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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
四章
356/368

ミズキとの別れ―― ① 3428字

 主人公アレウスはとあるイベントと出くわした。それは、胸に宿る水縹(みはなだ)の輝きにこの身を照らし、揺るぎ無い運命の下で我が道を往く特異の存在がもたらした一つの終着点。直にも展開されたそのイベントは、一時でもこの冒険を共にした一人の仲間との別れであった。




 NPC:水飛沫(ミズシブキ)泡沫(ウタカタ)。前回のステージからその流れのままに、主人公の付き添いとして冒険の道のりを共にした仲間の一人。その煉瓦色の赤い長髪を結ったショートヘアーへと変化させていて、トレードマークである白色のキャスケットを深々と被りながら眼前の主人公と相対する。


 少女の表情で分かった。不快に思う目の前の存在へと中々に声を掛けられずにいて、だが、それでもどうしても眼前の"それ"へと何かしらの一言を投げ掛けたい……とされる、複雑な感情が絡まり合うお年頃な少女の思考が今も、その面持ちで目に見えて分かり得てしまうものであった。


 挙句、嫌いなような気がしなくもないという目の前の存在から直視され続ける今の状況に更なる複雑を抱き、クールとも言うべきその不愛想な表情から一瞬にして、不快感丸出しな嫌悪の顔付きとなってこちらを睨みつけ始めたNPC:水飛沫(ミズシブキ)泡沫(ウタカタ)ことミズキ。……一体、何を伝えたいのだろう。その意図が読み取れない以上は喋り始めるのを待つしかない、ただその場で少女を待ち続けた主人公アレウスの至って平然な顔を見て沸々と怒りさえも醸し出しながら、その時にもミズキは若干とその口を開いて喋り始めようとした……。



 瞬間、その背後から現れたもう一つの存在にミズキは敏感な反応を示してびくりと身体が飛び跳ねた。

 ミズキの後ろからひょっこりと顔を出してきたのは、そんな"少年"を慕う焦がれし少女NPC:バーダユシチャヤ=ズヴェズダー・ウパーリチ・スリェッタ。深緑の超ロングヘアーと顔の輪郭から飛び出した黒縁のメガネ、抱えた薄浅葱(うすあさぎ)の釜というまるで変わらぬ外見で、しかしどこか目つきがハッキリとした一丁前な顔付きのもう一人の少女はミズキへと振り向き、慕う"彼"の顔を覗き込んできた。


 自身を驚かせた張本人へと血気に溢れた顔を向けたミズキ。しかし、向き合ったバーダユシチャヤのまるでエールを送るかのような期待込められた瞳を目にしては荒ぶる感情が抑制され、次にも一旦と落ち着きを取り戻し、収まらぬ昂りのままに深呼吸を何度も行って気持ちを整理し出したミズキ。

 ふぅっとついていく深いため息の数々。先の驚きで紛れた気が眼前の"それ"と向き合う冷静さを呼び起こし、なんだか遣り辛そうな表情は見せていくものの、それでもミズキは忙しない視線をあちこちに向けながら主人公アレウスへとセリフを投げ掛け始めていく……。


「……ぇ、っと。まぁ、さ。ぁ……な、んだかんだで、おまえには色々と世話にはなった、かな。と、思うんだ……。で、えっ……こうしておまえなんかとこの地に訪れたのも、元はと言えばこれら全てブラートの兄さんが仕組んだおれを旅させるための口実に過ぎないもので、おれはそれを兄さんからの直々の指示だと思って真正直に真に受けて実行したものだったのに、その結果おれは兄さんの思惑にまんまと乗せられただけで良い思いをしたのは兄さんだけという誰も幸せにならないこの結果が生まれたただそれだけだった。……別におれはおまえなどと旅などしたくなどなかったんだ。でも……言ってしまえば、おまえのおかげでおれは様々な経験をすることができた、とも言え……なくはなくて……だな。いや、おまえのおかげではない! でも、おまえなんかと出会わなければこういった経験をすることも無かっただろうし……だからとはいえ、おまえのおかげであると思うと無性に腹立たしくなってくるからやっぱりそうは思いたくなんかないから――」


「ミズシブキ君、ファイト」


 脇から小さな声援を受けて、それに対して思うところがあったミズキはそっちへと意識を向けてしまう。しかし、再びアレウスへと向き直ってはまたセリフを喋ろうと微かに口を開くが、だがどうしても言葉という形にできないこの想いに自分自身にもどかしさを覚えるミズキ。次第に肩が震え始め、段々と胸に募る想いに堪えられないと顔を赤めて歯を食いしばり、それでも言わなければと自身を奮い立たせては、意識の底からその想いを引っ張り出すかのようにミズキは急な大声を上げながらそれを口にしたのだ。


「ッッッ、だから、そのッ!!! ッッ……だ……か、ッァあああァァァァア!!!! もうッ!!! だからッ要はッおまえに礼が言いたかっただけなんだよッッ!!! こんな屈辱は初めてだッ!!! もう二度とおまえの世話になんかなってたまるか!!! あぁそうだよ!! おまえがいなければ……この風国はどうなっていたかも分からないっ!!! マリーア・メガシティでの件も含めて、今回のことだって何だかんだでおまえが何か発揮して何とかしたんだろッ!!? ブラートの兄さんや周りの皆が口を揃えてそう言うようにさ。おお、おれ……だってよ……その……おまえのそういう、なんか、その浮いてる存在感だけはみ、認めて、はいるんだよ!!! へなちょこで情けない面や恰好ばかりするクセに、口だけは達者で偉そうなことをほざいてはそれでおれを含めた皆の気分を上げてさ!! そして、いざとなったらそのなんか言葉にできない不思議なパワーを醸し出して何だかんだでその大変な物事をまるで何事も無かったかのように解決へと導く!! おまえは……おまえばかりがそんなすごいことばかりして……なんで、おまえばかりがすごいことばかりできるんだって、ッそれを思う度にこの腸が煮えくり返って煮えくり返って仕方が無い……ッ!!!」


「ミズシブキ君、お礼、お礼」


「おお、おおお礼ッ――だ、から何が言いたかったかと言うとッ……おお、お礼だよッッ!!!! あぁもうッッもうッ!!! アリガトウッッ!!! アリガトウ!!! アリがとウ、だよ、ア……ァ、アレウス・ブレイヴァリィィィィィィイイイッッッ!!!!」


 極めて遺憾な胸の想いが爆発すると同時にして、ミズキは昂る感情で涙目にしながら被るキャスケットを掴んで勢いのままに地面に叩き付けた。


 毟り取るように取っ払ったその衝撃で、長髪を結う髪留めがバチンと音を立てて飛んでいってしまった。同時にして一気に流れた長髪はふわりと風になびいて、怒れる少女自身を包み込む。一気に乙女溢れる姿へと変貌を果たしたミズキではあったが、しかしムシャクシャが全く収まり切らない少女は怒りで悶える様を見せながらキーキー喉を鳴らして感情のままにこちらを睨みつけていた。


 傍のバーダユシチャヤは"彼"から一歩離れてあちゃーと眺めていた。ムシャクシャのままにバキバキと動かす両手の指に相当なほどの屈辱を思わせて、そんなミズキの様子に何か思ったのかバーダユシチャヤはこちらへと振り向くなり、先のセリフに付け加えるようにそれを喋り始めた。


「……あの、ミズシブキ君はただアレウス・ブレイヴァリーさんに感謝をしたい、と、それを昨夜にも思い立って、今に至るんです。頭に血が上っているミズシブキ君ですが……その……感謝は紛れも無いホンモノであることを昨夜にもウチに色々と説明してくださいました。だから……気を悪くされないでください……。ミズシブキ君なりの感謝の想いがウチには十分と伝わってきました。……アレウスさんとミントさん、ミズシブキ君のことをどうもありがとうございました……」




 まるで猛獣のように歯を剥き出しに怒り狂うミズキの脇で、控えめでありながらも"彼"の想いを追加で代弁したバーダユシチャヤはよっこいしょと屈んで足元のキャスケットを拾い上げていく。抱える釜で隠れた顔越しで拾い上げたそれをミズキに差し出して、それを視界に入れるなりふっ、と怒りを引っ込めたミズキは我に返ってクールな面持ちを取り戻す。そして、先の自分自身に思うところがあったのかちょっと気恥ずかしいと思う表情を見せていきながらも差し出されたキャスケットを被り直し、それを深々と被るなり再びアレウスと向き合っては落ち着いた感情で再度とセリフを続けてきたのだ――――



【~ミズキとの別れ ②に続く~】

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