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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
四章
358/368

麗しき変化と、貴き不変 2131字

 NPC:水飛沫(ミズシブキ)泡沫(ウタカタ)との別れからすぐにして、そんな"少年"の傍で付きっ切りとなっていた少女NPC:バーダユシチャヤ=ズヴェズダー・ウパーリチ・スリェッタは抱える薄浅葱(うすあさぎ)の釜越しから視線を向けて主人公アレウスを注目し始めた。その視線を受けて反応を示したアレウスは、この場に残っていた一人のNPCと向き合っては続けて拠点エリア:風国における最後のイベントへと臨んでいく……。



 目が合うと同時にして、バーダユシチャヤは一瞬と人見知りをして視線を逸らした。――だが、次の時にもその少女は驚くべき動作を見せ付けてくる……。

 バーダユシチャヤはこの場から逃げることなく、人見知りをしながらも頑張ってアレウスと向き合い始めたのだ。じりじりと何かに耐え忍ぶ縮めた目を見せながらも、バクバクと弾ませる心臓の鼓動を受けながら、それでも頑張って頑張って人見知りの中でうずうずとした様子を見せながら少女はじっとアレウスと向き合っていく。……バーダユシチャヤも変化したのだ。ミズキも見出したその往くべき道のりを、少女もまた主人公が知る由もない何処かにて見出していた。それが、熾烈な戦いを極める戦地の中心にて見出した少女の想いが成した結果であることを、アレウスはこの先も知ることは無いであろう。


 バーダユシチャヤからの注目を受けて、不明確でありながらも電脳世界で生きる生命の力強さを思い知らされたアレウス。それからなる少女の勇敢なる魂(ブレイブ・ソウル)に感化されるかのようにこの胸には勇気が漲り始め、それを受けてブレイブ・ソウルのゲージの回復が促されると同時にして先のミズキのセリフを引き継ぐかのようにバーダユシチャヤはそのセリフを喋り始めたのだ。人見知りで声を震わせながら。


「……え、っと。あ、の……。ウ、ウチ、からも……その、お礼……をしたくって……、っと、思ってぃ、いまして……。っあ、ぇ、っと。そうっお礼、を……。あの。…………こ、こう……こうして、か、風国をたす、助けてくださってっ、っあ、助けてくれる、お手伝いを、い、っしょにしてくれて……してくださいまして、ぁ、りがとうございま、す……。……ぇっと、あ、ありがちなお礼で……すみません……。でも、この言葉の通り、で……ウチの気持ちは、本当……です……」


 今すぐにでも逃げ出してしまいたい。そんな思いが伝わる内気な様子に掛ける言葉も思い浮かばないアレウス。取り敢えずとありがとうを伝えてみたものの、バーダユシチャヤはごめんなさいと謝ってしまってはその時にも逃げ出すように駆け出してしまった。

 ……が、少女はすぐに立ち止まった。踏み出した足に体重をかけて思い切りとブレーキをかけ、その勢いで体勢を崩してよろっと盛大にすっこけてしまう少女。薄浅葱の釜を抱えたまま鈍い音を立てて転ぶその姿に、アレウスは助けに行こうと走り出す。だが、こちらが動き出した直後にもバーダユシチャヤは動き出し、心配をさせまいと自力で立ち上がってはとても恥ずかしそうにアレウスへと視線を向けてきたのだ。


 顔には打撲の跡。しかし、バーダユシチャヤは弱音の一つも、羞恥からなる自虐のセリフも一切と口にしなかった。ただ、その人見知りする目で釜を大事そうに抱えながら。主人公の姿を、真っ直ぐと、見つめていた……。




 主人公アレウスとナビゲーターのミントは視界に入った人影に目が行った。バーダユシチャヤも後方からの足音に反応して振り向き、その正体を確認していく。

 それは、未だ残る邪悪の爪痕を思わせる塵と共に、消音状態で追い風を受けながら悠然と歩いてきた二つの存在。そのどちらからも余裕をうかがわせて、歴戦の戦士の如き風格でこちらとの合流を果たした。片方は蜜柑色のサイドポニーを風になびかせて、もう片方は癖である眼鏡の位置を直す仕草を交えていく二人の人物。


 NPC:ラ・テュリプ・ルージェスト・トンベ・アムルーと、NPC:トーポ・ディ・ビブリオテーカ。よくよく見慣れた二つの存在との合流を果たしたバーダユシチャヤは途端に安堵の表情を見せてはこの場から去ることを止めてその場に留まり、それを見てラ・テュリプはバーダユシチャヤの頭を撫でて、トーポは少女の顔の打撲の跡に疑問を投げ掛けて少女の返答を耳にしていく。


 ――目の前で展開されていたのは、何の変哲もない風国の日常そのものだった。つい先日まで戦地であったこの場所にて、三人の生命達は先日の熾烈な戦争も思わせない至って平和的な光景を繰り広げてきたのだ……。


 ラ・テュリプは主人公アレウスへと温かな微笑を見せながら小さく手を振って挨拶を示した。トーポもまたアレウスへと向いてはその横線のような細い目でとても穏やかに声を掛けていく。……それは、この地における最後の会話イベントだった。長くもあり、短くも感じたこの拠点エリア:風国というステージにおける最後の総仕上げへと突入したこのイベントを前にして、次の時にも皆との別れを、そして……また、未だ見ぬ未知に溢れた新たなる冒険へと主人公アレウスは臨んでいくのだ――――



【~次回に続く~】

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