こんなにも嬉しいことであるだなんて思いもしていなかった。……また、この世界の何処かで会おうね! そしたら、またこのあたしにお手製の特製絶品料理を振るわせてちょうだいっ!! また貴方達へ振るえるそれらを楽しみに、あたしもこの闇が蔓延る世界の中を頑張って生き残り続けていくから。だから、二人とも……強く、逞しくあれ。旅路の幸運を祈るわ。……行ってらっしゃい、アレウス・ブレイヴァリー君――」


 周囲へと溢れ出した紅が一気に解き放たれると、空を切る音と同時にして一直線を描いた紅き軌跡が迸る。

 紅蓮の炎を纏って放たれた矢は風国の上空を真っ直ぐと突き抜けて、それが途中にまで達すると共にして紅の内部から弾けるよう光が零れ出した水縹の輝き。紅色と混じり合うようそれの上に乗る水色は、自身を次なる運命へと運ぶ周囲からの惜しまぬ協力に最大限もの感謝を抱き、それによって更に滾り出した勇気が胸の内にて光を放つ勇敢なる魂(ブレイブ・ソウル)に蓄積され、次に起こすべき行動に必要十分なゲージを蓄えた水色は、降り立つその時を見定めるべく"彼女"へと注目を向けていった。




 真っ直ぐと突き抜ける紅の一直線は、目標である馬車の真上を通過した。風からの妨害も全くと受け付けない熱情に溢れた加護を受けてこれを見事成して、次にも"彼女"の身に巡る運命へと合流するべくアレウスは胸の勇敢なる魂(ブレイブ・ソウル)から水縹を引き出し、それを全身に纏うことでゲージとHPの減少と引き換えに防御力を底上げして紅から飛び降りる。


 紅色から零れた水色は、直下に落ち始めた。上空では枝分かれする二つの異なる光が描かれて、その一つは見知らぬ地にて息を潜めて過ごす最愛の"彼"へと宛てた熱き想いとなって地平線の彼方へと、そして……もう一つは救うべき"彼女"を目指す軌跡となって直にも地上を走る馬車の手前へと落下を果たした。


 風国の地に射し込むよう突如と降り注いだ水縹の柱。"それ"が着地するなり周囲には地響きが渡って輝きが飛散する。まるで水飛沫の如く破裂するかのように飛散したその輝きを眼前に、そのあまりにも突然な現象に仰天した馬車の馬は二頭ともいななき甲高い音を響かせた。


 どちらも白色の図体に黄色のたてがみという二頭が後ろ足で立ち上がる中で、同様にして目の前の神々しき光の柱に驚き慄いた騎士は何事だと剣を抜いて臨戦態勢へと移行する。

 だが、次の時にも騎士は視界の端から伸びた一つの手によって動作を止めた。それは、外の異変を感じ取って馬車から飛び出てきた人物、NPC:ユノ・エクレールによるもの。彼女は巡ってきた直感のままに騎士を静止させては、目の前で立ち昇る水縹の柱へと真っ直ぐ駆け付けた。


 ……その輝きを、彼女は常に見続けてきた。その存在感を、彼女は傍で支え続けてきた。"それ"との出会いを、この身が覚えていたのだ。その時にも出会ってしまった"それ"とのまたとなる再会を予期してしまえたからこそ、この瞬間にもこれまでと定めていた自身だけが往く目の前の道のりには"それ"と共に歩む未来(ビジョン)が映り出してしまったから――


 大急ぎで駆け付けたユノは、天へと伸びる光の柱の手前で立ち止まった。そして、輝きと地上が交差するその地点を心臓の鼓動によって切らした息でじっと眺め続け、この言い知れぬ思いに困惑交じりな表情を見せていく。

 ……光の柱からは一つの手が飛び出てきた。光を貫くよう現れたその手は自身の輝きを掻き分けるように動き出し、もう片方の手も現れてはその勢いに続くよう輝きの正体となる全身が一気に飛び出してくる。


 ――現れた主人公の全身は、赤く点滅していた。それは一気に受けた大ダメージの蓄積を合図する瀕死状態の表れ。通常であればまず即死であった高さからの落下ダメージは勇敢なる魂(ブレイブ・ソウル)の能力によって軽減され、その主人公はなんとかゲームオーバーを免れていた。

 しかし、致命的なダメージであったことには変わりなく、水縹の主人公はこの時にも今すぐにでも卒倒してしまいそうなほどの深刻な表情で踏ん張るように佇んでいた。今も全身に伝い続ける大ダメージに耐え忍ぶ様で、決死の形相で心臓が口から出てきそうな荒い息遣いで眼前のユノを見つめていたものだ。


 …………そんなアレウスへと、ユノは呆気にとられたような丸めた目で向かい合っていた。最初の一声はどれから入った方がいいのだろうか。どうして自分のもとに駆け付けてきたのかへの疑問や、こうして駆け付けてくれた主人公の行動への感謝は勿論として、どうやってこの馬車に追い付いてきたのか、どうしたことか上から降ってきて、大ダメージを受けながらも今も目の前で佇んでいる何とも不可思議なことばかりな主人公へと抱いた困惑ばかりのこの感情。


 掛けたい言葉が多すぎてしまって中々と切り出せずにいたユノは未だ呆気にとられながらも、しかし段々と見慣れてきた目の前の光景に次第と微笑が零れて、その次にもユノは自身の思いをセリフへと乗せて伝えたのだ――


「ッ……ほんと、ホントに貴方って……本当に、本当にアレウスってもうすごく不思議な人、よね。なんで、どうして? 一体何がどうしてこうなってこうして私の前にその姿を現しているとでも言うの? ――いいえ、違う。これは、私が望んだからこその結果。これは私自身の問題であることを分かっていて、でも、それを頭では理解をしていながらもこの気持ちはいつだってアレウスという存在がこうして助けに来てくれることばかりを願っていたものだったから。これもまた、この世界で巡り巡る見えない引力によるものであることを、私は今ようやくと理解することができたものだわ」


 見せた微笑はすぐにも浮かばれない表情となった。

 ……だが、主人公という存在が現れてくれた安堵に何かを理解したユノはその時にも、木漏れ日のような優しい温もりを帯びた笑顔を見せてはその思いのままにセリフを口にした。


「……お願い、アレウス。ミントちゃん。……助けてほしいの……ッ!!! 笑顔で言うような言葉じゃないことは分かっているわ!! でも、でも……こうして貴方達が来てくれたことが、もう、もう、ホントに本当に嬉しくって……!! 過酷な状況のその渦中で独りもがいて足掻いて、苦しくて辛くてもうどうすることもできやしない結果が目に見えているからこそ、分かり切っているこの行く末を迎えることがすごくすごく怖かったの……ッ!!! ジャンドゥーヤと一緒ならばどんな最期を迎えようとも悔いは無いと思っていた。でも……いざそんな立場に立たされた今になって私は気付かされた。それは違った。ッ…………私はまだッ……終わりたくなんかない……!! ッ私はまだ、この世界にしがみ付いていたいの……ッ!! ッだって……ッだって、死ぬことに悔いが無いわけがないじゃない……ッ!!! っぐス……ッ助けてほしかった……。ッ……このことで周りの皆を巻き込んでしまったら、本来であれば私だけがこれからにも遭遇するとても危険なことが、皆にも降り掛かってしまっていただろうから。最悪、それによって貴方達が命を落としかねない可能性が十分にあったからッ……だから、私はこのことをどうしても言い出せなかった……!! ッ私一人だけで解決するべきことであると、そう割り切っていたつもりだったから……ッ!! でも、今ならこれをお願いすることができる……!! っひッぐ、ぐスっ。ッアレウス……ミントちゃん……!! ――私を、助けて……ッッ!!!!」


 クールに笑顔を見せていたユノの表情も、溢れ出した思いに途端としわくちゃに歪んでその瞳からは大粒の涙が零れ始めていた。

 ……彼女は、独りで背負い続けた自身の運命に今にも押し潰されてしまいそうになっていた。だが、こうして現れてくれた主人公となる特異的な存在のそれが織り成す奇跡を心から信じていた彼女は、"それ"と一緒であればこのどうすることもできやしない事態もなんとかできるかもしれないと、その特異が放つ輝きに照らされてこれまでと抱えてきた重荷のその全てが軽くなり、訪れた安堵に思わずと気持ちが高ぶっては涙を流してしまうばかりであったのだ。



 馬車の中、流れ往く風国の光景と揺れる箱の中で主人公と向き合ったユノは、向けられた視線を受けて安堵の表情を、そして、次の時にもこの先にて出くわす更なる熾烈な戦いを共にする仲間へと、溢れ出した思いによる弱々しい笑みを見せながらも信頼する水縹の奇跡へとそのセリフを口にした――


「……私から切り出しておいてちょっとアレなのだけれども、それでもこれはどうしても言いたくて言いたくて仕方が無いものだから敢えて言わせてほしいなって。……アレウス、ミントちゃん。これからも、よろしくね。――――アレウス。ミントちゃん。…………ありがとう」





 この時を以ってして、唯一無二の希望である水縹の輝きが拠点エリア:風国を発った。走る馬車はそれを抱きし主人公とそのナビゲーター、そして、次にも巡る運命のその中心でもある一人のNPCを乗せてこの三人を次なる旅路へと運び往く。


 がらがらと回る車輪は荒々しい音を立てて、がたがたと揺れる箱は旅の御一行を乗せてでこぼこな道を走り抜ける。その上、早急に送り届けてほしいという乗車する彼女の意向を受けて馬車はどんどんと加速をしていき、そしてとうとう三人を乗せた馬車は風国から飛び出すなり目指すべき目的地へと走り去っていったものだった。


 ……場面は移って、既に主人公の去った拠点エリア:風国の高台。エリアボスとの決戦も行ったそのズタボロな頂上にて、この地を走り去る馬車の行方を悠然と見守る一つの人影がそこに佇んでいた。


 彼は、孤高の蛇。銀灰色の禍々しいローブに身も頭部も包み込み、独特な感性による一風変わったポージングを決めながらこの地の強風に晒され衣類をなびかせる。その身には彼とは別に、身体を這う小さな蛇が二匹しゅるしゅると舌を出し入れしながら彼も見守るその光景を眺めていたものだ。

 彼もまた、その水縹に照らされたことで己に変化が及んだNPCの一人だった。先にも別れを遂げた少女と同様にして、彼もまた誰に知られることもなく静かにその変化と向き合った者。水縹の輝きとは似て異なる従者に諭されたことで彼はそれを受け入れることができ、そうして眼前に見据えた自身の新たなる道のりと向き合うことで改めたそれを往く決心に及んだれっきとした勇敢なる魂(ブレイブ・ソウル)の持ち主。


 孤高の蛇は吹きすさぶ強風を掻き分けるように振り返るなり、その場を後にした。音も無く忍び寄るように歩き出したその彼は、行く先を誰に知らせることもなく唐突に行方を晦ましてそれっきりとなった。以来、傭兵という稼業から退いたと思われる彼は誰の前にもその姿を見せることがなく、それはまるで闇に潜みし蛇の如くその気配も悟らせないまま何処かへと消え失せたものだった。


 彼は、新たな道を歩み始めていた。それは、誰もが知る由も無い新たな世界にて行われる彼とその相棒のみぞ知る新たなる試み。それを成し遂げるためにも、NPC:アイアム・ア・ダークスネイクは自身が見据えしその道のりを辿る孤高の旅へと出たのであった――――



【~四章、完~】


【~五章へ続く~】

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