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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
四章
351/368

集いしNPC達 5204字

 ……それは、未知を追い求める貪欲なる探求者も例外に及ばず。だが、今も蔓延る未だ見ぬ未知と真っ向に向かい合うことのできたその彼女がまず最初に持ち直し、誰よりも先に冷静な思考を取り戻した彼女は、皆をこの場に引き戻すべくその思いのままのセリフを呼び掛けたのだ。


「……熱い。なんだか、とても熱いわ。今、この心が今までに無いほどにまで熱く熱く燃え滾っているの。…………大丈夫。これは、何の根拠もない、言葉に何の意味も無いただ空っぽなだけの空元気に過ぎない一言。でも……大丈夫。この、どうすることもできやしない目の前のそびえ立つ壁を前にして、それでもなんだか、ただ、そう言い切ることができてしまえるわ。これもきっと、れっきとした経験から来る安心感なのかもしれない。――私、実は今、すごくワクワクしている。いつ、〈魔族〉という強くて怖い人達に殺されるかも分からない、こんな低迷とした今の状態で……今、この上ない充実感を見出してしまっているの。ッだって、今までに無いほどの大規模なピンチなのよ!? それはつまり……今までに無いくらいの、これまででは想像もできやしなかったまた真新しい未知なるトンデモ体験が待ち受けていることを意味しているのだと、私はそう思えてきてしまうからッ!! この、怖くて怖くて神経からふるふると震えるこの胸のこの心臓のドキドキな感覚がとてもとても堪らなくて…………早く……ただ早く……私は、今のこの時この瞬間にも巡り巡る未知なる出会いと一刻も出会いたくて仕方が無いのッッ!!!」


 何を言ってんだコイツは。突然とコミカルにそう喋り出したユノに対して、目の前のそれの変貌に唖然とした表情を見せたダークスネイクはただただ絶句した。

 どうしてそんな意気揚々としていられる……? この世の人間を見るような目ではない、仰天の中の仰天な縮こまった瞳のまま、ダークスネイクはこの胸の危機感のままに彼女へとそれを言い聞かせていく。


「漆黒と鮮紅の魔獣に魅了されし白銀のシンデレラよ、今こうして我々が立たされしこの場は、貴様が追い求めし煌びやかな舞踏会では決して非ず。今も貴様がその足に着けて佇むこの場所はまさしく……断崖に追い込まれし僅かな足場であることを自覚せよ」


「断崖に追い込まれてしまった、僅かな足場に立たされている……? ……それって、つまり……破天荒なとんでもないスリルの予感……ッ!? 危ない場所や怖い事であるならば尚更、私はその、生と死の狭間にて干渉する恐怖のままに引き起こされるこの身震いと武者震いにこの身を委ねるただそれだけよッ!! 目の前の断崖の奥底へと無限に沈む深淵な暗闇を、見上げる天に立ち込めたドス黒く群がる雲海を、手を伸ばしても虚しくと空振るこの心寂しい全身からなる感覚を。私は今この時に生じた赴くがままの思いと一緒に、どうすることもできやしない今のこの状況を心の底から満喫をしたいただそれだけを望んでしまえるの……ッ!!!」


「……夢見がちな生っ粋の眠り姫は、眼前にて淡く揺らめく夢想の夢国に夢中である、ということか。…………キスでもすれば、この眠り姫を夢から覚ませるだろうか」


「ッキ、キスッ!?? そ、そんな――ッ、ダ、ダメよ、ダークスネイ君……!! だって……キスをしてしまえば……あ、ああ……赤ちゃんが……できてしまうわ……!! そ、そんなのダメよ! だって、その、ダ、ダークスネイ君は私の王子様などではないのだから……ッッだ、だからっ赤ちゃんだなんて、そんな……私、ダークスネイ君とは結ばれたくない……ッ!!! ダークスネイ君とはキスをしたくなんかないわッッ!!!!」


「…………もはや、何も言うまい」


 お手上げ。呆れの極みで眉をひそめ、彼は未だ興奮の冷め止まないザ・マイペース彼女を放置気味にこの意識を逸らしていった。




 しかし、彼女のマイペースな振る舞いが、そんな呑気過ぎる我が道を往く淑女の様子を介することによって、孤高の蛇はある意味でもう一つの危機感を抱き、その鬼気迫る思いが、ある意味で我に返るトリガーとなったのだ。

 自分がしっかりしなければ。ダークスネイクは誓った、今この場において、せめて自分だけでもしっかりとしなければならない、と。反面教師を介して、彼は己を持ち直した。そして、未だと眼前の絶望に打ちひしがれる二人の存在を確認し、彼と少女を現実へと引き戻すべく、ダークスネイクはとある情報を切り札のように脳の片隅から引き出した。


「先の真なる実に己の在り方を忘却せし悲観者よ、その心中に渦巻く恐怖と絶望の螺旋に我が身が支配されるにはまだ早い。何も、我が聞き入れし邪悪共の暗躍はそれだけに非ず。大規模な企てが故に、"ヤツら"は膨大な使命を背負い、かの邪悪なる翼を振るっている。それ即ち、作戦の数だけ、抜け目有り。――どの活動にも、必ずとメリットとデメリットが存在する! その活動は必ずと、何処かの抜け目へと繋がっているのだ! ……停滞極まれりこの現状ではあるが、このダークスネイク、更なる混沌を承知の上でこの事実をひけらかそうではないか! それは、渦巻く螺旋を膨大させるに等しき、受け入れ難き現実。故に、それを耳にする前に我を失うようでは、この先の戦争に身を投じる覚悟も無き、戦士も失格である心の弱さをただ晒すのみ。であるからこそ、これ以上となる衝撃を受け、己が信念を強く保て! これは、邪悪共の侵略に対する直接的な解決には至らぬ遠回りでありながらも、我々がこの一歩を踏み出すに最良である価値ある勇敢なる一歩である!」


 未知へとその目を輝かせたユノを始めとして、心中にて渦巻く感情に囚われていたミントとトーポも彼のそのセリフで目を覚まし、眼前で悠々とした調子で振る舞うダークスネイクへと意識を向け始めていく。

 皆の様子をうかがい、正に今が最適であると判断を下したダークスネイクはそのセリフを続けて言い放った。


「あの夜、我は確かにこの耳に聞き入れた。それは、邪悪が語るにはにわかに信じ難き、この我々を更なる絶望の淵へと堕落させるに十分な内容! その時にも、我は"ヤツら"の恐ろしさに気付かされた。そして、敵ながら天晴であると、"ヤツら"の目を見張る行動力に含まれし慎重さと大胆さに、我は心底からの恐怖心を抱いた! さすがは、あの強大な脅威を宿し、この世界に宣戦布告を行うだけの連中だ。その手段は至極狡猾、一切もの抜かりが無く、又、"自身ら"に莫大な有益をもたらす完璧であるプランを"ヤツら"は講じてきたものだ」


「ダークスネイク、前置きでお腹がいっぱいだ。早くメインディッシュを我々に提供してくれないか?」


 真っ先と反応を示したのはトーポ。彼にはもの珍しい食い気味な様子でそれを尋ね掛け、それを受けてダークスネイクは狙い通りと言った具合にセリフを続けた。


「逸る気持ちは共感する。が、トーポよ、提供されしメインディッシュをそうせかせかと食す必要などあるか? せっかくと満を持してそれが提供されたというのに、せっかくの豪勢なそれを、貴様は焦燥に駈られるがままに貪り尽くすとでも言うのか? その胸に問い掛けよ、トーポ。現状における最も正しき判断を、その奥底にて潜めし貴様自身が把握をしていることだろう。……ッフフフ、トーポ、貴様もまた人の子であるな。弱き一面との遭遇に、王道と非道となる相容れぬ道を往く者でありながらも親近感が湧いたぞ」


 そのセリフに気付かされ、トーポは逸る自身に、乱した己自身に胸に手を当て、間を空けた。

 ……眼鏡の位置を直す彼の仕草を確認したダークスネイク。欠いた冷静さを恥じるようにその横線のような眼差しを向けてくるトーポと向き合いながら、孤高の蛇は自身の脳裏にて蔓延る真実を解放するかのように、己の中に封じ込めてきた信じ難き"それら"の企てを、ぼやかすことなく彼は言ってのけたのだ……。


「……通じているのだ。"それ"、と通じ合っている。〈魔族〉という名の、生態の崩壊を招きし邪悪の化身共は、あろうことか……"ヤツら"が仇名す我ら人間の、そのごく一部と裏で通じ合っているのだ」




 誰もが息を呑んだ。皆が絶句をして、あまりもの衝撃から、その喉から言葉を出すこともできずにいた。

 トーポは再び眼鏡の位置を直す仕草を交えた。抑えられぬ動揺の素振りを立て続けに見せていく彼の堪え切れぬ堪え難き思いをその目で確認し、ダークスネイクはその黙り込んだ空間の中で、慎重にセリフを続けた。


「しかとこの耳に聞き入れた。〈魔族〉は間違いなく、我ら人間の一部分と、人目の付かぬ社会の闇のその深淵に紛れながら、近い距離感で随分と親しく通じ合っていることを、な。この我とて、かの〈魔族〉に直に雇われこの風国の襲撃へと加担した反逆者の一人。だが、裏で通ずるとされるそれはもはや、反逆と言うには生易しき、人の顔を貼り付けた紛うことなき邪悪の一部。人間のありとあらゆる情報を〈魔族〉へと流し込み、より"ヤツら"が有利に立ち回れるようその権力を以ってして深淵なる闇を暗躍している。恐らく……こうして邪悪共が宣戦布告をする、それ以前の段階から既に"ヤツら"へ加担していたのだろう。――そして、人間と〈魔族〉となる種族間の禁忌のその狭間にて、犯してはならぬ過ちを犯したその罪人の名を、"ヤツら"は口にしていた。なんとも無防備に、堂々と、その名を、な……」


 "自身ら"の身内に紛れる邪悪の化身。禁忌にその足を踏み入れ"それら"へと加担する同胞の存在に、その場の皆が、言葉にし得ぬ衝撃を受けて黙りこくってしまっていた。トーポに関しては、そんな夢想など叶ってほしくなどなかったと呟いてみせていた。一度は想定してしまえた、信じたくなどなかったその可能性が現実化してしまったその衝撃に、ややこしき事態に呆れ気味にため息をついていく。一方で、マイペース彼女ユノはそんな衝撃を受けて、むしろとても嬉しそうにしていたものだ。己の危機に鈍感である彼女は、今もこの心に巡ってくる好奇心とその探求心にぞっこんであったのだ。


 静かに驚愕をするミントを含めて、皆が思い思いな感情を抱いていた。そして、各々とそれへの思考を巡らせていたものだった。……だが、その次の時にも孤高の蛇から飛び出してきた人物の名を耳にして、その人物を知り、その人物を耳にしており、又、その人物と関係を持つ"とある人物"が、その瞬間にも眼前の現実にひどく嘆くこととなる――


「我には一切もの心当たりの無い名ではあるが、言うにはこの人間の社会にて、革命に近き偉大なる功績を残したとされる大物のようであることがうかがえた。人間の世に革命をもたらした、常軌を逸するその技術力や知能。それが今……かの邪悪へと寝返り、その能力を、人間の世に激震を走らせるほどの力を持つ存在が仇名す敵方となってしまっている。――〈魔族〉は口を揃えて、その名を挙げていた。"アメール"。この名に聞き覚えのある者よ、その詳細をその知識へと蓄えし博識の者が今この場にも存在しているとなれば、躊躇いなどは一切とも無用だ、迅速なる判断の下、この我らへの情報提供へと踏み込んでもらいたい」




 瞬間、挙がった名に、脳裏へと巡る形容し難き感情にひどくショックを受けたトーポが、堪らずと頭を抱えて苦悩した。

 それは、よりにもよって何故"彼"なのか、と。偉大なる功績と呼ぶに相応しき実績を有する"彼"が、何処でその歩むべき道を誤ったのか、と。"彼"を知るからこそ、トーポはその脳裏に言い表せぬ複雑な思いを巡らせ、感情が滞ってしまったのだ。


 ……同時にして、顔を上げることをひどく恐れた。それは、向かい合うことができないから。向き合うことを避けたかったから、だ。もう、今更とこの面を"彼女"へと向けることなどできやしなかった。自身にさえ巡るこの衝撃が至極堪え難き苦悩であるというのに、と。その事実が知らされ、トーポはただひどく驚き、ひどく傷付き、"彼女"にひどく共感した。



 ――トーポは顔を上げた。そして、その先を見遣った。

 NPC:ユノ・エクレールは、その色白の肌を蒼白に染めていた。先までの意気揚々な様子を、微塵にもうかがわせない。小さな少女の身体に絡めた両腕をそのままに、彼女はただ立ち尽くしていた。それは、受け入れ難き現実を前にした絶句。その瞳は真ん丸に見開かれ、口も半開きとなって呼吸も忘れていた。


 彼女の心からは既に、それまでと渦巻いていた好奇心や探求心が消え失せていた。ただ、目の前の事実を受け入れ難くて、まさか、そんな、耳にしたその名に鳴り止まぬ鼓動を抱き、眼前に見据えた揺るぎ無き現実に独り立たされた彼女は、どうすることもできないこの現状に、形容し難きその想いのままにただただ呟いた――――


「っ…………。なんで……? そんな、だって。だって……嘘よ…………っ」



【~次回に続く~】

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