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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
四章
359/368

忠言に込められた期待を受けて 3020字

【前回のあらすじ】

 ラ・テュリプは主人公アレウスへと温かな微笑を見せながら小さく手を振って挨拶を示した。トーポもまたアレウスへと向いてはその横線のような細い目でとても穏やかに声を掛けていく。……それは、この地における最後の会話イベントだった。長くもあり、短くも感じたこの拠点エリア:風国というステージにおける最後の総仕上げへと突入したこのイベントを前にして、次の時にも皆との別れを、そして……また、未だ見ぬ未知に溢れた新たなる冒険へと主人公アレウスは臨んでいく――――




 早朝の風国には、穏やかな流れが訪れていた。ラ・テュリプとトーポの合流によって取り敢えず人見知りを解消したバーダユシチャヤも、先とは一転してとても落ち着いた様子で眼前の主人公と向き合うことができていたものだ。

 ラ・テュリプからの挨拶に手で応えたアレウスへと、続けてセリフで挨拶を行ったトーポ。アレウスが彼へと向けたこの視線をトーポは受けて、この直後にも控えた別れへと繋がるイベントをトーポが展開し始めていく……。


「やぁ、アレウス・ブレイヴァリー。まずは、おはよう、だね。けど、正直のところ僕にはそんな挨拶に気を配れるほどの余裕などこの心境に存在などしていない。それほどまでに、何れ迎えるこの日の、想定外なほどの唐突な訪れにこの状況を未だ呑み込めずにいるものだ。これは決して、君ら若気の至りによる無神経で身勝手な判断に呆れかえってのものではない。それは、認めることもできやしない衝撃の事実を知ってしまったが故の困惑によるものであり、そんな人類という希望に潜みし、裏切り者という絶望のその根源へと自ら飛び込んでいく、命知らずの無謀な輩を見送る重圧な心境に僕自身が慣れていないがための、心配、によるもの。……だが、同時にして、なぜだか安心もしているよ。君らであれば、裏切り者である"彼"、"アメール"という、人類の宝であり、我々の脅威にもなりかねない、云わば天才とも呼べるであろうこの世界にちょっとした革命をもたらしたその凶悪な人物を食い止めるに相応しい面子であると僕はそう思っているからだ」


 それは、挨拶代わりとも言えるトーポからの忠言だった。こうして一言でも添えておかなければならない、としていつの間にか口走っていたそのセリフにトーポはどこかたどたどしい様子を見せながら、それを誤魔化すように歩き出しては付近の絶崖へと足を運んでいく。

 音を立てて吹き荒れる強風に晒されながら、トーポは絶崖の真ん前で立ち止まった。つま先が僅かながらに崖からはみ出るその距離でトーポは振り返り、これから見送る水縹(みはなだ)の輝きをその細い目でしっかりと焼き付けるかのようにアレウスを見据えてから、その忠言を続けていった。


「"アメール"という人物は、自身が目指す目的のためであればあらゆる手段も厭わない強欲なる者だ。非情を以ってしてそれを遂行し、自身が目指すその目的を理想のままに確実と成し遂げる。その能力の高さこそは誰もが認めざるを得なくて、彼の迷いのない信念に対しては、嫉妬による戯言であろうとも誰も口出しなどできやしないほどだ。それほどまでに、アメールという人物が目指す道のりは揺るぎの無いものであり、理想さえも超越する彼の信念の力は、その天才的な脳の中で想い描いた遥か彼方の桃源郷さえも今日にも明日にもこの現実に再現してしまうことだろう。……アメールは危険だ。一度と定めた考えを一切と改めないほどのとにかく融通の利かない頑固者であるクセに、その能力が彼の背を後押しし、あらゆる障害が立ち塞がろうとも彼は自身の理想を強引に押し通してそれを現実のものとしてしまう。彼の褒められるべき能力はもはや、皆の悩みの種へと化してしまっているんだ。その上に、彼が〈魔族〉と関与しているだなんていったら……あぁ、僕は今、とんだ悪夢を見せられているみたいだ。――彼の能力は全く衰えない。アメールは理想の自分でいるべく常に自身を磨き上げ続けている。故に、年齢こそは僕と一つや二つほど違うだけの割かし中年な方ではあるのだが、そんな彼の能力は今も健在。現役どころか……むしろ、年齢を重ねる毎により洗練されているとでも言えるだろう。彼はもう、我々との共存という枠から外れてしまった異端者。人間と〈魔族〉の狭間にその身を置き、彼はただ、自身の理想へと突き進んでいくだけの第三勢力。……彼はもう、人間の脅威と言っても何ら過言ではないんだ」


 アレウスは、淡い水縹を宿した真っ直ぐな瞳でトーポと向き合い続けた。それを中心に見据えたトーポもまた真剣味を帯びた表情でその瞳を捉え続け、それがしばらくと続くなりその強張った表情を次第に緩めて僅かながらの微笑を、そして、確信に近き直感に根拠もない安堵の念に一つ頷いてトーポはセリフを続けた。


「君らからは、若気の至りをひしひしと感じ取ることができる。今も君らの雄姿を目にしているだけで何だか力が漲ってくるよ。そう、活力に溢れた君らはある意味で無敵だ。アレウス・ブレイヴァリーもミントちゃんも、そして……ユノちゃんも、まだまだ若い君達は何をするにしても自由であり、この先にでもその目で直に目撃する新たなる景色や出会いに喜びや悲しみを迸らせ、そして、この世界でこなせる今できる限りの体験を、今であるからこそ経験することができるとびっきりの甘くて苦い青春を謳歌していってほしいと僕はそう願っている。こうした冒険の先々で受けたインスピレーションというものは後に君達の財産となるのだからね。さぁ、恐れることはない。君らはまだまだ現役の冒険者。その若気で様々な経験を介して、これからも自身が信じるその道を揺るぎ無い信念のままに追い求めていってほしい。――と、言えたらなんて幸せだったかな。僕は今、嘆いている。なぜならば、君達はまだまだ若いというのに、その時にしか経験し得ない青春の謳歌も許されない世界情勢を迎えてしまったものだから。君達は実に不運極まれり立場に置かれてしまったのだ。…………不安と恐怖が占めるこの世界にて、君らは一体なにを見出すとでも言うのかい? 僕は、アレウス・ブレイヴァリーという水縹の輝きと、ミント・ティーという守護女神となる我々には到底理解の及ばない未知なる存在を。そして、ユノ・エクレールという未知を追い求めし純情なる冒険家の行く末がとても気になってしまって仕方がない。……だからこそ、この僕に見せてほしい。君達がこの先にも繰り広げる、君達にしか成し得ることのできない可能性の開花を。そして、絶望に打ちひしがれるだけのこの余命に微塵もの期待を抱き続けていくためにも、僕は君達を決して失いたくなどないんだ。これは、僕からの精いっぱいのエールだ。君達の冒険の旅路を。そして、君達が迎えるこれからの行く末を、この僕にしかと見せ付けてほしい」


 トーポは差し出すように伸ばしたその手をゆっくりとひっくり返し、指の一本一本にも渡らせた神経で掌をアレウスへと見せ付けてはやんわりと微笑んで水縹の輝きを激励した。


 続いては、喋り出す頃合いをずっと見計らいながらずっとうずうずと待ち続けていたラ・テュリプからのエールと、そして、迎えた拠点エリア:風国の出発によって、次回にも主人公アレウスは新たなる冒険へと旅立つ――――



【~次回に続く~】

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